東南アジア全鉄道走破の旅

東南アジア全鉄道走破の旅

#50

インドネシア・ジャワ島の鉄道〈2〉

文・下川裕治 写真・中田浩資

クロヤ~チラチャップ

 東南アジアの鉄道制覇の旅。最後の難関国、インドネシアの鉄道を乗りはじめていた。ジャカルタから、途中のプルワカルタに1泊し、クロヤまで進んだ。

 翌朝、午前2時半に目覚ましをセットした。クロヤからチラチャップまでの短い支線に乗るためだった。この区間は1日1往復しか列車がない。チラチャップ行きは午前4時25分発の1便しかなかったのだ。いったいこんな時刻に誰が乗るのだろう。謎を抱えたままクロヤ駅に向かった。

 駅の窓口で切符を買った。

「3万ルピアです」

 駅員からそういわれた。日本円で約282円。日本に比べればかなり安いが、インドネシアの列車の運賃からすれば高かった。2日前、ジャカルタからチカンペックまで3時間ほど列車に揺られた。その運賃が5000ルピアだった。クロヤからチラチャップまでの45分ほどなのだ。それなのに3万ルピア。どうもしっくりこなかった。

 列車に乗り込み、その理由がわかってきた。乗客たちは、背もたれを倒し、こんこんと寝入っていた。ジャカルタからの夜行列車だったのだ。当然、急行列車である。

 僕はクロヤからチラチャップまでは、エコノミという普通列車が走っていると思い込んでいた。ジャカルタから2日前に乗った列車と同じ運賃形態だと思っていた。しかし乗り込んだ列車は急行扱い。一気に高くなってしまうのだ。

 タイと同じ発想だった。日本人は支線と聞くと、ローカル列車がとことこと往復しているダイヤを考える。しかしインドネシア人はタイ人同様、首都を発車した急行が支線に乗り入れるダイヤを組む。当然、本数は少なくなる。つまり彼らは、支線の間だけ乗る客を無視しているのだ。大胆というか、住民軽視というか。その区間はバス便に任せてしまっているのかもしれない。だから午前4時台という時刻の発車で、運賃は3万ルピアもするのだ。

 車内は眠りモードに支配されていた。まだ日も出ていない。僕もことりと寝てしまった。なにしろ午前2時半起きなのだ。

 列車は5時10分にチラチャップに着いてしまった。駅舎を出たが、まだ暗かった。

 クロヤにはバスで戻った。バスは30分に1本という頻度だった。運賃も1万ルピア、約94円。一般的な感覚では、列車などに乗らない区間なのだ。インドネシアの列車を乗りつぶすという旅は、ときにこんな非効率な列車旅を強要してしまう。

 

クロヤ~スラバヤ

 翌日、スラバヤに向かうつもりだった。再びクロヤ駅に出向くと、窓口が閉まっていた。どうしようか……。

 構内にある切符の自販機にトライしてみることにした。英語の画面に切り替える。クロヤとスラバヤ間は、1日に何本もの便がある。特急型車両はEksekutifと表記されている。エグゼクティブをインドネシア語に置き換えたのだろう。ここでも運賃で悩んだ。同じエグゼクティブでも、列車によって運賃が違う。いちばん安いものを選ぶ。スラバヤまで27万6250ルピア、約2597円。選択するところまでなんとか進んだのだが、パスポート番号を打ち込むところで止まってしまった。

 日本人のパスポート番号は、アルファベット2文字に先に数字が並ぶスタイルだ。ところが自販機の打ち込み欄は数字だけしか打ち込めなかった。おそらくインドネシア人のパスポートは数字だけなのだろう。

 困った末、番号だけを打ち込んでみた。すると、すっと次の画面にいった。こんなことでいいんだろうか。不安を消せないまま、次の電話番号を打ち込む画面を見た。どうもインドネシアの電話番号を入力しないといけないらしい。しかし僕らには、電話番号がない。しかたなく日本の電話番号を打ち込むと、またしてもすっと先の画面に進んでしまった。

 そこで紙幣を自販機に吸い込ませた。お釣りは出ないシステムのようで、1500ルピア、約14円損してしまったが、切符の引換券が機械から出てきた。乗車前にこれを別の機械に読み込ませると、本物の切符が出る仕組みだった。翌朝、恐々と引換券を機械にかざした。するとカタカタと音がして、切符が出てきた。そこにはアルファベットがないパスポート番号と東京の電話番号が記されていた。

 改札はその先にあった。切符にパスポートを添えて提示しなくてはならない。

 ここで引っかかるか……。

 改札にいた職員は、切符とパスポートを照合すると、「はい」と笑顔をつくって返してくれた。

 インドネシアはアジアだった。

 列車はジョグジャカルタを通り、夕方、スラバヤ・グブン駅に到着した。

 

_DSC6460web

クロヤ駅。早朝の乗車、自販機で切符の購入……。いろいろお世話になりました

 

_DSC6537web

クロヤからスラバヤへ。車両への給水のために駅員は屋根に。あたり前みたいです

 

特急型エグゼクティブ車の車内風景……僕の寝姿ですいません

 

 

*インドネシアの鉄道路線

20171122191717_00001

 

●好評発売中!!

双葉文庫『東南アジア全鉄道制覇の旅 タイ・ミャンマー迷走編』

発行:双葉社 定価:本体639円+税

 

東南アジア全鉄道制覇1cover


 

 

*本連載は月2回(第2週&第4週木曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

se-asia00_writer

著者:下川裕治(しもかわ ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。ノンフィクション、旅行作家。慶応大学卒業後、新聞社勤務を経て『12万円で世界を歩く』でデビュー。著書に『鈍行列車のアジア旅』『不思議列車がアジアを走る』『一両列車のゆるり旅』『タイ語の本音』『世界最悪の鉄道旅行 ユーラシア横断2万キロ』『「裏国境」突破 東南アジア一周大作戦』『週末バンコクでちょっと脱力』『週末台湾でちょっと一息』など、アジアと旅に関する紀行ノンフィクション多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。WEB連載は、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週日曜日に書いてるブログ)、「クリックディープ旅」(いまはユーラシア大陸最南端から北極圏の最北端駅への列車旅を連載)、「どこへと訊かれて」(人々が通りすぎる世界の空港や駅物)「タビノート」(LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記)。

紀行エッセイガイド好評発売中!!

東南アジア全鉄道制覇1cover

東南アジア全鉄道制覇の旅

タイ・ミャンマー迷走編

se-asia00_book01

鈍行列車のアジア旅

se-asia00_book02

不思議列車がアジアを走る

se-asia00_book03

一両列車のゆるり旅

東南アジア全鉄道走破の旅
バックナンバー

その他の辺境・秘境の旅

ページトップアンカー