東南アジア全鉄道走破の旅

東南アジア全鉄道走破の旅

#53

インドネシア・ジャワ島の鉄道〈5〉

文・下川裕治 写真・中田浩資

ジャカルタ近郊線

 ジャカルタに着いた翌日、近郊線を乗りつぶすことにした。

 最初にボゴールからパダラランに向かうおうと思った。この路線は以前、ジャカルタからクロヤに向かう路線に接続していた。僕らがインドネシアで最初に乗った路線である。しかし災害に見舞われ、途中のパダラランまでの運行になっていた。山がちの険しい地形を走る路線らしい。

 ジャカルタ・ガンビル駅に着いた足でボゴールに向かった。この区間は日本の援助で電化が進んでいた。日本の中古電車が走っている。東京メトロや東急電鉄などの電車だ。僕にとっては懐かしい車両だった。若い頃、この電車に乗って通勤していた。広告などはインドネシアのものになっているが、椅子やつり革などは当時のまま。暗くなったボゴール線に乗っていると、なんだか東京のアパートに帰るような気分になる。

 しかし日本の中古電車は、ジャカルタという都会の色を帯びはじめていた。地方都市からやってくると、乗り換えのマンガライ駅の混雑に尻込みしてしまう。切符は券売機で買うシステムになっていた。その操作がすぐにわからず、後ろに並ぶジャカルタっ子の視線を背中で感じてしまう。

 ボゴール駅に着いたのは夜の8時すぎだった。パダラランに向かう列車は、もうひとつのボゴール駅であるボゴール・バレダン駅から発車する。翌朝の列車の発車時刻を確認しようと、その駅に行ってみたのだが、列車の運行は終わってしまったようで、ひとりの駅員もいなかった。なんとか時刻表らしきものをみつけ、確認はできたのだが。

 

_DSC7459web

東京で帰宅するときの気分。この写真でわかります?


「ソールドアウト」

 翌朝、列車の発車時刻に合わせて駅に行くと、発券窓口の職員から聞こえた言葉だった。なんでもこの路線は家族連れに人気なのだという。皆、インターネットで予約するらしい。「日曜日は毎週売り切れです。平日なら大丈夫なんですが」といわれたが、僕らは翌日の飛行機でジャカルタを離れなくてはいけなかった。

 この路線はどこにも接続していないから、単純に往復するしかなかった。こういう路線は早く乗りつぶしておきたがったのだが、どうすることもできなかった。

 そこからジャカルタ近郊線の迷走がはじまった。未乗車区間のなかから、その日の夜までにジャカルタに戻ることができる路線を考える。じっくり検討する時間がない。とりあえず、ボゴール駅から電車に乗った。

 路線図を眺めながらみつかったのがメラックだった。ジャワ島の最西端の駅である。ここからスマトラ島に渡るフェリーが出航する。最東端のバニュワンギまで行ったから、最西端を目指すのはいいかもしれない。

 手元にあった古い時刻表では、9時30分にタナアバン駅を出る列車があるはずだった。これに乗れば、夜までにはジャカルタに戻れそうだった。

 息せき切ってタナアバン駅を走る。時刻表が合っていれば、まだ間に合うはずだ。

発券売り場の近くにいた職員に訊いてみた。

「その列車はもうありません」

「はッ」

「午後4時発の列車はあります。それがメラックに着くのは夜の10時30分。今日、戻る列車? ありません。翌朝の午前6時発になります」

 溜め息をついていた。タナアバン駅を離れ、バス停近くのベンチに腰かけた。明日の朝、6時の列車では、飛行機に間に合わなかったのだ。

 あとでわかったことだが、この時期、タナアバン駅からメラック方面に向かう路線が変則的になっていた。というのも、電化された駅がのび、そこまでは電車が走るようになった。その先からメラックまでは電化されていない。そのため、タナアバンからメラックに向かう非電化の列車が減便になっていたのだ。

「まだ乗ることができる路線はあるだろうか」

 気をとり直して路線図に視線を落とした。

 ……ひとつだけ、乗っていない路線があった。電化区間なのだが、タナアバンからタンゲランに向かう路線だった。これに乗るしかなかった。

 乗った電車は、あっという間にタンゲランに着いてしまった。30分ほどだった。運賃は3000ルピア、28円……。

 今回、乗ることができる路線はここまでだった。

 ランゲランは空港に近かった。将来、この路線がのびて、スカルノ・ハッタ空港とジャカルタ市内が結ばれるらしい。

 しかしタンゲランが空港に近いというのは、地図上の話だった。空港近くのホテルをとったが、そこまで行く足がない。この駅から空港に向かう人などいなかったのだ。乗り合いバンを乗り継いで空港近くのホテルに向かったが、最後は1時間近く歩くことになった。

 

_DSC7502web

タンゲランに向かう途中駅で。日本の電車は車体が高いので乗客はひと苦労

 

 

*インドネシアの鉄道路線

20171122191717_00001

 

●好評発売中!!

双葉文庫『東南アジア全鉄道制覇の旅 タイ・ミャンマー迷走編』

発行:双葉社 定価:本体639円+税

 

東南アジア全鉄道制覇1cover


 

 

*本連載は月2回(第2週&第4週木曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

se-asia00_writer

著者:下川裕治(しもかわ ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。ノンフィクション、旅行作家。慶応大学卒業後、新聞社勤務を経て『12万円で世界を歩く』でデビュー。著書に『鈍行列車のアジア旅』『不思議列車がアジアを走る』『一両列車のゆるり旅』『タイ語の本音』『世界最悪の鉄道旅行 ユーラシア横断2万キロ』『「裏国境」突破 東南アジア一周大作戦』『週末バンコクでちょっと脱力』『週末台湾でちょっと一息』など、アジアと旅に関する紀行ノンフィクション多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。WEB連載は、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週日曜日に書いてるブログ)、「クリックディープ旅」(いまはユーラシア大陸最南端から北極圏の最北端駅への列車旅を連載)、「どこへと訊かれて」(人々が通りすぎる世界の空港や駅物)「タビノート」(LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記)。

紀行エッセイガイド好評発売中!!

東南アジア全鉄道制覇1cover

東南アジア全鉄道制覇の旅

タイ・ミャンマー迷走編

se-asia00_book01

鈍行列車のアジア旅

se-asia00_book02

不思議列車がアジアを走る

se-asia00_book03

一両列車のゆるり旅

東南アジア全鉄道走破の旅
バックナンバー

その他の辺境・秘境の旅

ページトップアンカー