台湾の人情食堂

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#54

せっかちな私ですが、高鉄より台鉄の旅が好き

文・光瀬憲子

 自分でも嫌になるくらいせっかちなタチだ。旅先では常にいちばん効率のよい動線を考えて移動する。なので台湾では高鉄(台湾新幹線)ばかり利用していると思われがちだが、電車に関してだけは各駅停車が好きなのだ。

 じつは乗り物全般があまり得意でなく、ことに電車に関しては「途中で何かあって閉じ込められたらどうしよう……」という強迫観念(エレベーターにも乗りたくない)が起き、各駅停車を選んでしまう。

 東海道新幹線だって、時間の許す限り「のぞみ」よりも「こだま」がいい。台湾でも高鉄より断然、台鉄(在来線)を選ぶ。

 今回はそんな私の「鉄路の旅の楽しみ方」をお伝えしたい。

 

 

駅弁もいいけど、持ち込みも

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高鉄台南駅(沙崙駅)から市内にある在来線台南駅へ向かう電車。高鉄は移動時間が短いが、駅が市街地から離れているのがやや不便

 

 電車の旅の楽しみのひとつは食べものだ。

 台鉄はのんびり走るので、1時間、2時間の乗車時間は当たり前。そうなると、電車の中でおやつなり弁当なりを確保しておきたくなる。駅で販売している台鉄弁当も魅力的だが、私は電車に乗る前に訪れた町の市場や食堂やでテイクアウトすることが多い。

 肉まんを買うこともあれば、豆漿(豆乳)と饅頭(マントウ)のときもある。朝市に寄る機会があればおこわ弁当なんかがおすすめだ。車内で食べても匂いが気にならず、お腹にたまる。

 

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高雄から台鉄に乗る前に高雄市内の朝市で購入した中華おこわ弁当。具がたっぷりで、おこわにもよく味がしみている

 

 台湾東部の米どころ、池上では、駅のホームで池上飯包という絶品弁当を販売している。白米が美味しく、おかずも肉と野菜のバランスがとれている。私はお米の質や炊き方にこだわりがあるのだが、この弁当は冷や飯でもかなり美味しい。

 

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池上名物の池上飯包。ホームで販売しているのは池上駅だけ。電車が停まると、池上飯包のベストを着たスタッフがホームを走り回る

 

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野菜と肉と白米のバランスが絶妙で、色鮮やかな池上飯包。木の箱に入っているので香りがよく、木が適度に湿気を吸ってくれるので味も落ちない

 

 

車内での思わぬ出会い。縁は異なもの味なもの

 せっかちなのに在来線でのんびり旅をするのが好きと書いたが、電車に乗っているときはうとうとしているのかと言うと、そうではない。移動中はまとまった時間を使っていろんなことができるので、寝るなんてもったいない! そう考えてしまう性質だ。

 日本では郊外に住んでいるので、都内に出るときは1時間以上電車に乗ることが多い。ふだん執筆や翻訳仕事で忙殺され、睡眠時間も少ないので、車内ではたいていは寝てしまう。

 でも、台湾の列車ではなぜかそれほど眠くならない。揺れが不規則なうえに、電車の音も、周りの人たちの話し声も聞こえるので目が冴えてしまうのだ。そんなときの人間観察はなかなかおもしろい。

 出張で移動するビジネスマンは高鉄を使うことが多いので、台鉄を利用する人は時間を気にせず移動できる人、旅費を節約したい人が多く、客層がなかなか興味深い。学生カップルや学生グループ、親戚に会いに行くおばさんたち、家族連れで遊びに行く人、などなど。

 台湾の電車内では携帯電話の使用を控える、という風習もないので、どこからか怪しい商談が聞こえてきたり、嫁の悪口が聞こえてきたりする。静かな高鉄と比べるとだいぶ和んだ雰囲気だし、台鉄の中では北京語よりも台湾語率が高い。それだけ地元と密着していることがうかがえる。

 

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さまざまな客層の台東駅。この人はこれからどこに行くんだろう? あの荷物はいったいなんだろう? そんな想像をするだけでも楽しい

 

 そうやって周りに聞き耳を立てていると、なにやら日本語が聞こえてきた。日本人旅行者だろうか? それにしては、まるで先生のようにハキハキした中高年男性の声だ。その声がするそばまで移動してみると、高齢の男性が隣に座った学生風の若い男の子に日本語を教えている。日本人と間違えるくらい日本語が上手だ。先生と生徒は祖父と孫、というほど親しくもなさそうである。

 日本語レッスンが終了した頃、高齢男性に「日本語がお上手ですね」と話しかけてみると、たまたま隣に座った日本語を勉強中の学生に日本語を教えていたのだという。そう、日本時代を日本の教育で過ごした世代だ。学生は「どうもありがとうございました」と礼をして電車を降りた。

 日本語の上手な台湾人男性と電話番号を交換し、単行本の取材を通して大変お世話になった。こんな出会いもまた、誰もがのびのびとおしゃべりを楽しむ台鉄車内ならではである。

 

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小学生の頃に日本時代を過ごした陳さんは、驚くほど日本語が流暢で話し上手。毎週のように台鉄を利用して台北の病院に通っているのだとか。どういうわけか最近連絡がとれなくなってしまった。ご覧になっていたらご一報ください

 

 

いつかはしたい車内読書

 私は日本でも台湾でもノートパソコン、スマホ、充電用バッテリー、Wi-Fiルーターなどを常に持ち歩くヘビーITユーザーだ。だから台湾取材中でも電車の中は貴重な充電タイム。取材中にマップやネット検索で電池を消耗したスマホをバッテリーにつないで充電したり、またはノートパソコンを開いて取材で使った費用などを計算する。

「そんなの、夜にホテルでやれば」と言われたりするが、夜になると忘れてしまうことも、移動中なら覚えていられる。「このレシート、なんだっけ?」「昼間のタクシー、いくらだったっけ?」なんてこともない。さっさとエクセルに入力して片付けてしまえば、そのことは忘れて、新しい情報にアタマを使えるではないか。

 

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スマホは台湾でも取材の強い味方。Wi-Fiは現地調達のほうが安い。予約は日本からネットでできる

 

 もちろん、移動中は取材しようとしているお店検索の時間にも当てられる。Wi-Fiをレンタルしておけば台鉄に乗っていてもインターネットにつながるので、次に訪れる街の情報をチェックできるのだ。

 スマホでGoogleMapを見ていると、地図上で自分の現在位置が動いているのがわかる。電車の移動路線をマップで確認できるので、これもなかなか楽しい。移動中は「さっきまでいた場所のおさらい」と「これから行く場所の予習」に最適なのだ。

 また、私はいつも「飛行機や電車の中で読もう」と日本から読みかけの小説を持参している。電車で移動中、やることがなくなったら読もう、と思って常にカバンに入れているのに、今まで台鉄の中で読書が実現したことはほとんどない。残念!

 

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台鉄は座席指定が基本なので、ゆったりと座って仕事ができる。車窓の風景を楽しみながら、ぜいたくなノマドワーク。これでコンセントがあれば何時間でも座っていられるのだが……

 

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ひと昔前の日本の鉄道を思わせる台南駅のホーム。台鉄は通勤ではなく旅に使われることが多いので、乗客は荷物が多く、みな時間に余裕を持ってホームに立つ

 

 

小さな島だが、車窓風景は変化に富んでいる台湾

 せっかく何時間も電車に乗っているのに脇目も振らずパソコンと向き合うのではあまりに風情がない。台湾は「麗しの島」とも言われる美しい土地だ。電車で一周すれば、各地で美しい風景に巡り会える。

 台湾西部の台鉄は、同じ目的地に向かうにも「山側」と「海側」の2路線がある。これがなかなかおもしろい。山側を通る路線は若干、移動時間が短い。海側は西部の海沿いを走るので少し遠回りだが、その分、海のある風景を楽しめる。海岸のそばで風力発電の風車が回る風景はなかなか幻想的だ。

 台鉄でもっとも美しいと言われるのは高雄からさらに南下した枋寮という駅から台東までの路線。枋寮を過ぎるとちらほらと海が見えてくるのだが、ヤシの木が立ち並ぶ海岸線はやはり南国ムードが漂う。地元鎌倉の海岸線を走る江ノ電からの風景を思い出し、心が洗われるようだ。

 台鉄は一般に西部よりも東部の風景が良いとされている。台東付近の穏やかな海や、花蓮付近の大理石のそり立つゴツゴツとした海岸線も見事だ。

 

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高雄からさらに南下し、枋寮駅を過ぎると海が見える。ヤシの木が立ち並ぶ様子がいかにも南国の台湾らしい

 

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宜蘭付近の車窓から見える亀山島。太平洋に面した台湾東部の海岸線は鉄道ファンの間でも定評がある

 

 

お気に入りの駅舎

 鉄道の旅で忘れてはならないのが台鉄の駅舎だ。

 近代的で、どの駅も同じに見える高鉄とは違って、台鉄の駅はそのほとんどが日本時代に建てられたままの姿を保っている。修繕を繰り返したり、移動したりしたものもあるが、うっとりするような外観を持つものが多い。

 堂々として威厳ある風貌の台北駅はもちろんのこと、真っ白で美しい台南の駅舎や、東京駅を思わせるレンガ造りの台中駅など、日本の鉄道ファンにもたまらない駅舎ばかりだ。

 私のお気に入りは味のある緑色の屋根が美しい新竹駅。のんびりと台鉄に乗り、台北から新竹までおよそ1時間の列車の旅を楽しみ、新竹の廟前で美味しいビーフンを食べる。台湾ならではのぜいたくな時間の使い方だ。

 

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駅のホームには地元の名産品やご当地キャラをモチーフにしたオブジェがあることも。これは斗六駅のスターフルーツベンチ

 

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1913年に完成した、日本の建築家の手による新竹駅。メインの台鉄だけでなく、ファンが多い内湾線というローカル線の起点でもある

 

 

*名古屋の栄中日文化センターでの台湾旅行講座の日時が決まりました。5月、6月、7月の第2日曜(5/13、6/10、7/8)、時間は13:00~14:30です。テーマは「台湾一周」。お申し込みなど詳細は追ってお知らせします。

 

 

 

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*本連載は月2回(第1週&第3週金曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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著者:光瀬憲子

1972年、神奈川県横浜市生まれ。英中日翻訳家、通訳者、台湾取材コーディネーター。米国ウェスタン・ワシントン大学卒業後、台北の英字新聞社チャイナニュース勤務。台湾人と結婚し、台北で7年、上海で2年暮らす。2004年に離婚、帰国。2007年に台湾を再訪し、以後、通訳や取材コーディネートの仕事で、台湾と日本を往復している。著書に『台湾一周 ! 安旨食堂の旅』『台湾縦断!人情食堂と美景の旅』『美味しい台湾 食べ歩きの達人』『台湾で暮らしてわかった律儀で勤勉な「本当の日本」』『スピリチュアル紀行 台湾』他。朝日新聞社のwebサイト「日本購物攻略」で訪日台湾人向けのコラム「日本酱玩」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/  近況は→https://twitter.com/keyword101

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