東南アジア全鉄道走破の旅

東南アジア全鉄道走破の旅

#57

インドネシア・スマトラ島の鉄道〈4〉

文・写真  下川裕治

クルタパティ~インドララヤ、クルタパティ~ルブックリンガウ

 

 クルン・グクとクルン・マネの間を走る短い路線を乗り終え、メダンに戻るバスを途中で降り、ビンチャイからメダンの路線も乗った。スマトラの北部路線を制覇した。

 南部に向かうことにした。前日、ビンチャイ線を乗ったので、朝の飛行機に乗ることができた。エアアジア・インドネシアを選んだ。目的地はパレンバンである。

 太平洋戦争で日本軍のパラシュート部隊が降下したことで知られた街だ。「見よ、落下傘……」という歌詞で知られる「空の神兵」という軍歌はこの街が舞台になった。

 南部の路線の起点は、このパレンバンにあるクルタパティだった。空港からこの駅に向かったのだが、渋滞にはまってしまった。理由は高架電車の建設だった。工事のため、車線が狭くなっていた。

 パレンバンははじめてだった。スマトラの中心都市であることは知っていたが、市内電車を建設するほどの規模の街だとは思ってもいなかった。インドネシアの2億6000万人という人口を渋滞のなかで実感してしまう。

 南部の路線の幹線は、クルタパティールブックリンガウ、クルタパティータンジュン・カランの2路線だった。しかし面倒な支線がひとつあった。クルタパティからインドララヤまでの26キロほどの路線だった。

 インドララヤには大学があり、その通学用の路線だったが、列車は1日1往復しかなかった。朝の7時30分に発車した列車が、インドララヤを午後2時20分に発車して戻ってくる。これだけだった。面倒という意味をわかってもらえるだろうか。

 

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クルタパティ駅。この駅から2回乗り、2回降りることになる

 

 クルタパティに着いたのは昼頃だった。駅で相談すると、タクシーに乗ってインドララヤに向かえば、戻ってくる列車に間に合うという。しかし駅員はこう続けた。

「いまの時間、タクシーは走っていないんです。このあたりは。朝なら乗り合いバンがあるんだけど」

 駅前の道に立ってみた。たしかにタクシーは1台も走っていない。すると廃車寸前に思えるようなバスがのろのろとやってきた。行先表示にインドララヤとある。

「これだ」

 飛び乗ったが、はたしてインドララヤの駅に行くのかわからない。車内は帰宅する学生ですし詰め状態だった。1時間ほど走ると、車内が少しずつすいてきた。車掌に訊いてみたが、言葉が通じない。身振り手振りで伝えたが、果たして通じたのか。さらに30分ほど走ったところで降ろされた。いったいどこなのかわからない。

 すると1台の小型トラックがやってきた。荷台に座席がつくられ、そこにヒジャブという髪の毛を隠すスカーフを被った女子大生が4人座っていた。

「ジョ、女子大生ですよ」

 中田浩資カメラマンに声をかけた。エロおやじなどと思わないでほしい。英語が通じるかもしれなかったのだ。

「インドララヤ・ステーション」

 通じた。「この車がいきます」。ちゃんとした英語が返ってきた。スマトラでは女子大生が頼りになる。

 

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インドララヤへ向かうバス。混み具合、伝わるだろうか

 

 2時頃にインドララヤ駅に着いた。なんとかクルタパティに戻る列車に間に合った。3両編成の列車だった。乗客は30人ほどだろうか。列車はアプラヤシやゴムのプランテーションの間をとことこと進む。時刻表では30分ほどの区間だったが、50分かかった。

 

 クルタパティの駅で翌日のルブックリンガウ行きの切符を買おうとした。しかし窓口で販売するのは当日の切符のみだという。教えられたのは、改札横にあるカスタマーサービスのオフィスだった。

 そこでまた面倒なことになった。スマトラ南部路線の翌日以降の切符は、インターネットでしか買えないという。そこでホームページを教えられた。スマホでアクセスし、予約しようとすると、携帯電話番号を入力する画面が出てきた。

「あの……、携帯電話はないんですけど」

「電話がない?」

 女性の駅員は困ったような顔をした。スマトラ南部の鉄道は、外国人観光客が列車に乗ることを想定していないのだろうか。いや、いまは誰でも携帯電話ぐらいもっていると思っているのだろうか。僕のスマホはルーターでネット通信はできるが、電話は無理だった。

 女性職員は横にいた上司に相談をもちかけた。僕らが入ったときからずっと新聞を読んでいる上司だった。仕事をやる気はまったくない。

「わかりました。私のスマホで予約します」

 ヒジャブを被った30代の女性だった。きれいな人だった。きちんと英語を話す。白いヒジャブが輝いて見える。女子大生といい、駅の職員といい、スマトラ南部は女性が頼りになる。

 女性職員は発券窓口と往復しながら、僕らの切符をつくってくれた。

 これでなんとかなりそうだった。

 

 

*インドネシアの鉄道路線

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*本連載は月2回(第2週&第4週木曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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著者:下川裕治(しもかわ ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。ノンフィクション、旅行作家。慶応大学卒業後、新聞社勤務を経て『12万円で世界を歩く』でデビュー。著書に『鈍行列車のアジア旅』『不思議列車がアジアを走る』『一両列車のゆるり旅』『タイ語の本音』『世界最悪の鉄道旅行 ユーラシア横断2万キロ』『「裏国境」突破 東南アジア一周大作戦』『週末バンコクでちょっと脱力』『週末台湾でちょっと一息』など、アジアと旅に関する紀行ノンフィクション多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。WEB連載は、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週日曜日に書いてるブログ)、「クリックディープ旅」(いまはユーラシア大陸最南端から北極圏の最北端駅への列車旅を連載)、「どこへと訊かれて」(人々が通りすぎる世界の空港や駅物)「タビノート」(LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記)。

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