ブーツの国の街角で

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#61

ボルツァーノ:イタリアにいながらドイツ・オーストリア文化を体験できる街

文と写真・田島麻美

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今年のカレンダーでは4月下旬にイースター休暇があったイタリア。ちょうど春の行楽シーズンのピークと重なり、外へ出かけるのが楽しい季節に長い休暇が取れることになった。せっかくのチャンスを逃すまいと、私も相棒と一緒に小旅行に出かけることにした。行き先は北イタリア、世界遺産ドロミーティ山塊の玄関口であるボルツァーノ。オーストリアとの国境に近いトレンティーノ=アルト・アディジェ州にあるボルツァーノは、1918年まではオーストリア領だった。そのため、今でもドイツ語とイタリア語が公用語とされていて、ドイツ・オーストリアの文化が色濃く残っている。背後に3千メートル級の山々がそびえる美しい北イタリアの街は、生活習慣も食文化も日頃慣れ親しんだイタリアのそれとは大きく異なり、国内でありながら海外旅行をしているような気分が味わえる。異国情緒たっぷりのボルツァーノの街歩きの醍醐味をご紹介しよう。
 

 

 

チロル風の建築が並ぶ可愛らしい旧市街

   ローマから高速鉄道で4時間半、ボルツァーノの駅に着いた途端に目にしたのがBolzano/Bozenという二か国語表記の標識。アルト・ディジェ自治県の県都であるボルツァーノは、イタリア語・ドイツ語・英語の三ヶ国語が公用語として日常的に使われている。言語だけでなく、ここが「イタリアであってイタリアではない」街だということは、旧市街を歩き始めればすぐに実感できる。
  毎年12月に盛大な「クリスマス・マーケット」が開かれることでも有名な旧市街の中心ヴァルテル広場に着くと、どこからか軽やかな民族音楽が聞こえてきた。目をこらすと、広場の真ん中に大小様々なカウベルとハーモニカ、弦楽器などを並べ、チロルの民族衣装に身を包んだ男性が素朴な音楽を奏でているのが見えた。明るい黄色やオレンジ、淡いブルーで彩られた建物、一角にそびえるドゥオーモの尖塔など、広場の周囲をぐるっと見渡しただけで、もうオーストリアかドイツの街に来たような錯覚に陥る。広場から四方に伸びた小道を、あてもなく歩いてみることにした。どの通りも綺麗に清掃され、整然と並んだ建物のバルコニーには色とりどりの花が飾られている。子どもの頃に読んだ外国の童話の挿絵にあるようなとんがり屋根のカラフルな建物、店の軒先に掛けられた装飾看板、雨を避けられるポルティコなど、チロル風の可愛らしい街並みに思わず心が浮き立ち、足取りも軽やかになってきた。
 

 

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ヴァルテル広場から見た13世紀の華麗なドゥオーモの勇姿。ロマネスク・ゴシック様式の建築で、緑や黒、黄色の幾何学的な模様の屋根はイタリアの建築とは趣が異なる(上)。広場ではチロルの民族音楽のライヴ演奏も行われていた(中上)。おとぎ話の挿絵にあるような可愛らしいチロル風の建物が並ぶ旧市街(中下)。雨や雪、暑い陽射しがしのげるポルティコ(柱廊)がある通り(下)。
 

 

軽食もドルチェも満載の食べ歩き天国

  ドイツ語表記が新鮮でおしゃれなベーカリーやウィーン名物のザッハ・トルテを並べたお菓子屋さん、テラス席で午前中からビール片手に日光浴を楽しむ人々を横目に見ながらぶらぶら歩きを続けていると、大勢の人々でごった返す小さな広場に出た。地図を見るとここが「エルベ広場」であるらしい。広場では週末以外の毎日、新鮮な野菜や果物、地元の特産品などを売る市場が開かれている。18世紀のブロンズ像「ネプチューンの噴水」を中心に、広場からまっすぐに伸びた通りには生鮮食品から加工食品まで、様々な食材を並べた屋台がひしめいている。眺めているうちにお腹が鳴き出した。そういえばまだ昼食をとっていなかった、と気づいたその時、ちょうど目の前にホットドッグの屋台を発見。本場のウィンナー・ソーセージにザウアークラウトをたっぷり盛ったホットドッグは見るからに美味しそう。立ち食いでかぶりついている人達は皆嬉しそうにホットドッグを頬張り、その合間にビールをゴクリ、そしてまたホットドッグをひとかじりしながら満足そうな笑顔を見せている。たまらなくなって私も即座にホットドッグを注文した。熱々プリプリのウィンナー・ソーセージは噛むとじゅわっと肉汁が溢れてくる。  酸味の効いたザウアークラウトとピリッとしたマスタードとのハーモニーも絶妙。食べ終わった直後にもう一つ注文したくなったのだが、屋台にはまだまだ試食したいものが溢れているのでグッと我慢してその場を離れた。ホットドッグの次に目についたのはパン屋の屋台にずらっとぶら下がっていたプレッツェル。焼き立てのプレッツェルは様々なテイストがあり、どれにしようか迷った末にシンプルな塩味とヒマワリの種をまぶしたものを試食することにした。外はパリッと、中はモチっとした食感がたまらなく美味しい。歩きながら食べられるので、プレッツェルをかじりつつ市場をぐるっと見て歩いた。歩き疲れたので一休みしようとカフェに入ると、今度は本場ウィーンのザッハ・トルテ、チロル地方特産のアップル・シュトルーデルが待っていた。食べ歩き天国の旧市街では、通りや街角の至る所に美味しいものが溢れている。ホットドッグやプレッツェルなどの軽食からドルチェ、そして本場のクラフトビールとおつまみなど、どれもこれも味わってみたいものばかりで胃袋が嬉しい悲鳴をあげていた。
 

 

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平日の朝から開かれているエルベ広場の市場。珍しい野菜や果物、焼きたてのドイツ風パン、特産品のソーセージやチーズなど、美味しいものが集う市場は一見の価値あり(上)。街角のあちこちで目にするホットドッグ・スタンド(中上)。5ユーロで本場の美味しさが味わえる。ビールと一緒に食べるとまた格別(中中)。焼きたてのプレッツェルも見逃せない味の一つ(中下)。本場ウィーンのザッハ・トルテ(イタリア語でサーケル)はお土産にも最適(下)。
 

 

 

5300年前のアイスマンとご対面

  食べ歩きでお腹も満足したところで、ボルツァーノ観光の目玉である「アイスマン」に会いに行くことにした。エルベ広場からタルヴェラ川へ向かって数分のところにあるアルト・アディジェ考古学博物館には、今から約5300年前の男性のミイラが眠っている。イタリア・オーストリア国境にあるアルプスの氷河で氷漬けになっていた男性が見つかったのは1991年のこと。当初は雪山の遭難者の遺体かと思われていたが、その後の調査で彼の衣類や所持品が欧州の青銅器時代前半のものであることが判明。以来、国際的な研究チームにより多角的な調査が現在も続けられているが、特に2012年に実施された解凍調査ではDNA鑑定やレントゲン、CTスキャンなどを用いて詳細なデータを採取することに成功した。発見された場所であるエッツ渓谷にちなみ「エッツィ・ジ・アイスマン」と名付けられたこのミイラは、5000年以上もの間氷河に閉じ込められていたため保存状態が非常に良く、古代の人々の暮らしを知る貴重な手がかりを私たちに伝えている。
  博物館には、エッツィの持ち物や衣類が展示されているだけでなく、それらの素材や仕立て方、武器の使用目的、旅のルートなど様々な研究の成果がわかりやすく解説されている。解剖調査やDNA鑑定の結果も、タッチスクリーンやビデオなどを多用し、一目でわかる工夫がされているので、子どもも大人も楽しみながら遥か昔の人類の足跡に触れることができる。私が一番興味を持ったのは、いまだに「謎」とされているエッツィの死因についての展示ブースだった。「エッツィ殺人事件」と題して、まるでアメリカの犯罪ドラマのように詳細に死因についての見解を説明している。直接の死因となった矢の形状から刺さった角度、深さなどを詳細に図解してあるだけでなく、検死解剖の様子や解剖医のインタビュービデオまで用意されている。のんびりと見学していた午後のひと時が突然スリル満点のサスペンスの舞台に早変わりし、展示を詳細に見ていくうちにいつの間にか犯人探しをしている自分に気づかされた。
 

 

 

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旧石器時代からのアルト・アディジェの歴史がわかるアルト・アディジェ考古学博物館。館内の大部分が「エッツィ」の展示に費やされている。楽しみながら学べる体験コーナーもある(上)。2012年の解凍調査のデータを元に復元された「エッツィ」の姿。この調査により、身長160cm、体重50kg、血液型O型、年齢は50歳前後、刺青といった外見データだけでなく、腰痛持ちだったことや消化不良に悩まされていたことなども明らかになった(中上)。エッツィの所持品を再現した体験コーナー。彼の着ていた衣服を実際に着用したり、道具を作ったりすることができる(中下)。博物館見学の後は、目の前にあるタルヴェラ川沿いの遊歩道で散歩も楽しめる(下)。
 

 

 

ビアホールで味わう絶品郷土料理

 

  博物館見学の後は川沿いの遊歩道でしっかりウォーキングをして体調を整え、待望のディナータイムに備えた。ボルツァーノでのお目当ては、古い歴史を持つビッレリア(ビアホール)で味わう地ビールと郷土料理だ。ボルツァーノ旧市街ではどこでも美味しい地ビールが味わえるが、「Hopfen &Co.(ホップフェン&コー)」と「Ca’ de Bezzi (カ・デ・ベッツィ)」は店内に醸造所まで備えていて、歴史を感じる重厚な雰囲気のテーブルで美味しい郷土料理も楽しめる。
  最初の夜に行ったのはエルベ広場の一角にあるホップフェン&コー。昼間も大勢の客がジョッキを傾けていた店だ。店に入るとまず目につくのがどっしりとした木のカウンターとその奥に鎮座した巨大なビール・タンク。普段はそれほどビールを飲まない私でさえ、これを目にした途端ビールが飲みたくなったくらいだから、ビール好きにはたまらないスポットだろう。席に着くと早速ビールを注文し、メニューを熟読。ビールのつまみに最適なサラミやチーズの盛り合わせから伝統のチロル料理まで、盛りだくさんのメニューは選ぶのに苦労するが、今朝市場で見た旬のホワイトアスパラが「本日のおすすめ」にあったので、それを前菜に。そしてメインディッシュに伝統料理のグラッシュという牛肉の煮込み料理を選んだ。ほんのり花の香りが漂う上品な口当たりのビールを傾けながら、優しい素朴な郷土料理を味わう。飾らず気取らず、素材の味を最大限に引き出した料理の数々はどれもため息が出るほど美味しい。
  翌日の夜に出かけたカ・デ・ベッツィでは、名物の「スティンコ・ディ・マイアーレ(豚の骨つきすね肉)」をがっつり味わいながら、重めの地ビールを楽しんだ。こちらも店内の雰囲気が素晴らしく、料理は余分な手を加えない素朴な美味しさでとても満足できた。二人でたらふく食べてビールも飲んでデザートまで食べたのに、50ユーロでお釣りが来たことにも驚いた。ビール愛好家はもちろんだが、飲めない人でもボルツァーノの食事はビアホールへ行くことをお勧めする。
 

 

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老舗ビアホール「Hopfen&Co.」では、朝から夜中まで、一日中美味しい地ビールが飲める(上)。店内に置かれた巨大なビールタンク(中上)。イタリアで初めて生のホワイトアスパラを見つけて大感激。さっと茹でただけなのにほっぺたが落ちるほど美味しい。特産のスペックと合わせ、ビールのおつまみにぴったり(中下)。チロル地方の伝統料理グラッシュとカネーデルリ。牛肉はビールでトロトロになるまで煮込んである(下)。
 

 

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創業は1400年代、ボルツァーノで最も古いオステリアと言われる「Ca De Bezzi」の店内。隣にはビール醸造所もある(上)。豚のすね肉を丸ごとローストした名物料理「スティンコ・ディ・マイアーレ」。ビールとの相性も抜群(下)
 

 

 

 

★ MAP ★

 

Map-Bolzano

 

 

<アクセス>
ローマから高速列車(フレッチャ・アルジェント、またはイタロ)利用、ノンストップで約4時間半。
 

 

<参考サイト>

ボルツァーノ観光情報(日本語
https://www.bolzano-bozen.it/jp/visite-guidate.html

 

Hopfen &Co.(ホップフェン&コー)(伊語)
https://www.boznerbier.it/it?go=pagerrow6

 

Ca’ de Bezzi (カ・デ・ベッツィ)(伊語)

https://www.batzen.it/it/

 

 

 

*この連載は毎月第2・第4木曜日(月2回)の連載となります。次回は2019年6月13日(木)掲載予定です。お楽しみに! 

 

 

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田島麻美 (たじま・あさみ)

千葉県生まれ。大学卒業後、出版社、広告代理店勤務を経て旅をメインとするフリーランスのライター&編集者として独立。2000年9月、単身渡伊。言葉もわからず知り合いもいないローマでのサバイバル生活が始まる。半年だけのつもりで暮らし始めたローマにそのまま居座ること19年、イタリアの生活・食文化、歴史と人に魅せられ今日に至る。国立ローマ・トレ大学マスターコース宗教社会学のディプロマ取得。旅、暮らし、料理をメインテーマに執筆活動を続ける一方、撮影コーディネイター、通訳・翻訳者としても活躍中。著書に『南イタリアに行こう』『ミラノから行く北イタリアの街』『ローマから行くトスカーナと周辺の街』『イタリア中毒』『イタリア人はピッツァ一切れでも盛り上がれる』他。

 

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