韓国の旅と酒場とグルメ横丁

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#52

南道から済州へ“奪われた焼酎の見返り”〈後編〉

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 年明けの配信に続き、今回も私の事務所の代表(日本人男性、55歳)が経験したソウル→木浦→済州の旅のレポートをお送りする。ソウルから木浦までは5時間がかりの汽車旅、木浦から済州までは一泊の船旅という酔狂な旅である。

 

 

サンタルチーノ号、南へ

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24000トン級のサンタルチーノ号の雄姿。店内にはコンビニ、ベーカリー、みやげ物店、カラオケボックスなどがある

 

 夜中の12時半に木浦港を出るサンタルチーノ号は想像以上に大きな船だった。ターミナル棟を出て可動橋(タラップ)を渡る。船旅の始まりでもっとも興奮する瞬間である。

 事前に船の案内動画(https://www.youtube.com/watch?v=swczZdMKBco)見たときにも感じたことだが、安全管理と施設の充実にとても神経をつかっていることが伝わってきた。内装を一新して間もない感じ。今まで韓国で乗ったどの船よりもきれいだ。

 

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タラップを登り船内に入ると、きれいなロビーが迎えてくれる

 

 30800ウォンの一般室は昔の日本でいう三等客室。大広間のようなところに寝るタイプではなく、10人程度で1室を使うタイプだ。3年前、済州から釜山まで乗ったソギョン・フェリーには枕や布団があったが、ここにはない。しかし、暖房はじゅうぶん効いている。部屋と廊下はカーテンで仕切られているだけで鍵はない。

 

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これが一般室。枕がないのが残念だった。次回は空気を入れるタイプの携帯枕を持参したい

 

 

奪われた焼酎。しかし、見返りがすごかった  

 船旅はいい齢をした大人を子供のように興奮させるのだが、夜出航する場合は、景色を楽しむことができないのが残念だ。カメリア号(大阪→釜山)に乗ったときの瀬戸内海や、エンジェル号(釜山→麗水)に乗ったときの南海の港々の風景はすばらしかった。また、釜山⇔大阪、釜山⇔下関のときは船内に大浴場があり、海を見ながら朝風呂を楽しむことができた。

 サンタルチーノ号で楽しむことができるのは酒のみ。ターミナル棟で買った酒とつまみ、貴重品を持ってレストランに移動する。

 

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出向時間が遅いせいか、レストランは客が持ち込んだ食べ物や酒を自由に楽しめる空間になっていた

 

 レストランは通常の営業を終え、自由に使える休憩所のようになっている。はしゃいでいるのはグループ旅行の中高年。それ以外は商売のためにルーティンで利用している人か、この船を使い慣れている釣り客のようだった。

 缶ビール4本と南道のイプセジュ(焼酎)2本、そして乾きもののつまみをテーブルに広げて友人と乾杯する。すでに陸地でビール2、3本、マッコリ3本を空け、下地はできている。缶ビール1本ですぐ酔いが回る。

 今夜の海はおだやかなようだ。心地よい船の揺れを感じながら、50代半ばと30代後半の男が青春時代の音楽歴などを開陳し合う。

 焼酎を半分くらい飲んだ頃、我々の横に中年男性が立っていた。

「これ、飲まないんだったら、いただきますね」

 そう言って、男は開栓していないほうの焼酎を持ち去った。夜の船旅の唯一の楽しみが奪われたかっこうである。犯人は後ろの席のグループ客のひとりらしい。

 われわれは「飲まない」とも、「どうぞ」とも言っていない。

 けしからん焼酎泥棒である。

 しかし、こちらにも分別がある。しかも、少なくともこの船内では国家代表である。声を荒らげるのも大人げない。というか日本ではなかなか起こりえない事件に、笑いがこみあげてきた。

 数分後、再び男性が現れた。

「さっきはありがとうございました。これ、統営の生牡蠣と黒山島のエイ刺身です。召し上がってください」

「!」

 焼酎の代価が生牡蠣とエイだったことに驚いたのではない。統営と黒山島という言葉にハッとしたのだ。統営は慶尚南道の港町、黒山島は木浦から高速船で2時間くらいの離島。このコラムの筆者・鄭銀淑と私が特別な思い入れをもっているところだ。行けばかならず楽しいことが起きる。人情酒場との新たな出合いがある。大げさに言えば、神様が降臨している場所である。

 しかも、統営といえば牡蠣の名産地で、以前バス旅行をテーマとした旅番組で大量の牡蠣を殻から外す作業をする工場を取材したことがある。

 そして、黒山島は朝鮮王朝時代、王様に献上されたエイの産地である。ソウルまで時間をかけてエイを運ぶうちに発酵が進み、今のように揮発性の刺激を感じながら味わう文化が生まれたという説もある。

 

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日本円で100円ちょっとしかしない焼酎が、韓国南部の二大名物とでも呼びたい生牡蠣とエイの刺身に化けた

 

 紙コップに入ったチョコチュジャンも添えてある。ポン酢があればなおよいのだが、贅沢を言ってはいけない。

 牡蠣の味の濃厚なこと。そして、黒山島のエイのもちもちした食感がたまらない。発酵が進んでいないので、香りも揮発性の刺激も強過ぎない。ありがたくいただく。

 残りの焼酎が空くと、もう2時近かった。数時間前に仕事を納めた解放感もあり、眠気が襲ってきた。そろそろ部屋に戻ろう。

 この船、もう少しゆっくり進んでくれるとありがたいのだが、朝6時には済州の港に着いてしまうのだ。

 

 

済州市、蓮洞のモーテル、3泊3日  

 まったく寝ないよりもまし、くらいの感じで目覚めた。二日酔いというより、まだ酔っている状態で船を下りる。

 交通手段がタクシーしかないので、とりあえず済州市の中心部で、宿も多い「蓮洞のロイヤルホテルの辺りに行ってください」と、運転手さんに告げた。

 チェクインしたのはロイヤルホテルの斜め向かいにあるニュー新羅ホテル(モーテル)。以前にも泊ったことがある。部屋は広く、大小のベッドが2つあるツインタイプの部屋が1泊50000ウォン。

 チェックインしたのは7時前。歯磨きだけしてそのままベッドに倒れ込む。目覚めたら10時を過ぎていた。爽快だ。

 結局この宿には2泊した。気分的には3泊なのだが、料金は2泊分。船台が3000円ちょっとで、宿代が10000円ちょっと。悪くない。

 

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ホテルやモーテル、飲食店が集まっている蓮洞は済州最大の繁華街。右が名前も外装も80年代感たっぷりのニュー新羅ホテル。左が以前泊まったことのあるダイアモンドホテル済州。1泊70000ウォンだが、ニュー新羅のラブホテル感が気になる人にはこちらがおすすめ

 

 次回の船旅は、江原道の東海市と島根県の境港を結んでいるフェリーを狙っている。東京から島根に行くのは大変なので、韓国出張のときに東海⇔境港を実現したい。

 今夜はマニラの航空会社で働いている韓国人女性が済州に遊びに来ることになっている。盛大に忘年会を催すつもりだ。

 

 3回に渡ってお送りした旅行記『南道から済州へ』も今回が最終回。済州での体験は本コラムをはじめ、いくつかの媒体で発表していくので、お楽しみに。

 

 

*取材協力:全羅南道観光課『全羅道訪問の年』TFチーム、全羅南道文化観光財団

 

 

 

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*本連載は月2回配信(第2週&第4週金曜日)の予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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紀行作家。1967年、韓国江原道の山奥生まれ、ソウル育ち。世宗大学院・観光経営学修士課程修了後、日本に留学。現在はソウルの下町在住。韓国テウォン大学・講師。著書に『うまい、安い、あったかい 韓国の人情食堂』『港町、ほろ酔い散歩 釜山の人情食堂』『馬を食べる日本人 犬を食べる韓国人』『韓国酒場紀行』『マッコルリの旅』『韓国の美味しい町』『韓国の「昭和」を歩く』『韓国・下町人情紀行』『本当はどうなの? 今の韓国』、編著に『北朝鮮の楽しい歩き方』など。NHKBSプレミアム『世界入りにくい居酒屋』釜山編コーディネート担当。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/

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