旅する&恋する! 韓国ドラマ

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#59

韓流紀行〈7〉人間賛歌『マイ・ディア・ミスター』

文・康 熙奉(カン・ヒボン)

 

 大人気の『愛の不時着』や『梨泰院クラス』のような話題性が高いわけではないのだが、じわりと良さが知れ渡ってきたのが『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん』(以下は『マイ・ディア・ミスター』と表記)である。とにかく、見た後の余韻がすごく心地よいドラマだ。

 

一度は見るのをやめたが……

 いつも「奇跡のドラマ」に出会いたいと思っていた。あの『冬のソナタ』のように、何年経っても心がときめくようなドラマを待っていたのだ。しかし、なかなか巡り会えなかった。

 もちろん、すばらしいドラマはたくさんあった。とにかく、最近の韓国ドラマは傑作が多い。それはよくわかっているのだが、奇跡を起こすようなドラマがまだ自分には訪れてこなかった。

 しかし、ようやく見つけた。それが『マイ・ディア・ミスター』である。

 このドラマに最初に注目したのはイ・ソンギュンの主演だったからだ。彼には特別な思い出がある。それは、2009年に『トリプル』というドラマで、主役3人が大阪で記者会見をしたときのことだ。記者席の最前列にいた私は、イ・ソンギュンの生の声をずっと聴いていて、その響きのよさに惚れ惚れしてしまった。それ以来彼の作品にはいつも注目してきた。

 そんなイ・ソンギュンが主演しているので、『マイ・ディア・ミスター』も喜んで見始めた。しかし、ドラマは重苦しい展開で始まった。共演しているIUも、役柄の上とはいえ、暗い画面の中で不愛想な表情をずっと続けていて切なかった。

 なぜかドラマに集中できず、第1話を見ただけでやめてしまった。途中で見なくなる作品はよくあるので、『マイ・ディア・ミスター』もその中の1つとして記憶から離れていた。

 しかし、親しい友人から「だまされたと思って最後まで見て!」と強く勧められたので、冒頭の場面から再び見始めた。本当に、だまされて良かった。待ち望んでいた「奇跡のドラマ」がやってきたのだ。

 その『マイ・ディア・ミスター』はどんなドラマなのか。

 主役のイ・ソンギュンとIUが演じている役は親子ほど年が離れている。それゆえ、韓国の原題『私のおじさん』はピッタリなじむ。しかし、タイトルがほのぼのしている割に、内容はまるで違った。とにかく、このドラマの出だしはゾッとするように暗い。

三兄弟が面白い

 IUが演じるイ・ジアンはどん底のような境遇にあった。昼は大企業の派遣社員になっているが、夜も食堂の皿洗いをしている。しかも、食事は皿洗いの合間に集めてきた食べ残しだ。

 薄暗い部屋に帰ると障害者の祖母の面倒を見ているのだが、借金取りにしつこく言い寄られて、ときには殴られてしまう。

 そんなジアンが派遣社員になった建築会社で、構造エンジニアをしている部長がイ・ソンギュンが演じるパク・ドンフンだ。彼も生活に疲れ切っている。左遷させられた社内でも同僚たちから冷ややかに見られていた。

 ある日、彼に賄賂が送り付けられてきた。ここから社長派と反社長派が対立し、ドンフンは社内抗争に巻き込まれていく。

 その過程でジアンがドンフンの盗聴を始める。彼女はお金で反社長派の追放を請け負ったのだ。それはすべてジアンが仕掛けた工作が社長に認められた結果だった。こうして物語は、ジアンが盗聴しているドンフンの生活が詳しく描かれていく。

 途端に、ドラマは人間喜劇の要素が強くなってくる。ドンフンの兄弟たちが主要なキャラクターとして登場し、情が深いエピソードが賑やかに続く。

 ドンフンの兄はサンフン(パク・ホサン)で、弟がギフン(ソン・セビョク)だ。サンフンは事業に失敗し、ギフンは映画監督としてうだつが上がらない。その末にサンフンとギフンが掃除の会社を始める。

 三兄弟はとても仲が良く、いつも一緒に飲み歩いている。そういう状況を盗聴していたジアンは、ドンフンの生活に立ち入っていく。彼は実直で優しい性格なのだ。

 ジアンは徐々にドンフンに惹かれていき、彼の社内での立場に理解を示すようになる。

申し分のないドラマ

 物語には2つの軸がある。縦のラインでは、ドンフンとジアンが巻き込まれていく社内抗争が激化していき、横のラインでは、ドンフンたち三兄弟の生活ぶりや彼らが住むフゲ(後渓)という街が魅力的に描かれていく。

 三兄弟が常連となっている「ジョンヒの店」という酒場がペーソスの拠点だ。ここに集まってくる三兄弟と仲間たちが、まるで人生の縮図のような熱い夜を繰り広げる。見ていて、「自分も常連になりたかった」としみじみ思ってしまう。それほど『マイ・ディア・ミスター』での地元の描き方には、最高の追憶と忘れられない郷愁が満ちている。

 このドラマを語り始めたらきりがないほどだ。社内抗争でドンフンは窮地に立たされることが多いのだが、それでも自らの信念を持って仕事に励む。演じるイ・ソンギュンの存在感は抜群だ。

 IUの演技も見事に七変化になっていく。特に、無表情のジアンが泣くシーンは鳥肌が立った。そうした感情表現が後半に向けていっそう鋭さを増していった。

 ドンフンをめぐる人たちの人間模様も興味深い。

 三兄弟を心配しながら温かく支えてくれる母親。

 ギフンが監督を降ろされる原因となった大根役者のユラ(クォン・ナラ)。

 寂しさに耐えて居酒屋を切り盛りするジョンヒ(オ・ナラ)。

 不倫におぼれていくドンフンの妻のユニ(イ・ジア)。

 登場する人たちの影の部分が次々に強調されていく。しかし、誰も否定されていない。愛すべき存在として生き生きしてくる。

 それにしても、『マイ・ディア・ミスター』は酒を飲む場面が多い。特に、三兄弟はみんな酒を飲みまくっている。仲間たちもそうだ。

 酒が好きな人にとっては、楽しく酔える場面の連続だろう。

 このドラマには敬愛する女優も出ている。三兄弟の母親を演じたコ・ドゥシムだ。彼女は『椿の花咲く頃』でも、カン・ハヌルの母親に扮していたから記憶している人も多いはず。年配の母親を演じさせたら天下一品の女優であるが、彼女は済州島(チェジュド)の出身だ。私の両親も済州島の出身なので、その点でも本当に親しみがある。

 かくして『マイ・ディア・ミスター』は、企画・脚本・演出・俳優のすべてにおいて最高の組み合わせになった。

「みんな誰かに助けられて、その借りを返したいと思っている。けれど、返さなくていい。自分が幸せになることが恩返しになる」

 このテーマが物語を貫いていて、各場面を思い出す度に心強くなる。そういう意味では、「人間賛歌のドラマ」だったと言える。

 

 

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『韓国TVドラマガイド』編集部

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