東南アジア全鉄道走破の旅

東南アジア全鉄道走破の旅

#52

インドネシア・ジャワ島の鉄道〈4〉

文・下川裕治 写真・中田浩資

スラバヤ~ジャカルタ

 バニュワンギからスラバヤに戻った。ジャカルタに戻る切符を買っていた。

 クロヤからスラバヤに出た時点で、今回の日程では、ジャワ島の全鉄道路線を制覇することは難しいことがわかった。東南アジアの鉄道制覇の旅。最後の難関国、インドネシアの路線はかなりある。

 ややこしいスラバヤ市内の路線は乗りつぶしたが、近郊や幹線をつなぐ路線が残っていた。それに乗っていると、帰国する便に間に合わなかった。

 今回は乗り残しが出てしまう……。また来るしかない。考えたのは、次回、効率よく乗るための路線を残すことだった。路線図と時刻表を眺めながら、あれこれと考えるのだが、結論は力業だった。残った視線を走る列車は少なく、その多くがジャカルタからの列車だった。日本のように、支線をちょこちょこと乗り継いでいくという技が使えなかった。時刻表ファンには、なんともつまらないスケジュールなのだ。なにも考えずにただ乗る。インドネシアの鉄道を制覇するには、そうするしかなかった。サッカーで華麗なパスまわしをする発想ではなく、ただドリブルで正面突破していく。これしかなかった。

 そういうことか……。半ば諦め、僕はジャカルタに戻る切符を買ったのだった。

 スラバヤとジャカルタを結ぶ路線はインドネシア一の幹線だった。日本でいえば、東海道新幹線である。そこにはインドネシアで最も性能のいい列車が走っていた。

 アルゴ・アングレックという名前がついていた。スラバヤからジャカルタまでは約725キロ。そこを約9時間で結ぶ。インドネシア一という触れ込みだったが、平均時速は約81キロ。乗ってみることにした。

 速い列車があまり好きではない。ことさら遅い列車を選んでいるわけではないが、列車に乗ることが目的という旅行作家にしたら、速い列車は味気なかった。いや、書くテーマが見つからないうちに目的地に着いてしまうかもしれなかった。人は列車ばかり乗っている気楽な物書きだと思われているかもしれないが、一応は頭を使っているつもりでいる。

 時速81キロ──。運賃は48万ルピアだった。日本円にすると約4524円。なんだか速度に似合った運賃のような気がした。

 アルゴ・アングレックは、スラバヤにある3つの駅のなかの、スラバヤ・パサールトゥリ駅から発車することになっていた。ホームは妙な緊張感が漂っていた。各車両の前には、車掌が立ち、乗客を案内している。こんな光景ははじめて見た。

 この駅を発車する時刻は午前8時だった。この列車には夜行もあり、それが午後8時に発車する。それぞれ午後5時、午前5時にジャカルタに着くという、実にわかりやすいスケジュールになっていた。こういうことができるのも、インドネシアを代表する列車からなのかもしれない。

 

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アルゴ・アングレックはほかの列車とは違う。乗り込むときもこんな感じ

 

 僕らが乗り込んだ車両は特急型の車両だった。定刻に発車した車内を眺めながら、

「これは違う」

 と思った。子供がいないのだ。これまで乗ってきた列車は、家族連れが席を埋めることが多かった。当然、子供も多い。インドネシアは少子化に悩む国ではない。車内を飛びまわる子供たちはときにうるさい。

「ここは保育園か……」

 と眠気のなかで呟いたこともあった。

 しかし、アルゴ・アングレックの車内にいたのは大人ばかりだった。ビジネスマン風の人は少なかったが。運賃の48万ルピアというのは、インドネシアの物価感覚ではかなりの額だ。これまで泊まった宿代は、中級ホテルのシングルが15万ルピア。その3倍以上もするのだ。

 

車内販売は頻繁にやってくる。車内も大人の世界です

 

 列車はしばらく、緑が濃い水田地帯を走っていた。1時間ほどがたっただろうか。右手に海が広がりはじめた。スラバヤとジャカルタを結ぶ路線は、ジャワ島の北海岸を走っていた。

 右手に海、左手に水田……。絵に描いたようなインドネシアの風景だった。この路線はインドネシアの鉄道が誇る幹線だった。それはジャワ島の2大都市を結ぶという意味になるのだが、車窓風景も、これまで乗車した路線のなかでいちばん変化に富んでいた。ジャワ島の列車の路線図を見ても、海岸線を走る区間は多くない。

 アルゴ・アングレックの停車駅は少ない。1時間ぐらいは駅に停車することなく走り続ける。スマランタワン、チレボン……。やがてジャカルタのビル群が見えてきた。

 30分遅れで、アルゴ・アングレックはジャカルタ・ガンビル駅に着いた。

 

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ジャワ島の北海岸に沿って進む。海は南の島のイメージではありません

 

 

*インドネシアの鉄道路線

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*本連載は月2回(第2週&第4週木曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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著者:下川裕治(しもかわ ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。ノンフィクション、旅行作家。慶応大学卒業後、新聞社勤務を経て『12万円で世界を歩く』でデビュー。著書に『鈍行列車のアジア旅』『不思議列車がアジアを走る』『一両列車のゆるり旅』『タイ語の本音』『世界最悪の鉄道旅行 ユーラシア横断2万キロ』『「裏国境」突破 東南アジア一周大作戦』『週末バンコクでちょっと脱力』『週末台湾でちょっと一息』など、アジアと旅に関する紀行ノンフィクション多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。WEB連載は、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週日曜日に書いてるブログ)、「クリックディープ旅」(いまはユーラシア大陸最南端から北極圏の最北端駅への列車旅を連載)、「どこへと訊かれて」(人々が通りすぎる世界の空港や駅物)「タビノート」(LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記)。

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