越えて国境、迷ってアジア

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#43

【番外編】「日本の出入国記録調査書」を法務省に申請してみた

文と写真・室橋裕和

 これまでにどれだけ海外旅行を重ねてきたのか。どのくらいの回数、日本を出入国してきたのか。法務省ではそんな情報を開示してくれる制度がある。数字にもこだわりたい旅マニアとしては、これは申請するしかないだろう。

 

 

霞が関の中心に挑む

 千代田区霞が関1-1-1。どうだといわんばかりのアドレスに周囲を圧してそびえる法務省。周囲には警視庁、警察庁、検察庁などもある、まさに日本の司法の中心地といえる。
 それだけに警備も厳重で、至るところに警官が配置され、怪しい者がいないか目を光らせている。恥ずかしながら僕はアラフォー独身フリーの出版稼業、平日昼間に汚い格好で官庁街をうろつく姿はどう見たって立派な不審者であろう。職務質問されるんじゃないか、テロ容疑で捕まるんじゃないかと、やましいこともないくせにビクビクしていたのだが、どうにか厳しい警備をくぐりぬけた。
 なんでまた法務省なんぞに来たのかというと、「出入(帰)国記録に係る開示請求」をするためである。これまでの日本の出入国の記録を、すべてデータ化していただけるのだ。
 今年の夏場にツイッターやまとめサイトで局所的に盛り上がり、旅マニアの間で話題になった。僕もいったい、日本をどのくらいの回数出入りし、またどのくらいの年月を海外で過ごしているのか知りたく、ふだんは足を踏み入れることもない霞が関にやってきたというわけだ。

 

 

開示請求費用は400円

 空港のごとき金属探知機ゲートに出迎えられ、手荷物を検査されると、正面にいる受付嬢から誰何の声がかかる。お前は何者でいったいどこの部署に行くのか。はじめにここで申告しないと館内を歩けない仕組みになっていた。よけいなことはさせない、目的の場所以外には行かせない、そんな強い意志を感じる。
 入館バッジをありがたく押し戴いて、指定された個人情報保護窓口に向かうと、そこにはすでに先客がいた。なにやらぶつぶつと係員に「出入国の……」なんて話しているので、僕と同類のマニアだろう。なぜだか悔しさを感じてしまう。
 申請にあたっては料金400円が必要だ。これは300円分の収入印紙と、出入国記録の郵送代である。地下にある古めかしい売店で収入印紙を買い求め、身分証明書、申請用紙を添えて窓口に提出する。淡々とメカのように書類を処理していくお役人さまにちょっと聞いてみた。
「この手続きする人、最近増えてませんか?」
 が、
「そういえば、多いかもしれませんね」
 と、目も合わさずしめやかに呟くのみ。
「ネットでちょっと話題になってるんですよ」
「あ、そうですか」
 あくまでそっけない。下々の者とは極力会話をせぬように、なんてお達しが出ているのかもしれない。極めて無機質な法務省ツアーなのであった。

 

 

12年2か月という日々を思う

 それから2週間ほど経ったろうか。申請のことなんかすっかり忘れていたある日、我がボロアパートに出入国記録が届いた。さっそく開封してみると……。
「保有個人情報の開示をする旨の決定について」と重々しく記され、法務大臣・上川陽子先生のハンコまで押された、なかなか本格的な書類なのであった。
 出入国記録は、年月日から搭乗した飛行機の便名や搭乗地まで記されたもので、それによると僕の初海外は1993年8月25日。成田から北京に向けて旅立っている。遠い青春の記憶が蘇る。と、同時に、20数年間も海外をほっつき歩いてふらふら生きてきてしまったことに慄然とする。
 記録はパスポートごとにまとめられていた。はじめて取得したパスポートで渡航した回数は5回。しかしその次に更新したパスポートから怒涛のように出入国は増えていき、しかもその目的地はバンコク、デリー、イスラマバード、カルカッタ、クアラルンプール……アジアの薄汚い都市ばかりの羅列に、我ながら恥ずかしくなってくる。
 そして2003年11月23日のバンコク行きからは、プッツリと帰国の記録がなくなってしまう。タイに移住してから10年の間で、日本に帰国したのはわずか3回だけであった。親も泣くわけだ。
 数えてみると、これまでの人生で日本を出入国した回数は36回だった。意外に少ないように思う。ただしこれはあくまで、日本の出入国の記録であって、渡航先からさらに向こうをどう旅したかは記載されていない。
 で、ひたすらに面倒臭かったのだが、出入国の日付から過去に海外で過ごした時間を計算してみたところ、12年2か月という結果であった。人生の1/4以上をアジアに捧げてきたことになる。もう後戻りのできないところまで旅してきてしまったのだと、改めて実感させられた。
 とはいえ自分がどう旅してきたかを振り返るのはけっこう楽しいもので、僕ならこの記録を眺めるだけで酒が飲める。過去のパスポートをなくしてしまった人、海外出張の多い方など、ライフログとして取り寄せてみてはどうだろうか。実際に法務省まで行かずとも、郵送による手続きも可能だ。

 

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なかなか立派な書類が届いた。日本の行政サービスのキメ細かさに感動

 

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航空会社や利用した空港、港まで記載されているので旅の思い出がありありと蘇る

 

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ドンムアン空港行きエアアジアの多さに自らの貧困を恥じる


 

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*国境の場所は、こちらの地図をご参照ください。→「越えて国境、迷ってアジア」

 

*本連載は月2回(第2週&第4週水曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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室橋裕和(むろはし ひろかず)

週刊誌記者を経てタイ・バンコクに10年在住。現地発の日本語雑誌『Gダイアリー』『アジアの雑誌』デスクを担当、アジア諸国を取材する日々を過ごす。現在は拠点を東京に戻し、アジア専門のライター・編集者として活動中。改訂を重ねて刊行を続けている究極の個人旅行ガイド『バックパッカーズ読本』にはシリーズ第一弾から参加。

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