旅する&恋する! 韓国ドラマ

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#60

韓流紀行〈8〉再び語る『マイ・ディア・ミスター』

文・康 熙奉(カン・ヒボン)

 

 前回は『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん』を取り上げたが、今回も登場人物を中心に書いていきたい。ストーリーが主人公の職場と地元を交差させて重層的になっているだけに、登場する人たちのキャラクターが深い。それによって、いかにも韓国らしい情愛のドラマになっている。

 

IUの熱演が光った

 百想芸術大賞といえば、韓国で権威ある文化賞だが、2019年百想芸術大賞のテレビ部門で作品賞を受けたのが『マイ・ディア・ミスター』だった。この受賞が同ドラマの優れた作品性を証明していたのは確かだ。

 このドラマを見ていて胸を打つのは、登場する人物のそれぞれがリアルな人生を抱えて必死に模索していたことだ。

 その「必死さ」が真に迫ってきて身震いするような感動があった。それだけに、視聴者の立場でも登場人物たちを応援したくなってくる。

 演じている俳優たちの熱演ぶりも際立っていた。

 たとえば、IUの場合、撮影が始まった後も体調がとても悪く、ついに降番を申し出た。IUは「私が出ないことによる損害はかならず弁償しますから」と自ら願い出たという。しかし、監督が必死に説得を続けた。その熱意に翻意して、IUも再び魂を奮い立たせた。

 そうして、彼女は最後まで全霊を傾けて演技を全うした。『マイ・ディア・ミスター』には画面に出てこない「もう一つのドラマ」があったのだ。

 そんなIU……。彼女が扮するのは、大手建築会社の派遣社員になったジアンである。彼女の境遇は本当に辛い。亡くなった父が高利貸しから多額の借金を背負い、それを今も返し続けている。

 障害者の祖母を抱えて生活はどん底だ。ジアンはこう言う。「少しは助けてくれる人がいたけれど、本当に助けてくれる人はいなかった」と。

 しかし、人を見捨てない男が現れた。それが、ジアンの職場で建築構造エンジニアをしていたドンフンで、イ・ソンギュンが扮している。

 ドンフンの表情もいつも沈んでいる。それは、ドンフンが社内で苦境に立たされていたからだ。

パク・ホサンの存在感がいい

 大学時代のサークルの後輩だったジュニョン(キム・ヨンミン)が社長に昇格し、嫌われたドンフンは左遷させられていた。

 社内でドンフンは「負け犬」だと思われて周囲の視線が冷たい。そんなドンフンが社内抗争に巻き込まれる。彼に賄賂として大金が配達されてくるのだ。この出来事を契機に、ドンフンはジュニョンの派閥から敵と見なされ、ジュニョンの追い落としを狙う反社長派の派閥からは同志と迎えられる。こうして、社内は社長派と反社長派の人事抗争が激化していく。

 機転が利いて賢いジアンはお金がほしかった。結局、ジュニョンに見込まれてドンフンの追放を画策するようになる。その過程で、ジアンはドンフンの携帯電話を盗聴することに成功し、彼の行動を細かく監視できるようになった。

 こうした社内抗争が『マイ・ディア・ミスター』のメインのストーリーだと思っていたら、実はそうではなかった。メインに匹敵するもう1つのストーリーが賑やかになる……それがドンフンの兄弟たちの話だ。

 ドンフンの兄のサンフン(パク・ホサン)は失業中であり、弟のギフン(ソン・セビョク)も映画監督だったのに干されていた。ドンフンの兄弟たちも苦境の中にあるのだが、三兄弟は本当に仲が良くて、酒を飲みまくっていた。そして、サンフンとギフンは一緒に清掃業を始めて新しい仕事に励んでいく。

 特に、サンフンが愛すべき好人物として描かれている。演じたパク・ホサンは最高の当たり役だろう。

 実は、当初はオ・ダルスが演じるはずだった。オ・ダルスといえば、メガヒットした映画の常連で、助演としての評価がすこぶる高かった。しかし、韓国芸能界でセクハラを次々に告発する動きが活発になり、その渦中に非難を受けて出演が不可能になった。それによって撮影スケジュールが大幅に変更され、ようやく代役になったのがパク・ホサンだった。

 結局、パク・ホサンで本当に良かったと思える。彼が演じたサンフンは『マイ・ディア・ミスター』が持つ温かみを象徴するような役柄になった。ドラマの中で、パク・ホサンが演じるサンフンを見る度に、「家族思いでいい兄貴だなあ」と痛感していた。

光が差し込むようなドラマ

 三兄弟が暮らしているフゲ(後渓)という街が『マイ・ディア・ミスター』の主要舞台だ。ソウルの下町で、三兄弟が生まれ育った街という設定になっている。

 ここにある「ジョンヒの店」という酒場が、地元の仲間たちのたまり場だ。

 この店で数々の名場面が展開される。仲間同士の助け合いがあり、人を気遣う情愛があり、住んでいる人々への愛着がある。それは、見ている人たちの多くがすでに失った地元愛かもしれない。それだけにこのドラマでは、大切な「あるべき居場所」を見つけた気分になる。

 そんなユートピアで憩うドンフンなのだが、家は安らげる場所ではなかった。妻であるユニ(イ・ジア)との関係が冷めていたからだ。

 ユニは弁護士をしているが、夫婦の気持ちはすれ違っていた。さらに深刻な関係が描かれていく。ユニの不倫の相手がジュニョンだったのだ。これを知ったドンフンのショックはあまりに大きかった。それでもドンフンは、妻をむやみに非難しようとはしなかった。

 彼には根本的に人間関係の揉め事を好意的に改善していこうとする優しさがある。その気持ちはジアンにも向けられ、彼女のことを本気で助けようとしていた。

 そのドンフンの本心をジアンは盗聴を通して知るようになる。彼女は、金で買収されてドンフンを会社から追い出そうとしていたのに、逆にドンフンの苦境を救っていく立場に変わる。

 そういう気持ちになったのは、ドンフンが今まで彼女が見たことがないタイプの人だったからだ。人間不信が当たり前だと思っていた彼女の人生にようやく光が差し始めたのだ。

 そうなのだ。苦境に陥っている人が次から次へと出てくるが、『マイ・ディア・ミスター』はそんな人たちに光を差し込むドラマだった。

 それゆえ、最初はたまらなく重苦しいと感じていた気分が、回を重ねるたびにほぐれていき、やがては人間の善意と愛情を信じたくなってくる。

 このドラマが、自分にとってかけがえのない作品になるのは、乾ききった人間関係が、やがて、ほのぼのとした触れ合いに変わっていくからに違いない。

 ドラマには人をつなぐ力がある。こうありたいと願う希望にもなる。そういう意味で『マイ・ディア・ミスター』は、明日に向けて人の和解と希望を拠り所にできるドラマだった。

 

 

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『韓国TVドラマガイド』編集部

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