東南アジア全鉄道走破の旅

東南アジア全鉄道走破の旅

#55

インドネシア・スマトラ島の鉄道〈2〉

文・写真  下川裕治

ティビンティンギ~シアンタール、キサラン~タンジュン・バライ

 タンジュン・バライを朝に発つ便は満席だった。頭のなかで考えていたのは、タンジュン・バライからメダン行きの列車に乗る。その列車は支線を走って幹線に入っていく。前日の乗った幹線を再び北上し、途中のティビンティンギからシアンタールに向かう。こうすれば、北部路線の支線を制覇できる。

 しかしそのスタートで躓いてしまった。夕方便なら席はあるといわれた。しかしこの駅で夕方まで待つというのも……。

 悩んだ末に、またしてもバスに辿り着いてしまった。タンジュン・バライからティビンティンギまでバスで向かう。うまくいけば、メダンを発ってシアンタールに向かう列車に乗ることができるかもしれない。その列車に間に合わなかったら、さらにバスでシアンタールまで行く。次の日にシアンタールから列車に乗り、さらにタンジュン・バライまで乗れば、未乗車の2路線を乗りつぶすことができる。

 この方法でトライすることにした。

 

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「ソールドアウト」と2回いわれたタンジュン・バライ駅

 

 前日のバスは予想以上に時間がかかったが、タンジュン・バライからティビンティンギまでは意外に早かった。昼前には着いてしまった。

「これで朝、メダンを出発したシアンタール行きに間に合う」

 駅前の食堂に入った。煮込んだ鶏肉と卵焼きをご飯の上に載せてもらう。インドネシア風の食事にやっとありつけた。少し落ち着いてきた。メダンに到着してから口に入ったものは、とらえどころがないものばかりだった。駅の売店で買ったパン、列車の車内で売りにきたシュウマイ……。販売員が口にする「シュウマイ」という駅弁に耳を疑った。頼んでみると、本当にシュウマイだった。インドネシアでもそういうらしい。しかしたれがサンバルソース。食べてみると意外にいける。しかしこれをインドネシア料理というのも……。タンジュン・バライで泊まったホテルには朝食がついていたが、それはバターが塗られた食パンにチョコレートをかけ、その上からチーズを散らすという代物だった。その斬新さは目を惹いたが、果たしてこれがインドネシア料理だろうか、と首を傾げてしまった。

 ティビンティンギから乗り込んだシアンタール行きの列車は8割がた埋まっていた。シアンタールとメダンを結ぶ列車は1日1往復しかない。そのためかもしれなかった。

 到着したシアンタールは激しいスコールに洗われていた。外に出ることができない乗客が駅舎のなかに溢れていた。その人混みのなかにいた若い女性が英語で声をかけてきてくれた。彼女の助けで、翌日の切符を買った。

 シアンタールを早朝に発ち、ティビンティンギでタンジュン・バライ行きの列車に乗り換える切符だった。再び幹線を南下し、最後の1区間だけ支線を走る。これでメダンの近郊線を除くと、北部路線を制覇したことになる。行ったり来たりの迷走だったが、なんとかなりそうだった。

 シアンタールはいい街だった。規模は大きくないが、充実した商店街がある。その一画にはチャイナタウンもあった。歴史が刻まれた2階建てのプラナカン建築の家が続き、その1階が中国料理店になっていた。店の数こそ多くないが。そこにはビールもあった。気に入った理由はビール? といわれれば返す言葉もないが。

 翌日は予定通り列車を乗り継ぐことができた。タンジュン・バライの駅に着き、メダンに列車で戻ろうと考えた。再び幹線を走ることになるが、バスに比べれば時間が読める。発券窓口に行くと、前日、「ソールドアウト」と伝えてくれた若い女性がいた。そして再び、彼女が口にしたのは、「ソールドアウト」だった。そういいながら、その女性は薄い笑みを浮かべた。「いったいこの男はなにをしているのか」。瞳のなかに不審が宿っている。これまでも何回となく晒されてきた視線だった。全路線を制覇するという試みは、彼女らにとってはそう映るのだ。

 バスでメダンに戻った。

 残っているのはメダン近郊の1路線だけだった。いや、気になる路線があった。『インドネシア鉄道の旅』に出ている路線だった。メダンよりさらに北のロクスマウェ周辺を走る列車だった。メダン駅で訊いてみたが、よくわからないという。果たして走っているのだろうか。そこまで行き、運休といわれると無駄骨になってしまう。

 果たして行くべきか。メダンで悩んでいた。

 

スマトラ島の北部路線。眺めはアブラヤシのプランテーションばかり

 

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駅のホームでは弁当屋も。料理を指させばいい(キサラン駅)

 

 

*インドネシアの鉄道路線

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*本連載は月2回(第2週&第4週木曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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著者:下川裕治(しもかわ ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。ノンフィクション、旅行作家。慶応大学卒業後、新聞社勤務を経て『12万円で世界を歩く』でデビュー。著書に『鈍行列車のアジア旅』『不思議列車がアジアを走る』『一両列車のゆるり旅』『タイ語の本音』『世界最悪の鉄道旅行 ユーラシア横断2万キロ』『「裏国境」突破 東南アジア一周大作戦』『週末バンコクでちょっと脱力』『週末台湾でちょっと一息』など、アジアと旅に関する紀行ノンフィクション多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。WEB連載は、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週日曜日に書いてるブログ)、「クリックディープ旅」(いまはユーラシア大陸最南端から北極圏の最北端駅への列車旅を連載)、「どこへと訊かれて」(人々が通りすぎる世界の空港や駅物)「タビノート」(LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記)。

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