究極の個人旅行ガイド バックパッカーズ読本

究極の個人旅行ガイド バックパッカーズ読本

#42

旅先で病院にかかるときは

文と写真・室橋裕和

 新型コロナウイルスのパンデミックが世界中を覆っている。もはやバックパッカー旅行ができる状態ではないのだが、感染拡大が終息し、また旅できるようになったときのために、「現地で病院にかかる事態になったら」というテーマも考えてみたい。
 

 

できれば日本人対応に特化した大病院へ 

 このTABILISTAでも連載している旅行作家の下川裕治さんは2月、バンコクで発熱し、現地の病院でコロナウイルスの検査を受けた。結果は陰性で、ほっとしたものだ。
 下川さんが検査を受けたのは、タイでもトップクラスの医療設備を持つバンコク病院だ。日本人の患者を専門に受け入れるジャパン・メディカルサービス(JMS)を持ち、日本の医大で学んだタイ人医師や、日本人看護師、通訳などがいる。ほかにもインド、中東や欧米からの患者に対応するためのシステムも備えた、まさにインターナショナル・ホスピタルだ。この病院で治療や手術を行い、その後はタイ国内でゆっくり静養をして過ごす。そんなメディカル・ツーリズムの最前線ともいえるだろう。現地在住の日本人や、タイ人富裕層もよく利用している。
 こうした病院は私立のため、治療費は高額だ。ちょっとした風邪の診察をして薬を出してもらう程度で、2000バーツ(約6600円)以上かかることもある。バックパッカーの予算からすれば安宿4~5泊分くらいが飛んでしまうのだ。
 そこで海外旅行保険の出番となる。保険に加入していればこの手の高級な病院も臆することなく利用できる。下川さんもコロナ検査の費用は海外旅行保険でカバーしたそうだ。保険加入時には、バンコク病院のように外国人の対応に特化した病院をカバーしているかどうかをチェックしておこう。
 それとキャッシュレスサービスに対応している病院なのかも調べておきたい。これはパスポートと保険の契約書があれば、お金を介さずに無料で治療が受けられるものだ。治療にかかる費用のやりとりは、病院側と保険会社が行い、旅行者は関与しなくていいので楽なのだ。

 

01
バンコク・サミティベート病院には日本人専用窓口が。この上ない安心感

 

日本人在住者が多い街を目指す 

 日本人対応が優れている病院はやはり、在住日本人が多い国、街に集中している。バンコク病院のあるタイには7万人以上の日本人が住んでいるが、ほかにも日本人専用窓口を持つサミティベート病院など、日本人が安心して罹れる病院がいくつかある。日本語のウェブサイトもあるし、院内のレストランや入院食で日本食を出していたりする。そこに住んで、働いている日本人のためのサービスが充実しているのだ。
 アジアを例に挙げると、在住日本人が多く、日本人でも利用しやすい医療システムがあるのは、ソウル、上海、台北、ホーチミン、バンコク、クアラルンプール、シンガポールだろうか。万が一のときには、こうした都市に移動して治療することも考えたほうがいいだろう。

 

02
バンコクはとくに日本人に特化した医療施設が多い。日本語の通じる薬局もある

 

軽い体調不良くらいなら町の診療所でも 

 ちょっとした風邪や下痢、軽いケガくらいなら、大きな病院に行く必要はないだろう。いま滞在している街の、小さな病院や診療所でも十分に対応してくれるはず。医者であれば途上国でも英語はある程度、通じる。ひと昔前は、地方に行くと衛生的に問題のある病院もたくさんあったものだが、現在はどの国でも改善されてきている。とはいえ宿の人に聞くなどして、そのあたりで最も大きな病院に行ったほうがいいだろう。
 地方の病院でも海外旅行保険でカバーできるが、キャッシュレス対応していない場合がある。まず治療費を実費で支払い、病院に保険の手続きに必要な書類をつくってもらい、帰国後に保険会社に請求をする。はじめの治療費は手持ちのお金から支払う必要がある。
 風邪の診察や、傷の消毒程度ならたいしてお金はかからないだろうが、重い病気や骨折などの事態になると、治療費は相当な額になってしまう。
 また、病院もないような田舎でも、薬局くらいはあるものだ。そしてたいてい、夜おそくまで営業している。簡単な英語なら通じるだろう。日本の薬局と違って、処方箋がなくても抗生物質を売ってくれる国も多い。

 

03
タイ・サムイ島のドラッグストア。リゾート地なので英語は通じる

 

現地のほうが治療しやすい風土病もある 

 体調を崩したときに、いちばん安心できるのは日本だろう。医療設備が整っているということもあるが、生まれ育った場所、家族がいる場所という安心感は何物にも代えがたい。
 ただし、モノによっては現地のほうが治療しやすい病気もある。例えばデング熱だ。いま全世界的に広まっている病気で、感染したら高熱や激しい頭痛を引き起こす。熱帯から亜熱帯にかけて生息する蚊が媒介する。そのため日本では症例がほとんどない(近年は温暖化の影響でわずかな発生例も確認されているが)。アジアの大きな病院のほうが適切な対処をしてくれるかもしれない。
 狂犬病も同様だ。日本からはすでに撲滅されている病気なのだ。ごくまれに日本でも狂犬病による死者が出るが、これは海外の旅先で感染した人が日本に帰国後に発病したもの。狂犬病ウイルスに罹患した犬(ほかにもコウモリなどもウイルスの宿主になることがある)にかまれることで感染し、発病したら死亡率は100%という恐ろしい病気だ。野良犬がたくさんいる国はまだまだ多いので、街歩きを楽しむバックパッカーにとって実は身近な病気なのだ。
 しかし日本では存在しない病気のため、対応できる病院はわずか。だが現地では、風土病のようなものなので、地方の小さな病院でも対処してくれる。
 例えばタイでは犬にかまれたと申し出れば小さな病院でもすぐに適切なワクチン接種を行ってくれる。その後は日を空けて5度前後ワクチン注射を続けなくてはならないが、タイ国内であれば全土の病院で共通の「狂犬病カード」なるものをつくってくれる。これを見せればどこでもすぐにワクチン接種をしてくれるのだ。つまり旅をしながら治療が可能というわけだ。これも土地の病を知っているからこそ、だろう。

 

海外旅行保険にはしっかり入っておく 

 身体の異変は不安のもとだ。小さなことでも気になるならすぐに病院に行ってみよう。医者や看護師と対面すればやはり気持ちは落ち着くものだ。そのためにも海外旅行保険にはしっかり入っておきたい。

 

 

*本連載は月2回(第1週&第3週水曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

*タイトルイラスト・野崎一人 タイトルデザイン・山田英春

 

 

『バックパッカーズ読本』編集部

格安航空券情報誌『格安航空券ガイド』編集部のネットワークを中心に、現在は書籍やWEB連載に形を変えて、旅の情報や企画を幅広く発信し続けている編集&執筆チーム。編著に究極の個人旅行ガイド『バックパッカーズ読本』シリーズなど。

 

紀行エッセイガイド好評発売中!!

okinawa00_book01

最新改訂版 バックパッカーズ読本

究極の個人旅行ガイド バックパッカーズ読本
バックナンバー

その他の辺境・秘境の旅

ページトップアンカー