風まかせのカヌー旅

風まかせのカヌー旅

#45

グアムに着いたはいいけれど

パラオ→ングルー→ウォレアイイフルックエラトー→ラモトレック→サタワルサイパン→グアム
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文と写真・林和代 

 

 

DSC07135【Photo by Osamu Kousuge】

 

 

 サイパンを出た日の翌朝、前方に島影が見えた。

 多分、ロタだ。

 

 ロタ島は、サイパンが属する北マリアナ連邦の小さな島。

 サイパンからグアムへ向かう途中の、ちょうど真ん中あたりにある。

 

 ひと晩でロタが見えるなら、この区間のナビゲーションはかなり易しい部類だろう。夜は星で、昼は島伝いに進めばいいのだ。

 

 昨夜から曇り時々雨、と言った天候で、風も途切れがち。それでも、遅いなりに進んでいる。

 

 さて、船上はというと、やはり混んでいる。

 デッキのあちこちでマグロのように人が転がって寝ている。

 昨夜のマイス・パーティでみんなお疲れのようだ。

 

 

 お湯でも沸かそうと、2人ほどまたいでキッチンに近寄ると、すでに誰かが沸かしておいてくれた模様。 私は少し冷めかけたお湯でインスタントコーヒーを淹れ、タバコをくわえてぼんやりしていると、視界の端で何かが動いた。

 見れば、反対側にいるアルビーノが、細長い腕を大きく動かしながら、タバコを吸う仕草を私に向かって盛んに行っている。

 いつもなら大きな声で、カッツー、マイラップ! とバカみたいにおどけて私にタバコを要求するところだが、ゲストたちに萎縮しているのか、声は出さない方針のようだ。

 私も無言で、取りに来い、と、顔で合図。

 寄って来た彼にタバコを1本差し出すと、サタワル流の眉を上げるだけの「ありがとう」と「どういたしまして」を互いに無言でかわす。

 喋っても全然問題ないのだけれど、なんとなくそんな気分なのである。

 

DSC07153陽気なくせに、気がちっちゃい アルビーノは、この区間、大変よく働いた。【PHOTO by Osamu Kousuge】

 

 

 

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ディランとカデ。ゲームもお菓子も仲良く分けあっていたが、ディランは基本、先輩風を吹かせている。

 

 

 キャプテン席で仮眠をとっていたセサリオが目を覚まして、タバコを吸い始めた。

「キャップ、コーヒー飲む?」

 久しぶりに声を出して尋ねてみたが、彼もやはり無言で両眉をぐいっと上げただけ。

 私が黙ってコーヒーを差し出すと、ひと口飲んだキャプテンは、不意に大きな声でいった。

 

「ドウモアリガトウ ナンモスガット!」

 

 微妙な静寂を破ったこのフレーズは、何年も前の航海でセサリオの兄、トニーが私に向かって言い出したもので、それ以来マイスの定番となっていた。

 これを聞いたアルビーノがうひょひょと声を出して笑った。

 

 私たちが久しぶりに取り戻した、くだらなくも愛おしいひと時である。

 

 

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サイパンで手漕ぎのカヌークラブを持つナイスガイ、ディノの舵取り記念写真。

 

 

 この夜。つまりサイパンを出て二日目の夜。

 正面に光が見え始めた。

 いつも見るグローとは様子が違う。

 普通のグローは、島の上空に浮かぶUFOの母船みたいなぼんやりした光だ。

 しかし、今見えているのはもっと強くて鋭い光。

 

「あれはなんの明かり?」

 

 私がそう問うと、セサリオが答えた。

「アンダーソンだろう」

 

 アンダーソン? おー! そうか。

 グアムには米軍基地があったのだ。

 

 その軍用の光は徐々に明るく、鮮やかになり、やがて、その光に隠れていた普通の町の灯りも次第にぼんやりと見え始めた。

 軍用か民間かわからぬが、どこかへ飛び立つ飛行機も2、3目撃。

 さすがミクロネシア随一の都会、夜景と言って差し支えない、町のきらめきだ。

 そのきらめきに向かってマイスはゆっくりと進み、静かな湾内に滑り込むと、湾の真ん中あたりでアンカーが降ろされた。

 

 こうしてマイスは最終目的地に到着。

 パラオから二ヶ月半に渡る航海の終わりだった。

 

DSC07190
グアムの夜景【Photo by Osamu Kousuge】

 

 しかし、日時は5月21日の午前4時。

 オープニングセレモニーまで、ちょうど24時間ある。

 今は湾の中央にいるが、きっともうじき、港のどこに陸付するかグアムと話すのだろう。 

 夜が明けたら上陸だ!

 三々五々起き出してきた人々はみな、浮き足立っていた。

 誰もが上陸を待ちわびていた。

 しかし、キャプテンはこう言った。

 

「ここで、1日待つ」

 えーーーーーーーーー????

 

 言われてみれば、そうだった。

 離島のカヌーは、上陸すべき時が来るまで、1日でも一週間でも、ひたすらじっと待つものなのだ。

 

 私はお預けを食らった子犬の気分で、きらめく夜景を恨めしげにじーっと見つめた。

 

 そんな私の背後で、サイパン組が動き出した。携帯を取り出したのだ。

 確かにここなら繋がる。

 果たして彼らは、グアムの親族に電話をかけると、やがてモーターボートがマイスに駆けつけた。

 大量のビールを伴って。

 

 こうしてマイスは再びパーティ会場と相成ったのであった。

 


 


*本連載は月2回(第1&第3週火曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

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クルー1クルー2

 

 

 

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林和代(はやし かずよ)

1963年、東京生まれ。ライター。アジアと太平洋の南の島を主なテリトリーとして執筆。この10年は、ミクロネシアの伝統航海カヌーを追いかけている。著書に『1日1000円で遊べる南の島』(双葉社)。

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