韓国の旅と酒場とグルメ横丁

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#58

毎週出かける堤川(忠清北道)の幸せごはん

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 忠清北道の北部に位置する堤川(チェチョン)市。日本人にはあまりなじみがないかもしれないが、北側を江原道、南側を慶尚北道と接し、70~80年代に交通の要衝として発展してきた小都市だ。江原道の西南部に近い生活圈なので、人々の言葉にも江原道方言が混ざっていたりする。

 私が堤川にある大学で講師として働くようになってもう14年になる。夏や冬休みを除けば毎週ソウルと堤川を往来しているのだ。ソウルから堤川まではバスで2時間ほど。今学期は朝9時から授業があるので、いつも東ソウルバスターミナル6時30分発のバスに乗っている。

 

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前衛的なデザインの堤川市外バスターミナル。堤川行きのバスは江南バスターミナルからも出ている。また、ソウル東部の清凉里駅から出発する列車もある

 

 東ソウルターミナルを出発したバスの窓から、四季それぞれの牧歌的な風景を眺めるのが楽しみのひとつだ。ときにはうとうとしてしまったりもするが、春は浅緑の山に咲くつつじや桜が美しい。もうすこししたら桃の花が見られるだう。

 

 

韓方と映画、2つの祭り

 堤川には有名な行事がふたつある。

 ひとつは9月に開かれる『堤川韓方健康祝祭』。小白山(ソベクサン)や雉岳山(チアクサン)、月岳山(ウォラクサン)という山にかこまれ、清浄な空気と水に恵まれている堤川は、以前からファンギ(和名キバナオウギ)の産地として有名だ。交通の要衝だった堤川は江原道中の韓方薬材の集散地でもあった。それが今の堤川韓方健康祝祭に結実している。

 もうひとつは市内からクルマで30分くらいの清風湖(チョンプンホ)のほとりを会場とする『堤川国際音楽映画祭』。堤川のある忠清道を象徴する“清風明月”という言葉が冠されていることからもわかるように、清い風と明るい月を愛でるのにふさわしい場所で開かれる映画祭だ。ホン・サンス監督の映画『よく知りもしないくせに』の物語の前半(キム・テウやチョン・ユミが出演)は、この映画祭が背景となっている。

 また、ここ20年の韓国映画名場面のひとつとしてよく取り上げられる『ペパーミント・キャンディー』のソル・ギョングが、線路上で「나 다시 돌아갈래~!」と絶叫するシーンは、堤川市内から車で40分くらいの白雲山(ペクウンサン)のふもとで撮影されている。

 

 

堤川のおすすめ食堂1『ソングァン食堂』

 堤川での私の楽しみは、ランチタイムや授業終了後の夕方行われる同僚の先生たちとの会食だ。その会場のなかからリピート率が高い店を3つ紹介しよう。

 ソウルに帰る夜9時発の終バスに乗るため、私はいつも宴たけなわというときにその場を去らなければならない。そこでギリギリまで飲み食いを楽しむためによく利用しているのが、堤川市外バスターミナル近くにある焼肉店『ソングァン食堂』だ。

 看板メニューはカルメギサル(豚ハラミ)焼きとハツ焼き。女将さんが一人で切り盛りしていることもあり、カルメギサル100グラムが5000ウォン、ハツ200グラムが5000ウォンとリーズナブルだ。韓国らしく2種の肉を一緒に焼き、タマネギとトッ(モチ)をエゴマの油で味付けしてくれる。韓国ではあまり一般的ではないハツは独特の触感が楽しい。酒は焼酎。後ろ髪を引かれる思いでこの店を去るのが常だ。

 

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新鮮な豚ハラミとハツにモチを加えて混ぜて焼く

 

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その色つやからも新鮮さが伝わってくる豚ハラミ(カルメギサル)

 

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キムチを加えて焼いたりもする

 

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『ソングァン食堂』 堤川市スンムン路14キル3 電話043-643-5773 堤川市外バスターミナルから徒歩5分

 

 

堤川のおすすめ食堂2『ウリマウル』(東門市場)

 中心部にある中央市場には屋台や食堂が集まっていて、この街の食材や料理の全体像を把握できる。なかでも目を奪われるのはパルガンオデンと呼ばれる真っ赤なおでん。韓国式の串にさした練り物にトッポッキのタレをたっぷりかかっていて、思わず「うわ~」と声が出る辛さだ。

 

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中央市場でよく見かける激辛おでん(パルガンオデン)

 

 中央市場の北側にある東門市場には、『ウリマウル』という薬草入り鶏の水炊き(ハンバン・ペクスク)専門店がある。昼夜の気温差が激しかったり、低気圧のせいで体調がすぐれなかったりしたとき、「あの店の鶏で元気を出そう」とよく利用している。

 肉はもちろん地鶏。スープに移った薬草の香りがすがすがしく、少し歯ごたえのある肉の食感もこぎみよい。

 

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薬草を煎じたスープで地鶏を煮込んだハンバン・ペクスク

 

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忠清北道のシンボル、小白山の名を冠した生マッコリ

 

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『ウリマウル』 堤川市義林大路16キル22-5(堤川市中央路2街110-1) 電話043-653-8042 市外バスターミナルから徒歩15分

 

 

堤川のおすすめ食堂3『タクサチョン・タリコル』

 少し時間に余裕があるときに行くのが濯斯亭(タクサチョン)というエリアだ。堤川市内から車で15分ほどかかるが、美味しい店が集まっている。

 そのひとつ『タクサチョン・タリコル』は、シレギ(ダイコンの干し菜)を使った釜飯定食が有名だ。大地の気を感じさせる干し菜がたっぷり入った炊き込みご飯に醤油ベースのタレを好みで加え、かき混ぜて食べる。素朴な味は日本人好み。つきだしのナムルで風味の変化を楽しみながらいただく。

 

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大根の干し葉をたっぷり使った炊き込みごはん

 

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炊き込みごはんは石鍋のままだと熱過ぎるので、どんぶりに移していただく

 

 その日その日に手作りしているトトリムク(どんぐりの澱粉を固めたもの)は、弾力とほのかな苦みがなんともいえず、マッコリが進む。

 

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作り置きをしないトトリムク。石鍋をひっくり返して、プリンのようにお皿に盛られる

 

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『タクサチョン・タリコル』 堤川市鳳陽邑ジェウォン路485(忠北提川市鳳陽邑九鶴里394-5) 電話043-644-2235 市外バスターミナルから原州行きのバスに乗って20分の濯斯亭で下車し、そこから徒歩3分

 

 私にとっては庭のような街なので、日本からいらした読者さんから頼まれて食べ歩き目的の日帰り旅に同行することもある堤川。ぜひ一度遊びに来てほしい。

 

 

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紀行作家。1967年、韓国江原道の山奥生まれ、ソウル育ち。世宗大学院・観光経営学修士課程修了後、日本に留学。現在はソウルの下町在住。韓国テウォン大学・講師。著書に『うまい、安い、あったかい 韓国の人情食堂』『港町、ほろ酔い散歩 釜山の人情食堂』『馬を食べる日本人 犬を食べる韓国人』『韓国酒場紀行』『マッコルリの旅』『韓国の美味しい町』『韓国の「昭和」を歩く』『韓国・下町人情紀行』『本当はどうなの? 今の韓国』、編著に『北朝鮮の楽しい歩き方』など。NHKBSプレミアム『世界入りにくい居酒屋』釜山編コーディネート担当。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/

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