料理評論家・山本益博&美穂子「夫婦で行く1泊2食の旅」

料理評論家・山本益博&美穂子「夫婦で行く1泊2食の旅」

#43

金沢

文と写真・山本益博

 

金沢;片折まぐろごはん

 

 

 

金沢の新しい料理店
日本料理とフレンチレストラン

北陸新幹線が開通してから、金沢は東京からまことに近くなりました。長野を過ぎるとトンネルが多くなりますが、富山に着いたと思うと、金沢はもうすぐです。
金沢駅前の繁盛ぶりも目を瞠るものがあります。私が京都をはじめ、札幌、名古屋、大阪、広島などでいつも泊まるホテル「ダイワロイネット」も、駅からわずか3分のところにできていました。
「金沢」は小京都と呼ばれてきたほどに、京都の工芸、料理の文化の影響を受けてきました。料理は何軒もある名料亭がその粋を競い、技を磨いてきましたが、反面、いまだ伝統に寄り掛かることも少なくなく、有名な「かぶらずし」や「鴨の治部煮」なども斬新な料理に生まれ変わることがほとんど見受けられません。いまは、新鮮で質の高い魚介を使って握るすし屋さんの人気が高くなってしまっているほどです。
ところが、つい最近、食いしん坊の仲間から新しい料理屋の噂を聞きつけました。これは、機会を作って出かけなければと、若い夫婦が独立して店を開いて一年ほどになるという「片折」へ足を運びました。店は浅野川の川べりで、ロケーションは誠に結構なのですが、夜はほとんど人影が見当たりません。
席に案内され、ご主人が挨拶もそこそこに料理を作り始めました。出汁を引く、その所作や、庖丁さばきが、とても簡潔で、キレがいい。ですから、料理の出来栄え、味わいは、期待を裏切りませんでした。「旬」の筍など、すべて目の前で初めから調理してくださいました。
話を伺う段になって、地元金沢の名料亭で永年修業を重ねた料理人であることがわかりました。「片折」はご主人の本名でした。その彼がぽつりとこう言いました。「学んでいた時から、自分の料理を作りたいとずっと思ってやってきました」と。この言葉を聞いて、私は心の中で、「これから応援しよう!」と誓いました。伝統のある金沢で「自分の料理」を生み出すことは、至難の業ですが、しかし、何より大切なのは、伝統料理をそのまま引き継ぐのではなく、「自分の料理」を生み出すことなのですから。

 

 

金沢;片折造りかれいといか

かれいとイカのお造り
 

 

金沢;片折まぐろごはん

まぐろごはん

 

 

金沢片折主人

「片折」のご主人

 

 

翌日の昼にでかけた「ぶどうの木」でも面白い経験をしました。いま、フランスでお気に入りのベスト3に入る1軒が、ノルマンディー、モントルイユの「ラ・グルヌイエール」です。そこでみっちりと修業を重ねた砂山さんが日本へ戻り、レストラン「ぶどうの木」のシェフに就いて、料理を作っています。
「ラ・グルヌイエール」のアレクサンドル・ゴーティエシェフの素材に最大の敬意を払いながら、調理にも盛り付けにも斬新さを感じさせるフランス最先端の料理哲学を正しく引き継いでいることが、砂山シェフの皿から伝わってきます。東京でも見かけることが少ない、これぞローカルガストロノミー。


 

 

ぶどうの木;菜園のサラダ

菜園のサラダ

 

 

ぶどうの木;チョコレートのデザート

チョコレートのデザート

 

 

現代最新の美味しい料理をいただきながら、これを金沢のレストランにやってくるお客様に理解してもらうのは並大抵のことではないぞ、とも思えました。
しばらく訪れないうちに、金沢の料理界では新しい若い力が躍動し始めていることを実感した旅となりました。
 

 

次回は「ノルマンディー・モントルイユ」と「パリ」です。

 

 

 

■「片折」

 

住所/金沢市並木町3-36
問い合わせ/076-255-1446
営業時間/12:00~14:30(水・日曜日)17:00~19:30、20:00~22:30(夜は二部制)
定休日/不定休

https://kataori.jp

■「オーベルジュぶどうの木」

 

金沢市岩出町ハ50-1(本店敷地内)
問い合わせ/076-258-0204
営業時間/11:30~LO 14:00 17:30~LO 20:30
定休日/不定休

https://www.budoo.co.jp

 

*この連載は毎月25日に更新です。

山本さん顔

山本益博(やまもと ますひろ)

1948年、東京・浅草生まれ。早稲田大学第ニ文学部卒業。卒論が『さよなら名人藝―桂文楽の世界』として出版され、評論家としてスタート。幾度も渡仏し三つ星レストランを食べ歩き、「おいしい物を食べるより、物をおいしく食べる」をモットーに、料理中心の評論活動に入る。82年、東京の飲食店格付けガイド(『東京味のグランプリ』『グルマン』)を上梓し、料理界に大きな影響を与えた。長年にわたる功績が認められ、2001年、フランス政府より農事功労勲章シュヴァリエを受勲。2014年には農事功労章オフィシエを受勲。「至福のすし『すきやばし次郎の職人芸術』」「イチロー勝利への10ヶ条」「立川談志を聴け」など著作多数。 最新刊は「東京とんかつ会議」(ぴあ刊)。

 

 

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