旅とメイハネと音楽と

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#59

インドの避暑地ナーシク&大都会ムンバイ取材記〈2〉

文と写真・サラーム海上

 

ナーシクのワイナリー「スーラ・ヴィンヤーズ」へ

 2018年1月28日未明、ムンバイに到着し、空港近くにオープンしたばかりの高級ホテルにチェックインしたのは午前4時前だった。そこで3時間半だけ眠り、朝8時に起床。

 ここから先、僕たち7人の日本人参加者を取り仕切るのはマハーラーシュトラ州政府観光局だ。朝食の後、まずは観光局のシェーカルさんによるブリーフィングから始まった。

「これから皆さんはナーシクへと向かいます。ナーシクはデカン高原にある標高600メートル、人口約115万人の都市で、ヒンドゥー教の聖地であり、ヒンドゥーの祭りクンブメーラーが12年に一度行われることでも知られています。

 20世紀中頃からは避暑地としてムンバイ市民に愛され、キャンプやカヤックやゴルフなど、アウトドア・レジャーも盛んです。近年ではヨガやアーユルヴェーダなどに特化したウェルネス・リゾート、エコ・リゾートが建てられ、マハーラーシュトラ州の観光を牽引する存在になっています。

 さらに高地の寒暖ある気候のため、葡萄造りに適し、2000年に『スーラ・ヴィンヤーズ』が最初のワインを売り出しました。その後、州政府がワイン造りを押し進め、現在インド全国で25箇所あると言われるワイナリーのうち、20箇所がナーシクに存在します。

 これから二日間、ナーシクの魅力を知っていただき、ぜひ日本人観光客の誘致にご協力お願いします」

 ご存じのとおり、僕はヨガやアーユルヴェーダ、ヒンドゥー教の祭りにはほとんど興味はない。今回の僕の取材対象は当然、インドを代表するワイナリー「スーラ・ヴィンヤーズ」である。しかし、スーラ・ヴィンヤーズにたどり着くには長い、長い道のりを経る必要があった……。

 

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マハーラーシュトラ州政府観光局のシェーカルさん(左)とローヒト(右)さん。ファム・ツアーのスタートだ!

 

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マハーラーシュトラ州政府観光局主催日本人ファム・ツアーのマイクロバス

 

 午前10時過ぎ、観光局のローヒトさんに引率されたファム・ツアーの日本人一行はマイクロバスに乗り込み、180km北東のデカン高原にある目的地ナーシクへと向かった。

 慢性渋滞で知られるムンバイだが、午前中に郊外へと向かう道はまだまだ空いていた。30分ほど北に走ると、ムンバイの大都市圏から離れ、緑の田園が続くインドらしい田舎風景が広がってきた。都会を離れるに従い、道を走っているのも小型の乗用車やSUVが減り、サイケデリックなペイントがなされた長距離トラックや自家製の改造トラクターが目立ってきた。トラックの後ろの荷台には後続車のドライバーに向かって"Blow Horn"(クラクション鳴らして)とお決まりの文句が書かれている。

 1時間半ほど走ると道は登り坂になった。デカン高原に入ったのだ。道路脇には巨大なプールやリゾート型のホテルが目立ち始めた。休憩で立ち寄ったのもそうしたリゾートホテルの一つで、馬や山羊、様々な種類の犬や熱帯の野鳥が飼われていて、動物と触れあえるのを売りにしていた。東京のフクロウカフェや猫カフェみたいなものか。ムンバイ市民も様々なストレスを抱えているのだなあ。

 

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何処に行ってもまず最初に記念撮影から始まる。まるで政治家みたい!

 

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デカン高原の道をナーシクまであと32km

 

 休憩後、再びバスに乗り、さらに2時間ほどのドライブでその日の宿泊地、エコリゾートヴィラ&テント「Grape County」に到着した。あてがわれたのは人工湖と数十種類の野鳥が住む野鳥サンクチュアリー、プールやオーガニック農園に囲まれた、一人で過ごすには勿体ないほどの豪華グランピング・テント。荷物を下ろしてテントでゆっくり過ごしたいところだが、そうは問屋が卸さなかった。

 午後からは観光局主導で地元の観光業者とのミーティングや地元有力者との写真撮影会が次々と続き、夕食後には宿に併設の野外劇場にて地元舞踊団のパフォーマンスまでが開かれたのだ。過剰な歓迎からやっと解放されたのは深夜12時前。テントに戻ると、身体が疲れきっていた。まあ、招待していただいて文句は言えまい。それでも深夜に一人、テントの前にソファを出して、デカン高原の星空を見上げる時間が少しだけ取れた。この宿はまたいつかプライベートで訪れて、数日ゆっくり過ごしたいなあ。

 

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ナーシクのエコリゾート「Grape County」でグランピング!

 

tabilistanasik1テントの内部はけっこう広くて快適、24時間対応のホットシャワーやエアコンも完備!

 

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宿の野外劇場にて地元舞踊団のパフォーマンス。妙齢の女性がセクシーな踊りを披露し、地元のオッサンたちがヒューヒュー言って超盛り上がっていた

 

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明け方のGrape County

 

 翌日も朝からスケジュールがギッシリ詰まっていた。朝食後に宿をチェックアウトし、バスに乗り込むと、まずは数ヶ月後にオープン予定の大規模なヨガ・リゾートに案内された。まだ土台工事の途中で見ても面白いものは何もないのだが、スーツを着たお偉いさんたちが「メディテーション」、「オーガニック」、「ホリスティック・ウェルネス」などと真面目に口にしているのは、ビートルズやオショウの時代から精神世界リゾートに力を入れてきたインドならではと言える。

 お昼前にナーシク市内に戻り、クンブメーラーの舞台となるトリムバケシュワル寺院、その参道と沐浴所を観光。クンブメーラーの時期には素裸のサドゥ(ヒンドゥー教行者)をはじめ数百万人の巡礼者が集まり、ただでさえ狭い旧市街はパンク状態になるそうだ。僕は遠慮しておくが、世界の奇祭好きは必ず訪れるべき祭りである。

 

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観光開発ラッシュで大規模なホリスティック・ウェルネス・ヨガ・リゾートwwが次々と建設中

 

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ナーシク市内のトリムバケシュワル寺院参道の沐浴所。背景にそびえる台形の山々はデカン高原ならではの地形

 

 お昼過ぎにその日の宿「Express Inn」に到着すると、今度は伝統舞踊団による楽隊とアクロバティックな踊りで盛大に迎えられた。そして、チェックインしてからも昼食と宿のプレゼン会、施設案内、館内で開かれていた古代インドの貨幣展の観覧と過密スケジュールが続いた。本当に今日中にスーラ・ヴィンヤーズにたどり着くのだろうか?

 

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二日目のホテル「Express Inn」の過剰な歓迎。いいから静かにして……

 

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ホテルの従業員も全員で歓迎してくれました。ありがとうございます……

 

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ランチを兼ねたブリーフィング

 

 夕方、再びバスに乗り込み、今度はホテルの近くにある仏教遺跡パンデーワ石窟を観光。午後6時前、日が暮れる直前になって念願のスーラ・ヴィンヤーズに到着した。

 見渡す限りのぶどう畑の真ん中に20メートルほどの高さの二階建てのワイン貯蔵庫兼ワインバーが建ち、その左側にはなんとプール付きのリゾート・ホテルまで併設され、辺りには華やかなボリウッド音楽が流れていた。

 

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ついにたどり着いたスーラ・ヴィンヤーズ!

 

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葡萄はカベルネ・ソーヴィニョン

 

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美しい! ちょうど収穫の時期だった!

 

 ちょうど葡萄の収穫の季節で、その週末の二日間には「SULAFEST」というフェスティバルが開かれると言う。フェスの出演者には僕の友人のバンドGrainの名前まであった! 

 日が暮れてしまう前にササっとワイン畑を撮影した後、テイスティング・ツアーに参加した。係のアニッシュが葡萄を運ぶベルトコンベアや背の高いステンレスのタンクの前でワイン造りを説明した後、高い天井まで四段に積まれたオークの樽の前でスーラ・ウィンヤーズの歴史を話してくれた。

「スーラ・ウィンヤーズはムンバイ生まれで、アメリカ西海岸のIT業界で働いていたラジーヴ・サマント氏によって、1998年に彼の先祖伝来の土地に創設されました。

 最初はマンゴーや花を栽培したものの上手く行かなかったのですが、ナーシクの気候が葡萄の栽培に適していることに気づき、カリフォルニアのワインメーカーの力を借りて、ワイン造りを始めました。そして、2000年に最初のワインを売り出し、その後、次々と新しいワインを造り、インド国内だけでなく、世界中で評判となりました。2010年以降は数々の国際的なワインの賞を受賞しています。

 ワイン工場はここナーシクのほか、州内のディンドーリー、そしてカルナータカ州に二箇所と、全部で4箇所にあり、シュナン・ブランやジンファンデルなどの葡萄をインドで初めて栽培しました。現在では白、スパークリング、ロゼ、赤、デザートワインまで、約20種類のワインを製造販売しています。

『スーラ』という名前はラジーヴの母親の名前『スーラバー』から名付けられました。『太陽』を意味する『スーリヤ』に響きが似ているので、太陽をロゴマークにしました。さて、この後はスーラのワインを幾つかテイスティングしていただきます」

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スーラの中心に建つワイン倉兼ワインバーの建物

 

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「ブリュット・トロピカル」の大型瓶前で撮影!

 

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ぶどう運びのベルトコンベア

 

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アニッシュさんがスーラの歴史について熱く話してくれた

 

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高く積まれたフランス産のオーク樽。ここで未来のスーラ・ワインが!

 

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サラームももちろん記念撮影!

 

 ワイン倉の2階が野外テラスのワインバーになっていて、眼下に広がるワイン畑を見ながら、テイスティング出来る。そこで、スパークリング二種類、白一種類、赤三種類、そしてデザートワイン一種類の合計7種類のワインをテイスティングした。

 これまで僕はスーラのリースリングや格安の赤は、デリーやムンバイのレストラン、そして日本でも親しんでいた。しかし、スパークリングと高級な赤は初めてだ。

 ボトルにカラフルなペイズリー模様の全面プリントがエチケットとして貼られたスパークリング、「ブリュット・トロピカル」はパッションフルーツや桃を感じるフルーティーなアロマだが、口に入れると意外なほど辛口。ぶどうの品種はピノ・ノワール。サイケデリックなデザインのエチケットとともに一発で気に入った。

 赤ではフランス産のオーク樽で一年半以上寝かせた「ラサ・カベルネ・ソーヴィニョン」が素晴らしい。カシスとバニラ、タバコまで感じる本当にマイルドで複雑な味がした。この2本は買って帰ろう!

 

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ラサ・カベルネ・ソーヴィニョンを激写!

 

 酔っ払わないように、テイスティングの際はいちいち吐き出していたが、それでも7本目にたどり着く頃にはほろ酔い気分になっていた。

最後はデザートワインの「レイト・ハーヴェスト・シュナン・ブラン」。これは一年前にデリーの人気レストラン「Indian Accent」(本連載28参照)でいただいていたが、洋ナシと蜂蜜の味わいで、こちらも一本買わずには帰れない! 

 

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テイスティング後は1階の売店でワインを買いましょう!

 

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うれしくなってマグナムボトルを一気飲みするサラーム。この後泥酔……


 ああ、次回ナーシクに来れたなら、スーラ・ヴィンヤーズのリゾート・ホテルに泊まりたいなあ! 午前中から野外テラスで飲んで、プールで泳いで、酔いをさまして、午後には昼寝。そして、夕方になってから、また飲んで、そのエンドレス・ループなんて最高じゃないか!

 

(次回に続く)

 

*サラームはインド出張中のため、今回は料理レシピはありません。来年1月21日更新の次回をお楽しみに。

 

 

*著者の最新情報やイベント情報はこちら→「サラームの家」http://www.chez-salam.com/

 

*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。〈title portrait by SHOICHIRO MORI™〉

 

 

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サラーム海上(サラーム うながみ)

1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家。明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』『プラネット・インディア インド・エキゾ音楽紀行』『エキゾ音楽超特急 完全版』『21世紀中東音楽ジャーナル』他。Zine『SouQ』発行。WEBサイト「サラームの家」www.chez-salam.com

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