風まかせのカヌー旅

風まかせのカヌー旅

#51

最終回 初めてのお見送りにうろたえる

パラオ→ングルー→ウォレアイイフルックエラトー→ラモトレック→サタワルサイパン→グアム
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文と写真・林和代 

 

 

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【Photo by  Osamu Kousuge】

 

 

 アレヨアレヨと言うまに、グアムでの一週間が経過。

 いよいよ、マイスが出港する日がやってきた。

 往路とは逆に、サイパン、サタワル、ラモトレックなどの島々を経てパラオまで。

 往路と同じ風なら追い風なので早く帰れるはずだが、もう5月末。いつ風が変わるかわからない。

 だからキャプテンは、フェストパックの終了を待たずに発つ決意をした。

 

 オサムはすでに帰国していた。

 サイパンからのゲストも多くは飛行機でご帰還。

 私はもう少し居残ってフェストパックを見物してから日本に戻る。

 エリーも数日、グアムに滞在してフェストパックを楽しんでから飛行機でサイパン渡り、マイスに乗る。

 

 お見送りをするエリーと私だが、出港当日は朝から準備でなかなか忙しい。

 ミヤーノたちと食料などを点検し、不足気味の物資を調達。

 そして散らかったデッキの整理がようやく終わると、セサリオに呼ばれた。

 出港の際のセレモニーのため、花をたくさん集めてこいとの指令。

 でも、もう出港時間まで30分。

 間に合うのか。

 

 私とエリーはスーパーのビニール袋を提げ、あたりをうろつき始めた。

 しかし。ここは大都会グアムの整備された公園。

 サタワルと違って、その辺に無造作に花など咲いていない。

 勝手に集めて大丈夫なのか? 

 うっすら疑問を抱きつつ、時間が迫っていたので植え込みの花をガンガン摘み始めた。すると。

 

 ○X△?!

 

 白人のおばさんが怒鳴りだした。

 何を言ってるのかさっぱり聞き取れなかったが、あきらかに叱られている。でも時間がない。

 英語担当のエリーが対応している間、私は摘むだけ摘んで、怒鳴り散らすおばさんに、ソーリーと叫びつつスタコラ逃げた。

 エリーによれば、そんなガサツな摘み方じゃ、もう花がつかなくなる、ちゃんと摘め、と叱られていたらしい。

 ごめんなさーい。

 

 

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忙しいキャプテンをとっ捕まえて2ショット。

 

 

 大急ぎでマイスに戻り、花をキャプテンに渡すと、もう出航間際。

 慌ててクルーたちと記念写真を撮り、みんなとハグ。

 と、急に泣きそうになって慌てたが、しんみりしている時間はない。

 マイスは港からカヌービーチまで移動し、そこでセレモニーを行なってから発つらしいのだ。

 そんなわけでエリーと二人、今度はセレモニーを見るべく、カヌービーチまでダッシュで移動。

 もう、汗まみれである。

 

 

 息を切らせてビーチに着くと、マイスもちょうど沖合いに着いたところだった。

 ビーチでは、マイスのすぐ後に出港するサタワルカヌーが準備で大忙し。

 あと数日残るラモトレックなど他のカヌーは、陸にずらりと並んで静かに佇んでいた。

 

 あたりは見送りの人で大混雑。

 人々をかき分け波打ち際まで出てみると、ちょうど、ビーチから一艘の小舟がマイスに近づき、たくさんの花冠をキャプテンに渡しているところだった。

 その後キャプテンは、私たちが集めてきた花を海に撒いた。

 

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たくさんの花冠を運ぶ小さなカヌー。

 

 

 すると不意に、ボー! ボー!

 ビーチに停泊するカヌーに登った離島男子たちが、法螺貝を吹き鳴らした。

 そのたくましい音が響き渡る中、マイスは、ゆっくりと大海原へと向かって動き出した。

 

 

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日焼けから守るため、椰子の葉をかぶせてある陸揚げ中のカヌー。その上に、男子たちは次々と登って、マイスのために法螺貝を吹く。法螺貝は「竜巻よけ」を筆頭に、様々な魔法や儀式で利用される、ナビゲーターの必須アイテムだ。

 

 

 

 

 実を言うと、私にとって、マイスを見送るのは初めてのこと。

 いつも私は見送られる側にいて、最終目的地まで乗っていた。

 見送るのがこれほど寂しく、なおかつ不安になるとは想像もしていなかった。

 

 不意に頭の中をよぎったのは、嵐の中、海に落ちたノーマンとアルビーノ、そして深夜に明かりもつけずに近づいてきた密漁漁船など、キケンだった出来事。

 そして、3年前の半分沈没事件。

 

 乗っている時には考えたこともない不吉な記憶が、次から次へと浮かんでくる。

 

 脳内で渦巻くネガティブ連鎖を強引に無視しつつ、去り行くマイスの無事をひたすら祈った。

 

 

 そんな私の視界に、ある人物の姿が入った。

 アリだ。

 セサリオの親戚で、マウと兄弟のように育ったラモトレックのマスターナビゲーター。

 そして、相当なパワーを持つ魔法使いでもある。

 

 そんな彼が、ビーチから数メートル先の海に腰まで入って、マイスをじっと見つめていた。

後ろ姿しか見えないが……。

 マイスのために何かの魔法をかけているのかも?

 そうに違いない! 

 

 己を安堵させるためにそう思いながら、今度はサタワルカヌーのクルーたちとハグを交わして彼らを見送った。

 

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マイスから撒かれた花が水面を漂う。そんな様子をじっと見つめるマスターナビゲーターのアリ。実は魔法中!

 

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去り行くサタワルのカヌー。 

 

 まだアリたちラモトレックやプルワトのカヌーは残っているし、エリーや友人たちもいる。

 それでもなんだか、ぽっかり穴が空いてしまったような、祭が終わった気分。

 

 ぼんやりビーチで座っていると、テントで一人、座ってくつろぐアリを発見。

 とっさににじり寄ってそっと尋ねてみた。

 

「さっき、マイスを見送る時、何かやってませんでした?」

 

「お? バレてた? うまく隠したつもりだったんだけどなあ」

 

 彼は他の人たちにバレないよう、必要なアイテム、ヤシの若葉=ウープットをポケットに忍ばせて海に入り、水浴びをしているふりをしながら、海の中でウープットを取り出して呪文を唱え、マイスが無事に帰れるよう「アッソウ」と言う「お守りの魔法」をかけてくれたと言う。

 

 ちなみに離島の魔法の多くはトップシークレット。だから、決して見せびらかしてはいけない。

 そういうものらしい。

 

 これを聞くと、脳内で蠢いていたネガティブ妄想軍はあっさり姿を消し、私はのびのびと残りのフェストパックデイズを堪能した。

 

 

 アリの魔法が効いたのかもしれない。

 この2ヶ月後、マイスは無事パラオに帰港した。

 

 途中、台風に巻き込まれたり、急病人が出たり、なかなかハードだったようだが、とにかく全員無事に帰還した。

 

 こうして、マイスの2016フェストパック グアムへの航海は無事に終了した。

 2020年にハワイで開催される次回にも参加するとキャプテンセサリオは言っているが、所詮カヌーは風まかせ。その時になってみないとわからない。

 

 

 長い間、風まかせ〜なお話にお付き合いいただき、ありがとうございました。

 


 

 

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クルー1クルー2

 

 

 

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林和代(はやし かずよ)

1963年、東京生まれ。ライター。アジアと太平洋の南の島を主なテリトリーとして執筆。この10年は、ミクロネシアの伝統航海カヌーを追いかけている。著書に『1日1000円で遊べる南の島』(双葉社)。

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