旅とメイハネと音楽と

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#55

南インド・チェンナイ美味いもの巡り旅〈5〉

文と写真・サラーム海上

 

高級シーフードレストラン『The Marina』

 カルナータカ音楽と南インド料理を満喫していると、チェンナイの日々はあっと言う間に過ぎていった。この連載でもフュージョン料理から始まって、チェティナード料理やベジタリアン・ミールスを紹介してきたけれど、その他に食べそこねてないものはないかな? 北インドのムグライ料理やインド風中華料理はインドのどこでも食べられるから、チェンナイらしいものを食べたいな。あ、肝心のシーフードを忘れていたよ!

 チェンナイは敬虔なヒンドゥー教徒を中心にベジタリアン人口も多いが、東側にはベンガル湾が大きく広がる港町である。当然、海の幸だって豊富なのだ。

 Tripadvisorを調べると、チェンナイのシーフード部門第一位に選ばれている高級レストラン『ザ・マリーナ(The Marina)』が良さそうだ。そこで12月27日にランチを食べに出かけた。予約しなくともお昼の開店と同時に到着すれば入れないことはないだろう。

 ホテルからオートリキシャーに乗り、市内中心のヌンガムバッカム地区へは10分ほど。病院や警察署、政府庁舎などの巨大なビルが立ち並ぶ一角にザ・マリーナがあった。入り口のガードマンに案内され中に入ると、植え込みの熱帯植物に遮断されて、外の通りからは見えなかったが、建物はガラス張りで明るく、天井も高く、六本木ヒルズやミッドタウンにありそうなオシャレなレストランだ。


 到着したのは12時前だったので、僕たちがその日の一番最初のお客だった。概してインド人は午後1時や2時にランチを食べるためだ。着席した後、目は当然、店内一番奥、左右に広く設置された大型の魚の陳列台に釘付けだ。しかし、台の上には一面の氷しか見えない。魚はどこかって? 鮮度を保つため、魚は氷の下に隠されているのだ。

 陳列台に近づくと、腹の出たマネージャーが「今日のおすすめはマナガツオです。タイガー海老も新鮮で、カレーにしてもタンドール焼きにしても美味しいですよ」と言って、氷を掘り起こし、氷の下に埋まったマナガツオやタイガー海老、他の魚をいくつか見せてくれた。小さな鱈、赤鯛、鯛に似た魚が数種類、鮪の稚魚、平目、沖縄で見かけるアオブダイ、そしてロブスターなども並んでいる。

 

IMG_4715チェンナイのシーフードレストラン『The Marina』。魚は量り売りの時価なのだ

 

IMG_4747ザ・マリーナのマネージャーとウェイター。新鮮さを保つため、客足が減ると、魚を氷で覆ってしまう

 

 値段を見ると、マナガツオは100gで345rs=621円(当時のレートで1rs=1.8円計算)、タイガー海老は100gで245rs=441円。日本と変わらない値段じゃないか!と驚かないように。ここは東京で言えば、丸の内にあるオイスター・バーみたいな所なんだから。それに東京にいたって、マナガツオは高級魚でなかなか食べられない。逆に鮪の稚魚はぐっと安く、100gで115rs=207円、平目と鱈は175rs=315円だ。なるほど日本とは魚の好みも値段も異なるのだな。

 

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ブダイ、鱈、シマアジ、ロブスター! 君ならどれを選ぶ!?

 

IMG_4743平目に赤鯛、東京では見かけない魚も並んでる

 

 いったんテーブルに戻り、メニューに目を通すと、タンドール焼きにもカレーにも、様々な味付けや調理法があるようだ。例えば、タンドール焼きでは、ヨーグルトとアジョワン・シードと乾燥ザクロでマリネしたものはパンジャーブ州の地名でもある「アムリトサル」と言うらしい。青唐辛子の漬物とヨーグルトと生姜とにんにくは「ハリミルチ・カー・アチャーリー・ティカ」。シンプルなものでは「レモン・バター・ガーリック」、その他、「メキシカン・グリル」やバジルの「ペストゥ」なんてのもある。

 カレーのほうも使われるスパイスごとに「カンタリ」や「プリヤム・ミラグム」などと名付けられているが、どんなカレーなのか僕にはわからない。唯一「マラバール・カレー」だけは、ケーララ州のマラバール海岸起源のタマリンドやココナッツ・ミルクを使った魚介のカレーであると知っていた。いつものようにメニューに何度も目を通し、逡巡していると(僕は世界中どこに行っても、この時間が大好きなのだ!)、ネールジャケット姿の若いウェイターが話しかけてきた。

「お決まりですか、サール? 」

「マナガツオとタイガー海老を頼みたいんだけど、どの調理法にするか迷っています」

「ではマナガツオはニンニクとヨーグルトでマリネしてタンドールで焼いたラスーリはいかがでしょう? タイガー海老はグレービーが美味しいので、マラバール・カレーにするのがオススメです」

「タンドール焼きならアムリトサルというのも気になるんだけど……」

「では、マナガツオは小さめのものを2尾選んで、一つはラスーリ、一つはアムリットサルにしてみては? 味の違いを楽しめますよ」

「おお、そうしよう!」

「魚は丸ごとがよろしいですか? それとも骨を取りましょうか?」

「骨を取って下さい」

「マラバール・カレーには白米が合いますが」

「日本人は白米が大好きなので、もちろん下さい。ところで君はチェンナイ出身?」

「いえ、東インドのオリッサ州出身です。オリッサ州も魚料理が有名なんですよ」

「この魚はどこで採ってきたものなの?」

「チェンナイ近郊です。毎朝漁港から水揚げされて、市場に並ぶ前にまっすぐこのお店まで運ばれてくるんです。だからチェンナイで一番新鮮な魚が楽しめるんですよ」

 料理を決めると、ウェイターが陳列台に戻り、400gほどの小ぶりのマナガツオを2尾と、長さ20cmほどの丸々太ったタイガー海老を8尾、お皿に盛り付けて運んできた。

「こちらでよろしいですか?」

「はい、よろしく!」

 なるほど、魚は決まった値段がなく、時価なので、お客との間に間違いが起こらないように、注文方法も徹底されているな。良い店だ。

 

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左手前が今回いただいた白マナガツオ。真ん中の「Karimeen」は日本では「ダイヤモンド・クロマイド」と呼ばれるスズキ科の熱帯魚。ケーララでは一尾まるごと油で揚げていただく。そして、真ん中上がタイガー海老

 

 シーフードにはビールやインド産の白ワインが合うことはわかっているが、前夜にホテル内のムグライ料理レストランで肉のケバブと赤ワインをしこたま飲んでしまっていたので、この日はアルコールは抜いて、飲み物はマンゴーラッシーと炭酸水だけにしよう。

 

souq9こちらがホテル内のムグライ料理店で前夜にいただいたケバブの盛り合わせ。オレは肉肉しい北インド料理も大好き!

 

 スターターのパッパル、アチャールで胃袋を刺激していると、きっかり30分後にきつね色とオレンジ色に焼かれた二種類のタンドール焼きが運ばれてきた。

 

IMG_4724いつものスターター、パッパル。連日のお酒で、この日はビールを飲めなかった

 

IMG_4722パッパルの付け合せに四種類のソース、左奥から時計回りに、ミントソース、赤唐辛子ソース、ヨーグルトソース、タマリンドソース

 

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この日はビールではなくマンゴーラッシー……

 

 三枚におろしたマナガツオの身は一枚120gほど。僕ならば一枚を一口でペロっと食べてしまえる大きさだ。しかし、ここでは味の違いを堪能しよう。

 まずラスーリから。白身の表面にきつね色に焦げたにんにくのみじん切りがたっぷり張り付いている。味付けはヨーグルトと塩胡椒のマリネ。一切れ口に入れると、マナガツオがとろけるような食感。ヨーグルトとにんにくが薄味のマナガツオにしっかりパンチを与えている。

 

IMG_4726マナガツオのタンドール焼き、ラスーリ。新鮮なマナガツオににんにくのみじん切りとヨーグルトのシンプルな味付けが美味い!


 そしてオレンジ色のアムリトサル、こちらが絶品だった。ヨーグルトと乾燥ザクロという組み合わせはイラン料理的だが、アジョワンがインド料理=カレー的な風味を加えている。タンドールの高温で焼いたことで、淡白なマナガツオと酸っぱ辛い味付けが渾然一体となっている。同じ魚を二種類の異なる調理法で頼んで正解だった!

 

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そしてマナガツオのタンドール焼き、アムリトサル。こちらはインド~ペルシャ料理のざくろ味がたまらない!

 

 続いて両手鍋にたっぷり盛り付けられ、運ばれてきたのがタイガー海老のマラバール・カレー。ステンレスの鍋の中で眩しいほどのオレンジ色に輝き、真ん中に飾られた、油で揚げたカレーの葉の緑色とのコントラストが美しい。

 現在、日本は「空前のカレー・ブーム」と言われ、ミールスを供する南インド料理店も急増しているが、色彩に対しては、日本のインド料理店はまだまだ攻め込んでいない。インド料理は基本的に煮込み料理だし、色は黄色から茶色、悪く言えば煮染めた色が中心と思われているからだ。しかし、インドではこの連載のたった数回の紹介でもわかるとおり、もっともっとフレッシュでカラフルな色彩の料理が存在する。

 さてマラバール・カレーに話を戻すと、ココナッツミルクと各種マサラ、そしてタマリンドの総和からなる鮮やかなオレンジ色のこってりしたカレー・グレービーの中に、殻を剥がされ、熱で背中が丸まった海老の身がゴロンゴロンと8尾入っている。一緒に運ばれてきた白米の上にかけて、目で色合いをもう一度楽しんでから、スプーンですくっていただきます! すると美味い! 当然ながら海老のダシ! 海老の頭や殻は鍋の中に残っていないが、スプーンを鼻に近づけただけで、濃厚な海老の香りが漂ってくる。

 口に入れると、酸っぱいタマリンド、甘いココナッツミルクが、大きな海老の身の脇を両サイドから締めにかかる。8尾の海老の身は一瞬で食べ尽くしてしまい、残りはグレイビーだけ。しかし、全ての味が染み込んだグレイビーだけでも、ご飯お代わり何杯でも行けちゃうよ! しかし、今回はたったの二人での来店だ。これ以上の料理は食べられない、残念!

 

souq9タイガー海老のマラバール・カレー。こんなに見た目が輝いているインド料理ってめったに見ないよ!

 

 その頃までにはスーツ姿やネクタイ姿のビジネスマンたちが次々と入ってきて、広い店の2/3ほどが埋まり、魚の陳列台ではウェイターやマネージャーたちが大声で営業トークを繰り広げていた。会計を頼むとトータルで4,615rs=8,300円。値段はそこそこ張るが、十分に価値はある。これは良い店を見つけた。次回は大人数で再訪して、もっともっと色々な魚料理を頼みたくなった。

 

IMG_4735頼んだ三種を一皿に盛り付けて。もっと大人数で来て、もっともっと料理を頼みたい!

 

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ランチの後はアキラジーおすすめの古典声楽兄弟デュオ、Trishur Brothersを観に行った。兄弟だけあって息の合方がバッチリ。三時間たっぷり楽しんだ

 

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そして夜にはチェンナイ生まれのインドが誇る天才音楽家、ARラフマーンの本拠地AM  スタジオを訪問! 本人には会えなかったが、彼が影響を受けた三人の音楽家を改めて知ることができた!

 

 

中東料理の牛のケバブを作ろう

 今回のレシピはインド料理ではなく、中東料理の牛のシシケバブ。肉と野菜を同時にたっぷり取れる料理なので、ぜひトライしてほしい。肉の量は1串で90gと少ないので、贅沢して国産のステーキ用の牛肉を使うとびっくりするほど美味いぞ~!

 

■牛のシシケバブ

【材料:2人分】

牛ステーキ用肉:180g

*マリネ液

プレーンヨーグルト:大さじ2

オリーブオイル:小さじ2

玉ねぎのすりおろし:大さじ1

トマトのすりおろし:1/4個分

青唐辛子荒みじん切り:1本

にんにくのすりおろし:1個分

塩:小さじ2

ケキッキ:小さじ1

*串に刺す野菜

パプリカ:1/2個(へたと種を取り、肉と同じサイズに切り分ける)

ピーマン:2個(へたと種を取り、肉と同じサイズに切り分ける)

紫玉ねぎ:1/2個(へたと種を取り、肉と同じサイズに切り分ける)

*付け合せ

紫玉ねぎ:1/4個分(スライスして水にさらす)

スマック:小さじ2

イタリアンパセリ:2枝(粗みじん切り)

ルッコラ:1袋分

ミニトマトのくし切り:4個

レモンのくし切り:1/2個分

プル・ビベール:適宜

乾燥スペアミント:適宜

【作り方】

1.牛肉を冷蔵庫から取り出し、室温にしてから、10等分する。

2.マリネ液の材料をボウルに混ぜてから、1の牛肉を入れ、5分だけマリネする。

3.水にさらしてから水気を切った紫玉ねぎのスライス(付け合せ用)にスマックをまぶし、さらにイタリアンパセリを和える。

4.金串に紫玉ねぎ、マリネしたパプリカ、紫玉ねぎ、牛肉、ピーマン、紫玉ねぎ、牛肉の順番で刺していく。野菜の表面に刷毛を使ってマリネ液を塗る。

5.十分に温めた魚焼きグリルで4を焼く。肉の表面に焼き色が付いたら、取り出して、料理用バットにのせ、アルミホイルで覆っておく。

6.平皿にルッコラとミニトマトを敷き、串焼きをのせ、3とレモンのくし切りを添え、プル・ビベール、乾燥スペアミントを散らす。レモンをしぼっていただく。

 

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牛のシシケバブの完成! もっと詳しいレシピは来年3月発売予定のサラームのレシピ本『Meyhane Table More!(仮題)』をお待ち下さい

 

*サラームの中東料理満腹イベント「出張メイハネ」次回は11/11(日)、筑波山ムクムクにて、仔羊一頭の熾火蒸し焼きに挑みます! その他アースオーブン料理も盛り沢山! 詳細は以下↓をご覧ください。

http://www.chez-salam.com/2018/08/20181111sun-出張メイハネ筑波山ムクムク/

 

*著者の最新情報やイベント情報はこちら→「サラームの家」http://www.chez-salam.com/

 

*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。〈title portrait by SHOICHIRO MORI™〉

 

 

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サラーム海上(サラーム うながみ)

1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家。明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』『プラネット・インディア インド・エキゾ音楽紀行』『エキゾ音楽超特急 完全版』『21世紀中東音楽ジャーナル』他。Zine『SouQ』発行。WEBサイト「サラームの家」www.chez-salam.com

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