ステファン・ダントンの茶国漫遊記

ステファン・ダントンの茶国漫遊記

#47

日本茶は生きられるのか

ステファン・ダントン

 

 

 
 

世界中で「マッチャ(MATCHA)」がブームになっている。
ペットボトル飲料としての「お茶」も各地で定着している。
「世界中に日本茶が広がりつつある」と喜んでいいのだろうか?
実はなんだかちぐはぐな日本茶ブーム。私は危険だと思っている。

 

 

 

MATCHAと抹茶

   今、日本でも世界各地でも抹茶が広く飲まれている。英語圏でもMATCHAの呼び名が一般化して久しい。
 MATCHAといえば「緑色のお茶パウダーで、ケーキやドリンクに健康的な苦味を添える例のあれ」として認識している人が多いはず。
 一方、抹茶については相変わらず「伝統的で神秘的なジャパニーズスタイルのティーセレモニー」で用いられるものとして、ごくわずかなマニアが嗜むものにとどまっている。なんだかちぐはぐな「抹茶ブーム」。
「ステファンはいつも日本茶が売れることが生産地や生産者のためなのだから、形にこだわる必要はないっていうじゃない」
といわれるかもしれない。それはその通り。どんな形であれ日本茶が海外に広まるのは喜ばしいことだし、MATCHAが日本茶にトライするきっかけになればすばらしい。
 でも、この「抹茶ブーム」は危険だ。ちっとも日本茶生産者のためにならないばかりか、生産地を困らせる遠因にもなっている。
 

 

 

MATCHAは誰がつくっているのか

 

  日本でつくられている荒茶(お茶の原料)の80%は煎茶、残りの20%が抹茶用だ。今、煎茶が売れない。抹茶の需要は高まっている。だからといって生産者に「今は抹茶がブームだから抹茶をつくればいいよ」というのは無責任だ。そもそも煎茶と抹茶は栽培方法も製造方法もまったくの別物なのだ。
 抹茶の原料は、碾茶(てんちゃ)といって、茶葉を摘む20日以上前から太陽光線を遮断して香りを深め、茶葉を蒸したものを揉まずに乾燥する。これを石臼で挽いたものが抹茶になる。煎茶づくりとはまったく違う工程と設備が必要になる。単独の農家が新規の設備を導入するのは難しいから、共同で抹茶専用の作業場をつくる。それでも費用の負担は大きい。
 一方で、大手のメーカーはコストを抑えるため中国に進出する。抹茶の製法指導、機械の導入、工場の設立も含めて中国に輸出して大規模生産を行っている。
 こうなると日本の生産者に勝ち目はない。大口の顧客が欲しいのは安い「抹茶パウダー」であって、日本製の抹茶ではないのだ。私が現在の「抹茶ブーム」をちぐはぐで危険なものだ、と感じるはこの点だ。海外でつくられた「抹茶パウダー」、ちぐはぐな「抹茶ブーム」が日本茶の生産地や生産者を疲弊させている。
 

 

 

 

日本茶の輸出入量が示すこと

 

   さて、2017年の緑茶の輸入量は約3万トン。このうち中国からの輸入は約1万4000トンだった。それだけでも日本からの緑茶輸出量、約4700トンの3倍ほどになる。これだけ多くの緑茶は、飲料メーカーの烏龍茶原料と抹茶パウダーの原料に使われるものがほとんどを占めるという。
 日本茶が売れないといいながら、他国から大量の茶葉を仕入れている現状。大規模・ローコスト生産の国外産緑茶を使用すれば飲料・食品メーカーは儲かるだろう。ただ、その商品が売れれば売れるほど、自国の産業を衰退させる結果になっているジレンマに、本当はみんな気づいているはずだ。

 先日、中国から来たお客様にいわれた。
「中国人は新しいお茶を求めています。今までとは違うお茶を楽しみたい。日本茶も珍しい。香りを付けたお茶もおもしろい。必ず中国で人気が出るのになんで中国に売らないんですか?」
もちろん私だって中国で売りたい。でも、放射能検査証明書の互換性がないことを理由に、日本から中国への緑茶輸出が難しい状況が続いている。
「中国政府が規制をゆるめてくれるように日本政府がきちんと働きかけてくれたら、いつでも中国にお届けしますよ」
こう答えるしかなかった。
 日本で生産された「日本茶」の輸出や販売量の拡大には、政治の力によるところが大きい。「クールジャパン」もいい。「おもてなし」もいい。文化の発信も来日客の誘致もいい。けれど、文化の源である日本の農産物や日本の農地、日本の生産者をないがしろにしては本末転倒ではないだろうか?
 

 

 

仏作って魂入れず

 

  日本には、形ばかりに囚われて本当の意味をないがしろにすることを戒めることわざがたくさんある。日本人が本質を大事にしないと意味がない」ということをいつも肝に銘じながら仕事に取り組んできた証だと思う。
 私にとっての日本茶の普及の本質は、日本各地の茶畑で、生産者が真摯に生産した日本茶を、より多くの人に飲んでもらうこと。日本茶にまつわる文化は、日本茶の普及をけん引する存在。だから、現在の「形」を伝えることに偏向した日本茶文化の発信と、経済優先の日本茶生産の間で、本当の日本茶文化の源がどんどん萎んでいきはしないかと心配している。
 フランスから来た外国人の私にいわれるまでもないことかもしれない。でも、抹茶ケーキを食べながら、ペットボトルの緑茶を飲みながら考えてほしい。

 

 

 

 日本茶という大事な文化の源はどこにある?
  それを守るために何をすればいい?
 

 

 

 

茶の芽

 

お茶の源である「芽」。

 


 

 おおざっぱに列記したが、日本橋の『おちゃらか』には実に多くの国のお客様が来る。彼らと話しながら、それぞれ異なる彼らの嗜好をはかり、好みそうな茶葉を好みそうなタイミングと方法で提供するのが本当におもしろい。
 日本橋で店に立ってさまざまな国からの旅人を出迎えることで、それぞれの国の人たちが日本に何を求めているのか、なんとなくわかってくる。それをもとに世界に向けて日本茶をいかに普及させていくか、考える日々だ。
 売りたいものを売るんじゃない。欲しがっているものを提供したい。それが私の考え方だ。


 

 日本茶の普及の本質を考えながら

日々、日本茶普及の本質を考えている。

 

 

 

*この連載は毎月第1・第3月曜日(月2回)の更新連載となります。次回公開は2019年4月15日となります。お楽しみに! 

 

 

写真/ステファン・ダントン    編集協力/田村広子、スタジオポルト

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ステファン・ダントン

1964年フランス・リヨン生まれ。リセ・テクニック・ホテリア・グルノーブル卒業。ソムリエ。1992年来日。日本茶に魅せられ、全国各地の茶産地を巡る。2005年日本茶専門店「おちゃらか」開業。目・鼻・口で愉しめるフレーバー茶を提案し、日本茶を世界のソフトドリンクにすべく奮闘中。2014年日本橋コレド室町店オープン。2015年シンガポールに「ocharaka international」設立。著書に『フレーバー茶で暮らしを変える』(文化出版局)。「おちゃらか」http://www.ocharaka.co.jp/

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