台湾の人情食堂

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#38

麺線の魅力と台北のおすすめ店

文・光瀬憲子

縁起のよい食べ物

 台湾の屋台フードの代表格ともいえる麺線(ミェンシェン)が、日本で存在感を増している。東京の新橋に麺線専門店ができたのは数年前だが、それ以降、じわじわと広がり、SNSでも話題にのぼることが多くなった。そして最近はセブン・イレブン限定で台湾麺線のカップ麺まで登場している。

 魯肉飯(ルーロウファン)や蚵仔煎(オアジェン)などは、台湾の小吃(シャオツー)と呼ばれる屋台フードのなかでも日本人に人気があるが、麺線がここまでブームになることは予想外だった。ちょっとクセのある食べ物なので日本人旅行者にはハードルが高いような気がしていたからだ。でも、店選びをまちがえなければ、台湾の人々に愛されている麺線をすんなり受け入れることができ、その美味しさにハマってしまうかもしれない。

 麺線は台湾ではとても縁起のよい食べ物とされている。かつて中国の神話のなかで、女仙が母の長寿を祝って作らせたとされており、細く長いその形は古くから縁起物とされてきた。そのため台湾人の多くは誕生日に麺線を食べる。

 中国本土で食べられていた麺線には牡蠣や大腸が入っていなかったので、牡蠣や大腸入りの麺線は台湾独得のものだ。中国から伝わった麺線に、台湾でふんだんに採れる牡蠣を入れたり、かつて正肉がなかなか手に入らなかった時代にモツを入れたりして食べたのが始まり。鰹ダシをきかせるのはモツや牡蠣の臭みをとるためだったと考えられている。

 台湾麺線の麺は日本のそうめんのようで、ちょっと違う。麺線は細いけれど、少し平べったくて、そうめんよりも弾力がある。少し置くとすぐにのびてしまうそうめんに比べて、麺線は時間が経ってもあまりのびない。

 麵を手で伸ばして軒先に干すという伝統的な麺作りはもうほとんど見られなくなったが、台湾中部の鹿港や彰化の一部の場所ではいまだに続けられている。細長い麺線がカーテンのように空を覆い、天日干しにされる様子は壮観だ。

 

 

デビューは迪化街か雙城街夜市で

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「華・大腸麺線・臭豆腐」の麺線は標準的な見た目。黒酢とニンニクペーストがアクセントに

 

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観光名所の迪化街にあり、地元の人でいつも賑わう「華 大腸麺線・臭豆腐」

 

 日本人がよく訪れる観光地にあって、クセがなくあっさりした、食べやすい麺線の店がある。迪化街にある永楽市場のすぐそばの「華・大腸麺線・臭豆腐」だ。迪化街と言えば特に旧正月前に賑わいを見せる乾物街で、カラスミや干しシイタケなどお土産にぴったりなものがたくさん見つかる。また、ここ数年はレトロなカフェや土産ショップが続々と登場しているので散歩するだけでも楽しいエリアだ。

 この店の麺線はいたってシンプル。茶色いオーソドックスな麺線、ほどよいとろみのあるスープ、よく煮込こまれた大腸、そして香菜(パクチー)という基本的な組合わせ。いわば、麺線のお手本のようなものだ。大腸は柔らかく煮込んであって臭みが少ない。台湾麺線は通常、鰹ダシの香りが強く出ていることが多いのだが、この店は香りが比較的マイルド。

 また、中央にほんの少しの黒酢とニンニクペーストが添えてあり、これがアクセントになっていて食べやすい。パクチー嫌いの人は「香菜不要(シャンツァイ ブヤオ)と注文するときに伝えておこう。

 もう一軒、初心者におすすめの麺線がある。MRT中山國小の1番出口から歩いてすぐの雙城街夜市にある「晴懐鮮蚵大腸麺線」だ。屋台街の向かいの角にあるので、食べ歩きの途中に麺線を加えるのもよさそう。

 ボリュームがあるので2人でシェアするくらいがちょうどいい。こちらも鰹ダシが主張しすぎておらず、大腸の香りもほどよく抜けていてマイルドなので初心者には最適。しかも店主のおばちゃんが親切なのも旅行者にはうれしい。

 

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シンプルでクセがなく、しかも具もたっぷり入った「晴懐鮮蚵大腸麺線」の麺線は初心者向き

 

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MRT中山國小駅の近く。わかりやすい立地で初心者にやさしい「晴懐鮮蚵大腸麺線」屋台

 

 

地元っ子もすすめる龍山寺駅近くの店

 麺線には牡蠣入りの蚵仔麺線と煮込み大腸入りの大腸麺線の2種類がある。そして、欲張りさんのために牡蠣と大腸の両方を入れたミックス麺線も存在する。

 台北でも最大級のボリュームを誇るのが艋舺(万華)にある「陳記腸蚵専業麺線」のミックス麺線。私が定宿としているホテルの受付のお姉さんが「台湾で一番美味しい」とすすめてくれた店だ。

 ここの魅力は具が大きいこと。台湾の牡蠣は蚵仔煎に入るものも、蚵仔麺線に入るものも小粒なのが普通だが、陳記の牡蠣はぷりぷりで大きい。お椀も少し大きめで、その中にあふれんばかりの麺線、いったん片栗粉を付けて揚げた牡蠣、そしてよく煮込まれたこげ茶色の大腸が入っている。具のウマさが際立つ、食べごたえのある麺線だ。

 

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「陳記腸蚵専業麺線」の綜合(ミックス)麺線は食べごたえたっぷり

 

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「陳記腸蚵専業麺線」はテイクアウトの客も多い

 

 

早朝から午前11時頃までしか食べられない麺線

 麺線は台湾人にとっては食事というよりもおやつ。ランチや夕飯に食べることはあまりなく、小腹がすいたら食べる、という位置付けだ。そんななか、朝食として食べられている麺線がある。人気の観光地、九份へ向かう途中に多くの旅行者が立ち寄る瑞芳駅。残念ながら、単なる通過点として素通りされがちな駅なのだが、この駅前にはグルメ通をうならせる名屋台が揃っている。

 なかでも瑞芳駅から徒歩1分の民生街にある「環 大腸麺線」は、ほんの5〜6席しかない小さな朝屋台。朝4時から11時頃まで営業しているが、土日は客が多いので品切れと同時に店じまいとなる。こちらも鰹ダシは控えめだが、ボリュームたっぷりで、味は濃厚。台北の名店に引けを取らない、地元の人々に愛され続ける味だ。

屋台には空席待ちの客が人だかりを作っているので、食べている人の後ろで積極的に待機しよう。大・小とサイズを選べるが、常に「小」を頼むのが食べ歩きの鉄則だ。

 

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濃厚ながらもクセのない「環 大腸麺線」の大腸麺線。辛味調味料がピリッと味を引き締める

 

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瑞芳駅からすぐの人気屋台「環 大腸麺線」は朝限定。九份へ行く前に立ち寄るといい

 

 

麺線の上手な食べ方

 麺線の切れ目のない細麺とドロっとしたとろみのあるスープは、レンゲを使って食べる。箸だと滑ってすくいにくいし、普通のレンゲだと麵が長すぎてこれまたすくいにくいのだが、プラスチックのレンゲの端をお椀の淵にこすりつけるようにして、麺線を切ると食べやすい。ペコペコのプラスチックのレンゲが頼りない場合は、レンゲを2つ重ねて使うといいだろう。

 

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プラスチックのレンゲをお椀の淵にこするようにして麵を切るのがツウな食べ方

 

 麺線はどこの屋台街でも見つけられるので、あちこちで食べ比べて自分だけのお気に入りを見つけるのも楽しいだろう。

 

 

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*本連載は月2回(第1週&第3週金曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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著者:光瀬憲子

1972年、神奈川県横浜市生まれ。英中日翻訳家、通訳者、台湾取材コーディネーター。米国ウェスタン・ワシントン大学卒業後、台北の英字新聞社チャイナニュース勤務。台湾人と結婚し、台北で7年、上海で2年暮らす。2004年に離婚、帰国。2007年に台湾を再訪し、以後、通訳や取材コーディネートの仕事で、台湾と日本を往復している。著書に『台湾一周 ! 安旨食堂の旅』『台湾縦断!人情食堂と美景の旅』『美味しい台湾 食べ歩きの達人』『台湾で暮らしてわかった律儀で勤勉な「本当の日本」』『スピリチュアル紀行 台湾』他。朝日新聞社のwebサイト「日本購物攻略」で訪日台湾人向けのコラム「日本酱玩」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/  近況は→https://twitter.com/keyword101

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