日本一おいしい!沖縄の肉食グルメ旅

日本一おいしい!沖縄の肉食グルメ旅

#39

栄町のアバンギャルドな立ち飲み屋~『トミヤランドリー』

文・藤井誠二 写真・深谷慎平

 

スナックをリノベーションしたモツの名店 

 ドアを開けるとまず目に飛び込むのが、昭和な柄のベッチンが貼られた壁。カウンターに立つ吉村慎太郎さん──しんちゃんと呼どれているから、ここでもしんちゃんと書く──に聞けば、もともとのはスナック「サロン知喜夜」で、その店の壁をそのままにして、店内をフルリノベーションをしたのだという。店内に流れる、DJもやっているしんちゃんが選曲するヒップホップと妙に調和して、なんともアバンギャルドな空気感を醸しだしている。

 

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店の入り口と店内。スナックをリノベーションした独特の空間

 

 メインのメニューボードは、なんと一畳分の畳。それがカウンターのど真ん中あたりの頭上にどーんと掲げられていて、そこにお勧めのレギュラーのモツメニュー──その日の仕入れによって微妙に異なるが──が貼られている。

 

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店内に貼られたメインのメニューボード

 

 もつ塩煮込み、カレー串煮込み、牛すき肉豆腐、舌(タン)のタタキ、レバーのタタキ、ハツの青唐酢正油、豚レバーのスモーク、豚耳パリパリ焼、ガツの山椒クミンあえ、ハチノス唐揚、スペシャル酢もつ、台湾風枝豆、浅漬け、ポテトサラダ、うふまよ、野菜の何番漬、豚わさ、豚ヒレ唐揚。人気メニューをしんちゃんにあげてもらう。

「スペシャル酢もつ、もつ塩煮込み、レバーのタタキ、舌(タン)タタキ、き、ハツのタタキ、が人気です。カレー串煮込みも人気がありますし、ハツの青唐酢正油がハツが生のような食感で最近人気があって、一人で三皿おかわりした人もいるぐらいです」

 

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しんちゃんこと、吉村慎太郎さん

 

 ぼくはいつもカレー串を喰う。柔らかく煮込まれたテッポウの旨みとカレールーがなんとも合う。それから低温調理したレバーやタンも──厚生労働省がそれらの生食を禁じる方向を示してから以降の食し方だ──旨みが凝縮されていて、必ず注文する。

 

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カレー串煮込み

 

 しんちゃんが勧める、ハツの青唐酢正油はたしかに逸品だ。青唐の澄んだ辛味がしょう油にうつっていて、それが淡白なハツを引き立てる。ガツの山椒クミンあえもいい。豚の胃袋とクミン。こういう組み合わせがあったか、と思わず唸ってしまう。

 

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人気メニュー、ハツの青唐酢正油

 

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ガツの山椒クミンあえ

 

「本日のあて」も日によって違うが、ぼくが行った日はどれを選ぼうか迷ってしまった。鮭の白子のみぞれ揚げ出し、豚のテリーヌ、豚のリエット、自家製ハムと山わさび、豚の血のソーセージ、シャルキトリ盛り合わせ、黒豆納豆のオイル漬け、和歌山産柿と生ハム、海老と山芋のふんわり落とし揚げ、牛のガラムマサラ時雨煮、自家製チャーシュー、県産田芋のフライ、県産ニラと卵黄のだし正油かけ、焼き茄子のおひたし、北海道さんまの南蛮漬け、ブリ大根青レモン風味、ピリ辛玉こんにゃく、等。どれも酒飲みが鼻息を荒くしそうな一皿ばかりなのだ。

 

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本日のあて、どれも美味しそうで迷う

 

 ぼくは卵が大好きなので、うふまよ。永遠に喰い続けられるのではないかと思ってしまう茹卵とソースの絶妙のバランス。ニラと卵黄のだし正油かけもほぼ毎回食べる。鮭の白子のみぞれ揚げ出しは、たまたま市場で安く手に入ったからつくってみたという。

 

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うふまよ

 

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ニラと卵黄のだし正油かけ

 

 じつはこの店は『肉の王国 沖縄で愉しむ肉グルメ』(双葉社)で再三紹介している『アラコヤ』の二号店のような位置付けなのだ。『アラコヤ』との距離は100メートルあるかないか。『アラコヤ』が得意とするシャルキトリー類が常備してあるのもそのせいだ。松川英樹さんが率いる『アラコヤ』は沖縄ですっかり有名店になっている。

「『アラコヤ』の(松川)英樹さんがいちばん行きたい店をつくった。英樹さんがこの店のいちばん常連さんなんです。アラコヤでできないことをこっちでやりたいというのが英樹さんのコンセプト。『アラコヤ』はモツの串焼きの店なんで、もっとモツの美味さや出し方の    ”振り幅”を表現したくてこっちを立ち上げたということです。

 英樹さんがいちばん食べてほしいと言っているのはスペシャル酢モツです。軽くボイルしたハツ、ガツ、テッポウ、ギャーラ、ミミガー、牛スジをフライパンで焼き付けます。香味野菜を入れて煮て、臭い消しをしたりして手間をかけてます」

 

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スペシャル酢モツ

 

『アラコヤ』を最初にメディアに紹介したのはぼくだと思うが、とにかくテッポウの煮込みが美味かった。オープン当時は違った方法でつくっていたが、試行錯誤を重ねた末に、『トミヤ』で出している煮込みになったと松川さんから直接聞いたことがある。たしかに、テッポウの煮込み具合、脂の残し方、薄味のさっぱりした汁。完璧に近い一品かもしれないとぼくも思う。ちなみに、店名の由来は、『アラコヤ』の古参スタッフの名前からとっているそう。

 

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絶品!モツ塩煮込み

 

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こちらも定番の煮込み、牛すき肉豆腐

 

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レバーのタタキ

 

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豚耳パリパリ焼

 

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美味い料理と酒、会話も弾む

 

 しんちゃんは熊本出身。9年前に沖縄に来た。アラコヤにきっとオープン当初から顔を出していたのかと思いきや、違った。

「沖縄に来た理由は高校のときからの親友が沖縄に転勤になったんです。そのときは福岡にいて通信販売関係の仕事をしていんですが、親友が沖縄いいからおいでよと言うから、20代後半だったし、どうせならやりたいことやろうと飲食を始めたんです。沖縄に来てから飲食関係の店で働いていました。

英樹さんと知り合ったのはちょうど一年前で、『アラコヤ』の評判を聞いて食べに行っていっておいしさと活気に感動したんです。シャルキトリーとかを勉強したかったこともあります。そうしたら、友達が求人誌に(『アラコヤ』の求人が)載っていたよと教えてくれて、すぐに受けに行ったら、即採用してもらいました。

モツの扱いは英樹さんに直伝で教えてもらいました。ここがオープンしたときに『アラコヤ』とこっちを行き来してたんですけど、いまはこっちを任されています」

最近、大阪の立ち飲み屋を松川さんとまわってきたという。しんちゃん曰く「立ち飲み屋巡礼の旅」。「松川さんは『酒場』という空間が何よりも好きなので、ニューウェーブな立ち飲み屋を具現化したかったんです」そう、しんちゃんは師匠の思いを説明した。

「ぼくがなぜ飲食を始めたかというと、一つには音楽と携われる仕事って何かなと思ったからなんです。『トミヤ』でも奥のカウンターでDJブース組んで、音楽イベントをやりました。他の店とコラボして同時多発的にイベントをやって飲み食いして、音楽を愉しむ。みんな(店の)箱がちいさい分、同時にやるんです。この栄町でいっしょにやるということに意味があると思いますから」

 

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カウンターに立つしんちゃん

 

 那覇栄町がまた、がぜん面白くなってきた。一度は廃れた町が息を吹き返すときは、大きな箱ものをつくるのではなく、資本を誘致するのでもなく、集まってくるさまざまな背景を持つ人々が個々に発光して、手を取り合ったときだ。つくづく、ぼくはそう実感する。

 

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栄町の新しい名店でくつろぐ沖肉三人衆。次は何処へ…

 

 

『トミヤランドリー』

那覇市安里388-13 栄町ロータリービル103

 

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*本連載の#01~#32配信記事を収録した単行本、『肉の王国 沖縄で愉しむ肉グルメ』が全国書店で好評発売中です。ぜひ、お読みください!!

 

『肉の王国 沖縄で愉しむ肉グルメ』

定価:本体1600円+税 発行:双葉社

 

カバーアウトライン

 

 

*本連載は、仲村清司、藤井誠二、普久原朝充の3人が交代で執筆します。記事は月2回(第1週&第3週木曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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仲村清司(なかむら きよし)

1958年、大阪市生まれのウチナーンチュ二世。作家、沖縄大学客員教授。1996年、那覇市に移住。著書に『本音で語る沖縄史』『消えゆく沖縄 移住生活20年の光と影』『本音の沖縄問題』『ほんとうは怖い沖縄』『島猫と歩く那覇スージぐゎー』ほか。共著に『沖縄 オトナの社会見学 R18』(藤井、普久原との共著)のほか、『これが沖縄の生きる道』『沖縄のハ・テ・ナ!?』など多数。現在「沖縄の昭和食」について調査中。

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藤井誠二(ふじい せいじ)

1965年、愛知県生まれ。ノンフィクションライター。現在、沖縄と東京の往復生活を送っている。著書に『人を殺してみたかった』『体罰はなぜなくならないのか』『アフター・ザ・クライム』ほか、共著書多数。『漫画アクション』連載のホルモン食べ歩きコラムは『三ツ星人生ホルモン』『一生に一度は喰いたいホルモン』の2冊に上梓。最新作『沖縄アンダーグラウンド──消えた売春街の戦後史と内実』刊行予定。

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普久原朝充(ふくはら ときみつ)

1979年、沖縄県那覇市生まれ。建築士。アトリエNOA、クロトンなどの県内の設計事務所を転々としつつ、設計・監理などの実務に従事する。街歩き、読書、写真などの趣味の延長で、戦後の沖縄の都市の変遷などを調べている。本書の取材を通じて、沖縄の伝統的な豚食文化に疑問を持ち、あらためて沖縄の食文化を学び直している。

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