ステファン・ダントンの茶国漫遊記

ステファン・ダントンの茶国漫遊記

#40

私を支える仲間たち4〜 「トニー」にステファンのことを聞いてみた

ステファン・ダントン

 

 

 
 
 川根本町の行政マンとして、茶農家の息子として、日本茶を愛する仲間として私にさまざまな学びを与え続けてくれる川根の「トニー」。私の疑問・質問にいつでも率直かつ的確なアドバイスをくれる彼が私の仕事についてどう思っているのか、改めてたずねてみた。直接いいづらいこともあるだろうから、四万十の「あにき」のときと同様、第三者に聞いてもらった。

 

 

 

ステファンとの出会いと当時の印象は?

 

 

 ステファンを最初に見かけたのは役所の廊下だったかな。サラゴサ万博の関係で農業室に出入りしている外国人がいるな、と思って眺めていた。自分の仕事とは直接関係なかったからね。でも、どうやらコミュニケーションが取りづらいのか、みんなに持て余されているように見えて、つい声をかけたんだ。それが始まりだったかな。きちんと紹介されたのは当時の町長との食事会の席だったかもしれない。どっちにしてもそれからメールでのやりとりをするようになった。
 メールをやり取りし始めたころ、親切のつもりで全部ひらがなのメールを送ったら、「漢字にしてくれないと意味がわからないよ」と返信がきて、「こいつ外人なのになんで漢字の読み書きができるの? 変な奴だな」と思ったのが今では懐かしい。
 最初は、「日本茶、それも日本の三大銘茶のひとつでもある川根茶にフレーバーをつけるなんてとんでもないことをいっているな」と正直アレルギーに近い感情を持っていた。「奇をてらった外人の思いつきで川根茶を台無しにされるんじゃないか」という他の生産者と同じ危惧を抱いたんだ。僕は茶農家の息子でもあるし、川根茶に誇りを持っているからね。
 ところが、ステファンと話していると、川根茶や川根の茶農家への尊敬の気持ちや茶産地に対する憧れが“ああいう口調”の中に垣間見える。だから彼と彼の仕事に興味を持つようになった。そのうち、この人は本気で川根茶を愛していて、川根茶を世界に広げるひとつの切り口としてフレーバーを利用しようとしているんだ、というその真意がわかったから、フレーバーをつけることも理解できた。
 

 

 

2009年おちゃらかを訪れたトニーと

吉祥寺『おちゃらか』を訪れたトニーと(2009年)
  

 

 

 

ステファンの仕事について〜「正統派の異端児」

 

 

 10年にわたってステファンと話をし、仕事ぶりを見てきた。ストレートに理解されるのは難しいかもしれないが、彼は常に「本質的な文化の継承」とは何かを考えながら仕事をしているのだと感じる。日本茶は、川根茶はすばらしい。そのポテンシャルが活かせていないのはなぜなのか? 売れていないのはなぜなのか? まずは日本茶に興味を持たせるためのツールとしてフレーバーを利用してみよう。そこからオーソドックスな日本茶に関心が向けばいい。さらに興味がわいたら、それがどこでどのように生産されているのか関心を持たせる。こんな形で日本茶を素材としても文化としても本質的に理解してもらうためのストーリーを明確に描きながら仕事をしていることが、じっくり話すとよくわかる。
 彼の文化への本質的な理解を示すエピソードがある。
『おちゃらか』で一番目立つディスプレイはずらりと並んだ茶箱だ。はじめて吉祥寺の『おちゃらか』を訪れた2009年、この茶箱を見て衝撃を受けた。「この人はお茶のこと、茶産地のことを本当によくわかっている!」
 開業当初から使っているこの茶箱は川根で100年以上生産を続けている工房のもの。川根本町を含む大井川両岸は、茶所であると同時に林業も盛んな場所として知られ、日当たりのよい斜面には茶畑が、そうでない場所では植林が行われている。川根で生産した茶葉を川根の杉材でできた茶箱で保存する。これをフランスから来た外国人が東京であたりまえのようにやっていることに感動した。
 そして、開業から13年を迎えた今年、「地元から職人を呼び寄せて茶箱の補修を習い、スタッフとともに100個近くある茶箱の補修を済ませた」と聞いて、「本物をきちんと理解し使い続けることが、本当の意味での文化の継承につながる」という思いを実践するステファンの態度に、「この人は正統派だ」という思いを新たにした。

 

 

 

茶箱の前にて(2018)

茶箱の前にて(2018年)

  

 

 

 ステファンは、本質的なことを実践してきていると思う。その方法やプロセスが常識を超えているから異端扱いを受けることも多い。それでよいと思うんだ。彼を認める人もいる。川根の一流の茶生産者の中にも彼を認める人がいる。同業者からは変わり者とされることも多い「正統派の異端児」たちだ。川根の「正統派の異端児」とフランスから来た「正統派の異端児」が組んで本物の茶文化を継承していってほしい。その実践は周囲を動かしていくはずだ。
 

 

 

 

ステファンへのアドバイス

 

 

 “ああいう口調”だから、誤解をされたり面倒がられたりする場面も多いだろうと思う。好きなことを率直にいうから衝突することもあるかもしれない。でも、自分と自分の仕事への誇りがあるから、覚悟があるからこそステファンはいつでも「好きなこと」を自分の言葉で語っている。
 川根を含む茶産地・茶農家にとってもステファンと『おちゃらか』は貴重な存在だ。東京の日本橋に、「好きなこと」をいえる、「自分がよいと思う茶葉を本気で紹介」できる茶商を利用しない手はないと思う。
 ステファンと本気で向き合えば、彼の本質、人となりがわかれば、彼と仕事をするのはおもしろい。こちらも好きなことをいえるし、ときにケンカもしながら理解しあい学びあえる関係が築ける。
 でも、はじめて会ったステファンの人柄や考え方をすぐに理解できる人はなかなかいないはず。もしかしたら、ステファンとの仕事に興味はあるものの、意思の疎通にかかる時間的なコストやリスクを懸念して躊躇する人も多いのではないかと思う。
 SNSを使って、ステファンの日常、ステファンの考え方を少しずつでも発信していったらどうだろう。ステファンの人となりがわかったら、もっとステファンにアプローチしやすくなるんじゃないかな。
 

 

 

 

 

 

*この連載は毎月第1・第3月曜日(月2回)の更新連載となります。次回の更新は2019年1月7日となります。お楽しみに! 

 

 

写真/ステファン・ダントン    編集協力/田村広子、スタジオポルト

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ステファン・ダントン

1964年フランス・リヨン生まれ。リセ・テクニック・ホテリア・グルノーブル卒業。ソムリエ。1992年来日。日本茶に魅せられ、全国各地の茶産地を巡る。2005年日本茶専門店「おちゃらか」開業。目・鼻・口で愉しめるフレーバー茶を提案し、日本茶を世界のソフトドリンクにすべく奮闘中。2014年日本橋コレド室町店オープン。2015年シンガポールに「ocharaka international」設立。著書に『フレーバー茶で暮らしを変える』(文化出版局)。「おちゃらか」http://www.ocharaka.co.jp/

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