ステファン・ダントンの茶国漫遊記

ステファン・ダントンの茶国漫遊記

#44

私を支える仲間たち8〜中村先生に私のことを聞いてみた

ステファン・ダントン

 

 

 
  私と同様に「日本茶を復権させ普及させる」という目的を持ち、科学者の立場からアプローチし続け、現在では教育者として大学で教鞭をとっている中村先生と出会えたことで、私は自信を持ってフレーバー茶づくりができるようになった。
 はじめて出会ったときから変わらず、いつどんなときでも相談に乗ってくれて、発言の場所も与えてくれる先生は「なんで私と付き合ってくれるのだろう? どこを評価してくれているのだろう?」とふと思った。そこでこの連載にかこつけて、先生が私について思うところを率直に語ってもらうことにした。
 

 

 

 

ステファンとの出会い

 

 私は静岡県農林技術研究所茶業研究センター(旧・茶業試験場)というところに長く勤めていたのですが、そこで茶の需要拡大やさまざまなお茶のあり方を模索していたころ、2008年だったと思いますが、ステファンに講演の依頼をしたんです。そのころ「日本茶に香りをつけるおもしろいフランス人」は静岡でもかなり有名でしたし、日本茶の新たな見方が参考になるだろうと思ったんです。
 実際会って話してみると、実におもしろい視点を持っているし、それをアピールする熱量もすごい。印象的な人物でした。
 折しも、私が設立時に関わっていた世界緑茶協会主催の世界緑茶コンテストの審査員にぴったりだと感じました。世界緑茶コンテストは、もともとのフロンティアコンテストという名称が示す通り、今までにないお茶づくりを評価するもので、しかも荒茶ではなく仕上げ茶、つまり商品としてのお茶の品評会です。だから茶業界の主流にいる人だけでなく、新しいものに目を向ける人、商品のマーケティングや販売戦略的な視野から審査する人が必要だったんです。それに、新しい時代を築く上では、アウトサイダー的な存在が必須なんです。ステファンはそれにぴったりな人材なんです。
 新しいことをする人やアウトサイダーが足を引っ張られがちなのはどこの世界も一緒ですが、お茶業界も同様で、日本の茶業界、しかも地元静岡にいる人がステファンのように先鋭的な活動や発言をするのは難しい。けれどもステファンは外国人だし、東京という離れた場所に拠点を置いていることが緩和剤になる。アウトサイダーとしての利点を活かして存分に発言してもらって業界に刺激を与えよう。そんな風に考えていました。
 

 

 

2008世界緑茶コンテストにて(中村先生)

2009世界緑茶コンテストにて

上/2008世界緑茶コンテストで品評する中村先生。下/2009世界緑茶コンテストにてー中村先生と一緒に茶の品評をする(※2枚とも世界緑茶協会HPより)。
 

 

 

フレーバー茶開発への評価

 

 それからずっと、フレーバー茶の開発を中心としたステファンの日本茶への取り組みには注目していましたが、本格的に「お!これは花開く可能性のある仕事だ!」と思ったのは2009年のことでした。
 静岡空港と那覇空港との直航便就航を記念して、私は静岡茶をPRする講演のために、ステファンは静岡と沖縄を結ぶオリジナルフレーバー茶「黒糖ほうじ茶」のお披露目のために出席していました。「黒糖ほうじ茶」の開発の段階でも少し相談に乗っていましたが、完成品はすっきりしたほうじ茶と沖縄の黒糖を合わせ、沖縄らしさと透き通った感覚がよく表現されていました。もし、この開発が彼でなく茶業界の本流に任されていたら、こんな商品は出てこなかったでしょう。彼だからこそ、アウトサイダーだからこそ出てくる発想にハッとしました。「香りをつけた日本茶なんて」と本流にいわれる中、チャレンジするのは大変なこと。しかも、ほうじ茶そのものの味わいはきっちり生かしている。「ベースは日本茶そのものにあるんだぞ」という確固としたものを感じました。「日本茶をもっと飲ませるためにフレーバー茶をつくっているんだ」といつもいっている彼の発言は本物だ。貴重な人材だと感じました。
 彼と本当に打ち解けたのはこの式典の後だったでしょうか。宴席で彼がつくったカクテルが忘れられません。「黒糖ほうじ茶」で泡盛を割って糸唐辛子を浮かべたカクテルは、見た目からも味からも沖縄と静岡を連想させるものでした。楽しく日本茶談義をしながら飲んだカクテルは格別で、「ずっと付き合いを続けていきたい人物だ」と思ったものです。
 

 

 

「黒糖ほうじ茶」でステファンが作ったカクテル

黒糖ほうじ茶でつくったカクテル。

 

 

 それからも、ステファンが全国各地から地域独自のオリジナルフレーバー茶開発を依頼されると相談の電話がかかってきます。「今、山梨にいるんだけど、ぶどうジュースとお茶を合わせることはできるかな?」とか「兵庫にいるんだけど、ハーブと日本茶を合わせる合理的な方法はあるかな?」とか、現地での打ち合わせの合間にアイディアを思いついた瞬間にちがいないタイミングで電話をかけてくる。その熱量はすさまじいものです。
 本当に全国各地を飛び歩いているようで、何年か前に熊本県水俣市で開かれたお茶サミットに出席したら、ばったりステファンと会って「こんなところまで来ているんだ」と驚きました。
 目的があれば誰にでも躊躇せずにアプローチする、逆に求められたらそこへ飛んでいく。そこに彼らしさがあると思います。
 

 

 

日本人を知る外国人として

 

 ステファンは「外国人」であるということを賢く利用していると思います。非常に積極的に、図々しくどこにでも入っていく。ある時には招待もされていない結婚式にサプライズとして参加したと聞いて驚きました。「お祝いしたいという気持ちを行動に移す」外国ではよくあることのようだけど、日本では常識外れの行動でしょう。彼の賢いところは、日本人の行動様式を理解していると同時に、「外国人だから」許される範囲もわかっていて、そこを上手にコントロールして行動しているところだと思います。
 仕事においても、「外国人」であることを前面に出して好き勝手なことをする。「アウトサイダーだから」、と許される範囲を考えて、茶業界の本流に物申していくが、自分はそこには入っていかない。日本茶を扱っても、抹茶には手を出さない、日本文化の真髄のようなところにもタッチしないのもそういう理由だと思います。本流に染まってしまったら、自分らしくできない、身動きが取りにくくなることを知っているんです。

 近年、お茶業界に入ってくる外国人も多くなりました。日本文化が好きで日本茶が好きで、心まで日本人になりきろうとする人もいます。外から本流に入ろうとするのは、なかなか難しいことです。ステファンは、日本茶業界の中で本物、本流を見てきた中で、自分の個性をつぶさないように自由に振舞える方法を選択してきたのだろうと思います。どちらのやり方であれ、日本人が日本人らしくなくなっている今、彼らは日本人が忘れているところ、日本のすばらしさを改めて私たちに突きつけてくれる大事な存在です。

 私自身が茶業界どっぷりではなく、少し俯瞰的に業界を見る立場だからか、業界内外のどんな人とも付き合います。特に、最近の本流は遅れをとっているから刺激が必要です。だから、私はステファンのような刺激的なアウトサイダーと付き合うんです。勉強になるんです。
 


 

 

ステファンへのメッセージ

 

 日本茶業界の新しい時代をつくるには、いろんな人がいろんなことにチャレンジすればよい、と私は思っています。その中のいくつかが残ればよい。それが本物です。目新しさだけですぐに終わってしまう事業もあるでしょうが、ベースがしっかりしていれば地道に長く続く可能性がある。
 日本茶業界の振興のためにステファンが果たす役割は大きいと思います。先頭で足を引っ張られながら奮闘している姿に教えられることは多いし、この先もそうであってほしいです。

 台湾でフレーバー茶を展開するということですが、成功の鍵は、日本発のフレーバーティとして日本らしさそのものを売っていくのか、台湾のブームに迎合したものを売るのかにかかっているように思います。私見ですが、相手に合わせた場合は、一時はブームになるかもしれないけれど、次の商品が出てきたらおしまいになるのでは。一方、日本の風土、香り、考え方をベースにした商品であれば、すぐには受け入れられないかもしれないが、長続きする要素を持っていると思います。ブームというのはころころ変わるもの。しっかりベースを持ったものはブランドになっていく可能性が高い。長続きする。
 国内でも同じで、夏みかんや桃のような日本人に馴染みのある、日本の風土に見合ったベーシカルなものは長持ちしていく。一方、「遊び心」のある焼き芋とかコーラのようなフレーバーはブームになるかもしれないが、あくまでもベーシカルなものを引き立てるもの。この2面的な展開を意識的にしていくことが長続きのコツだと思います。なんで受けるのか、なんでリピーターの多寡が出るのか、それはベースがあるものとないもののちがいだと思います。ステファンにはそこを見極めて商品展開をしてほしいです。

 また、ステファンは地域活性のための地域オリジナルフレーバー茶開発にも取り組んでいますが、ここでも地域活性の本当の意味を見極めてほしい。効率を考えて地域の色が出ないような等級の低いお茶に香りを付けては、地域全体の経済活動としては儲かるかもしれないけれど、生産者のためにならない。本当の地域活性、生産者活性を考えるならば、その地域を代表するお茶に良質なフレーバーをつけてほしい。そういうものこそ長持ちし、ブランドになっていくものだから。
 スペシャルなものは高価な憧れの品でいい。一方、日常茶飯事に飲む茶は適当な価格で飽きのこないものがよい。それら両者が同時にあって、上手に仕分けできていれば最強。私はそれを期待している。

 そして、誰にでもわかりやすくステファンの視点を発信していってほしい。
 先日お願いした特別講義も学生から「経営的な観点、新鮮なものの見方、幅広い考え方、キレのよい話」が刺激的だと評判がよかった。今度は200人の教室を用意しようと思っている。ステファン、これからもよろしく。
 

 

2018年12月静岡県立大学での特別講義でのステファン

2018年12月、静岡県立大学で特別講義をする様子。

 

 

*この連載は毎月第1・第3月曜日(月2回)の更新連載となります。次回の更新は2019年3月4日となります。お楽しみに! 

 

写真/ステファン・ダントン    編集協力/田村広子、スタジオポルト

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ステファン・ダントン

1964年フランス・リヨン生まれ。リセ・テクニック・ホテリア・グルノーブル卒業。ソムリエ。1992年来日。日本茶に魅せられ、全国各地の茶産地を巡る。2005年日本茶専門店「おちゃらか」開業。目・鼻・口で愉しめるフレーバー茶を提案し、日本茶を世界のソフトドリンクにすべく奮闘中。2014年日本橋コレド室町店オープン。2015年シンガポールに「ocharaka international」設立。著書に『フレーバー茶で暮らしを変える』(文化出版局)。「おちゃらか」http://www.ocharaka.co.jp/

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