東南アジア全鉄道走破の旅

東南アジア全鉄道走破の旅

#59

インドネシア・スマトラ島からジャワ島へ

文・写真  下川裕治

クルタパティ~タンジュンカラン、メラク~タナアバン

 クルタパティとルブックリンガウを結ぶ路線に乗り、スマトラ島の南部路線で残っているのは、クルタパティとタンジュンカラン間だけになった。

 クルタパティに着いたのは早朝の5時すぎ。発券窓口が開く午前7時までの時間がつらかった。前夜は夜行である。エクゼクティブ席のリクライニングシートとはいえ、熟睡には縁遠い。

 切符は簡単に買うことができた。エコノミという普通席が3万2000ルピア、約300円。エコノミはやはり安い。

 列車は約1時間遅れで発車した。そのとたん、ことりと寝てしまった。終点のタンジュンカランに着いたのは夕方の7時半近かった。列車はその間に2回、スコールに見舞われ、僕は細切れに3回眠った。

 スマトラ島を南下していく路線である。線路の周りは、アブラヤシやゴムのプランテーションが延々と続いた。アブラヤシの畑は褐色だった。幹に絡みつく寄生植物が枯れていたのだ。その向こうに積乱雲が天空に向かってもりもりと大きくなっていく。するとあたりが薄暗くなり、大粒の雨粒が落ちてくる。熱帯の1日はその繰り返しだ。

 駅員の監視は相変わらず厳しかった。カメラをバッグからとり出すと注意される。昼の弁当も、前日同様、柵越しだった。しかしその弁当が唸る味だった。鶏肉と煮込んだ野菜というおかずだったが、野菜が抜群にいい味を出していた。これで1万5000ルピア、約141円である。

 タンジュンカランでは駅に近い宿に泊まった。朝食がついていた。ブブルがあった。インドネシア風のお粥である。しかし、いままで口にしたブブルとはかなり違った。柔らかく炊いた米の上にスープをかけるスタイルなのだが、そのスープが深緑色なのだ。ひと口食べてみる。酸味が効いている。なにかのハーブの風味が鼻孔に届いた。僕好みの味だった。これもブブルなのだろうか、と首を傾げるほどだった。しかし粥なのだ。インドネシアのお粥は奥深い。

 インドネシア料理といえば、ナシゴレンというチャーハンや、ミーゴレンという焼きそばが知られている。しかしその味は、どこか中華のにおいがする。それに比べると、スマトラ島のブブルには独自の空間が横たわっていた。

 

 タンジュンカランはスマトラ島の鉄道の南端だった。ここからジャワ島へのフェリーが出航するバカウニまではトライフェルという乗り合いバンで移動した。2時間ほど揺られると、前方に海が見えてきた。沖縄の海を思い出す色だった。青というより翡翠色なのだ。列車旅の疲れがすーッと消えていく。

 フェリー代は1万5000ルピア、約141円と耳を疑うほど安かった。中国製の中古船だった。

 もう30年近く前、スンダ海峡を航行するこのフェリーに乗ったことがある。そのとき、僕は離婚問題を抱え、日本から逃げるようにしてタイのバンコクに暮らしていた。しかしビザが切れ、帰国を少しでものばす腹積もりでジャワ島に渡った。メラクの宿に泊まった。することもなく、このフェリーに乗ってスマトラ島を往復した。

「帰るしかないよな」

 フェリーのデッキで翡翠色の海を眺めていた。乗ったフェリーは日本製の中古だった記憶がある。船は変わってしまったが、海の色は昔のままだ。海を撮影していた中田浩資カメラマンが、イルカを見たと伝えてくれた。海のきれいさも変わっていなかった。

 

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スンダ海峡に面したバカウニ港。なぜここまで線路をつくらなかったのだろう

 

バカウニの港をフェリーが出航する。穏やかな海風を想像してみてください

 

 メラク駅は港に隣接していた。駅員にジャカルタまでの列車について訊くと、レポート用紙に1日5本の列車の時刻表を手で書いてもってきてくれた。以前はこれほど本数がなかったのでは? と訊くと、いつ頃の話なのかと訊かれた。

「1か月半ほど前ですが」

「1か月半……ジャカルタ市街からの電化がランカスまでのびた時期ですね。ジャカルタ市内からメラクまでの列車が、その工事の関係で大幅に少なくなっていたんです」

 そういうことだったのだ。運悪く、その時期に当たってしまっていたのだ。

 ジャカルタ市内行きの最終列車に乗った。といっても夕方の5時20分発である。多くの乗客がフェリーで見た人だった。

 ランカスまではディーゼル機関車が牽引する列車だった。そこで乗り換えになった。駅で待っていたのは、日本製の中古電車だった。   

 車内からは都会のにおいがした。暗くなった車窓に映るのは、アブラヤシではなく、家々の灯りになった。ジャカルタ市内のタナアバン駅に着いたのは、夜の9時すぎだった。

 

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メラク駅。ジャワ島のいちばん西にある駅だ。港と陸橋でつながっている

 

 

 

*インドネシアの鉄道路線

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*本連載は月2回(第2週&第4週木曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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著者:下川裕治(しもかわ ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。ノンフィクション、旅行作家。慶応大学卒業後、新聞社勤務を経て『12万円で世界を歩く』でデビュー。著書に『鈍行列車のアジア旅』『不思議列車がアジアを走る』『一両列車のゆるり旅』『タイ語の本音』『世界最悪の鉄道旅行 ユーラシア横断2万キロ』『「裏国境」突破 東南アジア一周大作戦』『週末バンコクでちょっと脱力』『週末台湾でちょっと一息』など、アジアと旅に関する紀行ノンフィクション多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。WEB連載は、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週日曜日に書いてるブログ)、「クリックディープ旅」(いまはユーラシア大陸最南端から北極圏の最北端駅への列車旅を連載)、「どこへと訊かれて」(人々が通りすぎる世界の空港や駅物)「タビノート」(LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記)。

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