旅とメイハネと音楽と

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#46

〈番外編〉オランダのニシンと宮古島のビーツ

文と写真・サラーム海上

 

大好きなニシン料理

 ゴールデンウィーク直前、TABILISTA編集部から早すぎるお中元が届いた。開けるとTABILISTAの特集記事「オランダ王室御用達ニシンとは!?」を読んで、美味そうだなあと舌なめずりしていたオランダ王室御用達の「クラウンマッチェス」ニシンだった!
 おお、これは願ってもない! 僕は専門こそ中東料理だが、北~東ヨーロッパの料理で用いられるニシン料理も大好きなのだ。

 

tabilistaニシン今年のお中元はクラウンマッチェスに決まり!

 

 僕は20代の頃に当時働いていた六本木にあったスウェーデン料理店でニシンのマリネの存在を知った。2000年代にはレコード会社が多く集まっていた赤坂見附のスウェーデン料理店のブッフェ『スモーガスボード』で、ディル味、パプリカ味、カレー味など様々な味付けのニシンのマリネに舌鼓を打った。
 オランダはこれまで二度訪れただけだが、最初のアムステルダム滞在の二日目にして運河の裏通りにあった塩漬けニシン「ハーリング」の専門店を見つけた。そこでたっぷりの刻みタマネギときゅうりのピクルスが添えられたニシンはトロトロの食感と濃縮された魚の味を満喫した。
 よっぽど美味そうな顔で食べたのだろうか。7年後に再訪したアムステルダムで真っ先にその店に飛び込むと、ひょうきんな顔をした主人が僕のことを覚えていてくれた。

 

tabilistaニシン2008年二度目のアムステルダム中心地

 

tabilistaニシン
運河の裏通りにあったハーリングの専門店、二度目もすぐに発見!

 

tabilistaニシン
ハーリングのほか、ビーツでマゼンタ色に色づけたハーリング、小海老、蟹の身など、好きなものをサンドイッチにしてくれる

 

tabilistaニシン
ハーリングを一皿、あっという間に食べてしまった!

 

 東欧やロシア系の移民が多いイスラエルでもニシンのマリネを高級ホテルの朝食ブッフェなどで目にする。朝食ブッフェはサラダやメゼ中心の中東料理コーナー、クロワッサンやチーズ、ハムなどの西洋料理コーナー、そして魚加工品中心の東欧~ロシア料理コーナーと分かれている。緑黄色野菜中心で色鮮やかな中東料理と比べると、東欧~ロシア料理は見た目がモノトーンだが、それでもセンスの良い国イスラエルらしく、ニシンのマリネや〆鯖やマスのマリネ、燻製のニシンが美しく並べられていた。

 

tabilistaニシン

イスラエルの高級ホテル朝食ブッフェでニシンのマリネや〆鯖
 
 さて、いただいたクラウンマッチェスで何を作ろうか? オランダ人のように刻み玉ねぎとともに一気食いするのも悪くない。でも、僕はロシア~ウクライナ料理の前菜「毛皮を着たニシン(セリョートカ・ポド・シューボイ)」を作りたい。
 ニシン、ビーツ、ゆで卵、ディル、そしてたっぷりのじゃがいもとマヨネーズ(場合によって人参、玉ねぎも)で出来上がっているこの料理。マゼンタ色のビーツやクリーム色のマッシュポテト、黄色の卵黄が多層に重なり、毛皮のコートのように見えるのでこの名前が付いたとも、20世紀初頭のソビエト革命時代に使われていた政治的なスローガンが元となったとも言われている。いずれにせよ冬の長いロシアらしい、お腹にたまる料理である。
 僕がこの料理を知ったのはロシア料理のレシピ本だったと思う。その後、何軒かの都内のロシア料理店で口にしたことで、現在では美味しいビーツが手に入ると、しばしば自分でも作っている。しかし、ニシンの塩漬けやマリネは(『IKEA』に行かない限り)簡単には手に入らないので、少々風味は変わるが、ニシンの代わりにどこでも手に入る〆鯖で代用していた。〆鯖でも十分美味しいが、こんなに美味そうなニシンが手に入ったなら、毛皮を着たニシンを作るしかない。後は美味しいビーツを手に入れるだけだ。

 

tabilistaニシン毛皮を着たニシン

 

宮古島の旅

 ところで僕はこのゴールデンウィークに二泊三日で宮古島に行ってきた。TABILISTA仲間のKOJIROさんの連載『2017 JALマイル修行&麺の旅』でもおなじみの「マイル修行」を、僕も今年一年かけて行っている。その一環で初めて宮古島を訪れたのだ。

 

tabilistaニシン5月5日午後6時すぎ、宮古島空港に到着。西に位置するので、まだ太陽が明るい!

 

 現地では人気インストゥルメンタル・バンド「BLACK WAX」の池村綾野&真理野姉妹にお世話になり、おすすめのビーチやお店に案内していただいた。
 宿に荷物を下ろし、最初に訪ねたのは島唄居酒屋『喜山』。海ぶどうや島らっきょう、スクガラス豆腐などをつまみながら、民謡歌手の與那城美和さんの歌声を堪能し、輪になって踊る踊り「クイチャー」を楽しんだ。
 ステージの終わった美和さんには、さらにディープな居酒屋『野咲家』に案内され、山羊の中身汁や皮のついた山羊の刺身、豚肉と血の炒め物「チーイリチー」、イカ墨そばなど、ディープすぎる宮古料理をいただいた。山羊肉をたっぷり食べたせいか、その晩は身体が火照ってしまい、明け方近くまで眠れなくなってしまった。

 

tabilistaニシンお世話になったBLACK WAXの池村綾野&真理野姉妹と與那城美和さん

BLACK WAX最新情報はこちら→https://www.facebook.com/BlackWaxMyahk/

 

 翌日は真理野さんに薦められた新城海岸に行き、エジプト紅海の町ダハブなみに美しいサンゴ礁でスノーケリングし、青、緑、黒、オレンジ、黄色、赤、白、マーブル模様の熱帯魚に囲まれた。海のきれいさにも驚いたが、ゴールデンウィーク中の日曜なのに、水泳客は数十人だけ。こんなに理想的な海水浴場を知ってしまったら、関東地方の海水浴場なんてもう行けない。

 

tabilistaニシン新城海岸のビーチ。まるで紅海かエーゲ海!

 

tabilistaニシン
海底の濃い色の部分はサンゴ礁!

 

tabilistaニシン
隣の来間島から来間大橋を時速35kmで走り、宮古島に戻る

 

 食い意地の張った僕が三日間の滞在中、繰り返し訪れたのは空港のすぐ脇に建つJAの直売所『あたらす市場』だ。広い店内にはトマトやピーマン、新玉ねぎなどの見慣れた野菜だけでなく、本州では見かけない興味深い野菜がたっぷり売られていた。
 葉物野菜なら長命草、モリンガ、パルダマ(裏が紫色の葉物野菜)、ヨモギなど、お浸しか、または生のままでサラダにしてもいただくという。ナンコウ(大型のかぼちゃの一種)は薄切りで、紅芋は茹でてからペーストにされて売られていた。
 その他、ゆし豆腐やら紅芋まんじゅうやら、見たこともないものばかりで、僕は興奮しすぎて、脳の情報処理能力がアップアップだ。
 そんなパニック状態の中、僕の大好物のビーツを見つけた。200gほどの中の小サイズのビーツがビニール袋に3つ入って、なんと200円と激安! しかも、表面にツヤと張りがあり茎までマゼンタ色に輝いている! おお、これは間違いなく甘くて美味いはず!

 

tabilistaニシンJAの直売所『あたらす市場』は宮古島食材のパラダイス!

 

 ビーツはテンサイ(砂糖大根)と同じ系統のヒユ科の根菜。東欧、ロシア、南アジア、南北アメリカ、そして中東でも広く用いられる。鉄分や一酸化窒素、カリウムなどが多く含まれ、一部では「食べる血液」とまで呼ばれている。生でも食べられるが、通常はたっぷりのお湯で茹でたり、アルミホイルを巻いてオーブンで焼いたりして、中までスッと串が通るまで火を通してから、料理に用いる。
 近年、日本各地でもビーツの栽培が始まり、スーパーでも時々見かけるようになった。しかし、ロシア料理のボルシチの他にはビーツを使った美味しい料理やその調理法がまだまだ知られていない。料理や調理法が知られてないのだから、ビーツ自体の品質もまだまだ安定していない。都内のスーパーでは、灰汁が強すぎるものや、甘くもなく土臭いだけのハズレを掴まされることも多々ある。せっかくオーブンで90分もかけてホイル焼きにしたのに、一口食べて、ハズレだった時の悲しさったらないよ~!
 お店で生のビーツを見つけたら、大きすぎず、小さすぎず、一個200gから最大500gの範囲がイイ。そして、皮の表面がマゼンタ色に輝いていて、パーンと張りのあるものを選ぼう。泥で覆われ、マゼンタ色が隠れているものは古いもの、質の悪いものが多い。重さで言うと、500g以上、特に700g以上のものは灰汁が強すぎたり、味がしないことが多いので避けるべきだ。ビーツは冷蔵庫の野菜室など冷暗所なら数ヶ月は保存出来る。その場合はラップでしっかりくるんでから放り込むと良い。

 

tabilistaニシン
ビーツを格安で発見! 宮古の人たちはどう調理して食べるのだろうか? 聞き忘れた

 

 そして、調理法。皮のついたまま、たっぷりのお湯で一時間ほど茹でるのが一般的だが、僕はホイル焼きをおすすめする。茹ですぎると旨みと鮮やかな色が水に流れてしまうからだ。ホイル焼きなら、色も甘さもさらに濃縮される。180度のオーブンで60分~90分焼き、スッと金串が刺さるまで火が通ったら、室温になるまでそのまま冷ます。
 そこまで下処理すると、あとは簡単。皮は指でツルッとむけるし、沢庵のように包丁でタンタンタンと切れる。美味しいビーツなら、切り目に羊羹やゼリーのようなツヤがある。焼いた後、皮をむかないままなら、ジップロックなどに入れて冷蔵庫なら一週間、冷凍庫なら数ヶ月保存出来る。ただし、いったん冷凍すると繊維が壊れてしまうので、サラダではなくペーストなどに用いるしかない。
 一番オススメの保存方法は、沢庵のサイズに薄切りにしてから、酢と塩、水、粒胡椒、お好みで砂糖または蜂蜜を加えたピクルス液を作り、漬け込んでしまうことだ。これなら冷蔵庫に入れて、数ヶ月は保つ。

 

 

ロシア料理「毛皮を着たニシン」を作ろう!

 さて、こうして宮古島から最高品質のビーツをトランク一杯持ち帰ることが出来た。宿願の「毛皮を着たニシン」を作ろう。
 調理したビーツやニシン、ジャガイモを普通のお皿に盛り付けても十分に美しく出来るが、今回はさらに見た目を重視! 直径15cmの底が抜けるケーキ型を使って、ベリー系のショートケーキと見間違うような状態に仕上げよう!
 クラウンマッチェスと宮古島産ビーツ、北国と南国の食材のマリアージュ! 2つの異なる地域の食材の仲を取り持ってくれるのは北海道産のメークイーンとマヨネーズだ!

 

tabilistaニシン毛皮を着たニシンの材料を並べます。では作ります!

 

■毛皮を着たニシン
【材料】
クラウンマッチェス:150g(四切れ)
ビーツ:中1個(300g)
じゃがいも(メークイーン系):450g
マヨネーズ:100g
卵:2個
ディル:1パック

 

*ビーツ用マリネ液
リンゴ酢(穀物酢でも):100cc
塩:小さじ1
水:50cc

 

*クラウンマッチェス用マリネ液
リンゴ酢(穀物酢でも):100cc
塩:少々
砂糖:小さじ2
黒胡椒:少々
ディル:3本
月桂樹の葉:2枚

 

【作り方】
1.ビーツはアルミホイルで包み、180度のオーブンで60~90分焼く。金串がスッと通るまで焼き、室温に冷ましてから、皮をむき、厚さ5mmのイチョウ型に切り分ける。ビーツ用マリネ液をプラスティック容器に入れ、よく混ぜ合わせてから、ビーツを漬け込む。

 

tabilistaニシンビーツはアルミホイルで包み、180度のオーブンで60~90分焼く

 

tabilistaニシン
イチョウ型または沢庵型に切ったビーツをマリネ液に漬け込む

 

2.クラウンマッチェスを解凍している間に、クラウンマッチェス用マリネ液を横長のプラスティック容器に入れ、よく混ぜ合わせる。解凍したクラウンマッチェスを容器に並べ、冷蔵庫で1時間おく。

 

tabilistaニシン解凍したクラウンマッチョスをマリネ液に漬け込む。少々甘めにしたほうが美味しい

 

3.大きな鍋に塩ひとつかみ(分量外)を入れたたっぷりの水を沸かし、沸騰したらジャガイモを入れ、15分~20分、金串がスッと通るまで茹でる。茹で上がったら、ザルにあげ、流水をあて、冷ましてから、皮をむく。

 

tabilistaニシン

ジャガイモをたっぷりのお湯で茹でる。金串がスッと刺さればOK

 

4.ジャガイモを茹でている間に、小さな鍋にお湯を沸かし、卵を茹でる。10分で取り出し、冷水に漬けて殻をむき、白身と黄身を分け、金属のザルの目を使ってそれぞれを裏ごしする。

 

tabilistaニシン茹で卵は白身と黄身に分けて、金属の網やザルなどで裏ごしする

 

5.ボウルに3のジャガイモを入れ、マヨネーズを加え、ポテトマッシャーでよく混ぜ合わせる。

 

tabilistaニシン

ジャガイモはマヨネーズを加え、ポテトマッシャーでつぶす。マヨネーズは少なめにして、ヨーグルトと塩(分量外)を加えると、多少軽く仕上がる

 

6.クラウンマッチェスを取り出し、食べやすい大きさ、2cm幅に切り分ける。

 

tabilistaニシンクラウンマッチェスをマリネ液から取出し、食べやすい大きさに切る

 

7.ケーキ用型の底に、直径15cmの円に切ったオーブンシートを敷く。
8.1のビーツを5mm角のサイコロ状に切り、オーブンシートの上に平らに敷き詰める。

 

tabilistaニシンオーブンシートを敷いた金属製のケーキ型の底に5mm角サイコロ切りにしたビーツを並べる

 

9.ビーツの上に4のジャガイモを加え、金属型の8割の高さまでシリコンベラを使って平らに敷き詰める。

 

tabilistaニシンマッシュしたジャガイモを加え、上を平らに延ばす

 

10.ジャガイモの上に6のクラウンマッチェスを敷き詰め、シリコンベラを使って平らにする。

 

tabilistaニシン
ジャガイモの上にクラウンマッチェスを敷き詰める

 

11.金属型の上に大きな平皿をかぶせ、中身をこぼさないように一気に裏返す。型を外し、円形のオーブンシートをはがす。

 

tabilistaニシン大きな皿に乗せて、ひっくり返したら、ケーキ型を外す

 

tabilistaニシン
オーブンシートをはがす

 

12.すりおろした卵の白身、黄身をたっぷり散らし、さらに、荒みじん切りにしておいたディルを色よく散らして出来上がり。

 

tabilistaニシン仕上げに白身、黄身、刻んだディルを用意

 

tabilistaニシン
「毛皮を着たニシン」完成! クラウンマッチェスと宮古島産ビーツのマリアージュ!

 

tabilistaニシン
ケーキ状に切り分ける。我ながら見るからに美味そう!

 

*完成したら、冷蔵庫でいったん冷やすと切りやすくなります!
*クラウンマッチョスのマリネ液にざく切りにした新玉ねぎ一個分を足しても美味しい。

*クラウンマッチョス・スモークを使っても美味しく出来ます!

*クラウンマッチェスはコチラのサイトから直接購入できるそうです。⇒http://taishu-celeb.com/cm-salt/

 

 

*著者の最新情報やイベント情報はこちら→「サラームの家」http://www.chez-salam.com/

 

*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。次回もお楽しみに! 〈title portrait by SHOICHIRO MORI™〉

 

 

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サラーム海上(サラーム うながみ)

1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家。明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』『プラネット・インディア インド・エキゾ音楽紀行』『エキゾ音楽超特急 完全版』『21世紀中東音楽ジャーナル』他。Zine『SouQ』発行。WEBサイト「サラームの家」www.chez-salam.com

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