韓国の旅と酒場とグルメ横丁

韓国の旅と酒場とグルメ横丁

#56

ソウル、すぐに見つかる美味しい駅前食堂〈1〉

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 20年ほど前、ソウルの地下鉄車内で日本からの旅行者を見ることはあまりなかった。今ほど旅行者の数が多くなかったということもあるが、当時は日本語の案内板もなく日本人には不便だったはずだ。また、タクシー料金が安かったので、気軽に利用できたせいもあるだろう。今やソウルの地下鉄は9号線まであり、外国語の案内板や音声案内も充実していて、車内で日本語を聞くことは珍しくなくなっている。
 そこで今回は、ソウル中心部の地下鉄駅からのアクセスがよく、地元の人にも愛されている食堂を5軒紹介しよう。

 

 

『平壌冷麺』(東大門歴史文化公園駅5番出口)

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見た目も美しい『平壌麺屋』のムルネンミョン


 東大門運動場駅から東大門歴史文化公園駅に名前が変わって何年になるだろう。5番を出たら歩道を逆方向に進み、最初の横断歩道を渡ると右手に見えてくる。週末は行列ができていることが多いが、かなりの大箱なので意外と待たされない。
 昨年、冷麺は日本の焼肉店でしか食べたことがないという日本人男性をこの店に案内した。彼はまず、出てきた冷麺のスープが澄みきっていることに驚き、スープを飲んで驚き、麺をすすってまた驚いていた。この店の平壌冷麺が麺国料理とは思えないほど見た目が涼しげで、スープはあっさりしていながら繊細な旨味があり、麺は日本の蕎麦を思い出させるほど蕎麦粉が香ったからだ。
 クラシックな平壌冷麺を味わいたかったら、次項の『乙支麺屋』とともにぜひ一度は訪れてほしい店だ。

 

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大きなマンドゥ(蒸し餃子)も人気

 

 

『乙支麺屋』(乙支路3街駅5番出口)

 漢江の北側のソウル旧市街には、朝鮮戦争が起きた1950年頃、分断される前の北部から避難してきた人たちが始めた冷麺専門店がいくつかある。
 その代表が『乙支麺屋』。京畿道の議政府に現存する『平壌麺屋』(前項の同名店とは別)を源流とするクラシックな平壌冷麺の老舗だ。店は乙支路3街駅5番から地上に出て、そのまま歩道を数メートル進んだ右手。入口は工具店の間に挟まれた細い通路の奥にあり、気を付けていないと通り過ぎてしまう。

 

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『乙支麺屋』の入口につながる通路

 

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内装もクラシック


 この店では、クラシックな冷麺店にはかならずあるピョニュクとかスユクと呼ばれる茹で豚肉で焼酎やビールを飲み、最後に冷麺で〆る“先酒後麺”を楽しんでもらいたい。素材をひとつの器や鍋に入れ、カオス状態で食べるという韓国料理のイメージが大きく変わるはずだ。

 

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茹で豚肉でまずは一杯

 

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看板商品のムルネンミョン

 

 

『春川マッククス』(乙支路4街駅1番出口)

 韓国でもっとも大衆的な酒場といえるシュポ(よろずや、角打ち)が集まっている乙支路4街駅周辺。ぱっと見、食べもの屋がありそうには見えないのだが、一歩路地に入ると、味はもちろん、その佇まいが魅力的な店が少なくない。
 1番出口を出てすぐ右手の路地を入ると、店先に赤茶色のプラスチック甕が並んでいる『春川マッククス』もそのひとつ。店に入るとすぐ左手にトイレがあり、さらに進むと天井の低い店内に相席必至の木製テーブルが並んでいる様子は70~80年代の食堂そのままだ。  
 前項の『乙支麺屋』同様、この店でも茹で豚肉と冷麺で“先酒後麺”を楽しみたい。

 

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『春川マッククス』の茹で豚肉

 

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ほのかな酸味がさわやかなムルネンミョン

 

 

『ヨルチャチプ』(鐘閣駅2番出口)

 ピンデトッ(緑豆粉のおやき)を日本の食べものに例えるならなんだろうか? お好み焼き? いや、ピンデトッはあんなに具だくさんではない。東京のもんじゃ焼きのほうが近いかもしれない。
 鐘閣駅の2番出口を出て、歩道をそのまま50メートルほど進み、最初の路地を左に入ると、すぐ右手に『ヨルチャチプ』の看板が見える。1950年創業だから、70年近い歴史がある。以前は光化門近くの教保文庫のワンブロック隣の路地にあったのだが、この場所に移転してきて7、8年になるだろう。
 日本に「この食べものにはこの酒」という決まりのようなものがあるように、韓国の食べものにも酒との相性というものがある。ピンデトッとマッコリはその代表。緑豆のすがすがしい香り漂う生地にしみとおった油は、韓国がまだ貧しかった頃は貴重な食材だった。その香ばしい油とよく合うのがマッコリ。生牡蠣の塩辛をピンデトッにのせてほおばり、そこに生マッコリを流し込んだら、もう止まらない。素朴なつまみと素朴な酒の最高のマリアージュを体験してもらいたい。

 

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『ヨルチャチプ』のピンデトッ。左上が牡蠣の塩辛

 

 

『味カルメギサル専門』(鍾路3街駅6番出口)

 1年前、韓国の人気グルメ番組『水曜美食会』で紹介されて以来、常時行列ができる店となり、一時は予約もままならなかったのが豚ハラミ焼肉の『味カルメギサル専門』。

 

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この歩道のすぐ左手が鍾路3街駅6番出口。最初の路地の向こうに『味カルメギサル専門』の赤い看板が見える

 

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厳しい寒さも一段落し、『味カルメギサル専門』を覆っていたオレンジのテントもそろそろ取り去られる頃


 ソウルのディープ食堂を代表するような店構えだが、鍾路3街駅6番出口を出たら歩道を逆方向に進み、最初の路地を左折するとすぐ見つかる。現在も週末は行列必至だが、テレビ効果も一段落した今なら落ちついて食べられるだろう。

 

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看板商品のカルメギサルはご主人が小さく切り分けてくれるので、酒のつまみにぴったり


 この店はカルメギサル(豚ハラミ)の味だけでなく、韓国の高度成長期に全羅南道の離島から上京し、ソウルドリームを実現したご主人とその奥さまの働きぶりと、磁場としか言いようのないこの一帯の、人を酔わせる気配も楽しんでもらいたい。

 

*4月21日(土)、東京で筆者がトークイベントを行います。第1部は12時15分~13時55分/『釜山の人情食堂』『韓国の「昭和」を歩く』『マッコルリの旅』など代表作の取材秘話。第2部は14時40分~16時20分/『鯨とり』や『ワンドゥギ』などの韓国映画で語る酒場情緒。1部・2部は各券3,000円。通し券は5,700円。会場は有楽町線飯田橋駅C1出口前。入場券は下記のチケットぴあで発売中。
http://ticket-search.pia.jp/pia/search_all.do?kw=%E3%83%81%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%A6%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%82%AF

 

 

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紀行作家。1967年、韓国江原道の山奥生まれ、ソウル育ち。世宗大学院・観光経営学修士課程修了後、日本に留学。現在はソウルの下町在住。韓国テウォン大学・講師。著書に『うまい、安い、あったかい 韓国の人情食堂』『港町、ほろ酔い散歩 釜山の人情食堂』『馬を食べる日本人 犬を食べる韓国人』『韓国酒場紀行』『マッコルリの旅』『韓国の美味しい町』『韓国の「昭和」を歩く』『韓国・下町人情紀行』『本当はどうなの? 今の韓国』、編著に『北朝鮮の楽しい歩き方』など。NHKBSプレミアム『世界入りにくい居酒屋』釜山編コーディネート担当。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/

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