日本一おいしい!沖縄の肉食グルメ旅

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#40

栄町のイタリアンバル~『アルコリスタ』

文・藤井誠二 写真・深谷慎平

 

栄町ロータリーの角にある、ちいさなイタリアンバル 

 アルコリスタ(ALCOLISTA)とはイタリア語で「酔っぱらい」の意味だ。

 那覇栄町ロータリーの角にある、カウンターとテーブル一席だけのちいさなイタリアンバル。

 もとは二年間放置されていたスナックをスケルトンにしてリノベーション。沖縄の歓楽街のいわゆる「おばあスナック」はこうしたかたちで新しい命を吹き込まれ、再生している。

 

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栄町の『アルコリスタ』。元スナックをリノベーション

 

 新しい命を吹き込んだのは、横浜から「暑いところが好きで」やってきた矢島裕光さんで、今年39歳になった。気軽に本格的なイタリアンが愉しめる店『アリコリスタ』がオープンして4年目なり、すっかり地元でも、旅行者の間でも有名になった。女性一人でも気楽に料理とワインを愉しめる店として、SNSやブログでも女性が発信しているのが目立つ。たしかに店は女子率が高い。

 

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オーナーの矢島さん

 

 オープンキッチンなので開放的だ。カウンターから彼の料理をする動きがすべて見える。店で働くのは彼一人。矢島さんとときどきたわいもない話しをしながら飲み食いできる空間は、ぼくは好きだ。沖縄はわりと大勢でわいわいと飲み食いする文化が主流だと思うのだが、一人や二~三人で静かに飲み喰いするのにもってこいの店なのだ。

 

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店内はオープンキッチンで開放的

 

 ぼくはオープンして間もないときからおじゃまをしているが、最初に食べたものを覚えている。トリッパ(牛の第二胃──ハチノス──の煮込み)である。一般的にはトマトで煮込まれていることが多いのだが、矢島さんが丁寧に仕込むトリッパはブイヨンスープなのだ。ハチノスとスープだけの一皿。これが忘れらない美味で、ぼくは行くたびにこれを大きめのスプーンでスープとハチノスを一緒に口に運びながら、あっと言う間にワインを一本あけてしまう。たまたまこの日は、イタリアのフォルストの黒ビールがあったので、矢島さん特製のトリッパを食べながら何本か喉に流し込んだ。

 

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トリッパとフォルストビール、美味い!

 

 トリッパを仕込むときはハチノスを塊のまま仕入れて、薄皮を剥くなど手のかかる下処理をして、じっくりボイルする。それをトレイなどに移してカウンターの隅っこに置き、あら熱をとる。ぼくは眼鏡をかけないでそれを見ると、ビーチに打ち上げられている白化したサンゴのようにいつも見えてしまう。肉の表面の襞やかたちが、それとよく似ているのだ。トリッパは日によってないときもあるので、御所望の人は確認をしてから出向いたほうがいい。

 自家製のピクルスも美味い。この日は白ゴーヤーを出してもらった。苦みと強い酸味。シャキシャキとした食感。簡単な一品に見えるかもしれないが、ゴーヤーの本来の苦みを引き立てるような矢島さんの繊細な技だ。

 

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自家製の白ゴーヤーのピクルス

 

 矢島さんはイタリアンの調理法と沖縄の食材は相性がいいと言う。この日は、ナーベーラーとサザエのバターソテーをつくってもらった。メニューが書かれた黒板には「サザエと小松菜のガーリックバター」とあるのだが、沖縄の野菜で、とリクエストすれば(食材があれば)アレンジしてくれる。ぼくはじつは沖縄のヘチマ(ナーベーラー)の炒めものがあまり好きではないのだが、サザエの旨みとバターのコクで、ナーベーラーの独特の青臭さは残しつつも、通常のナーベーラー炒めとは別ものの一皿になっていた。

 

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サザエの旨みとバターのコクがとナーベーラーと合う

 

 ワインはだいたいがフルボトルで二千円代からあり(もちろんグラスでも飲める)、ぼくは最近はルーマニアの「ノマド ピノ・ノワール」が好きなので、矢島さんが黙っていても持ってきてくれる。

 

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ぼくの最近のお気に入りは「ノマド ピノ・ノワール」

 

「25歳ぐらいまでふらふらと生きていたんです。居酒屋とか、溶接とか、いろいろな仕事を転々としてました。北海道で吹きガラス職人を二年ぐらいやっていたこともあります。北海道のあとに地元にもどり沖縄に来たんですが、いったん帰った横浜でイタリア料理店で働き、おもしろさにめざめたんです。ぼくは調理科のある高校に行っていたので、調理師の資格はありました」

 なんでイタリアンを?と聞いてみると、「女の子にモテそうだと思ったんですよ」となんとも素っ頓狂な答えが返ってきて、ぼくはずっこけた。

「そのイタリア料理店がオープンキッチンで、ほとんど女性客でした。そのスタイルはいいなと思った。そこで三年働いて、二十八歳のときに身一つで沖縄にきたんです」

 店はすぐに評判になり、軌道にのった。店は女性客が多くなり、目論んだとおりになった。そして、年に一度はイタリアを一カ月ほど回り、ヒントを得るための旅をする。客として通ってきていた地元出身の女性と結婚もした。ちゃんと目論んだとおりになったじゃないか。そうぼくが冷やかすと、矢島さんはアタマをかいた。

 

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オープンキッチンなので会話も弾む

 

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遅れて合流した普久原クンと乾杯

 

 〆はボロネーゼだ。香味野菜やトマトと肉を煮込んだ言わずと知れたソース。ぼくはいつも細めのスパゲッティーニで、かつ大盛りでお願いする。この日は、運良く沖縄の本部牛などの肉を煮込んだボロネーゼソースだ。その日によって煮込む食材はちがうが、肉の旨みを前面に出たじつに濃厚な一皿だ。ぼくはこれを口からあふれるぐらいの量を放り込み、飲み込むとワインをガブガブ飲む。これがぼくのアルコリスタの至福である。

 

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〆は濃厚なボロネーゼ

 

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藤井&普久原&カメラマン深谷の三人でボロネーゼを堪能

 

 矢島さんの出身は横浜の南区。黄金町あたりといったらわかりやすいだろうか。性風俗店や飲み屋が密集する一帯だ。そのせいか、栄町と雰囲気が似通っていて「なつかしすら覚えます」と矢島さんは笑った。

「沖縄は居心地いいです。栄町も楽しい。こっちで結婚もしたし、ぼくはよく沖縄の人と間違われるぐらい顔も濃いので、こっちに根をおろすつもりです。ずっと自由に気ままに生きてこられて、自分は恵まれてるなあ、このごろそう思うんですよ」

 

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栄町に、育った町のなつかしさを感じるという矢島さん

 

 矢島さんはなにものにも縛られることなく、風のように生きてきたのだと思う。飄々とした彼のしゃべり方を聞いていると、こっちもどこか気が軽くなるときがある。外から吹いてくる風を受けとめて、町のちからに変える。それも沖縄の町の魅力の一つだ。

 

●『ALCOLISTA(アルコリスタ)』

那覇市安里388-13

 

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*本連載は、仲村清司、藤井誠二、普久原朝充の3人が交代で執筆します。記事は月2回(第1週&第3週木曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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仲村清司(なかむら きよし)

1958年、大阪市生まれのウチナーンチュ二世。作家、沖縄大学客員教授。1996年、那覇市に移住。著書に『本音で語る沖縄史』『消えゆく沖縄 移住生活20年の光と影』『本音の沖縄問題』『ほんとうは怖い沖縄』『島猫と歩く那覇スージぐゎー』ほか。共著に『沖縄 オトナの社会見学 R18』(藤井、普久原との共著)のほか、『これが沖縄の生きる道』『沖縄のハ・テ・ナ!?』など多数。現在「沖縄の昭和食」について調査中。

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藤井誠二(ふじい せいじ)

1965年、愛知県生まれ。ノンフィクションライター。現在、沖縄と東京の往復生活を送っている。著書に『人を殺してみたかった』『体罰はなぜなくならないのか』『アフター・ザ・クライム』ほか、共著書多数。『漫画アクション』連載のホルモン食べ歩きコラムは『三ツ星人生ホルモン』『一生に一度は喰いたいホルモン』の2冊に上梓。最新作『沖縄アンダーグラウンド──消えた売春街の戦後史と内実』刊行予定。

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普久原朝充(ふくはら ときみつ)

1979年、沖縄県那覇市生まれ。建築士。アトリエNOA、クロトンなどの県内の設計事務所を転々としつつ、設計・監理などの実務に従事する。街歩き、読書、写真などの趣味の延長で、戦後の沖縄の都市の変遷などを調べている。本書の取材を通じて、沖縄の伝統的な豚食文化に疑問を持ち、あらためて沖縄の食文化を学び直している。

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