台湾の人情食堂

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#48

台湾の「台」ってどんな意味?

文・光瀬憲子  

 台湾がなぜ「台湾」という名前なのか考えたことはあるだろうか? 私は小学生の頃、父親が台湾に出張に行くというので初めてその名を知り、そのとき台風のたびに学校や会社が休みになるという話も聞き、「台風が多いから台湾というのかな?」なんて考えていた。

 台湾は確かに台風の通り道だが、台湾の台は台風の台ではない。台湾にはもともと漢民族ではなく、先住民が暮らしていた。何百年も昔の話である。そして、たびたび中国本土からやってくる漢民族のことを「来訪者」「外来者」という意味の「テオワン」と呼んでいた。その音から「台湾」という名前がついたという説がある。ほかにも台湾という地名の由来に関する説は多くあり、はっきりとはわかっていないのが現状だ。

 中国南部から来た漢民族が台湾を見つけて「大きな島の塊」を意味する「大丸」と称したところ、大丸と同じ発音の「台湾」が地名となったという説。

 さらに変わったものでは、漢民族が海を渡り、島に移り住んだところ、水が合わずに多くの死者が出たために、その地を「埋冤」(怨念が埋められた地)と称したが、「埋冤」というと縁起が悪いので、同じ発音の「台湾」という字を当てて地名とした、というものもある。

 いずれにしても、「台」は高くて平らな土地を、湾は海や水を意味するため、この文字が当てられたようだ。

 

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海に囲まれた緑の島は「台湾」はオランダ人にはフォルモサ(麗しの島)とも呼ばれた。写真は南端の墾丁(ケンティン)

 

 

「高雄」の名付け親は日本人(!?)

 台湾の地名には、ほかにも先住民の言葉や、その他の外国語が起源となっているものがある。

 例えば、台湾第2の都市、高雄を命名したのは日本人だ。もともと先住民は現在の高雄周辺を「竹林」と呼んでいた。「竹林」は先住民の言葉で「タカタウ」という発音だったため、漢民族が入ってきたとき、この地名に「打狗」という当て字をした。発音は「ダーガウ」になった。そこに日本人が入ってきたとき、「ダーガウ」という地名に「高雄」という当て字をした。発音は「たかお」となった。さらに、そこに中国人が入ってきたとき、「高雄」という漢字が北京語読みの「カオション」という発音になった。

 そんな日本人が名付けた街、高雄には美味しいものがたくさんあるが、おすすめは左營市場の近くにある無名の麺店。看板もドアもない古びた建物の一階に陣取るこの店は、お昼前から行列ができる。ゴマダレ味と肉味噌味の2種類の麺は味がよく絡んで美味。また、この店の酸辣湯も日本人が親しみやすい味だ。

 

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無名の麺店の乾麺と酸辣湯。乾麺は麺を底からひっくり返すようによく混ぜる

 

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古びた建物の1階と2階にある麺店。店名も扉もないが、昼時は満席なうえ、テイクアウトの行列ができる

 

 

漢民族が名付けた「花蓮」

 先住民ではなく、漢民族がつけた地名も多い。

 たとえば日本人に人気の観光地、花蓮。美しい地名だが、もともとは「洄瀾」という地名だった。花蓮付近を開拓した漢民族が、その海を見て「波が渦巻く地」という意味の「洄瀾」と名付け、これが同じ発音の「花蓮」に改名されたといわれている。

 花蓮は台湾の中では美食と縁遠い地と言われがちだが、街なかに絶品ミニ肉まんがある。花蓮では「小籠包」と呼ばれているが、日本人からすると「ミニ肉まん」という呼び方がぴったりくる。男子ならまちがいなくひと口で頬張れるくらいの大きさなので間食にちょうどよく、甘みのある皮と肉汁たっぷりの具がクセになる。

 

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花蓮の『公正包子店』の小さくて可愛い肉まん。1つ5元という値段もうれしい

 

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旅行者や地元の人でいつも混雑している店先。蒸籠からは常に白い湯気がのぼっている

 

 

「宜蘭」「彰化」「嘉義」の由来

 花蓮を少し北上した宜蘭という街はネギの名産地。宜蘭はもともと「葛瑪蘭(カバラン)」と呼ばれていた。これは、この地域に暮らしていた先住民族を指す言葉で、いまだに宜蘭のことを「葛瑪蘭」と呼ぶこともある。葛瑪蘭では発音が難しいため、のちに清朝政府がこれを「宜蘭」に改名したと言われている。

 ネギの里、宜蘭を訪れたらぜひ食べておきたいのがネギたっぷり使ったチヂミ風の蔥油餅(ツォンヨウビン)。蔥油餅自体は台北の夜市などでも食べられるが、宜蘭の蔥油餅はネギの香り、量、味が違う。宜蘭産の新鮮で香ばしいネギを存分に楽しめる。

 

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子供からお年寄りまで、みんなが大好きな台湾の定番おやつ、蔥油餅。宜蘭のものはネギがさわやかに香る

 

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宜蘭の夜市に店を構える人気店「彭記」蔥油餅。卵をプラスするとボリュームアップ

 

 台湾の西海岸にある彰化という街は、日本人にはあまり知られていないが、美味しいものが多く、地元の人も親切なので、旅行者にはうれしい街だ。彰化という名は「顯彰皇化」という言葉に由来している。もともと先住民が暮らしていたところに、清朝政府が「皇化を広めよう」という意味の「顯彰皇化」から命名したと言われる。ここで言う皇化とは日本の皇民化と似た意味を持つが、日本ではなく当時の清朝政府のことを指した。

 彰化は農業の街で、力をつけるために市民はたくさんの肉を食べた。その名残が彰化名物の「爌肉飯(クァンロウファン)」と呼ばれる豚の角煮のせご飯。台北ではあまり見かけないのだが、彰化市内では、煮込んだ豚の角煮をど~んとのせたミニ丼をの老若男女が嬉々としてかき込んでいる姿が見られる。

 

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串に刺したままの豚角煮がのっている彰化の爌肉飯。彰化の人々のソウルフードだ

 

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彰化の人気店『阿章爌肉飯』は夜型の店。タクシーの運ちゃんのお墨付き

 

 最近、日本人にも徐々に観光地として知られつつある嘉義。実は、70年台から台湾を訪れていた日本人にとって、嘉義は阿里山という有名な山へ行くための通過点に過ぎなかったが、最近は隠れグルメタウンとして人気が集まっている。

 嘉義という地名は「嘉其忠義」という四字熟語に由来している。1700年台に汚職役人による謀反が起こった際に、民間が一体となってこれを鎮圧し、政府が市民に「嘉其忠義(=忠義を讃える)」と言ったことが語源となっている。

 嘉義は雞肉飯(ジーロウファン)と呼ばれるミニ鶏肉丼が名物で、いたるところに鶏肉丼の店がある。地元の人たちは朝昼問わずこれを食べるのだが、夜も鶏肉丼とおかずの組み合わせが人気だ。嘉義最大の夜市、文化路夜市には鶏肉丼の人気店『郭家雞肉飯』がある。肉汁のしみた鶏肉丼と組み合わせるのは、米粉で作られた団子が入っている粿仔湯だ。

 

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しっかりと味の染みた肉汁たっぷりの鶏肉丼。左上は米粉のかたまりや豚モツの入った粿仔湯(グオザイタン)

 

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夜市の真ん中に店を構える『郭家雞肉飯』

 

 

南端リゾート、墾丁のマッチョな地名由来

 台湾最南端の観光地、墾丁の地名由来も興味深い。この地を開拓しようと考えた清朝政府が、「開墾のため、力のある男子を募る」というお触れを出した。「開墾壮丁」というのがそれで、壮丁とは壮年男子のこと。つまり墾丁という名前は「マッチョ募集」という意味なのだ。その名の通り、墾丁では今も壮年男子が太陽のもとで、惜しげなくその肉体を晒している。墾丁はサーフィンのメッカだからである。イケメンで肉体派の台湾男子を鑑賞するなら墾丁がおすすめだ。

 特筆すべき食べ物はあまりなさそうな墾丁だが、海が見える丘に美味しい海鮮料理店がある。刺し身はもちろん、エビ炒めや野菜炒めなど、地元の素材を活かした料理が食べられる。

 

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墾丁に来たら地元の海鮮を堪能したい。ちょっと濃いめの味付けのエビはビールによく合う

 

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あさりとヘチマのスープは台湾では定番の家庭料理。魚介のダシとあっさりとしたヘチマがよく合う

 

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墾丁の海を見渡せる小高い丘に立つ『龍磐餐廳』。カジュアルな海鮮料理店だ

 

 最後に、名前の由来は「台湾の東」というだけの台東だが、ここで食べられる絶品滷味を紹介したい。台湾各地に豚肉の醤油煮込み「滷味」は多くあるが、私が出合ったなかでダントツ一番の味を誇るのが台東の『林記阿達滷味』だ。

 豚の耳から尻尾まで、すべての素材を絶妙な醤油味と香料で煮込み、スライスして大皿にのせてくれる。店内にはビールも冷えている。その値段の安さと味の良さに、連日行列ができる人気店だ。台東に足を運んだらかならず寄ってみてほしい。

 

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迫力満点の『林記阿達滷味』の滷味プレート。自分の好きな部位を切ってもらう

 

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店内も広々としているが、人気店なので行列も。地元の人はテイクアウトが多い

 

 

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著者:光瀬憲子

1972年、神奈川県横浜市生まれ。英中日翻訳家、通訳者、台湾取材コーディネーター。米国ウェスタン・ワシントン大学卒業後、台北の英字新聞社チャイナニュース勤務。台湾人と結婚し、台北で7年、上海で2年暮らす。2004年に離婚、帰国。2007年に台湾を再訪し、以後、通訳や取材コーディネートの仕事で、台湾と日本を往復している。著書に『台湾一周 ! 安旨食堂の旅』『台湾縦断!人情食堂と美景の旅』『美味しい台湾 食べ歩きの達人』『台湾で暮らしてわかった律儀で勤勉な「本当の日本」』『スピリチュアル紀行 台湾』他。朝日新聞社のwebサイト「日本購物攻略」で訪日台湾人向けのコラム「日本酱玩」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/  近況は→https://twitter.com/keyword101

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