台湾の人情食堂

台湾の人情食堂

#42

台湾人に愛されている食べ物に詳しくなれる話

文・光瀬憲子  

 7月に新刊『台湾グルメ350品! 食べ歩き事典』が発売され、これを記念して都内の書店でトークイベントを開催していただいた。会場では「台湾人に愛されている食べ物」10品を厳選し、それぞれのエピソードを披露した。今回はそのなかから台湾人に特に身近な5品を選んでおさらいしたい。

 

 

夜市の華、蚵仔煎(オアジェン)

 

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夜市の花形、蚵仔煎。小ぶりだがプリプリの牡蠣、ふんわりした卵、甘いソースのバランスが決め手

 

 台湾の夜市で日本の旅行者に人気の食べ物のひとつに蚵仔煎(オアジェン)がある。牡蠣オムレツ、牡蠣の卵とじなど、日本での呼ばれ方はさまざまだが、台湾B級グルメの花形であることはまちがいない。

 どの夜市にも蚵仔煎の食堂や屋台はかならずある。人気店は行列ができていることも多い。行列に並びながら、店頭の大きな丸い鉄板で、一度に何枚もの蚵仔煎ができあがる様子を見るのは楽しい。どの店も例外なく、蚵仔煎職人の手つきがみごとだからだ。片手で牡蠣を炒めながら、もう片方の手で次々と卵を割っていく。鉄板とフライ返しがカシャンカシャンと音を立てて客を呼び込む。とろけるような甘い牡蠣、ふわふわの卵、とろみの強い甘口ソース。この絶妙なバランスこそ蚵仔煎の命だ。

 

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店頭の大鍋で一度に何枚も焼かれる蚵仔煎。職人のパフォーマンスも見もの

 

 だが、意外にも台湾人のなかで「蚵仔煎が大好き!」という人は少ない。蚵仔煎と牛肉麺(ニョウロウミェン)、どちらが好きかと尋ねると、おそらく「牛肉麺」と答える人が多いだろう。それは、日本人に「卵焼きとお寿司、どっちが好き?」と聞くようなものだ。卵焼きは平凡過ぎて寿司のライバルにはならない。でも、常にそこにあって、いつでも食べられる。気取らず、飾らず、口にできる。蚵仔煎愛を語る台湾人は少ないが、常に台湾人とともにある。それが蚵仔煎なのだ。

 

 

名脇役、紅焼肉(ホンサオロウ)

 もうひとつ、日本人には意外と知られていないが、台湾人にとって空気のように身近な食べ物がある。紅焼肉(ホンサオロウ)だ。

 中国大陸で紅焼肉というと、普通はこってりと煮込まれた豚の角煮を指す。バラ肉の塊を醤油で煮込んだもので、ボリュームもインパクトもたっぷり。ちょっと特別な日のごちそうだ。

 でも、台湾で紅焼肉というと、別の料理を指すことが多い。紅麹に漬けた豚バラ肉に衣を付けてカラリと揚げ、これを薄切りにしたものだ。ほんのりと揚げ油が香り、サクサクの衣とジューシーなバラ肉が口の中で溶け合う。このタイプの紅焼肉は、台湾人にとってあまりにも身近すぎて特別感が少ない。

 紅焼肉は夜市よりも、朝市や日中営業している粥、米粉湯、米苔目などのスープ麺屋台で出合えるだろう。シンプルな朝食を出す屋台には、たいていサイドメニューとして黒白切(豚モツのスライス)や紅焼肉がある。塩粥1杯と紅焼肉1皿、野菜炒め1皿。これで立派な朝ごはんだ。

 

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さっぱりとした朝ごはん、米粉湯。サイドメニューとしていつもそこにいるのは紅焼肉(左)

 

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店によって使う部位や衣の味付けが微妙に異なる。お気に入りが見つかるとうれしい

 

 

庶民のデザート・豆花(ドウホァ)

 日本でもおなじみのマンゴーかき氷やタピオカミルクティーも捨てがたいが、台湾人にもっとも身近なデザートといえばやはり豆花(ドウホァ)だろう。夜市や朝市ではかならず豆花の屋台を見つけることができる。どこでもあるだけに、自分好みの味に出合うとうれしくなる。

 豆花は、濃厚な大豆の香りや、やわらかな舌触りだけをシンプルに楽しむこともできるし、タピオカやタロイモ団子などをふんだんにトッピングして豊かに味わうこともできる。

 夏は氷のなかに浮かぶ豆花を、冬は湯気の立つ豆花をいただく。今ほど甘いものがなかった戦後の台湾で、子どもたちは朝早く家の前を通る豆乳売りのおじいさんから豆花を買って食べるのを楽しみにしていたという。時代を越え、世代を越えて台湾人から愛されているのだ。

 

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ツルンとした豆乳プリン、やわらかなピーナッツ、ジャリッとした氷の食感が楽しいシンプルな夏の豆花

 

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トッピング次第で豪華なデザートにもなる豆花。タピオカやタロイモ団子がよく合う

 

 

良薬口に苦し、仙草(シェンツァオ)

 あまり日本人になじみのない伝統スイーツ、仙草(シェンツァオ)。

 豆花と同様に、夏バージョンと冬バージョンが存在するが、その違いが大きい。夏バージョンは仙草凍(シェンツァオドン)と呼ばれるゼリー状のデザート。真っ黒くて苦いので、コーヒーゼリーに少し似ているが、仙草という漢方薬を固めたものなので、独特の香りがある。ストレートだと薬のように苦いので、甘みを加えてゼリーにしてあり、タロイモ団子や生クリームなどを加えてまろやかにして食べる。

 良薬口に苦しとはよく言ったもので、仙草は優れた解熱剤・解毒剤になる。夏場、ゼリーとして食べれば火照った身体の熱を取り除いてくれる。

 

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夏の漢方デザートとして定着している仙草ゼリー。生クリームをトッピングすると食べやすい

 

 仙草の冬バージョンはまた独特だ。焼仙草(サオシェンツァオ)と呼ばれるデザートで、アツアツの黒いスープのようなものだ。これにお好みでピーナッツや白玉団子などをトッピングする。おもしろいのはここからだ。食べ始めはアツアツだった仙草スープが冷えてくると、徐々にとろみを増し、固まってくる。どろりとした温かいゼリーのようになり、トッピングとともに食べると不思議な触感が楽しめる。

 

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冬の焼仙草は甘めでアツアツ。身体が芯からあたたまる。徐々に固まっていく様子を見るのも楽しい

 

 

働く男たちとともにある薬酒、保力達(パオリータ)

 アルコール入り栄養ドリンク「保力達(パオリータ)」は、立ち位置がちょっと複雑だ。

 赤茶色の保力達は濃厚な漢方の香りと甘みのある薬用酒で、アルコール度数は10パーセント。いわば台湾版養命酒。実際、1960年代に日本の養命酒を真似て作られたものだ。最初は妊婦や産婦の滋養強壮にと謳われて販売されたが、徐々に工事現場の労働者や運転手など身体を酷使する男性たちに愛飲されるようになる。

 そして、ある時期から、なぜかお酒を混ぜて飲まれるようになった。保力達と米酒(台湾焼酎)、保力達とビール、保力達と炭酸ドリンク……。安くて身体によ良さそうな酒、ということで中高年に人気を博し、台湾全土で広く飲まれるようになったのは1970年代。まさに台湾の高度成長を支えたドリンクと言える。

 今でも台湾の町はずれの酒場や市場には、保力達をいとおしげになめる中高年の姿がある。台南や台東などの地方都市ならなおさらだ。

 先日も台南でそんな居酒屋に出合った。台南らしくツマミにサバヒースープも用意されている。この居酒屋には、歩道に置かれたテーブルに保力達加米酒(保力達+焼酎)の入ったコップとビール瓶を並べ、口角泡を飛ばす中高年がいる。

 彼らのそばのテーブルに座って同じように保力達を頼むと、「日本人が保力達?」と一目置かれる。そこでコップを掲げて「どうも、乾杯」なんて言えば、たちまち両者の距離は縮まり、楽しい宴が始まる。

 下町のナポレオンは味ではなく雰囲気を楽しむもの。愛すべき台湾の人たちと仲良くなるためのドリンクなのだ。

 

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歩道がホールになっていて開放的な『清根魚湯』(台南市中西區海安路一段99號)は、保力達デビューにうってつけ

 

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保力達は台湾の地元の人たちと仲良くなれる魔法のドリンク。高雄の前鎮魚市場で

 

 

 

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*本連載は月2回(第1週&第3週金曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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著者:光瀬憲子

1972年、神奈川県横浜市生まれ。英中日翻訳家、通訳者、台湾取材コーディネーター。米国ウェスタン・ワシントン大学卒業後、台北の英字新聞社チャイナニュース勤務。台湾人と結婚し、台北で7年、上海で2年暮らす。2004年に離婚、帰国。2007年に台湾を再訪し、以後、通訳や取材コーディネートの仕事で、台湾と日本を往復している。著書に『台湾一周 ! 安旨食堂の旅』『台湾縦断!人情食堂と美景の旅』『美味しい台湾 食べ歩きの達人』『台湾で暮らしてわかった律儀で勤勉な「本当の日本」』『スピリチュアル紀行 台湾』他。朝日新聞社のwebサイト「日本購物攻略」で訪日台湾人向けのコラム「日本酱玩」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/  近況は→https://twitter.com/keyword101

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