台湾の人情食堂

台湾の人情食堂

#57

台北駅から15分の隠れグルメスポット、板橋〈1〉

文・光瀬憲子

台北のとなりにある下町、板橋

 板橋と言っても、東京都の板橋区ではなく、韓国京機道の板橋洞でも忠清南道の板橋面でもない。台北のおとなりにある板橋(バンチャオ)区のことだ。台北のとなりの板橋は位置づけとしては東京の板橋かいわいとあまり変わらない。台北駅からMRT板南線でわずか15分。

 それでも、淡水河という台北の西を流れる河川を越えるためか、台北市内と比べるとぐっと庶民的な雰囲気になる。東京23区でありながら、なんとなく下町の香りがする板橋区と通じるものがある。

 板橋駅は、台湾鉄道(在来線)で台湾を北上した場合、台北駅のひとつ手前に位置する。かつて台北を目指す若者がこの地に降り立ち、居住地としたこともあって、今でもノスタルジックな雰囲気が漂う。板橋で育った子供は、台北への憧れを抱き、小銭を握りしめて淡水河を越えるバスに乗ったという。

 そんな昔ながらの板橋の下町情緒が漂うのは、MRTの府中駅だ。駅周辺にはこぎれいなビルが並んでいるものの、少し歩くと目の前に艶やかなオレンジ色の廟が現れる。これが旧板橋の磁場とも言える「慈恵廟」だ。

 

001

黄石市場の入り口から見た「慈恵宮」。MRT府中駅から徒歩3分。この廟は、シャープ買収で話題になったホンハイの郭台銘会長が幼少時代を過ごしたところとしても有名

 

002

慈恵宮の2階から向かいの黄石市場を見渡す。朝から夕暮れまで活気がある、コンパクトだがいい市場だ

 

 廟自体はとても古いのだが、手入れが行き届いており、訪れる人も多く、活気がある。廟が元気だということは、その地域が活気づいていることにほかならない。板橋ではこの廟の周りで人々が働いたり、食べたり飲んだりする。

 

003

慈恵宮前の府中路の歩道に点々と並ぶ占い屋台。引っ越しの日取りや息子の志望校を気軽に相談できる

 

 この廟と対になるようにして、大通りの向かいには黄石市場という伝統市場がある。早朝から野菜や果物、朝ごはん屋台が並び、昼近くになると雑貨店や服飾店もシャッターを上げる。

 そして午後になるとおやつを求めて人々が集まる。だから、この市場には1日を通して人が集まり、廟とともに板橋区民のよりどころとなっているのだ。

 

 

黄石市場、一番人気の店

004

人だかりができている『高記生炒魷魚』。空いている席に陣取ってから注文しよう

 

 板橋は隠れたグルメスポットだと言ったが、それを象徴するイカあんかけスープの店『高記生炒魷魚』がある。黄石市場の廟前の入り口から奥へと入っていくと、人だかりができているのですぐわかる。

 店頭でパフォーマンスを繰り広げるのはご主人とおぼしき小柄なおじいさんと、その家族とおぼしき痩せマッチョの青年だ。おじいさんはランニングにジーンズという姿で、軽快な包丁さばきを見せている。この店に来る板橋区民の目当てはプリプリの歯ごたえが自慢のイカあんかけと、モチモチの腸詰め。売り切れると早めに店じまいしてしまうので、なるべく早い時間に訪れたい。

 イカのあんかけは台湾人の大好物なので、どんな夜市でも見つけることができるのだが、筆者がこれまで出合ってきたなかで最強のイカあんかけは文句なくこの店。子供の茶碗くらいの小さなうつわに山盛りになったイカとキャベツ。あふれてテーブルにしたたり落ちる汁。ひと口かじると、プリッと音がする。肉厚で甘みの強いイカあんかけスープは、ちょっとほかでは味わえない。

 

005

小さな碗からあふれでんばかりのイカとキャベツのあんかけ。台北中心部では見られないボリューム。これで40元

 

006

イカあんかけと並んで店のウリとなっている糯米腸(もち米の腸詰め)や芋粿(タロイモの揚げ物)

 

 

臭豆腐とキャベツの漬物のベストマッチ

 黄石市場から府中路を西方向に歩くと、街なかに漂うあの匂い。100メートル先からでもにおう臭豆腐だ。臭いにつられて近づいてみると『懷念泡菜食品行臭豆腐』という店の前に人だかりができている。

 道路にはみ出したテーブルと丸椅子に陣取り、臭豆腐の「小」を注文する。臭豆腐はどの街にもあるが、ここは板橋きっての人気店。人気の秘訣は店の看板にもうたわれている泡菜(キャベツの漬物)にある。臭豆腐に欠かせない泡菜と甘辛いタレ。この泡菜が美味い店はたいてい行列ができる。

『懷念泡菜』の漬物はそのまま食べると薄味なのだが、パリッとした臭豆腐の皮と甘辛いタレと合わせることで、絶妙な旨味が出てくる。臭豆腐が不思議なのは、何メートル先からでも臭うのに、テーブルに座っていざ食べようとすると、あまり臭いがキツくないことだ。苦手意識がある人も、勇気を出して臭豆腐を注文してみれば、案外クセになるかもしれない。

 

007

カリッとした皮とたっぷりの汁、そしてキャベツの漬物のバランスが絶妙な臭豆腐

 

008

『懷念泡菜食品行臭豆腐』は夕方から夜にかけてが混雑するが、テイクアウト客が多く、席は意外と空いている

 

 

板橋のベスト間食

 もうひとつ、板橋で絶大な人気を誇る3時のおやつがある。台湾人に「テンプラ」として親しまれているもので、日本の九州などで「天ぷら」と呼ばれるさつま揚げが進化したもの。大根や魚のすり身が入っていて、日本人の感覚では天ぷらというよりはおでんだ。

 台湾では定番のおやつで、特に学校帰りの中高生に人気がある。黄石市場から大通りを挟んだ向かいにある『北門天不辣』も例に漏れず、午後3時を過ぎるとジャージ姿の中高生の姿が見える。

 

009

黄石市場のそばにある歩道橋。『北門天不辣』はこの歩道橋を渡って左手の階段を降り、歩道を少し行ったところ

 

 北門の天ぷらはメニューが2つだけ。「大」か「小」のいずれかだ。限られた時間で多くの種類を楽しむ食べ歩きの鉄則で、ここはやはり「小」を頼みたい。小さなお碗に盛られてくるのはホクホクの大きな大根や練り物、そして豚の血を固めた台湾独特の豬血糕など。そこに甘口の味噌ダレがかかっている。そう、間違いなくこれは名古屋風。

 

010

限りなくおでんに近い、台湾の「天ぷら」は甘辛いタレと一緒にいただく名古屋風

 

011

『北門天不辣』特性の辛味調味料。120元で瓶売りしてくれるが、要冷蔵で液体扱いなので飛行機では要注意

 

 具材のレベルが高く、そのままでも味わい深いが、味噌ダレと、特製辛味調味料の相性がまたすばらしい。この調味料、希望者には瓶売りしてくれる。激辛だがコクがあり、それでいて主張し過ぎず、どんな料理にも合う。

 テンプラを半分ほど食べ終わった後は、テーブルの上に置いてあるヤカンから汁を足す。こうすると、天ぷらの旨味、味噌の甘み、辛味調味料のコクが混ざり合って、奥深いスープになる。

 

012

 『北門天不辣』は板橋の密かな名店。メニューは「大」と「小」だけで、こだわりの具材をじっくり楽しめる

 

 

*名古屋の栄中日文化センターでの台湾旅行講座『途中下車や車窓風景を楽しむ 台湾一周!鉄道&高速バスの旅』は、早くも催行人員に達しました。ありがとうございます。引き続き参加者募集中です。日時は5/13、6/10、7/8、いずれも第2日曜の13:00~14:30。お申し込は、お電話(0120-53-8164)、または下記からお願いします。

http://www.chunichi-culture.com/programs/program_160822.html

 

 

 

*著者最新刊、双葉文庫『ポケット版 台湾グルメ350品! 食べ歩き事典』が好評発売中です。旅のお供にぴったりの文庫サイズのポケット版ガイド、ぜひお手にとってみてください!

 

ƒshoei

ポケット版 台湾グルメ350品! 食べ歩き事典

発行:双葉社 定価:本体648円+税

 

 

*単行本『台湾の人情食堂 こだわりグルメ旅』が、双葉社より好評発売中です。ぜひお買い求めください!

 

台湾カバー01

『台湾の人情食堂 こだわりグルメ旅』 

定価:本体1200円+税

 

 

 

*本連載は月2回(第1週&第3週金曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

taiwan_profile_new

著者:光瀬憲子

1972年、神奈川県横浜市生まれ。英中日翻訳家、通訳者、台湾取材コーディネーター。米国ウェスタン・ワシントン大学卒業後、台北の英字新聞社チャイナニュース勤務。台湾人と結婚し、台北で7年、上海で2年暮らす。2004年に離婚、帰国。2007年に台湾を再訪し、以後、通訳や取材コーディネートの仕事で、台湾と日本を往復している。著書に『台湾一周 ! 安旨食堂の旅』『台湾縦断!人情食堂と美景の旅』『美味しい台湾 食べ歩きの達人』『台湾で暮らしてわかった律儀で勤勉な「本当の日本」』『スピリチュアル紀行 台湾』他。朝日新聞社のwebサイト「日本購物攻略」で訪日台湾人向けのコラム「日本酱玩」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/  近況は→https://twitter.com/keyword101

紀行エッセイガイド好評発売中!!

taiwan00_book01

台湾一周! 安旨食堂の旅

taiwan00_book02

台湾縦断! 人情食堂と美景の旅

isbn978-4-575-31183-9

台湾の人情食堂 こだわりグルメ旅

ISBN978-4-575-71470-8

台湾グルメ350品! 食べ歩き事典

台湾の人情食堂
バックナンバー

その他のアジアの人情グルメ

ページトップアンカー