ステファン・ダントンの茶国漫遊記

ステファン・ダントンの茶国漫遊記

#48

旅せる日本と出会いたい

ステファン・ダントン

 

 

 
 

「文化を発信する」というのはとても大事で難しいことだと思う。

 

「文化を発信する」

ずいぶん高い次元の話のように聞こえるが、「文化」を「自分」という言葉に置き換えれば、わりとわかりやすく考えられる。要は、「相手に自分のことをわかってもらい」、できれば「自分のことを好きになってもらう」作業だ。このとき、ただ一方的に自分のことを発信しては嫌われる。相手がどんな人で、どんなことを考え、何をしたら喜んでくれるか考え、理解しながら対話することで、ようやく「この人の話を聞いてみようかな」と思ってもらえる基盤ができる。ただ、これがなかなか難しい。
 

 

 

 

 

相手を理解する私のやり方

 

 私は南フランスのリヨンで生まれ育ち、イギリスでの勤務経験を経て日本へやって来た。イギリスでもフランスでも国際ホテルでさまざまな国籍のお客様と接し、日本に来てからも一貫して接客を仕事にしてきた。
 私の仕事は日本茶だから、まずは日本茶を知ろうと勉強をした。未知の対象に向き合ったとき、誰しもすでに知っている類似のものと引き比べながら理解しようとすると思う。
私はフランス人でソムリエだから、ワインに関する知識は人一倍持っている。だから、日本茶の勉強をするとき、ワインと引き比べると理解が早かった。土壌、品種、生産方法、ブランディングなどを「ワインとここが似ている」「日本茶のPRにはここが足りない」などと思いながら理解を深めた。日本茶理解の糸口はワインだった。
 お客様と接するときも、似たような方法でおおざっぱに相手の性質を想像しながら対話する。
 自分の暮らしたヨーロッパや日本の人々、そしてイギリス人の性質はなんとなくカテゴライズされて頭に入っている。だから、あまり付き合いのなかった国の人と出会うと、「ああ、この国の人はヨーロッパでいうとあの国の人に似ているな」と考えれば意外とうまくコミュニケーションできることに気づいた。
 例えば、中国や韓国はからっと陽気なラテン気質。日本人は実直なドイツ人に似ている。シンガポールやブルネイはスイスに相当する。フィリピンはカトリックのやさしさとスペインのいい意味での“良い加減さ”が共存している。最近増えたアジア系のお客様をこんなふうに分析して、話し方を工夫している。
 

 

 

 

日本茶の伝え方

 

 毎日、世界各国から来たお客様と対話していると、彼らが本当に知りたいことがよくわかる。

「日本茶はどんな植物なの?どんな場所でとれるの?どんな方法でつくるの?」
 日本人よりも、海外のお客様のほうが「日本茶」の食材としての意味に敏感なのだ。店のカウンターで各地のお茶を試飲しながら私の解説を聞いて、ひととおり理解すると、満足して次のステップに進む。
「どうやって淹れるとおいしいの? 家にあるティーポットでいいの?」
「硬水でもおいしく淹れられる?」
「温度は何度で何分間待つように、みたいなルールが本に書いてあったけど、守らなきゃだめかしら?」
もちろん私は、基本的なルールは教えるが、とくに力を込めて
「ルールはルールだけど、そこから少しはずれたって大丈夫。むしろ自分好みの味を見つけてみてください」
「硬水だろうが軟水だろうが、自分の土地の水に合った日本茶の味ができるから心配しないで」
というと、安心して買い物してくれる。
 もう少し日本茶への理解が進んだ人の中には、産地に行ってみたいという人も現れる。
「静岡は新幹線ですぐでしょ? 静岡駅から茶畑までどれくらい? どこに行ったら茶農家と会って話が聞ける?」
もちろん、私はこうした質問への答えも持っている。ただ、外国からの観空客にとって茶畑への道のりは長い。
 静岡駅まで行くのは簡単だ。新幹線を降りたあと、山間の茶畑までの交通は不便で、日本人にとってもおっくうだ。レンタカーも簡単に借りられるが、田舎の道を標識だけをたよりに進むのは骨が折れる。案内が足りない。標識が難しい。よほどの冒険家でないかぎり、せっかくひらめいた「茶畑に行ってみたい」というアイデアを実現できずに日本を後にする。
 道を聞きながら、地元の人と触れ合いながら旅行をする猛者もいる。ただ、彼らの印象は「丁寧で親切」だけど
「本当に知りたいことがわからない」
「本当にしたいコミュニケーションはできなかった」
という残念なものだ。

 

 

 

もっとコミュニケーションを

 

 日本は「覗きの国」だとある人がいった。壁を一枚はさんで覗き合うようなコミュニケーション。壁には「親切、丁寧、おもてなし」と書いてある。でも本当の心は見せ合わないで覗きあっているようだ、と。温泉で裸を見せ合うのに、心の裸は見せ合わない、と。「そこまで日本人を理解していれば、日本でのコミュニケーションの達人だよ」と私は思う。
「心の裸は見せなくてもいいけれど、普通のサインはわかりやすくしてほしい」、とその人はいった。
「駅の案内を各国語で書いてあるが、実際にはわかりづらくて途方にくれてしまう」
「誰かに聞きたくても聞けるムードじゃないし」
それにもっと切実な問題として、「トイレの表示がわからなくて困る。センサー方式であることに気づくまでに時間がかかってトイレから出られなかったよ」、という。

 外国語表示の推進はすばらしいけれど、それを見る人が本当に求めている情報を伝えられているのか、再度吟味してほしいものだ。

 外国からのお客様が増える日本、増やそうとしている日本。
 形だけの「おもてなし」になってはもったいない。
 本当に彼らが求めているものを吟味して、楽しく充実した旅のできる日本をつくれないものか。
 私も来日25年以上がたって、すっかり日本に慣れてしまったけれど、もう一度、来日したての日本茶好きの外人の目線で日本を、東京を旅してみたいと思う。
 

 

 

外国人客に接客するステファン

『おちゃらか』にて。外国人客に対応する様子。


日本茶を自分らしく楽しんで

日本茶を自分らしく楽しむ外国の人々。

 

 

*この連載は毎月第1・第3月曜日(月2回)の更新連載となります。お楽しみに! 

 

 

写真/ステファン・ダントン    編集協力/田村広子、スタジオポルト

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ステファン・ダントン

1964年フランス・リヨン生まれ。リセ・テクニック・ホテリア・グルノーブル卒業。ソムリエ。1992年来日。日本茶に魅せられ、全国各地の茶産地を巡る。2005年日本茶専門店「おちゃらか」開業。目・鼻・口で愉しめるフレーバー茶を提案し、日本茶を世界のソフトドリンクにすべく奮闘中。2014年日本橋コレド室町店オープン。2015年シンガポールに「ocharaka international」設立。著書に『フレーバー茶で暮らしを変える』(文化出版局)。「おちゃらか」http://www.ocharaka.co.jp/

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