究極の個人旅行ガイド バックパッカーズ読本

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#45

いまだから読みたい旅の古典

文・室橋裕和

 バックパッカーの世界にも、旅人たちに読み継がれてきた本がある。「古典」と呼べるような名作も多い。しかし旅の経験を重ねてきたけれど、そうした作品を意外に読んでいないという人もけっこういるのではないだろうか。
 旅に出られないいまだからこそ、「読書」に目が向けられている。この機会にゆっくりと読んでみてはどうだろうか。

 

 

編集部が選んだ旅の本8選


『何でも見てやろう』小田実(講談社)
 戦後、観光目的の海外渡航が一般の日本人にも認められるようになったのは1964年のことだ。それ以前はGHQや日本政府の規制により、ビジネスや留学など限られた目的でしか国外に出ることは許されなかった。
 1958年に旅立った小田実は、フルブライト基金によって渡米した留学生だった。その帰路、わずかな資金を手に、欧米やアジア22か国を歩いた。アメリカの知識階級からインドの最下層の貧民まで、好奇心をむき出しにして会い、話し、ともに食い、徹底した観察眼でもって文化を比較して論じながら旅を続けていくが、文体はあくまで軽妙、飄々としていて楽しい。
 彼のように「何でも見てやろう」という若者たちに支持されて、ベストセラーになった。海外貧乏旅行の先がけともいえる書だ。

 

01


『青年は荒野をめざす』五木寛之(文藝春秋)
 旧ソ連のナホトカまで船で渡り、シベリア鉄道で西へ……それは航空路線の発達していなかった1960年代、世界を目指す主要なルートだった。
 主人公のジュンもまた、この道をたどってヨーロッパにたどりつくと、現地でアルバイトを探し、旅の資金を稼ぐのだ。ジャズ・ミュージシャンになるという夢は、この旅でつかめるのだろうか。
 本書は小説ではあるのだが、当時の旅のスタイル、ノウハウが詰め込まれている。そのため参考書としても大いに読まれた。ヨーロッパで青春を過ごしたいと、ナホトカへの船に乗る若者を増やしたのだ。1999年には映画化もされた。

 

02

 


『印度放浪』藤原新也(朝日文庫)
 1970年代、この本は一部の若者たちの間に熱烈なインドブームを巻き起こした。生も死もすべてがあからさまなインドという世界。ガンジス川で焼かれていく死体や、その傍らで営まれる日常、凄惨なまでの貧困にありながらエネルギーを放つ物乞い。そういったインドの有り様をはじめて日本人にはっきりと見せた本かもしれない。生々しい写真も多くの読者に衝撃を与えた。
 この時期に欧米で起こっていたヒッピー・ムーブメントはたくさんの若者をインドに向かわせたが、そこへ本書を携えた日本人旅行者も合流していくことになる。

 

03


 

『印度放浪』藤原新也(朝日文庫)
 1980年代、バンコク・チャイナタウン。当時は魔窟とも呼ばれたその街に「楽宮旅社」という安宿があった。日本人旅行者のたまり場であり、旅と買春、ドラッグに明け暮れる連中がたむろしていたことでも知られている。その楽宮旅社を舞台にした、行き場のない若者たちの青春記だ。
 カオサン通りがバックパッカーの聖地になる以前、チャイナタウンに旅行者が集まっていた時代のバンコクがいきいきと活写されている。そしてバックパッカーの誰もが抱えるモラトリアムや将来への不安、それでも旅を続けたいという気持ちを見事に表現した「あの落書き」はいまでも語り草になっている。

 

04

 

『深夜特急』沢木耕太郎(新潮文庫)
 もはや語る必要もないような旅のバイブル。多感な青年期に読んでしまうと大いに影響され、「深夜特急」の乗客となって旅に狂い、人生を踏み外してしまう麻薬的書とも言われた。そうして旅の世界に足を踏み入れて以降、年を経てから再読しても、やはり年齢相応の味わいがある。
 物語の中に登場する街をたどったり、宿に泊まってみるのも面白い。香港やコルカタなど沢木氏が夢中になり歩き回った街と、いまの姿とを読み比べてみると、時代の移り変わりもよくわかる。若き沢木氏が1年あまりをかけて挑んだユーラシア大横断の旅は、現代のバックパッカーたちも「いつかは」と夢想する憧れのルートだ。

 

05

 


『12万円で世界を歩く』下川裕治(朝日文庫)
 インドネシアで赤道を越える。バスでアメリカを一周する。ヒマラヤまでのトレッキング。そのすべてを「12万円」でこなしてこい、と指令を受けて、下川氏は旅立つ。航空券もコミなのである。当然、旅費に困る。だから極めつけの安宿に泊まり歩き、食費を節約し、少しでも安いチケットを探して右往左往する。その実録記はいつしか、バックパッカーたちの参考書ともなっていった。
 それから30年、かつてのルートを再訪して、今度はいくらかかるのか、現地はどう変わったのかをルポした『12万円で世界を歩くリターンズ』(朝日文庫)が2019年に発売となっている。往年のファンなら必見。

 

06


『旅行人』
 日本人にバックパッカー文化のようなものを定着させたのは、雑誌『旅行人』だろうと思う。一般のガイドブックが絶対に扱わない地域を詳細に取材した特集、読者が投稿するマニアックな国境情報、個性豊かな書き手や描き手、チベットや中国などの街の超詳細マップ……それはあの時代、日本人も多い安宿に置いてあった「情報ノート」を洗練させ、旅人の夢を詰め込んだような雑誌だったと思う。
 残念ながら2011年発行の165号を持って休刊。現在バックナンバーも数少なく、貴重な資料となっている。古書店や一部書店、ネットなどで一部が見つかるだろう。またバングラデシュやインド北東部、チベットなどディープな地域のガイドブックも刊行している。
『旅行人』の代表である旅行作家、蔵前仁一氏『ゴーゴー・インド』『ゴーゴー・アジア』は、ハードなことも多い旅の日々を軽妙なイラストとエッセイで描き、やはりバックパッカーたちに読み継がれている。

 

07


 

『アジアのディープな歩き方』堀田あきお(旅行人)
 会社を辞め、はじめてのバックパッカー旅行に出てきた主人公・杉田はバンコクに降り立つ。得体の知れない日本人旅行者たちに翻弄され、チェンマイでは少数民族と生活をともにし、ミャンマーでは旧日本軍が刻んだ傷跡を目の当たりにし、軍事政権の現実にもぶつかる。そのたびに杉田青年は笑い、悩み、泣き、少しずつ旅人として成長していくのだ。
 はじめての旅で、全身いっぱいで感じるドキドキとワクワク、それに歴史や政治や貧困に対するセンチメント。バックパッカー旅の魅力がすべて詰まったコミックだ。

 

08

 

 

*本連載は月2回(第1週&第3週水曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

*タイトルイラスト・野崎一人 タイトルデザイン・山田英春

 

 

『バックパッカーズ読本』編集部

格安航空券情報誌『格安航空券ガイド』編集部のネットワークを中心に、現在は書籍やWEB連載に形を変えて、旅の情報や企画を幅広く発信し続けている編集&執筆チーム。編著に究極の個人旅行ガイド『バックパッカーズ読本』シリーズなど。

 

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