究極の個人旅行ガイド バックパッカーズ読本

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#52

withコロナのトルコ旅行〈後編〉

文と写真・来生杏太郎

 コロナ禍のいま果たして海外旅行はできるのか? それを実証するため、あえて私は旅に出た。目的地はこんな状況でも外国人観光客を受け入れている国トルコだ。この国を旅して経験した「withコロナの旅」のノウハウをお伝えしたい。
 

 

トルコの感染状況と新型コロナ対策はどうなっているのか

 私は7月から8月にかけて旅行したが、この間トルコ全体の1日あたりの感染者数は1000人程度で推移していた。トルコの人口は8200万人だから、日本よりもハイリスクといえる。
 トルコ当局謹製の新型コロナ対策アプリ「Life Fits Into Home」には、感染者との接触履歴を確認できるなどの機能が盛り込まれているが、役に立ったのは、感染リスクが高いエリアを色分けしてくれる地図だ。イスタンブールを例にとると旧市街の中でも観光地であるスルタンアフメットは比較的安全で、アクサライやエジプシャンバザール周辺がハイリスクを示す赤で染まっていた。
 スルタンアフメットのトラム沿線ではマスクの着用率は東京並みだが、中東や旧ソ連からの移民が集まるアクサライではマスクをしている人のほうが少ないぐらいだった。もともとは教会だったがモスク化を進めていることが物議を醸しているアヤソフィアの周辺では、マスクをしていないと警察官から着用するよう強く促される。トルコではマスクの着用には強制力があり、特に駅の改札前やプラットフォームでは係員に厳しく注意を受ける。マスクの着用率と、エリアの安全度は概ね相関してるように思えた。
 消毒用アルコールは駅の入場口だけでなく、トラム車両内にも設置されている。新型コロナ対策は東京と比べても見劣りしない印象だった。

 

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ハイシーズンのエフェス遺跡だが、外国人観光客の姿を見るのはまれだった

 

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トルコ政府によるコロナ接触確認アプリ。ハイリスクのエリアは赤く塗られている

 

ホテルはどこも閑散だがコロナ対策はしっかりしている

 イスタンブールでは、有名日本人宿「コンヤペンション」の元オーナー一家が経営するホテルに宿泊した。料金はシングルが21ユーロ(約2650円)。通常の夏ならばこの3倍はするだろう。それでも3部屋ほどしか埋まっていなかった。
 オーナーによれば、1週間ほど前に再開したばかりだという。私以外の宿泊者は皆ロシア人だった。イスタンブールに限ってロシアからも観光入国を受け入れ始めたそうだ。
 トルコ東南部と東部の都市では、日本のビジネスホテルクラスの部屋が80~100リラ(1200円~1500円)ほどだった。イスタンブールとは違い外国人観光客が多くはなく、もともとの料金が安いため、通常料金との差はあまりない。地方都市でも新型コロナ対策は入念で、チェックインの前には検温があり、ときにはケルヒャー(高圧洗浄機)のような噴霧器で消毒液を浴びせられることもあった。

 

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ホテルの朝食バイキングはなく、このように個別に配膳されることが多かった

 

HESコードとはなにか?

 前編で触れたように、トルコで都市間を移動するときには「HESコード」の提出を求められる。これはトルコ政府が個々人に発行するもので、交通機関でクラスターが発生したときに素早く乗り合わせた人を特定するために使われる。
 トルコ航空や在トルコ日本大使館のサイトにも「6月6日以降は外国人であってもHESコードが必要」と明記されている。だが、飛行機や長距離バスでHESコードを聞かれることは今回の旅を通して一度もなかった。空港のチェックインカウンターでこちらから確認したが「不要だ」と言われた。
 とはいえ、HESコードそのものは現地のSIMさえあれば、ショートメッセージ(SMS)で簡単に取得できるので、用意はしておくほうがいいだろう。

 

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国内移動のバス車内ではマスク着用が義務付けられ、特に検問の前ではちゃんとするようにと乗務員から指示があった

 

観光施設は開いているのか?

 一部の施設で営業時間の短縮はあったものの、おおむね観光に支障はなかった。私が旅した7月中旬から8月上旬にかけては観光への影響は少なかったが、6月には外出禁止令が出された期間があったのでタイミングがよかったともいえる。
 ギョベクリテペ、ネムルート山、アニ遺跡、アクダマール島などの観光地には、トルコ人観光客はそれなりにいたが、外国人観光客を見かけることは極めてまれだった。東アジア人を見たのはエフェス遺跡で日本人カップルとすれ違った一度きりだ。
 スルタンアフメット地区の土産物屋や絨毯屋は開店休業状態で、店員たちは所在なげにスマホを触っていた。ぼったくりバーへ誘い込む客引きに遭遇することもなかった。

 

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アンタルヤ旧市街のレストラン街は空席が目立つ

 

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エフェス遺跡の図書館前広場。暑さが厳しく、マスクを外して日陰で涼む

 

アジア系への差別はあるのだろうか

 シャンルウルファやワンなどの地方都市で、雑踏の中を東洋人が歩いていると目立つはずだが、奇異の目に晒されることはない。よい意味で放っておいてくれる。マルディン旧市街で、観光地に隣接する路地裏を歩いているとき、すれ違いざまに「コロナ!」と言われることがたびたびあった程度で、とくに実害はなかった。日本人であることをわかりやすくするために、デイパックに日の丸のワッペンを貼っていたが、そこまでする必要はなかったかもしれない。
 

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薬局のマスクの棚は、種類も量も豊富にあった

 

コロナよりも熱中症が怖い?

 使い捨てマスクを日数分用意していったが、薬局や売店で1枚1リラ(15円)、50枚の箱だと40リラ(600円)で買える。アルコールジェルやうがい薬の入手も容易だ。マスクはトルコ製がほとんどで、ゴム紐の接着部分は日本で見かける中国製のものよりもしっかりしていた。トルコではもともと繊維産業が盛んなため、マスクの生産は自国で完結できている。
 消毒用アルコールのボトルは街の至るところで見かけるので、個人で持つ必要はあまりない。
 むしろ炎天下でマスクをすることで起こる熱中症への備えは必要だろう。トルコ東南部では真夏の最高気温は45℃を超える。シャンルウルファでは、深夜から翌朝にかけて39℃近い熱にうなされた。用意していた塩を舐めつつ、水を補給することで、夕方にはどうにか平熱まで回復した。乾燥地の太陽は身体の水分と塩分を急速に奪っていく。あの日差しの中を帽子なしで歩き回ったのは迂闊だった。
 

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アンタルヤ旧市街の土産物屋は閉めているところも多い

 

日本帰国後、成田空港での検疫から自主隔離まで

 当初は日本への入国審査前にPCR検査が行われていたが、私の旅行中、7月29日から唾液採取による抗原検査へ切り替わっていた。PCR検査の場合、結果が出るまで空港周辺のホテルに最長2泊隔離されるところ、抗原検査では1~2時間で結果が出る。私の成田到着は夕方だったが、これなら当日中に帰宅ができる。
 ドーハからのカタール航空QR806便の乗客は51人で、定員339人に対する搭乗率はわずか15%だった。機内で配られた問診票を手にしてブリッジを抜けると、順に25人ほどのグループに分けられた。感染率の高いパキスタンからの乗客3名だけ選り分けられ、それ以外は入国審査方面へ進む。
 検査エリアで唾液を提出して、所定のパイプ椅子席で結果を待つ。軽食と水が用意されていた。50分ほどで私の番号が呼ばれ、「陰性」と記された薄緑の紙を渡された。
 あとはいつも通りに出国審査と税関を抜けるだけだ。税関から先では係員のマンツーマンマークはない。ただし、鉄道駅方面へ向かう下りエスカレーターの前には職員が立っていたので、バックパックを背負ったままだと見とがめられるだろう。空港から自宅までは、公共交通機関の利用を禁じられているのだ。車で出迎えてもらうかタクシーを利用する、もしくはレンタカーを借りることになる。今回は旅友達から「車で迎えに行ける」と連絡があったので、厚意に甘えることにした。
 外出自粛が求められるのは、帰国日の翌日から起算して14日間。酷暑の時期と重なったので、自宅で過ごすのはむしろ望むところだ。食品の購入は、Amazon Prime Nowの宅配を利用した。
 自粛期間が明ける間際に上司からメールがあり、9月上旬から5か月ぶりに、職場のホテルが営業を再開するとの報を受ける。結果的には、最良のタイミングで旅ができたようだ。14日間の自宅待機中に保健所からの連絡はLINEによる体調に関するアンケートのみで、待機期間が明けてもとくに連絡は来なかった。

 

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成田空港到着前に配布された検疫からの案内。「流行している地域」が全世界であることをいまさらながら実感

 

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成田空港の入国前検疫。検査の順番を待つ乗客たち

 

はやくもとのように旅ができる世界に戻ってほしい

 今回は休業中という自由な身だったので、どうにか旅ができた。しかし、日本帰国者に対する2週間の自己隔離という措置は長い。これが解かれるまでは、海外旅行は困難なままだ。
 日本の感染状況が落ち着けば、タイや台湾との往来が再開されるはずだが、この原稿を書いている時点では目処は立っていない。トルコでは新型コロナ流行中であっても比較的自由に動くことができ、旅そのものへの影響は軽微だった。向こう1年はマスクや消毒など旅行中も感染対策が必要になると思うが、以前のように観光客の往来が戻ることを願ってやまない。

 

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検査結果は書面で渡され、入国審査で係官に提示する

 

*本連載は月2回(第1週&第3週水曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

*タイトルイラスト・野崎一人 タイトルデザイン・山田英春

 

 

『バックパッカーズ読本』編集部

格安航空券情報誌『格安航空券ガイド』編集部のネットワークを中心に、現在は書籍やWEB連載に形を変えて、旅の情報や企画を幅広く発信し続けている編集&執筆チーム。編著に究極の個人旅行ガイド『バックパッカーズ読本』シリーズなど。

 

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