旅とメイハネと音楽と

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#48

イスラエル・ワイナリー・ツアー〈1〉

文と写真・サラーム海上

 

イスラエル各地のワイナリー訪問

 2017年9月18日、僕は一人、テルアビブから電車に乗り、イスラエル北部の町ベンヤミナを目指した。と言っても乗車時間はたったの50分、イスラエルはそれほど小さな国である。
 

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首都テルアビブから電車に乗って、イスラエル北部の町ベンヤミナへ

 

 平日の昼間のため乗客は少なく、左の車窓からは時々、群青色の地中海が見える。車体の揺れが心地よく、このまま眠ってしまいそうだ。標識をよく見ていないと乗り過ごしてしまいそうな小さな駅がいくつか続き、これも本当に小さな駅、ベンヤミナで降りる。すると駅前の小さなロータリーで、本日と翌日の2日にわたって国内各地のワイナリーを案内してくれるイケメンのニムロードが車で待っていてくれた。
「シャローム、コンニチハ、ウナガミサン、ハジメマシテ」
 ニムロードは日本に向けてイスラエル・ワインとオリーブオイルを扱っている専門店『ナチュラエル』のイスラエル人共同パートナー。僕の中東料理イベント「出張メイハネ」では、ナチュラエルから美味しいワインを提供していただくことも多い。今回の出張日程をナチュラエルの代表、本郷喜千さんに伝えたところ、「イスラエルのワイナリーめぐりに興味ありませんか? 共同パートナーがぜひ案内したいそうです」と提案してくれたのだ。
 「電車の旅は快適でしたか? 今日はこの町ビンヤミナにある大手のワイナリー、そして午後はエルサレムの西のジュディアン・ヒルズにある小さなワイナリーを訪ねる予定です」
 彼の車に乗りこみ、ほんの五分ほどで一軒目、この町の名前が付いたワイナリー「Binyamina(ビンヤミナ)」に到着した。

 

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ワイナリー「Binyamina(ビンヤミナ)」

 

 大きな黒い金属のドアを開くと、中は広い試飲カウンターと壁にワインが並ぶお店になっていた。店内を眺めていると、チーフ・ワインメーカーのイフターフさんが現れ、奥のレストランに案内された。席に着くと、イスラエルらしい様々な野菜や豆を使ったサラダやメゼが次々とテーブルの上に運ばれてくる?! お酒のアテなのにヘルシーなのがいいねえ。

 

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ヘルシーなメゼがテーブルに並ぶ


「ようこそビンヤミナへ。今はちょうど葡萄の収穫の時期で、来週までに作業を終えるので、本当に忙しい時期です。私共は年間200万本のワインを製造する比較的大手です。セパージュ(葡萄の種類)も24~27種類で、お手頃なものから特別なものまで幅広いセレクションがあります。しかし、家族経営の小さな会社であり、人々を幸せにする仕事を心がけています。まずは夏向きのロゼを試飲下さい」
 Teva(テヴァ)シリーズのグレナッシュ・ブラッシュと言うサーモンピンクのロゼを口に含むと、まずストロベリーとラズベリー、そしてフルーツの風味が口の中で広がっていく……と書いても、ワインについては僕が生半可な知識で書いても全く刃がたたない。ここから先は父親の代からワイン造りを続けているイフターフさんの話を元に記事に作り上げていこう。

 

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Tevaシリーズのグレナッシュ・ブラッシュ


「このTevaは寿司に合わせるのはさすがに難しいかもしれませんが(笑)、それ以外のたいていの前菜に合いますよ。
 次はYogev(ヨゲブ)シリーズの白、アロマティック・ブレンドです。マスカットとゲヴェルツトラミネール、ソーヴィニョンブランのブレンドです。こちらはライチの味がするでしょう。

 

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Yogevシリーズの白、アロマティック・ブレンド


 三本目はちょっと特別な赤ワインを試飲して下さい。リザーブ・シリーズのマルセランです。マルセランとはカベルネ・ソーヴィニヨンとグルナッシュの交配種の珍しい葡萄です。旧約聖書で知られるギルボア山は雨の少ない厳しい土地ですが、その地の単一の畑の葡萄を使い、オークの樽で14~16ヶ月熟成させたユニークなワインです。世界のワイン通にもほとんど知られていません。地中海気候ならではのコクのあるワインです。

 

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 続いてはダイヤモンド・シリーズのドライな赤。カベルネ・ソーヴィニョン、シラー、メルロー、プティ・ヴェルドのブレンドです。こちらはアメリカで大変評判が良いワインです。このシリーズのラベルの上の格子状のマークはユダヤ教の祭司が身にまとう宝石の飾り“ホーシャン”を元にデザインしました。ユダヤ人にとってかけがえのない真実の宝石を意味するんです。南部から北部ガリラヤ湖までの葡萄をブレンドして、特にプティ・ヴェルドが印象的なベルベット色のワインです」

 

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ダイヤモンド・シリーズのボトルを手にする、今回のワイナリー・ツアー案内人『ナチュラエル』のニムロード


 ここで私見を少しだけ入れさせてもらうと、このワインはブラックカラントやチョコレート、そして木の香りが続き、コフタ(肉団子)との相性が最高だった。後で調べるとこのワインはワイン・アプリのvivinoでなんと「世界のトップ5%のワイン」に選ばれていた! そんなに美味いのか! 

 この後、ビンヤミヤの高級ライン「ダイヤモンド」からレッド・ブレンド、プティット・シラーが続いた。

 

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ワインと料理のペアリングも興味深い


「プティ・シラーはガリラヤ湖低地の単一の葡萄畑の葡萄だけで作られています。噛むとしっかり味が出ます。美しいローブ(色合い)、タンニン、乾燥いちじく、イスラエルの土地をしっかり表現しています。
 私はキブツ(集団農場)で生まれ育ち、農業にずっと関わってきました。私にとってワイン造りというのは土壌の純粋な表現なんです。イスラエルにはネゲブ砂漠から森林まで、標高もマイナス200mから2000mのヘルモン山まで、狭い土地に異なる地勢が分布しています。それがワインに特別な個性を与えているんですよ。しかし、最近では若い人が農家から離れ、政府がサポートしないと農家が続かなくなっています……」

 

IMG_9926父親の代からワイン造りを続けている「ビンヤミナ」のイフターフさん

 

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「ビンヤミナ」の店内


 午後3時、イフターフさんに別れを告げ、再びニムロードの車に乗り、一時間半かけてエルサレムの西側25kmの距離にある、標高600mの丘陵地帯ジュディアン・ヒルズへと南下する。

 到着したのは丘陵の斜面に沿った葡萄畑の真ん中に建つ「Flam(フラム)」。こちらは年間生産ボトル数15万本のマイクロ・ワイナリーだ。1998年にゴランとギラッドのフラム兄弟によって創業され、値段は3500円くらいから8000円くらいと比較的高め、イギリスのワインガイドではイスラエルで唯一の四つ星を獲得している。

 

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IMG_9953車で1時間かけて南下、エルサレム西側の丘陵地帯にある「フラム」へ

 

 農家をモダンに改装した天井の高いオフィスで弟のギラッドが迎えてくれた。
「ここは地中海から50km内陸に入った標高600mの丘陵です。西からは地中海の風が吹き、標高800m地点まで一気に風が上がります。東には砂漠があり、夜は砂漠からの冷たい風が吹きます。夏にはさらに標高の高いエルサレムから冷たい風が流れ込みます。標高が高くなるほど、乾燥し、葡萄は乾燥を好みます。丘陵という地の利です。エルサレムは砂漠の入り口に位置し、砂漠は昼と夜で気温の差が激しいんです。ここはまさに“微気候”の地勢なんです。

 

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農家をモダンに改装したオフィス

 

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IMG_9966丘陵地帯の気候がワインに適した葡萄を育む


 最初に紹介したいのはフラム・ブラン、ここからほど近い標高700mの涼しい町マタで栽培したソーヴィニョン・ブランとシャルドネの白です。うちでは唯一の白ワインですが、ジュデアン・ヒルズの土壌には花崗岩が多く、白ワインにも向いているんです。クリーンでクリスピー、酸っぱくて、正統派なブーケです。

 

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 2本目は赤ワイン、フラム・クラシコ。カベルネ・ソーヴィニョンとメルロー、プティ・ヴェルド、プティ・シラーのブレンドです。ミディアムボディでタンニンが柔らかく、フルーツ多め、オークの香りがほんの少しのブーケ。このワインはどんな料理にも合いやすいでしょう。今試飲しているのは2015年製ですが、5~8年寝かせれば、さらに良くなります。

 

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フラム・クラシコ


 3本目はレゼルヴェです。メルロー、カベルネソーヴィニョンのブレンドで、10~15年のエイジドです。タンニンのパレットが次々と口の中で広がるでしょう。手積みの葡萄を使うため、歩留まりが悪く、一部の葡萄は捨てています。だから少量しか作れません。しかし、ハンドクラフトを通じてこそジュディアン・ヒルズの土地のユニークでリッチな個性、いわば土地のエッセンスを引き出せると思います。それをわかってくれる人をターゲットとしているんです」

 

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レゼルヴェ


 この後、さらに「カベルネソーヴィニョン・レゼルヴェ2015」、「シラー」とフラムが誇る最高の赤が二つ続いたが、一日で十数種類のワインをテイスティングすると、さすがに最後は酔っ払ってしまい、大変申し訳ないのだが、味の違いがわからなくなってしまった……。
「貴方が音楽評論家ならわかっていただけると思いますが、ワインを考えるのは音楽を考えるのと同じです。なぜその音楽が好きなのか理由を考えるのと同じで、なぜそのワインが好きなのか理由を考えます? エレガントだから? バランスとハーモニーは? 口の中で料理をじゃましないワイン? 料理を引き立てるワイン? 
 思うにワインは単なる飲み物じゃありません。土壌や気候、歴史、空気を現しています。もし東京で、貴方が私たちのワインを飲んだとしたら、それはジュディアン・ヒルズを飲んでいることになるんです。このワインは私達の土壌、土地、ワイン蔵、気候、テロワール、哲学を表現しているからです」

 

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ゴランとギラッドのフラム兄弟

 

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「フラム」はイギリスのワインガイドでイスラエルで唯一の四つ星を獲得している

 


 イスラエル・ワイナリー・ツアー、二日目は最北部ゴラン高原のワイナリー二箇所を訪れる!

 

 

チェリーと胡桃、香菜のサラダ

■チェリーと胡桃、香菜のサラダ
【作りやすい分量】

アメリカンチェリー:300g
香菜:3枝(粗みじん切り)
胡桃:1/3カップ
鷹の爪:2本
ザクロ濃縮液:大さじ1
レモン汁:大さじ1
EXVオリーブオイル:大さじ2
塩:少々
胡椒:少々

【作り方】

1.アメリカンチェリーは水洗いし、水気をよく切ってから種を抜いておく。
2.胡桃はスキレットなどで火にかけ、表面を焦がさない程度に煎ってから、室温にさまし、食べやすい大きさに切る。
3.鷹の爪はスキレットなどで火にかけ、表面を焦がさない程度に煎ってから、室温にさまし、種とへたを除いてから、みじん切り。
4.ボウルに鷹の爪、ザクロ濃縮液、レモン汁、EXVオリーブオイルを入れ、よく混ぜ合わせ、塩胡椒で調味する。
5.4のボウルに1のアメリカンチェリーを入れ、よく混ぜ合わせる。さらに胡桃を加え、軽く混ぜる。
6.お皿に盛り付け、香菜のみじん切りで飾る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アメリカンチェリーと胡桃香菜のサラダ。ドレッシングは鷹の爪とザクロ濃縮液など。美味いゾー! #meyhanetable #cherrysalad

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*著者の最新情報やイベント情報はこちら→「サラームの家」http://www.chez-salam.com/

 

*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。次回もお楽しみに! 〈title portrait by SHOICHIRO MORI™〉

 

 

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サラーム海上(サラーム うながみ)

1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家。明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』『プラネット・インディア インド・エキゾ音楽紀行』『エキゾ音楽超特急 完全版』『21世紀中東音楽ジャーナル』他。Zine『SouQ』発行。WEBサイト「サラームの家」www.chez-salam.com

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