ステファン・ダントンの茶国漫遊記

ステファン・ダントンの茶国漫遊記

#55

ステファンが旅する東京-浅草界隈1

ステファン・ダントン 
 

 

 

「仏壇通り」から道具街「合羽橋」へ

 

 

 

 

 11月のある日、私は「東京の職人のまち」を目指して銀座線に乗り込んだ。稲成町駅から歩いて合羽橋の道具街まで行ってみよう、というのがその日のプラン。

 日本に来てから、自分の店「おちゃらか」を含め、いくつもの飲食店の立ち上げや運営に関わってきた。だから飲食店の設備・備品がなんでも揃う合羽橋は私にとって馴染みの街。ずいぶん久しぶりだから楽しみだ。

 

_MG_0339
稲成町駅を降りて。

 

 

 

待ち合わせでとまどって

 

 

 その日は月曜日というのに海外からの来店客で立て込んでしまい、私は待ち合わせ時間に「少しだけ」遅れそうだった。でも「10分遅れる。ごめんね」と伝えてあったし、私の店「おちゃらか」のある三越前駅から稲成町駅まではたったの5駅。友人たちと待ち合わせたカフェは都内のあちこちにあるチェーン店。駅前にあるはずだから、すぐにみんなと会えるはずだった。

 ところが、駅の目の前にあるはずのそのカフェが見当たらない。大きな交差点に立って、周りを見渡しても見知ったその店のサインがどこにもない。近くに交番があったから聞いてみた。それでもわからない。仕方ない。東京の店はどんどん変わる。お巡りさんだって把握しきれないよ。でも、どうしよう…どういうこと? と思った矢先、交差点の斜め向かい、大きなビルの1階に目指すカフェはあった。なんですぐに見つけられなかったかというと…看板の色やフォントがそのカフェチェーン独特のものと違ったから。チェーン共通のサインを無意識に探していて、全然目に入らなかった。

「いつもの」色やフォントが、いかに自分の無意識に強く刷り込まれていたかに気づいて驚いた。

 自分の思い込みに小さな笑いがこみ上げた。

 

 

_MG_0340
交差点の角にあるのに、いつもと違うサインのせいで見つけられなかったカフェチェーン。

 

 

 

 

ラテンの私はズレている?

 

 

 店内に入った私を見つけた友人が「ステファン! 10分後に着くっていってから30分くらいたってるよ!」というから、私が「ここを全然見つけられなくて…」と今あった出来事を話すと、みんなも私と同じように迷ったらしい。「だまされたよ」なんていうから「誰もだましてないじゃん。だましたのは自分の無意識なんだけどね」と笑ってしまった。

 「それにしても20分は長い! ステファンはいつも自分が指定した時間に遅れすぎ!」とお説教されてしまった。

 そこから時間感覚と気遣いの話しになって…

「日本人が余裕を持って時間を指定するのは、相手を待たせないようにする気遣い」だという。理解はできる。

「フランス人は、指定した時間から遅れるのはふつう。2時間くらいなら平気で遅れる」

 大げさだけど事実だ。

 

 習慣だといってしまえばそれまでだけど、そこに相手に対する気遣いがないわけじゃない。「早めに行きたい、早くあなたに会いたい」という「相手への気持ち」を伝えているんだよ。

 

 日本人の友人たちは「わかるけどわかんない」と。かなりの感覚のズレだよね。感覚のズレは理解できても、なかなか修正できない。

 

 でも、このズレを知るのが外国にいることの最大のおもしろさだと私は思う。外国人と付き合うおもしろさも、ここにあると思わない?


 

 

 

仏壇通りは宝の山

 

 

 

 カフェを出て道具街の合羽橋を目指して歩き始めたのは浅草通り。

 「仏壇通り」と呼ばれるだけあって、両側には仏壇店がたくさんある。

 東京一の観光地、浅草からも、これから向かう最近外国人に人気の合羽橋からも近いのに外国人は皆無。歩く人もまばらだ。

 

_MG_0341
仏壇通りを歩く。

 

 

 今は仏壇のある家庭が減っているというけれど、きちんと需要はあるんだろう。豪華で大きな仏壇から現代の住まいにマッチさせた小さくてスタイリッシュな仏壇まで揃っている。ちなみに我がダントン家にも妻の両親が入っている小さな仏壇がある。

 「仏壇とか仏具ってミニチュアだな。日本ってフィギュアとか模型とかの国だけど、ミニチュアへの志向性って、もしかしたらこういうところに源流があるのかもな」と自分の思いつきにほくそ笑みながら歩く。

 仏壇通りには仏壇店だけではなく、お神輿なんかの祭礼用品店もあって、お祭り好きの私はつい見入ってしまう。そういえば、お神輿も神社のミニチュアじゃない?

 

_MG_0345
お神輿に見入るお祭り好きの私。

 

_MG_0347
五重塔のミニチュア、どこに置くんだろう?

 

 

 精巧に作り込まれたミニチュアの仏像や仏具はインテリアになる。東洋好きのヨーロッパ人は、大好きなはず。

「ちょっとエイジングしてヨーロッパ向けに販売したら売れるよ」

「そんな見方してなかったよ!」

 私にとっては、当たり前のアイディアなんだけどな…。日本から輸出できる「日本らしいもの」は山ほどある。伝統的なものをそのまま出すだけでは、相手のニーズとはズレてしまう場合がある。自分とはズレてる相手の文化や志向を理解できれば、いろんな可能性が出てくるんだよ。

 

 そういえば、ある店の前に小さな梵鐘が二つ並んでいた。

 「片方は木製で片方は金属製だ」と私がいうと、「え、そうなの?」と友人はじっと見る。ただじっと見る。私は指で弾いて音を聞かせた。私の見立ては正解だった。私はなんでも触ってみる。食べ物ならば匂いを嗅いでみる。それが当たり前。

 私だけではないと思う。ヨーローパ人は、見た目はもちろん肌触りや匂いのような感覚を「体験」して自分の理解とする傾向がある。一方、日本人は見た目からそれらを「想像」しているような気がする。

 

 

_MG_0432
木の梵鐘と金の梵鐘、見ただけでどちらかわかる?

 

 私の店は日本茶専門店で、お客さんに茶葉に触れてもらったり、かいでもらったり、飲んでもらったりしてもらうことを大切にしている。日本人のお客さんは、こちらから促さないと「ただ見ているだけ」になりがちだから、積極的に声をかける。「日本人は礼儀正しい、おとなしい」というステレオタイプの解釈もできるけど、実は「視覚」からの想像が日本人の大きな部分を占めているからだともいえそうな気がする。外国人、とくにヨーロッパ人は、それとは違う理解を求めているということを知っておいてほしい。


 

 

 

飲食店関係者のための街

 

 

 

 仏壇通りを隅田川に向かって歩いていくと左手に合羽橋商店街の入口が。ここまで来れば私にとって馴染みの街。

 

_MG_0357
私の向かう通りの両側が道具街。

 

 飲食店をオープンしようとしたら、あらゆる調理設備や食器、サインボード、梱包材、前掛けまで、ここで全部揃えられる。なんでもあるから、ここに来ればアイディアも湧いてくる。

 

_MG_0390焼印を押す金属のコテ。オリジナルを作ってもらって茶箱に押してもらおうか。

 

_MG_0388
お茶のかき氷もおもしろいな。

 

抹茶を挽く電動の臼
抹茶を挽く臼まで売られていた。

 

 どの店に入っても、興味を引くものが多すぎて、ついうっかり長居してしまう。巨大な五徳や泡立て器に目をみはる。どら焼きなどに焼印を押す道具や目新しい梱包材は、「うちの店で使えそうだな」なんて想像もする。何に使うか一目ではわからない道具もたくさんある。でも、どれも飲食に関わる道具だから、用途を想像する。ちょっとしたクイズを解いている気分で、それだけでも楽しくて仕方ない。

 あっという間に2時間くらい。

 「1軒の店でも半日楽しめる。このまちで本気で遊ぼうと思ったら2泊3日は必要だ。時間があるときにまたゆっくり遊びにこよう!」といったのは本当の気持ち。

 

 おもしろい急須があったら買いたいと思っていた。食器店は山ほどあった。なのに、急須や土瓶は隅っこにほんの少しだけ。がっかりだった。

 どれだけ多くの飲食店がお茶を入れて飲ませていないかを、ここへ来て再認識した。ペットボトルは手軽だし、サービスで提供するお茶に手間をかけられない、というのもわかる。だけど、急須で入れたおいしいお茶を食後に入れてくれたら、わかる人にはわかる。「いい店だね」という印象が倍増するのは間違いないのに、もったいない。

 

 でも、最後に入った雑多な道具店でおもしろい出会いがあったんだ。

 次にお話するときは、とある店でのフランス人茶商(私)とフィリピン人の奥さんとの出会いから、外国人に愛される合羽橋、外国人を受け入れる浅草界隈の様子をお話しようと思う。

 

 

*この連載は毎月第1・第3月曜日(月2回)の更新連載となります。お楽しみに! 

 

写真/ステファン・ダントン    編集協力/田村広子、スタジオポルト

stephane-danton00_writer00

ステファン・ダントン

1964年フランス・リヨン生まれ。リセ・テクニック・ホテリア・グルノーブル卒業。ソムリエ。1992年来日。日本茶に魅せられ、全国各地の茶産地を巡る。2005年日本茶専門店「おちゃらか」開業。目・鼻・口で愉しめるフレーバー茶を提案し、日本茶を世界のソフトドリンクにすべく奮闘中。2014年日本橋コレド室町店オープン。2015年シンガポールに「ocharaka international」設立。著書に『フレーバー茶で暮らしを変える』(文化出版局)。「おちゃらか」http://www.ocharaka.co.jp/

ステファン・ダントンの茶国漫遊記
バックナンバー

その他のJAPAN CULTURE

ページトップアンカー