旅とメイハネと音楽と

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#58

インドの避暑地ナーシク&大都会ムンバイ取材記〈1〉

文と写真・サラーム海上

 

エア・インディアのビジネスクラスに搭乗

 ハンピからバンガロールを経て日本に戻ったのは2018年の1月6日だった。そのちょうど三週間後の1月27日、僕は再びインドに向かった。今度はエア・インディア大阪支局とマハーラーシュトラ州政府観光局が主催する、州内の避暑地ナーシクと大都会ムンバイをたった四泊だけ訪れる弾丸ツアーに誘われたのだ。
 ナーシクはムンバイから北東に180km内陸に入ったデカン高原の町。標高は600m~1000mもあり、バックパッカーの間ではヒンドゥー教の聖地として、ムンバイの住民には週末の避暑地として、そして、世界の料理好きの間では新進気鋭の「スーラ(Sula)」ワイナリーを輩出した「インドにおけるワインの首都」として知られる町である。

 今回はそのスーラ・ワイナリーを含めたナーシクとマハーラーシュトラ州への日本人観光客誘致のためのファム・ツアーであり、同時に和歌山県とマハーラーシュトラ州の間で2013年に結ばれた相互交流に関する覚書の更新式への出席を兼ねていた。ファム・ツアーとは国や自治体が主に観光誘致の為に旅行会社やメディアや、最近ではブロガーたちに対して行う招待旅行のことだ。

 そして僕は全く知らずにいたのだが、和歌山県とマハーラーシュトラ州の間では、農業や漁業、食品加工の技術提供や交換、観光誘致など、様々なレベルでの交流が官民問わずに行われていたのだった。
 当日、僕はまず朝一の飛行機で羽田から関西空港に飛んだ。そして、関西空港でエア・インディアの大阪支局営業開発部長の高橋至さん、さらに今回のメンバー、和歌山県の旅行会社や建設会社社長、大阪のメディアの方たちと落ち合った。
 目的地はムンバイ。エア・インディアは成田空港からはデリーまでは直行便が飛んでいる。デリーに着陸しても飛行機を乗り換えることはなく、同じ機体がムンバイまで向かう。しかし、関西空港からの便はまず香港に着陸し、その後、デリー、ムンバイと飛ぶので一行程多い。全部で15時間以上のフライトとなる。その前に僕は羽田から関西空港まで飛んできているので、ほぼ一日がかりだ。いくら機体の乗換えがなくともこれだけ長い道のりは疲れそうだなあ……。

 そこでチェックイン・カウンターで何気にビジネスクラスの空席を尋ねてみた。すると5万円で当日アップグレードが出来るという。その金額なら喜んでアップグレードしますよ! 
 日本発のエア・インディアの機体は最新のボーイング787-8ドリームライナー。耳栓が必要ないほどエンジン音は控えめだし、カーボン製ボディーのため湿度と気圧を高く保てる。そして、窓も大きいので、エコノミークラスでもそこそこ快適ではある。しかし、エア・インディアのビジネスクラスではどんな料理が出てくるのか? どんな「おもてなし」が待っているのか? 知りたいじゃないか!

 

tabilistanasik1関空のラウンジ・パシフィックの入り口にはエア・インディアのマスコット、マハラジャ君の等身大像が! マハラジャ君を上手くマーチャンダイズすれば、日本のご当地ゆるキャラなんて駆逐出来るのに!

 

tabilistanasik1エア・インディアのボーイング787-8ドリームライナー

 

 出国を済ませ、免税店でお土産を買い、ゲート近くのキャセイパシフィック航空のラウンジで溜まっていた原稿仕事を出発ギリギリまで行った。そして、優先搭乗で機体に乗り込むと、ふわ~っとインドのお香の香りが鼻に入ってきた。うわ、ここから既にインドが始まっているのかぁ! 

 ビジネスクラスは横並びの2席が二箇所の通路を挟んで3つ並ぶ、2-2-2配列で、昔ながらのフルフラット・リクライニングタイプだ。前後には足を伸ばしても前のシートの背中まで届かないほど広いし、シートの幅もゆったり広い。
 現在は広さよりもプライバシー確保が優先されるため、シートが格子状に並び、隣や前の席が視野に入らないスタッガードタイプや、斜めに並ぶヘリンボーンタイプのシートがビジネスクラスの主流となっているが、エリア全体が見渡せて、だだっ広いのが取り柄のリクライニングタイプも悪くない。ターキッシュエアラインズもアエロフロートも日本便のビジネスクラスはこのタイプだ。

 

tabilistanasik1ビジネスクラスのシートは2-2-2配列のフルフラット・リクライニングタイプ。広いよねえ

 

tabilistanasik1B-787は上向きに湾曲した翼が特徴


 シートに腰掛けるとすぐに女性客室乗務員のスミターさんからウェルカム・シャンパンが届いた。グラスにはエア・インディアの垂直尾翼のロゴ、空飛ぶ白鳥にコナラク神殿の車輪を重ねたデザインがプリントされていた。このグラス欲しい!
 そして離陸するまでに、ちょび髭の客室乗務員ラーオさんがインドの英字新聞やヒンディー語の雑誌をカートにのせて運んできてくれた。僕は当然、ボリウッド映画の専門雑誌を二冊受け取った。

 

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ウェルカムドリンクはシャンパン。このグラスが欲しすぎる!半ダースくらい!

 

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早速ボリウッド映画情報誌StardustとFilmfareをいただいた。到着前から荷物を重くしてどうする?


 離陸して水平飛行に移行すると、すぐに食事がサーブされ始めるのはビジネスクラスならではの特権だ。配られたメニューに目を通していると、ラーオさんが「ミスタル・ウナガミー、ナーシクのワイナリーに行かれるなら、その前にこちらもお召し上がり下さい」と黒い瓶のウィスキーをうやうやしく両手でくるんで運んできた。ラベルには「アムルタ・フュージョン」と書かれている。インド神話に登場する神の甘露、不老不死の飲料の名前だ。「アムルタはバンガロールで作られていて、世界第三位に選ばれたこともあるウィスキーなんです」
「もちろん、いただきます。ダブルのロックで」と答えると、ラーオさんは指を三本伸ばして「トリプルで!」と言ってニヤリとした。アムルタはフルーツとカスタードがほどよく混じった甘い香り、これは美味い! トリプルでいただいて正解だった!
 少し前までなら、インド産のワインやウィスキーと言われても、灼熱のインド亜大陸で何を夢見たいなことを言ってるんだ?と言い返しただろうが、インドには高冷地も多いし、現在のインドにはあらゆる技術も熱意を持った人間も世界中から流入しているのだ。

 

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インドから世界ベスト3に選ばれたウィスキー「Amrut Fusion」

 

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トリプルフィンガーでいただいた! このグラスも商品化希望!


 さて、昼飯には何をいただこうか? メインディッシュは鰻焼き、チキン・ニルギリ・コルマ、パニール・コフタ・カリー、パコダ・カーディの中から、南インド風のチキン・ニルギリ・コルマを選んだ。鰻は多分日本食だろうし、パニールもカーディも北インド風だろうから、味の想像が付く。
 シート脇から広げたテーブルの上にテーブルクロスが敷かれ、銀製の重厚なカトラリーが並べられると、5分もしないうちにエコノミークラスの機内食よりも一回り大きなお盆が運ばれてきた。

 上には白い陶器のお皿が四枚乗り、それぞれ、サラダと前菜、ナーンとパンとチーズ、メインディッシュのチキン・ニルギリ・コルマとご飯、マンゴーのムースがたっぷり盛り付けられている。その他、ヨーグルトやゼンザイのような小豆の煮物はエコノミークラスと同様の使い捨てのパックに入っている。
 ビジネスクラスでもインド式に一度にまとめてサーブするのかあ。ここはさすがに西洋式に前菜、メイン、デザートと分けてサーブして欲しいところだなあ。僕は食い意地が人一倍張っているので、給食のようにお盆にまとめて一度に出されると、ゆっくり楽しまないうちに一気に食べ終わってしまうのだ。早食いは僕の悪いクセで、僕が悪いのだが、エア・インディアにはこの点だけはぜひ改善してもらいたいところだ。

 

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さすがにビジネスクラスのカトラリーは銀製!

 

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一回り大きなお盆で一気に運ばれてきた機内食。いくら陶器を使っていても、一度に運ばれてきたら特別感ないよねえ……

 

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手前はサラダ、奥はアーモンドを詰めたデーツの実。これなんか、長方形の平皿に別々に並べればもうちょっとイケて見えるのにねえ…

 

 メインディッシュは正直言って、エコノミークラスのものと違いがわからなかった。特に日本発の便は日本の食品工場で作っているから、お米も日本米で、作っているのも日本人だろう。もっとインド臭の強い特別な料理が食べたかった。
 エア・インディアは元々、国際線でも機内食をあまりローカライズせず、インド人向けのインド料理を出すことに定評がある。特にインド出発便の機内食は、エコノミークラスでもしっかりインドの味がして、なかなかのものだ。それでも、ビジネスクラスのお客は少しでも特別な体験がしたいのだ。

 

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ラーオさんが食後酒やコーヒーを運んできた

 

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「お好みならスーラのワインも用意していますよ」とラーオさん

 

 食事を終えるとアムルタのトリプルが効いたらしく、眠気が襲ってきたので、シートを平らに倒し横になった。するといつの間にか眠ってしまい、香港着陸の前にスミターさんに起こされた。

 

tabilistanasik1夕暮れの香港に着陸

 

 香港では機内で90分ほど待つ間にラーオさんやスミタさんに機内食について話を聞いた。

 ――機内食ではどんな料理が人気ですか? またお酒は?
 ラーオ「日本発の便は魚料理が人気があります。これは日本だけの現象です。世界的にはマトンや鶏肉が人気ですし、シンガポールやバンコク発の便では海老が一番人気があります。日本の新しい現象としてはベジタリアン料理を頼まれる方が増えています。国際線のメニューは三ヶ月に一度変更しています。
 お酒はビールやウィスキーが人気があります。ワインは当然フランス産です。インド産のワインはまだまだ新しい産業なので、頼まれる方は少ないです。でも、私達も知らないだけで、スーラのような良いクオリティーのワインが今もナーシクで生まれているかもしれません。それを是非、今回取材して、日本の皆さんにご紹介下さい」
 ――ビジネスクラスとエコノミークラスのメインディッシュに違いがないと思いましたが?
 スミター「確かにメインディッシュ自体はビジネスクラスとエコノミークラスで同じものを提供しています。しかし、それは料理に自信があるからです。ビジネスクラスではサービスの質が異なりますし、銀製のカトラリーや本物のグラスを使っています。そして、好きな時間に好きなだけ料理を召し上がりいただけるんです。また国内線は二週間ごとにメニューを変えています。インド人にとってそれほどご飯は大事なんですよ」


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機内の待ち時間にラーオさんとスミターさんにインタビュー

 

 18時すぎ、再び機体が離陸した。香港からデリーまでは更に6時間、そして、ムンバイには更に2時間のフライトだ。まだまだ長い一日、アムルタとスーラの力を借りて目的地までたどり着こう。

 

tabilistanasik1香港から離陸すると水平線の色がみるみる変わっていった

 

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こちらが東南アジア便で人気という海老のカレー

 

tabilistanasik12つのフライトの後、21時半にデリーにやっと到着

 

 

サントリーニ島のグリーク・サラダを作ろう

 今回の料理は、2018年夏にサントリーニ島で覚えたグリーク・サラダ。サントリーニでは独特の乾パンを使っていたが、日本ではグリッシーニで代用出来る。グリッシーニを水に浸して、柔らかくしてから、水気を切ってお皿の一番下に敷くのが特徴。野菜の汁やドレッシングを吸ったグリッシーニは激美味だ!

 

■グリーク・サラダ

【材料(4人分)】
グリッシーニ:4本
完熟の中玉トマト:4個(へたをとり四つ切り)
きゅうり大:1本(皮をまだらにむき、縦四つ切り、幅2cmに輪切り)
黄パプリカ:1/2個(へたと種をとり、2cmの角切り)
赤たまねぎ大:1/2個(皮をむき、縦薄切り、水にさらしておく)
ケッパー:大さじ1
緑オリーブ:20粒
塩:少々
胡椒:少々
EXVオリーブオイル:大さじ2
ドライオレガノ:少々
白チーズ、またはハードチーズ:50g:食べやすい大きさに切る
【作り方】
1.ボウルに水を張り、グリッシーニを漬ける。
2.大きなボウルに刻んだトマト、きゅうり、パプリカ、赤玉ねぎ、ケッパー、緑オリーブを入れ、塩、胡椒で調味し、EXVオリーブオイルをふりかけておく。
3.グリッシーニは余計な水分を絞り、食べやすい大きさに砕いてから、お皿の底に並べる。その上に2のサラダ、食べやすい大きさに切り分けたチーズをのせ、ドライオレガノで飾り付ける。

 

IMG_5381グリークサラダ。底に沈むグリッシーニがキモ!

 

 

*著者の最新情報やイベント情報はこちら→「サラームの家」http://www.chez-salam.com/

 

*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。〈title portrait by SHOICHIRO MORI™〉

 

 

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サラーム海上(サラーム うながみ)

1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家。明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』『プラネット・インディア インド・エキゾ音楽紀行』『エキゾ音楽超特急 完全版』『21世紀中東音楽ジャーナル』他。Zine『SouQ』発行。WEBサイト「サラームの家」www.chez-salam.com

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