東南アジア全鉄道走破の旅

東南アジア全鉄道走破の旅

#62

インドネシアの鉄道再び〈1〉

文・写真  下川裕治

スラバヤ・グブン~タリク~ブリタール

 前回、ボルネオ島のサバ州を走る鉄道に乗り、マレーシアの鉄道を制覇した。しかしインドネシアに未乗車の路線が残っていた。インドネシアはジャワ島で1回、スマトラ島で1回、それぞれ1週間近く列車に乗り続ける日々を過ごしていたが、まだ制覇には辿り着いていなかった。インドネシアの鉄道は思った以上に乗り出がある。ジャワ島に数路線、スマトラ島に1路線が残っていた。

 落穂拾いのような列車旅はスラバヤからはじまった。ジャワ島東部には、どうしてこんなところに……と首を捻ってしまうような環状線があった。そして面倒なことに、一周する列車は走っていない。以前、ジャワ島で列車に乗り、その環状線の一部は乗っているのだが、大きくまわる部分が残っていた。

 その前に、さらにややこしい路線があった。シドアルジョとタリクを結ぶ路線だった。両端の街は大きくない。途中にもめぼしい駅はない。スラバヤ近郊路線というには少し遠い。「なぜ、こんなところに線路を敷いたのか」と、制覇をめざす旅行者は毒づきたくもなる。

 しかし文句をいったところで、列車は走っているわけで、乗らなくてはならないのだ。

 前夜、スラバヤ・グブン駅でこの路線に乗りたいと説明したつもりだった。というのも、スラバヤ・グブン駅からタリクに向かう路線はふたつあった。ひとつは幹線ですでに乗っている。ローカルな路線が残っている。当然、列車の本数は幹線が多い。そのあたりを確認しておきたかったのだ。念を押したつもりだった。早朝の5時6分、タリクに向かう列車に乗った。ぼんやりと明るくなっていく車窓を眺めていた。やはり気になって、駅名を確認する。

「違う……」

 列車は幹線を走っていた。あれほどいったのに……。のっけから間違えてしまった。

 しかしタリクまでは行く。そこから戻る形になってしまうが、本来、乗ろうとしていた路線を逆に乗ればなんとかなるかもしれない。

 

DSCN0715朝の5時台のスラバヤ・グブン駅。このとき、旅は順調に進むと思っていた

 

 朝の6時にはタリクに着いてしまった。駅で確認をすると、8時3分発のシドアルジョ行きがあった。これに乗れば、失敗をリカバリ―できる。

 ハエが多い駅だった。駅の周りに店もない。ただぼんやりするしかない。気は急くがどうしようもないのだ。

 列車はタリク発ではなかった。駅に姿を見せたとき、すでに30分遅れていた。しかし慌てる様子もなく、列車は発車した。1日5本だけのローカル線。少し遅れても問題はない空気が漂っていた。風景に似合わない新型車両が投入されていた。席もそこそこ埋まっていた。

 

 

モスク脇を通り、列車がタリク駅に入ってきた。気持ちのいい朝の駅だった

 

 1時間ほどでシドアルジョに着いた。その足で切符売り場に急ぐ。12時台の列車に乗れば、その日のうちに環状線を走破することができた。しかし駅の職員の口から返ってきたのは、ソールドアウトという言葉だった。夕方6時台の列車にひとつだけ席があるという。それに乗るしか選択肢はない。

「9時間待ちか……」

 インドネシアの列車を乗りつぶす旅はなかなか思うようにいかない。列車を待ってばかりなのだ。

 シドアルジョの駅前を進んでみた。50メートルほど歩くと幅の広い道に出た。周囲を眺めてみたが、時間をつぶせるような店はどこにもなかった。朝食も食べていなかった。屋台の後ろにテーブルを置いた店に座ってみた。言葉は通じないが、おばさんはなにやら料理をつくってくれた。食べてみると、春雨スープ。なんだか心に染みた。1杯1万ルピア、約94円──。そんなに急いでも、インドネシアではうまくいかないよ。そう教えてくれるような優しい味だった。

 気温がどんどんあがっていく。シドアルジョ駅周辺には、冷房が効いた店などなかった。朝が早かったからやはり眠い。駅のベンチに座って、ときどき通る風を心待ちにするしかない時間がすぎていく。東南アジアの全列車を制覇する旅は、駅に寄り添うような旅が似合っているらしい。

 やっと現れた列車はかなり混んでいた。僕が手に入れた切符はブリタールまでだった。その日はそれ以降、列車はない。

 平坦な土地を進む夜汽車かと思っていたが、環状線は山がちな路線だった。途中にある比較的大きなマランという街は、標高が440メートルを超えていた。そこから一気に山をくだった先がブリタールだった。

 到着したのは夜11時少し前だった。翌日の切符は、シドアルジョの自動券売機で買っていた。発車は昼の12時32分。ゆっくり寝よう。この国では、先を急いでもいいことはないもないだろうから。

 

DSCN0724シドアルジョ駅前。田舎っぽい風景でしょ。ここで9時間の列車待ち

 

20171122192005_00001

 

 

●好評発売中!!

双葉文庫『東南アジア全鉄道制覇の旅 タイ・ミャンマー迷走編』

発行:双葉社 定価:本体639円+税

 

東南アジア全鉄道制覇1cover


 

 

*本連載は月2回(第2週&第4週木曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

se-asia00_writer

著者:下川裕治(しもかわ ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。ノンフィクション、旅行作家。慶応大学卒業後、新聞社勤務を経て『12万円で世界を歩く』でデビュー。著書に『鈍行列車のアジア旅』『不思議列車がアジアを走る』『一両列車のゆるり旅』『タイ語の本音』『世界最悪の鉄道旅行 ユーラシア横断2万キロ』『「裏国境」突破 東南アジア一周大作戦』『週末バンコクでちょっと脱力』『週末台湾でちょっと一息』など、アジアと旅に関する紀行ノンフィクション多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。WEB連載は、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週日曜日に書いてるブログ)、「クリックディープ旅」(いまはユーラシア大陸最南端から北極圏の最北端駅への列車旅を連載)、「どこへと訊かれて」(人々が通りすぎる世界の空港や駅物)「タビノート」(LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記)。

紀行エッセイガイド好評発売中!!

東南アジア全鉄道制覇1cover

東南アジア全鉄道制覇の旅

タイ・ミャンマー迷走編

se-asia00_book01

鈍行列車のアジア旅

se-asia00_book02

不思議列車がアジアを走る

se-asia00_book03

一両列車のゆるり旅

東南アジア全鉄道走破の旅
バックナンバー

その他の辺境・秘境の旅

ページトップアンカー