究極の個人旅行ガイド バックパッカーズ読本

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#41

パンデミックによる国境封鎖に遭遇した旅行者たち

文と写真・室橋裕和

 コロナウイルスによって世界はもうバックパッカー旅行どころの状況ではない。しかし、こうした非常時に直面したら、旅行者はどんな行動を取るべきなのか。コロナはそんなヒントをいくつも残してくれた。その教訓は今回のようなパンデミックだけではなく、紛争や災害などに見舞われた場合にも役立つはずだ。

 

次々と行ける国が消えていく 

 世界から、旅行者たちが消えた。
 中国に端を発する新型コロナウイルスのパンデミックはいまや地球を覆いつくし、どの国も自衛のために国境を閉め、航空便をストップさせて、人の往来を制限した。
 とくに「コロナ汚染国」のひとつである日本は、警戒される立場になってしまっていた。「日本のパスポートはビザなしで行ける国が191と世界最多」なんてニュースが流れたのは2019年末のこと。そこからたったの2か月で立場は大きく変わった。2020年2月から3月にかけて、日本人(日本に滞在していたすべての人)に対する入国制限が次々と設けられ、世界はあっという間に狭く小さくなっていった。
 その騒動の中、旅している真っ最中のバックパッカーたちもたくさんいたのだ。いま滞在している国が、間もなく「鎖国」しようとしている。周辺国は続々と日本人の受け入れを制限しはじめた。
 こんなとき、いったいどうしたらいいのだろうか。
 今回は「疫病」だが、紛争や大規模テロ、クーデターや天災でも同じような状況になるはずだ。旅先で危機を乗り越えるためにどんな行動が必要なのか、考えたい。

 

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がらんどうとなった成田空港。世界の航空網はほぼストップ

 

とにかく正しい情報を集めることがなにより 

 まずなによりも気持ちを落ち着けることが大切だろうが、そのために必要なのは「情報」だ。いまでは誰もがネットにつながった状態を保ちつつ旅をしているだろう。その点では昔に比べ、圧倒的に便利になった。しかしそのぶん、よけいなジャンク情報も氾濫している。例えばコロナについても、ツイッターでは明らかなガセやデマが流れていた。それを善意のつもりでリツイートしていく人も多い。そうではなく、まずソース元をしっかり確かめることが基本だ。
 マレーシアの国境がすべて閉まる、エアアジアが日本路線を運休する、ベトナムのビザなし渡航が中止になる……バックパッカーにとっても重大なこうした情報は、パンデミックの中にあっても、各国、各社の公式サイトやツイッターで迅速にアナウンスされてきた。噂話ではなく、これらをまずチェックすることだろう。
 バックパッカーの基地でもあるタイは3月22日からコロナ陰性の健康診断書がないと入国できなくなったが、その数日前から旅行者に対する告知がはじまっている。タイ大使館、政府観光庁でも日本語でのガイダンスがあった。3月26日からは緊急事態宣言が発令され、外出の制限もはじまったが、これも2日前に前もって説明があった。大きなアクションが起きる前にはたいてい事前に情報発信があるものなので、あまり慌てずに。
 どの国や航空会社でも、自国語だけでなく英語での説明も合わせて行われた。公式サイトに載っているのは平易な英語中心で、バックパッカー旅の経験があるならどうにかわかる内容だろう。難しければ翻訳サイト、アプリなどを併用する。またその国に住んでいる日本人が、訳したものを発信していることもある。信頼できるかどうかは、その人の以前のツイートだとかブログなどを見れば判断できるのではないだろうか。

 

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ほとんど無人の成田空港ボーディングフロア

 

水や食料はあまり心配せずに 

 情報収集と並行して行うべきは身の安全の確保だろう。
 世界各地で鎖国や都市のロックダウンが行われているが、どこでも食料不足は起きていない。それにロックダウンといっても、すべての店が閉じるわけではない。例えばバンコクでも、マニラやマレーシアなどでも、食料品や医薬品、日用品を売る店は通常通りの営業だ。レストランや屋台は「テイクアウト」限定だがちゃんとやっている。病院や薬局はもちろん開いている。それに途上国でもすっかり普及したレストランのデリバリーサービスも豊富で、宿に頼むこともできるかもしれない。まずはなにより大切な「食料と水」については、コロナ禍でもそう心配することはないようだ。
 鎖国中のマレーシア・ペナン島に滞在しているある日本人バックパッカーは、安宿に籠城しつつ、ネットでヒマをつぶし、一日に一度だけ外に出て、屋台やコンビニで食料を買って戻り、帰国のタイミングを窺っている。精神的なストレスはどうしたって溜まるけれど、まずは普段通りちゃんと食ってよく寝ることだろう。コロナに対する抵抗力は保っておきたい。これがコロナでなく紛争や災害でも、とりあえず身の安全を左右するのは体力だろう。
 それとコロナに気をつけ適切な距離を保ちつつ、近くにいるほかの旅行者や宿のスタッフとも話しておいたほうがいいだろう。気心が知れれば連帯感を持てる。一緒に乗り越えようと前向きにもなれるし、なにか目新しい情報を知っているかもしれない。加えてもちろん、緊急時の連絡先(現地在外公館、日本語の通じる病院など)は調べておいて、いざというときにすぐにわかるようにしておこう。

 

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感染源となった中国では少しずつ日常が戻ってきつつあるというが……(写真は北京、1月中旬)

 

お金よりも優先させることがある 

 行動は焦ってはいけないが、決断は素早く、だ。
 3月、航空路線が次々とストップし、行き場を失った旅行者が続出した。乗るはずの飛行機がキャンセルとなり、払い戻しや振り替え便の手続きに、たくさんのバックパッカーが右往左往した。それなら陸路で隣国に行き、そこから飛ぼうとしたら、今度は国境が閉鎖。途方に暮れている人もかなりいる。
 飛行機がなくなる前に、早めに脱出する決断ができなかった理由のひとつが、チケットの高騰だ。一気に減便したために限られた残存路線に乗客が集中し、経済の摂理か暴利か、値段がかなり高くなったのだ。3月下旬時点で、4月2日のバンコク→成田のフライトを見てみると、まだ運休していないJALが2万2000バーツ(約7万4000円)〜、ANAは7万7540円、タイ航空はなんと7万1000バーツ(約24万円)、いずれも片道だ。予算の乏しいバックパッカーが迷うのも無理はない。しかし、もし「日本に帰国すること」がなにより優先なら、お金の問題ではない。買っておくべきだろう。ただし帰国した場合でも、滞在国によっては日本でしばらく隔離されることになる。
 帰国できず、留まるしかなくなった場合、ネックとなるのは滞在期限だろう。ノービザ入国でも、ビザを取得して入国した場合でも、やがて期限は切れる。そういう外国人がたくさんいることは当局も把握している。例えば台湾では、外国人の滞在期限を無条件で30日間延長した。こうした情報も各国の大使館、旅行会社などでチェックしておきたい。
 なおコロナ以外の場合でも、地震や津波などの非常時であれば、外国人の滞在期限については考慮してくれることがほとんどのようだ。東日本大震災のときの日本も同様だった。
 いつまで滞在できるのか、滞在国から延長の措置は出ているのか、延長手続きはどこでどう行うのか。これらを抑えておこう。
 外国人はこういうときに弱者であることを実感するだろうが、一方でタイのリゾート地・プーケット島では、ヤケになったのか帰国できない欧米人バックパッカーたちがビーチに繰り出し、この状況でマスクもせずおおぜいで集まってパーティーをしていると報じられた。
 非常時にこそ国民性は現れるし、それは現地の人もよく見ている。どんなときでも、国外に出ればバックパッカーも日本の代表なのだ。日本人として恥ずかしくない行動をとりたい。

 

 

*本連載は月2回(第1週&第3週水曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

*タイトルイラスト・野崎一人 タイトルデザイン・山田英春

 

 

『バックパッカーズ読本』編集部

格安航空券情報誌『格安航空券ガイド』編集部のネットワークを中心に、現在は書籍やWEB連載に形を変えて、旅の情報や企画を幅広く発信し続けている編集&執筆チーム。編著に究極の個人旅行ガイド『バックパッカーズ読本』シリーズなど。

 

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