ブーツの国の街角で

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#58

パルマ:グルメの聖地で心と体に栄養補給

文と写真・田島麻美

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東西南北各地に〝美味いもん〟が溢れているイタリアでは、「わが故郷こそ美食の宝庫」と自慢するイタリア人が後を絶たないが、そんな彼らでさえ「パルマ=美食の都」と聞いて異議を唱える人はいないだろう。有名な生ハム「プロシュット・ディ・パルマ」に始まり、チーズの「パルミジャーノ・レッジャーノ」、バルサミコ酢、具を詰めて包んだパスタ「トルテッリ」などなど、イタリア全土の家庭に普及している食材や定番料理の多くが、パルマの街とその周辺の地域で産まれたのだから。エミリア・ロマーニャ州のパルマは今も昔も食品産業が盛んで、小さな街にも関わらず、EUの欧州食品安全機構の本部が置かれている。その上、2015年には「美食創作都市」としてユネスコ世界遺産にも登録されたというから、その実力と本気度は推して知るべしである。
パルマの街歩きの楽しみは当然ながら「食べ歩き」だが、それだけでは語り尽くせない魅力がこの街にはたくさんある。北イタリアの「美食の都」で出会える芸術とグルメをご紹介しよう。

 

 

中世芸術が散りばめられた旧市街

 

  中世時代に自治都市として栄えたパルマの街の起源は古く、青銅器時代にまで遡る。円形の盾を意味する「パルマ」という街の名前も古代エトルリア人によって名付けられたそうで、北イタリアの平野部のほぼ中央に位置するこの街は、古代から様々な街道の交差点として重要な位置を占めていたことがうかがえる。その後、イタリアが一国家として統一されるまではパルマ公国の首都であった旧市街は、13世紀の典型的な自治都市の姿をほぼ完全な形で残していると言われているが、なるほど街を歩くと当時の栄華を偲ばせる建物や芸術品が随所に見つかる。中でも旧市街の中心にあるドゥオーモ(大聖堂)と洗礼堂は当時のこの街の栄光を今に伝える貴重な建築物で、彫刻家で建築家でもあったベネデット・アンテラーミによって12世紀に完成した。
  ドゥオーモの中に足を踏み入れるや否や、柱から天井までびっしりと隙間なく埋め尽くされたフレスコ画に息を飲む。そこには、簡素なファサードとは正反対の極彩色の世界が広がっていた。クーポラに描かれた天井画は、ルネサンスを代表する画家・コレッジョの『聖母被昇天』。16世紀フレスコ画の傑作と言われるこの天井画を始め、同時代に活躍した画家達によって描かれた聖書の世界をテーマとした荘厳なフレスコ画に見惚れながら、しばし別世界にいる気分を味わう。
  大聖堂の隣にあるピンクの大理石でできた華麗な洗礼堂もまた、内部には素晴らしい芸術が残されていた。16本のヴェローナ産の大理石によって傘の骨のように分割されたクーポラに描かれた13〜14世紀のフレスコ画は、地元エミリア州の画家達によって奉納された作品であるという。さらに、洗礼堂内下部と外観を装飾する彫刻群はロマネスク様式からゴシック様式へのちょうど移行期に制作された作品で、イタリア美術史においても貴重な芸術遺産となっているのだそうだ。
 

 

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パルマ大聖堂の名で知られるドゥオーモの正式名称は「サンタ・マリア・アッスンタ大聖堂」。12世紀ロマネスク様式の代表的な建築として名高い(上)。内部は後世16世紀以降にコレッジョなど当時の有名画家達によって描かれたフレスコ画で埋め尽くされている。質素な外観と豪華な内観のコントラストに驚かされる(下)。
 

 

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ドゥオーモに隣接する洗礼堂も12〜13世紀に建築家アンテラーミによって建てられた(上)。洗礼堂内は独特の傘のような巨大なクーポラと彫刻群で装飾されている(中)。ロマネスクからゴシックへ、様式の過渡期に制作された彫刻群も見逃せない(下)
 

 

バールで楽しむお手軽&極上ランチ

   大聖堂と洗礼堂で中世時代の至宝の芸術にどっぷり浸り、心と頭にたっぷり栄養を補給した。次はお腹にも栄養を補給しようと、ランチの店を探しに通りを歩き出す。エミリア・ロマーニャ州の他の街と同じく、パルマもやはり長い昼休みがあるようなので、焦らずじっくりと美味しそうな店を選ぶことにした。通りに並ぶウィンドウを眺めると、美味しそうなプロシュットやサラミ、パルミジャーノ・チーズの塊がたくさん陳列されていて、思わずお腹が悲鳴を上げる。
  パルマ最初の一皿は、やはり美味しいプロシュット・ディ・パルマを味わいたい、と心が決まった時、目の前にあるバールのランチメニューに「パルマ産プロシュット、サラミとトルテッリの盛り合わせ」と書かれているのが見えた。パルマの代表料理をちょっとずつ手軽に味わえるランチメニューだ。料金もドリンク込みで12ユーロと良心的だったので、即決してテーブルに着いた。
  運ばれてきたワンプレートには、色も鮮やかなプロシュットとサラミ、一口サイズのトルテッリが並んでいる。フォークで丸めてプロシュットを口に入れると、デリケートな芳香がふわっと広がった。パルマのプロシュットは塩加減も香りもとても繊細で、透けるような薄切りなので口当たりも柔らか。焼きたてのパンとワインに合わせると、いくらでも食べられそうな気がしてくる。郷土料理のハーブとリコッタチーズのトルテッリも同様に優しい味わいで、美食の都の実力が垣間見れるワンプレートである。パルマの旧市街では、レストランに入らずともバールで極上のプロシュットが手軽に味わえることを知って、なんだかすごく得した気分になった。
 

 

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 バールのワンプレートランチ。手軽に美味しいプロシュットを味わうにはレストランよりもバールがオススメ(上)。通りを歩いていると、バールや食材店のウィンドウにプロシュットやパルミジャーノ・チーズの塊が並んでいるのが目につく。お土産用に購入したり、その場でパニーノを作ってもらうこともできる(下)。
 

 

 

再びアート三昧な午後のひととき
 

 

   オープンテラス席で爽やかなランチを楽しんだ後は、再び芸術鑑賞。午後のお目当ては、お気に入りの画家・パルミジャニーノの作品である。向かったのは鉄道の駅にほど近いピロッタ宮殿。16世紀に貴族ファルネーゼ家によって建設された広大なこの宮殿内には、世界最大級のヘブライ語の写本コレクションなどを含む約80万冊の蔵書を揃えたパラティーナ図書館、4000人を収容できる16世紀の貴重な木造劇場であるファルネーゼ劇場、国立考古学博物館、国立美術館がある。1箇所でこんなにたくさんの見所があると知って、入るのに少し躊躇した。チケット売り場で、「全部見るのに何時間ぐらいかかります?」と尋ねると、「図書館、劇場も含めると、急いでも3時間は必要ですね」との答え。しかし、幸か不幸か、「生憎、今日は劇場と図書館は館内整備のため入場不可なんです。でも、そのかわりにチケット代も半額です」と言われ、肩の力を抜いて入ってみることにした。とりあえず、お目当てのパルミジャニーノの作品は見られるし、午後の散歩がてらアート鑑賞をするというプランは、やっぱり魅力的だったから。
   手書きの写本を集めた古い図書館は私を魅了してやまない場所で、そこに入れなかったのは残念だったが、国立美術館もそれだけで十分すぎるほど訪れる価値があるスポットだった。15世紀から18世紀にかけてパルマで活躍した画家達の作品がずらっと並び、特にマニエリスムを代表する画家・パルミジャニーノ、コレッジョ、さらにはレオナルド・ダ・ヴィンチ、フラ・アンジェリコ、ティントレットなどの作品も展示されている。ひっそりと静まった館内に並んだ珠玉の芸術の数々をたっぷり時間をかけて鑑賞しながら歩くのは、とても贅沢な気分。ダ・ヴィンチの『ほつれ髪の女性』やパルミジャニーノの『トルコの女奴隷』といった作品を、文字通り独り占めして心ゆくまで堪能することができた。

 

 

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パーチェ広場に面した広大なファルネーゼ家の館ピロッタ宮殿の入り口。1580年頃に建設された(上)。館内にあるパラティーナ図書館のエントランス。残念ながら今回は見学できなかったが、パルマの必見スポットの一つ(中上)。国立美術館のエントランス。ほぼ貸切状態でゆっくり鑑賞できたのは嬉しかった(中下)。一心不乱に作業する修復師の女性。こんな光景に出会えるのも平日の午後ならでは(下)。
 

 

 

聖地の実力を思い知る絶品トラットリア

 

  美食の都パルマには「絶品レストラン」が山ほどあるのだろうが、如何せん、私の胃袋と滞在期間は限られている。どこに入っても失敗は少ないような気はしたが、パルマに来たからにはやはり、「感動的なディナー」を味わって帰りたい。ホテルのレセプションでそう口にした私に、パルマ人のお兄ちゃんが、「とっておきの店を教えるよ。大丈夫、ここなら絶対に外さないから」と言って、彼が贔屓にしているトラットリアを予約してくれた。
「ショッピング・ストリートのファリーニ通りをまっすぐ歩いて行くと右手に石のアーチが見えるから、それをくぐって行けば店に着くよ」とお兄ちゃんが教えてくれたとおり、大通りを一本入った小さな路地に『トラットリア・デル・トゥリブナーレ』はあった。小さなドアを開けて店内に入った途端、得も言われぬ芳香が鼻腔に満ちてくる。壁一面には丸ごとプロシュットがずらりとかけられ、テーブルには大きなパルミジャーノ・レッジャーノの塊が鎮座している。この光景を見ただけで、早くも笑みが広がってきた。ああ、なんていい香り。
  メニューを見て悩みに悩んだ末、この夜はプロシュットとズッキーニ、サフランの手打ちパスタ・タリアテッレと豚の頬肉グアンチャーレのバルサミコ酢風味に決めた。店のパスタは全て自家製ということだったが、運ばれてきた皿を見てその美しさに思わずうっとりしてしまった。卵入りの黄色い手打ちのタリアテッレがサフランのソースでツヤツヤと黄金色に輝いている。極上のパルミジャーノ・チーズを好きなだけかけて、早速口に運んだ。これはもう、言葉を失うほど美味い。
  この店の実力はこの一皿で十分わかった。言うまでもなく、メインディッシュのグアンチャーレのバルサミコ酢煮込みもほっぺたが落ちそうだった。あまりに感動したので、翌日の夜も再度ここに足を運び、パルミジャーノ・チーズだけを使ったリゾットと伝統料理のトルテッリも食した。どれもこれも、余分な食材を一切加えていない「シンプル・イズ・ベスト」の絶品料理で、それができるのは、やはりパルマがプロシュット、パルミジャーノ、バルサミコ酢など極上の食材の産地であるからに他ならない。パルマ人のお兄ちゃんが「絶対外さない」と太鼓判を押してくれたトラットリアで美食の聖地の実力を思い知り、その美味しさと奥深さに唸りまくった夜だった。
 

 

 

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パルマの歴史地区の一角にひっそりと佇む名店『Trattoria del Tribunale』。パルマの伝統料理の数々がとても手頃な値段で味わえる(上)。ドアを開けるや否や、プロシュットとパルミジャーノの芳醇な香りに満たされる(中)。オーダーを受けてから一枚一枚丁寧に切り分けてくれるプロシュット&サラミはどれも絶品(下)。
 

 

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二日間通って味わったパルマの絶品料理の数々。どれもシンプルかつ脳裏に焼きつく美味しさだった。上から、プロシュット・クルードとズッキーニ、サフランのタリアテッレ、グアンチャーレのバルサミコ酢煮込みポテトピューレ添え、ハーブ入りトルテッリ、パルミジャーノ・チーズのリゾット。

 

 

 

★ MAP ★

 

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<アクセス>
ローマから高速列車でボローニャ・チェントラーレまで約2時間、ボローニャから各駅電車に乗り換え約1時間。ミラノから高速列車で約1時間10分、各駅電車で1時間半。
 

 

<参考サイト>

パルマ観光情報(英語)
http://www.turismo.comune.parma.it/en?set_language=en

 

ピロッタ宮殿(英語)
http://pilotta.beniculturali.it/en/welcome/

 

トラットリア・デル・トゥリブナーレ(伊語)

http://www.trattoriadeltribunale.it/trattoria.html

 

 

 

*この連載は毎月第2・第4木曜日(月2回)の連載となります。次回は2019年4月25日(木)掲載予定です。お楽しみに! 

 

 

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田島麻美 (たじま・あさみ)

千葉県生まれ。大学卒業後、出版社、広告代理店勤務を経て旅をメインとするフリーランスのライター&編集者として独立。2000年9月、単身渡伊。言葉もわからず知り合いもいないローマでのサバイバル生活が始まる。半年だけのつもりで暮らし始めたローマにそのまま居座ること19年、イタリアの生活・食文化、歴史と人に魅せられ今日に至る。国立ローマ・トレ大学マスターコース宗教社会学のディプロマ取得。旅、暮らし、料理をメインテーマに執筆活動を続ける一方、撮影コーディネイター、通訳・翻訳者としても活躍中。著書に『南イタリアに行こう』『ミラノから行く北イタリアの街』『ローマから行くトスカーナと周辺の街』『イタリア中毒』『イタリア人はピッツァ一切れでも盛り上がれる』他。

 

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