ブーツの国の街角で

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#06

トリノ:ミステリー・スポット探訪

文と写真・田島麻美

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北イタリアの華麗な街トリノ。チョコレートやジェラート、ストーリーカフェなど、フランス風の華やかな宮廷文化が今も色濃く残るこの街が、実は世界でも指折りのミステリー&パワー・スポット満載の街であることはあまり知られていない。初めてこの地を訪れて以来、自他共に認めるオカルト&ホラー好きの私を虜にしてきたトリノのミステリー・スポットをご紹介しよう。
 


 

黒魔術と白魔術が交錯する街

 

  昨年の秋、二度目に訪れたトリノの街で王宮広場を歩いていた時、トリネーゼの知人がこんな話をしてくれた。
「トリノは美しい街だが、同時に恐ろしい街でもある。ロンドン、サンフランシスコとトリノを結んだ大三角形は〝黒魔術のトライアングル〟と呼ばれている。さらに、リヨン、プラハとトリノを結んだ三角形は〝白魔術のトライアングル〟。この世の善と悪、どちらのパワーもこのトリノの街で交差しているということなんだ」。
 トリノが〝魔術の街〟であることは、以前から何度も耳にしていた。事実、トリノは欧州で最も多くのエクソシスト(ヴァチカンから派遣された悪魔払い)が活躍する街であり、サタニストと呼ばれる悪魔崇拝主義者の中心地で、トリノで起こった猟奇的な事件や超常現象、未解決事件の数々はニュースでも取り上げられている。
 というわけで黒魔術については知っていたのだが、同時に善のパワーである白魔術もトリノが世界で中心的な役割をなしている街だとは知らなかった。かのノストラダムスも『天国、地獄、煉獄の存するここに逗留した』という碑文をトリノに残しているが、悪と善の強大なパワーが渦巻く旧市街は、どうやってそのバランスを保っているのだろうか?

 

 

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トリノの街を二分する白魔術と黒魔術の境界線があるカステッロ広場。この広場の中央はトリノで最もポジティヴ・エネルギーが集まるパワー・スポットと言われている。

 

 

 

 

善悪両方のパワーを宿したエジプト博物館

 トリノではミステリー好きのツーリスト向けに「トリノ・ミステリーツアー」といったガイド付きツアーも多数用意しているが、今回、私はどうしても一人で回りたかった。これといった理由があった訳ではない。ましてや肝試しなどといったおふざけ気分だった訳でも、決してない。これまでの人生で、好むと好まざるとにかかわらずさまざまな不思議現象を体験してきた私は、こうした場所へ足を踏み入れる時は真剣に向き合わなければいけないと肝に銘じている。面白半分に茶化したり、逆に必要以上に怖がったりするとロクなことにならないということは、身を以て体験済みである。今回のトリノは「本能の命ずるまま」に歩きたかったので、黒魔術と白魔術の10のスポットを地図に印し、あとはプランを立てず自由に動くことにした。
 調べてみたところ、黒魔術と白魔術、両方のパワーが出ている場所が一カ所ある。世界屈指の規模を誇るエジプト博物館だ。世界最古のものを含め3つの『死者の書』があるこの博物館から歩き始めることにした。
 

 

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カイロに次いで世界で二番目に重要とされているエジプト博物館。ヒエログリフ、ミイラ、『死者の書』など33,000点を所蔵、うち約6500点が展示されている。

 

 

 

 

謎の伝説が点在する旧市街

 

  古代エジプトの謎を解くヒエログリフ、ツタンカーメンやラムセス2世などのコレクションを納めたエジプト博物館。善悪のエネルギーが満ち満ちたこの場から歩き始めた途端、にわかに空が真っ黒な雲に覆われ、冷たい雨が降り出した。急いで次のポイントであるカステッロ広場を目指す。カステッロ広場にあるサヴォイア王宮の入り口中央付近には、白魔術と黒魔術の境界線があるという。街の白魔術のエネルギーの中心がこの広場中央と言われているので、この先の街歩きを祈願するつもりで広場中央に立ってみた。王宮の隣にあるサン・ジョバンニ・バッティスタ大聖堂には、有名なキリストの聖骸布があるように、ここには奇跡を起こすポジティヴ・パワーが宿っているようだ。広場で禊を済ませ、さらなるポジティヴ・パワーが宿るというソルフェリーノ広場へと向う。ポルティコと呼ばれる屋根付き回廊が旧市街の通りのほとんどをカバーしているので、雨の日も傘をささずに歩けるのは嬉しい。でも、よく目を凝らしてみると、その回廊の柱のあちこちに、なにやら不気味な彫刻が施されているのがわかる。やはり気を抜く訳にはいかない。
 ソルフェリーノ広場にある「四季の噴水」は、白魔術のパワーが湧き出る噴水と言われている。なんでもこの噴水はフリーメーソンが作ったもので、噴水のどこかに無限の門の入り口と、錬金術の秘密が隠されているそうだ。パッと見る限り、美しい彫刻で飾られた普通の噴水のようなのだが。目を皿にして噴水の周りをぐるぐる歩き、秘密の隠し場所を探ろうと試みたが、やはり私には見つけることができなかった。

 

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街の至る所にミステリアスな彫像がある。下はフリーメーソンが作ったと言われている四季の噴水。錬金術の秘密と無限の門の入り口がこの噴水のどこかに……。

 

 

悪魔の扉の謎

 錬金術の秘密を探るのはあきらめ、ここから数分の場所にある黒魔術のスポットへ行ってみることにした。「悪魔の扉」と呼ばれる門扉を備えた館があるらしい。地図を見ると広場の中央から伸びた道をまっすぐ行けばその扉に突き当たるので、いくら方向音痴の私でもここで迷うことはありえない。はずだったのだが…。
 歩いても歩いても、悪魔の扉が見当たらない。見落としたか? いや、まっすぐ進んで行けば角の右手にその扉はあるはず。何度地図を見直しても一本道だ。嫌な予感がする。
 以前、竜神伝説を追って長野の戸隠神社へ取材に行った時、20分あれば通り抜けられる一本道を2時間も歩かされた経験がある。後で地元の人にその話をしたら「ああ、あんた、そりゃキツネに化かされたんだよ」と言われたことを思い出す。まさかトリノにもキツネがいるのか? 気を鎮めようと方向を変えてバールに立寄り、カフェを一杯飲んでリフレッシュ。さて、もう一度トライしてみるか。
 重苦しい雨雲におおわれた夕暮れ時、再び悪魔の扉があるはずの場所へ行くと、目の前の建物の入り口に突然パッと明かりが灯った。重厚な木製の扉の中央、オレンジ色の光に不気味に反射する金色の小さなドアノッカー。あった!! この扉こそ、ある夜突然何もないところから出現したといわれている悪魔の扉である。伝説によると、ある夜、一人の魔法使いの弟子がこの地でサタンを呼び起こそうとした。サタンはそれを不快に思い、魔法使いの弟子を煉獄へと引きずり込んで永遠につなぎ止めてしまったという。その時にサタンとともに出現したのがこの扉だと言われている。なにやら背筋が寒くなって来た。煉獄へ引きずり込まれる前に宿へ帰るとしよう。
 

 

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ある夜突然、何もないところから出現したという伝説が残る「悪魔の扉」。現在、この館は銀行のオフィスになっている。中央の菱形の枠の中には、金色の小さなドアノッカーが禍々しく輝いている。
 

 

 

強大なポジティヴ・パワーが宿る教会

 

  トリノ滞在最終日。多くの神秘学者が「ここぞトリノの悪の中心!」と認めているスタトゥート広場へ行くか、反対に「ポジティヴ・エネルギーの泉!」といわれるグラン・マードレ・ディ・ディオ教会へ行くか。聞きかじった話だと、スタトゥート広場はかつて死者の街ネクロポリがあった場所で、その後処刑場としても使われていたそうで、広場には世界中の〝陰極〟が集まっているとか。空を見上げると今日もどんより、朝から気分は暗い。こんな状態で全世界の陰極が集中しているような場所へ行ってなんの得がある? せめて心の中はすっきりきれいにしてトリノを離れようと、白魔術のパワー・スポットであるグラン・マードレ教会を目指すことにした。
 ポー川と旧市街を見渡す小高い丘の上に建つ教会の入り口に、聖杯を掲げた女神と天使の彫像がある。この聖杯は、キリストが最後の晩餐でワインを飲んだ聖杯を示唆していて、バールの主人の話ではここにポジティヴ・エネルギーが溜まるのだそうだ。その聖杯を間近で見ようと彫刻に近づいたところでハッと気付いた。女神の目線の正面にあるのはもう一つの白魔術スポット、モーレ・アントネッリアーナだ。今ではモダンな映画博物館になっている旧シナゴークはトリノの街のシンボル。だが神秘学者の解説では、天にそびえる細長い鉄塔は避雷針の役割を果たしていて、トリノの街に充満する悪のエネルギーを吸い取っているのだそうだ。なるほど、こうしてみると実によく考えられて設計された街なのだなと感心した。
 旅の締めくくりにグラン・マードレ教会に入って白魔術のパワーをいただくことにした。丸い礼拝堂の中には誰もおらず、私一人。マドンナ像に歩み寄ったその時、荘厳なパイプオルガンの音が響き渡り、礼拝堂を満たした。一心不乱にオルガンを奏でる神父さんは、私の存在には気付いていないようだ。バッハの曲に心をゆさぶられながら、白金に輝くマドンナ像に魅入った。

 

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トリノのシンボル「モーレ・アントネッリアーナ」。現在はモダンな映画博物館になっている。屋根にそびえるのは悪のエネルギーを吸い取る避雷針。

 

 

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白魔術のエネルギーが満ちあふれていたグラン・マードレ・ディ・ディオ教会の礼拝堂。
 

 

 

 

★ トリノ・パワースポットMAP ★

torino.mappa2       *ローマからトリノへのアクセス:ユーロスターもしくはitaloで約4時間

                        

 

 

*この連載は2017年1月からは毎月第2・第4木曜日(月2回)の連載となります。次回は2月23日(木)掲載予定です。お楽しみに! 

 

 

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田島麻美 (たじま・あさみ)

千葉県生まれ。大学卒業後、出版社、広告代理店勤務を経て旅をメインとするフリーランスのライター&編集者として独立。2000年9月、単身渡伊。言葉もわからず知り合いもいないローマでのサバイバル生活が始まる。半年だけのつもりで暮らし始めたローマにそのまま居座ること17年、イタリアの生活・食文化、歴史と人に魅せられ今日に至る。国立ローマ・トレ大学マスターコース宗教社会学のディプロマ取得。旅、暮らし、料理をメインテーマに執筆活動を続ける一方、撮影コーディネイター、通訳・翻訳者としても活躍中。著書に『南イタリアに行こう』『ミラノから行く北イタリアの街』『ローマから行くトスカーナと周辺の街』『イタリア中毒』『イタリア人はピッツァ一切れでも盛り上がれる』他。

 

 

 

 

 

   

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