台湾の人情食堂

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#43

下町情緒と穴場グルメ“台北駅裏”の歩き方

文・光瀬憲子  

 桃園空港から市内までこれまでずっとバスを利用していたが、今年2月、空港MRTが開通した。電車好きの日本の旅行者にとってこれほどうれしいことはない。桃園空港の地下からすぐにMRTに乗り込み、直達車(急行)ならば台北駅までわずか35分。料金は160元。市内のMRTと共通の悠遊卡(ゆうゆうカード)が使える。

 空港MRTが到着するのは台北駅の北側の一角だ。地下街を出るとそこは「後車站(ホウチャージャン=駅裏)」と呼ばれるエリア。筆者が『台湾一周!安旨グルメの旅』(双葉文庫)の取材を始めた2014年頃から、このエリアに注目している。

 

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台北のシンボル、新光三越ビルを駅裏から望む

 

 駅裏は下町らしさがたっぷりで、70年代を想像させるカバン屋さんや雑貨店などがのんびり商売をしている。戦後すぐの頃は、地方都市に暮らす人々が台湾鉄道に乗り、台北で食料品、衣類、日用品などを求めた。食料品街として栄えたのは迪化街、そして雑貨や衣類の問屋街として栄えたのがここ、後車站である。いまでもその名残で「華陰街商圏」と呼ばれるショッピングエリアがあり、周辺には美味しい屋台や食堂も多い。

 

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駅裏の太源路と重慶北路のあいだの路地にある朝市。小規模だが地元の人々で賑わう。ひときわ目を引くのは店頭に豚のさまざまな部位をぶら下げたお肉屋さん

 

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駅裏の市場には果物店が多い。24時間営業の店もあるので旬のフルーツがいつでも楽しめる

 

 

ビギナーでも入りやすく、味はしっかりの『福珍』

 空港から台北市内に入る。1食目は何を食べよう? そんなときは、華陰街の『福珍』がおすすめだ。1970年代に屋台から始まり、2007年に今の食堂スタイルとなった。こぎれいで台湾初心者でも入りやすい店構えだが、味はとってもレトロな台湾風。お昼どきは地元の人々で満席になる。

 一番の売りは排骨酥(パイグースー)と呼ばれる骨付き豚肉の揚げたものをスープに入れた排骨酥湯(パイグースータン)。排骨酥は甘辛いスープと一緒に煮込まれることが多いのだが、この店は清湯という澄んだスープがベースになっているため、さっぱりしていて飲みやすく、排骨酥の味がより引き立つ。麺もプラスした排骨酥湯麺はボリュームたっぷり。数人でシェアしてちょうどいいくらいだ。

 

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『福珍』の排骨酥湯麺は透明なスープ。あっさりしていて食べやすい

 

 ほかにも魯肉飯、茹でイカ、カレーライス、青菜などなど、台湾らしい屋台料理がそろっている。また、滷味(豚モツの醤油煮込み)、皮蛋(ピータン)、キュウリの漬物といった小皿料理も充実。近隣の地元客に人気のある老舗なので味はお墨付きだ。

 

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『福珍』はもとは人気屋台だったが、2007年に現在のような店を構え、さらに人気店に

 

 

韓国のチヂミやホットッにも似たおやつの行列屋台

 駅裏を散策していると、『三多屋』という日本食レストランの目の前で行列屋台を見つけた。女性ふたりがマスクにエプロン姿で販売しているのは蔥油餅(ツォンヨウビン)。小麦粉にネギを混ぜ込んだものをピザ生地のように丸く伸ばし、油で揚げたもので、台湾を代表する小吃のひとつだ。韓国のチヂミにも似ている。座って食べるのではなく、食べ歩く軽食で、台湾中高生のおやつとして定着している。

 大きな揚げ油の鍋でいくつもの蔥油餅を同時に揚げていくのだが、ふわふわの生地を油の中で泳がせながら、伸ばしていく手さばきが見ていて楽しい。玉子を挟む場合はプラス10元。一緒に油で揚げた目玉焼きを挟むと、ぐっとボリュームがアップする。

 

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中はジューシー、外はカリカリの蔥油餅。揚げたては熱いので火傷に注意

 

 ふっくらと揚がった生地は、受け取ってすぐにかぶりつくと火傷をしそうなほど熱い。好みで甘辛いソースなどを付けると味が締まる。中はふわふわ、外はカリカリの生地にじゅわっと油が染み込んでいて、なんとも幸せなおやつだ。とろりとした半熟玉子が生地に絡むとさらに幸福度はアップする。

 

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行列に並ぶあいだ、蔥油餅の製造過程を見るのも楽しみのひとつ

 

 

野暮ったさが愛おしいミルクドーナツ

 蔥油餅屋台のすぐそばに、私たちを童心に帰らせてくれるおやつがある。『脆皮鮮奶甜甜圈』(ツエピーシェンナイテェンテェンチュエン)のドーナツだ。

 小さな店舗の奥でドーナツを揚げており、窓口で購入して持ち帰る、というスタイル。蔥油餅と同様、食べ歩きやお土産を前提としているわけだが、とにかく窓口の行列がすごい。揚げ上がりの時間が決まっていて、その時間通りに店の前に行くとすでに行列ができている。時間を10分でも過ぎると品切れという人気ぶり。

 台北市内に2つの店舗を持つ『脆皮鮮奶甜甜圈』の看板商品はシュガーコーティングされたミルクドーナツ。手作り感たっぷりのちょっといびつな形、絶妙な砂糖の甘み、ふんわりした生地とカリカリっとした揚げ具合。何をとってもすばらしいいドーナツだ。アメリカや日本のチェーンのドーナツとは違う、どこかあか抜けない、懐かしい美味しさとでも言おうか。

 

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絶妙な甘さのシュガーコーティングされたミルクドーナツ。揚げ上がりの時間をチェックしておこう

 

 このドーナツも、蔥油餅と同様に揚げたてを食べたい。旨味が5割増しになる。また、ベーシックなミルクドーナッツ以外に、中にカレー、チーズ、あんこ、芋あんなどを入れた揚げパンもある。カレーやチーズは一瞬で売り切れるので、かならず揚げ上がり時間の前に並んでおこう。

 

 

台北駅の目の前、カジュアル&フレンドリーなゲストハウス

 台北駅裏の宿といえば『スター・ホステル』という大型ドミが人気(本連載♯40参照)だが、筆者のお気に入りは同じオーナーが経営する『アパートメント10』というゲストハウス。

 スター・ホステルがグループや家族でワイワイ楽しむ宿だとすれば、こちらは一人旅にぴったりなコンパクトで親しみあふれる宿。スタッフとの距離が近く、みんなとっても親切。1ベッドのドミトリーと、2~3人で泊まれるツインやダブルルームもある。

 

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アパートメント10のダブルルーム。無駄のないすっきりとした内装はオーナーのこだわり

 

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一人ひとり間仕切りのカーテンやロッカーがあるのでプライベートもしっかり確保

 

 シックな雰囲気のリビングには大窓があり、ここから台北郊外へと向かう高架橋の夜景が見える。リビングの大きなテーブルの一角で仕事をしていると、目の前に座った女性が片言の英語で話しかけてきた。

「夜市でケーキを買ったんだけど、ひとりじゃ食べきれないから一緒にどう?」

 美味しそうなチーズケーキだったので、遠慮なくいただくことにした。出身地を尋ねると香港だという。

 2人でケーキを食べていると、今度は別の女性がやはり夜市で買ったというフルーツを持ってやってきた。香港の女性と親しげに話しているので、友達どうしで旅行に来たのかと思ったら、昨日このドミで出会ったばかりだという。 

 私たちは小一時間リビングで夜市の食べ物や観光スポットのことを雑談した。このドミは一人旅をする30代から40代の女性に人気がある。もちろん、男性もいるが、みな分別をわきまえた常識人という感じ。この宿の立地や規模、空間の使い方やレトロシックな内装など、いろいろなものが絡み合って、旅行者どうしのちょうどよい距離感や居心地のよさを生んでいるような気がする。

 

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季節によって旬のフルーツを提供してくれる無料の朝食バイキング

 

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「朝ごはんは外で」と決めていてもつい誘惑に負けそうになる『アパートメント10』の朝食バイキング

 

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親身になって旅行者を助けてくれるスタッフ。英語や日本語ができる人も

 

●『Apartment10』(アパートメント・テン)

台北市重慶北路一段1號10F-1

http://apt10f.com

桃園空港からMRT台北駅下車後、台北駅地下街を歩き、Y17出口の目の前(本連載♯40参照)。荷物が多いときはエスカレーターがあるY13出口へ。ダブル・ツインルーム1780元~ トリプルルーム 2500元~ ドミトリー1ベッド500元~

 

 

 

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*本連載は月2回(第1週&第3週金曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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著者:光瀬憲子

1972年、神奈川県横浜市生まれ。英中日翻訳家、通訳者、台湾取材コーディネーター。米国ウェスタン・ワシントン大学卒業後、台北の英字新聞社チャイナニュース勤務。台湾人と結婚し、台北で7年、上海で2年暮らす。2004年に離婚、帰国。2007年に台湾を再訪し、以後、通訳や取材コーディネートの仕事で、台湾と日本を往復している。著書に『台湾一周 ! 安旨食堂の旅』『台湾縦断!人情食堂と美景の旅』『美味しい台湾 食べ歩きの達人』『台湾で暮らしてわかった律儀で勤勉な「本当の日本」』『スピリチュアル紀行 台湾』他。朝日新聞社のwebサイト「日本購物攻略」で訪日台湾人向けのコラム「日本酱玩」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/  近況は→https://twitter.com/keyword101

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