韓国の旅と酒場とグルメ横丁

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#41

朝、昼、晩。三つのソウル散歩

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 このお盆休みにソウルを訪れる人も多いだろう。今回は私たち韓国人よりも散歩を楽しむ感性が発達している日本の大人の旅行者ために、時間帯別の散歩コースをいくつか紹介しよう。

 

 

昼散歩 三角地駅から厚岩洞方向へ 

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三角地駅1番出口の東側の路地を歩くと、こんな古書店に出合う

 

 龍山(ヨンサン)エリアにある三角地(サムガクチ)駅(2号線、6号線)。ソウル駅と漢江の中間辺りにあるので郊外とはいえないのだが、駅を降りると意外と見晴らしがよい。

 日本からの旅行者にはあまりなじみがないところだが、食べ歩き目的のリピーターなら、駅の1番出口付近のテグタン(タラの鍋)横丁は知っているかもしれない。この横丁もまもなく再開発の波をかぶるだろうが、70~80年代風の家屋や商店が肩を寄せ合うような路地裏風景はなかなか見ものだ。今のうちにカメラ片手に歩いておくべきだろう。

 11番出口の左手の大通りと並行している路地を北上(南山方向へ)すると、日本からの旅行者ならすぐそれとわかる日本家屋街がある。

 以前、『韓国の「昭和」を歩く』という本の取材でこの辺りを歩いたとき、道端で夕涼みをしているおばあさんから「この近くに軍馬の厩舎があったんだよ」と聞いた。その後たまたま観た日本映画『拝啓天皇陛下様』(1963年、野村芳太郎監督)で、堀江中隊長(加藤嘉)が山田二等兵(渥美清)に「龍山の連隊に赴任する」と告げる場面と符号する。

 さらに北上すると、1945年に引き上げた日本軍から基地を接収した米軍関連の施設が目立ち始める。しかし、この基地も数年内に地方への移転が決まっている。跡地は公園になる予定だ。

 

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米軍基地に残された施設と高層マンション群

 

 厚岩洞(フアムドン)に入ると、明洞や江南などの洗練された繁華街とはちがった、地方都市のようなあか抜けない飲食店が続く。くたびれた日本家屋を改造した食堂が多いのも龍山エリアならではだ。

「T본 스테이크 」(ティーボン ステイク)と書かれた看板のある食堂を何軒も見かける。飲食店のハングル看板で英語混じりは珍しいので目立つのだ。日本式に書けばティーボーンステーキ。アメリカ人の多いこの地域らしく、牛焼肉店がステーキを出しているのだ。そのうち、「この辺りにステーキハウスが多いのは米軍基地があったときの名残り」などと書かれるようになるだろう。

 

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Tボーンステーキやソーセージ、米軍放出品由来のプデチゲなどの看板を掲げる焼肉店

 

 南山に近づくように右方向に進むと静かな住宅街だ。90年代後半に日本に住んでいた私がハッとするような日本家屋に何度も出合う。なかには、カフェやバー

の看板を上げている日本家屋もある。はたして商売になるのだろうか。“住宅街の隠れ家”のような店が流行る素地はすでに韓国にもあるが、アクセスのいい弘大(ホンデ)や益善洞(イクソンドン)、西村(ソチョン)のようなわけにはいかないだろう。

 

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厚岩洞の住宅街で出合った日本家屋。バーらしき看板が掲げられていたが、営業しているのかどうか定かではない

 

 三角地駅から写真を撮りながらほっつき歩いて1時間ほど。住宅街を抜け、韓国らしい生活市場「厚岩市場」(フアムシジャン)まで来たら、ソウル駅はもう目と鼻の先だ。

 

 

夕方から夜の散歩 中央市場 

 地下鉄2号線新堂(シンダン)駅の3番と4番出口の間にある中央市場(チュンアンシジャン)。生活市場としては大規模で、2004年には早くもアーケード化されたのだが、一歩中に入ると地方に行かないとなかなか出合えないアジア的な市場風景を見ることができる。

 

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正面入り口から入るとすぐに屋台が迎えてくれる中央市場

 

 車道側に面したゲートから続くメインの通りもよいが、それと並行する路地やメイン通りの地下街もおもしろい。夕方には店先に並べられたテーブルで中高年グループがマッコリや爆弾酒(焼酎を加えたビール)を酌み交わしている。「おいしそうですね」と声をかければ、すぐ仲間に入れてもらえそうだ。

 

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メイン通りの地下は刺身屋街として知られているが、最近はさびれ気味。

北側は数年前から手工芸通りとしてリニューアルされ、芸術鑑賞も楽しめる

 

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中央市場の脇の大衆食堂街で夕方から酒盛りする中高年グループ

 

 中央市場では昨年からアナゴの蒲焼き(プンジャンオクイ)の店がいつくかできた。味付けはあっさりしていて日本人好みなので、軽く一杯やるのにちょぅどいい。

 

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メイン通りの奥のほうにあるプンジャンオの店では、アナゴ蒲焼きが2尾10000ウォン程度で食べられる

 

 メイン通りを北側に抜けると、さらにアジア的な小規模市場が広がっている。まっすぐ行くとホルモン焼き(コプチャンクイ)で有名な黄鶴洞(ファナクトン)。左に行くとホルモン焼きの屋台がいくつか並んでいる。酔い覚ましに東大門市場の高層ファッションビルを目指して歩くのもいいだろう。

 

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メイン通りを抜けたところを左折した辺りに点在するホルモン焼き屋台

 

 

早朝散歩 鍾路3街から益善洞へ 

 ソウルの不夜城、東大門市場や鍾路3街(チョンノサムガ)で飲み過ぎて、グラスを持ったまま朝を迎えてしまうことはよくある。後悔はしても反省をしないのが酒飲みの困ったところだ。

 鍾路3街駅の5~7番出口に面した通りは、屋台街として有名だ。今どきのおしゃれスイーツを出す屋台ではない。大規模な路上酒場である。

 

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6時20分、鍾路3街の屋台街

 

 6時を過ぎても屋台街の2割くらいはまだ灯りをともしている。小ぬか雨の降る朝、まっすぐ寝床に向かうのが惜しくて、6番口の脇の路地を入る。

 この辺りの磁場として多くの酔客を吸い寄せる人気店「味カルメギサル専門」は夜9時には材料を売り切り、とうにシャッターを下ろしている。店の前にずらっと並んでいたドラム缶テーブルはどこかに片づけられている。このテーブルを出してはしまい、出してはしまいを何十年も続けていることを思うと頭が下がる。

 

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6時30分、「味カルメギサル専門」の前を歩くカップル。この辺りの安宿で一夜をともにしたのか、それとも朝まで飲み続けたのか

 

「味カルメギサル専門」のあるY字路を左に進んだ辺りが、今やソウルでもっともおしゃれな場所といわれる益善洞だ。伝統家屋街に点在するカフェやバーは夜が明けると存在感が薄れ、少なくともランチタイムの前までは昔のままの益善洞の姿を見ることができる。

 

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6時40分、益善洞の路地裏

 

 日本よりもひと足早く秋の気配が感じられるソウルで、それぞれの時間帯の大人散歩を楽しんでみてほしい。

 

 

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紀行作家。1967年、韓国江原道の山奥生まれ、ソウル育ち。世宗大学院・観光経営学修士課程修了後、日本に留学。現在はソウルの下町在住。韓国テウォン大学・講師。著書に『うまい、安い、あったかい 韓国の人情食堂』『港町、ほろ酔い散歩 釜山の人情食堂』『馬を食べる日本人 犬を食べる韓国人』『韓国酒場紀行』『マッコルリの旅』『韓国の美味しい町』『韓国の「昭和」を歩く』『韓国・下町人情紀行』『本当はどうなの? 今の韓国』、編著に『北朝鮮の楽しい歩き方』など。NHKBSプレミアム『世界入りにくい居酒屋』釜山編コーディネート担当。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/

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