ブーツの国の街角で

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#38

モンタルチーノ&サン・クイリコ・ドルチャ : ワインとともに生きる村々

文と写真・田島麻美

 

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   オルチャ渓谷のワイナリー*からの帰路(*No.36, 37参照)、道中見つけた小さな村々に立ち寄ってみることにした。トスカーナのポスターや絵葉書などで目にする美しい丘陵地帯の自然と丘の上の中世の村の風景は、このオルチャ渓谷が撮影ポイントとなっている。特に風光明媚なモンタルチーノとキアンチャーノ・テルメの間には、カスティリオーネ・ドルチャ、モンタルチーノ、サン・クイリコ・ドルチャ、ピエンツァ、ラディコファーニ、バーニョ・ヴィニョーニ、モンテプルチャーノといった中世の村が点在しており、ドライヴの息抜きに訪れてみるもの楽しい。丘の上の城壁の中には、どんな暮らしが息づいているのか? モンタルチーノとサン・クイリコ・ドルチャの村歩きをご紹介しよう。
 

 

 

 

 

30分で一周できる小さな旧市街

 

 

 

   渓谷の葡萄畑に周囲をぐるりと囲まれた小高い丘の上にあるモンタルチーノの村の起源は、遥かエトルリア時代に遡る。中世時代からはシエナの支配下に置かれ、主に革製品の手工業で栄えた。ところが、16世紀半ばにトスカーナの二大強国フィレンツェとシエナの争いに巻き込まれ、シエナが敗北したことによりこの小さな村は徐々に衰退していった。取り残された住民達の暮らしを支えたのは、周囲の大自然にあったオリーヴや葡萄の木。自然から授かる恩恵を頼りに、オリーヴ・オイルやワインを造りながら生き抜いて来た小さな村は、それぞれの製品の品質を高めていくことで、今やイタリアワインの女王の生まれ故郷として、世界中に名の知れる存在となった。
  モンタルチーノの旧市街は、徒歩で30分もあればぐるりと一周できてしまうほど小さい。アップダウンのある狭い道を歩き回って目にするのは、右も左も「Enoteca(エノテカ)」の看板。店内にある床から天井まで届く棚には、「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」のラベルが光るワインのボトルがびっしりと並んでいる。お土産用の手頃な3本セットから年代物の超高級品まで、あらゆるタイプのブルネッロに出会えるのは、まさに生まれ故郷ならではの醍醐味だろう。
 

 

 

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煉瓦色の建物に挟まれた細い旧市街の通り。店舗のほとんどはワイン関係のお店だ(上)。エノテカではワイン、グラッパなどのテイスティングもできるので、飲み比べてお気に入りのラベルを探すのもまた楽しい(下)。
 

 

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中心にあるポポロ広場。インフォメーションオフィスは塔のあるプリオリ宮殿の隣にある(上)。カフェを飲みに立ち寄ったバールもブルネッロ一色。気取らずにグラスで、最高のワインが味わえる(下)。
 

 

 

 城塞の上から見渡す渓谷の大パノラマ

 

 

  エノテカだらけの通りを抜け、崖の上に立つこの村唯一の観光ポイントらしき城塞へたどり着いた。石造りの巨大な砦は、それ以前にあった要塞の一部を再利用して1361年に再建された。16世紀にフィレンツェから侵略を受けた際、シエナ共和国の最後の攻防の砦となったのがこの城塞だった。血なまぐさい歴史を持つ城塞だが、現在ではモンタルチーノを訪れる人々に2つの特別なお楽しみを与えてくれる場として親しまれている。1つは塔の下に作られたエノテカ。中世の石造りの建物をワインセラーとして活用すると同時に、この村ならではの歴史を感じる場所で味わうワインはまた格別の美味しさだ。店内にはワイン愛好家垂涎の稀少ラベルが並んでいて、見ているだけでも気分が上向きになる。2つ目のお楽しみは、城壁の展望台。一階のエノテカで「上に登りたい」と言ってチケットを買い、木の階段をひたすら登って行く。かがみこんでようやく通り抜けられそうな小さな古い木の扉を開くと、城壁沿いの見晴らし台が現れた。中世時代はここに兵士が立ち、四方から攻めてくる敵を見張っていたのだろう。大人一人通るのがやっとの狭いスペースだが、ここからのパノラマは絶景である。茶色、緑、黄色のグラデーションが織り成すオルチャ渓谷の風景が眼下に広がり、実に爽快な気分。360℃ぐるりと歩けるので、東西南北の多彩な眺望が楽しめる。果てしなく続く葡萄畑と煉瓦色の旧市街のコントラストが見事で、自然と人との幸せな共存を見たような気がした。
 

 

 

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モンタルチーノの城塞は入場無料。一階にはエノテカがあり、希少なブルネッロのワインなどを豊富に取り揃えている。展望台へ登るにはエノテカでチケット(大人4€、子ども2€)を購入し、塔へ続く木の階段を登って行く。
 

 

 

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城壁の上にある見晴らし台からはオルチャ渓谷の東西南北に広がる大パノラマが楽しめるが、足元が狭いので高所恐怖症の方にはおすすめできない。見晴らし台部分は2階建になっていて、石の螺旋階段を登って最上階まで出ればモンタルチーノの旧市街も一望できる。
 

 

 

 

渓谷の心臓部にあるワインづくしの村

 

 

 

   モンタルチーノからキアンチャーノ・テルメ方面へ15分ほど走った頃、新緑の木々が美しい道沿いに、高い城壁が見えて来た。地図を調べると、オルチャ渓谷のちょうど中心に位置するサン・クイリコ・ドルチャの村であることがわかった。まだ午前中で時間はたっぷりあったので、車を降りて村へと足を伸ばしてみることにした。城壁の門の前には、中世時代の戦争で使われた「カタプルタ(投石機)」がドンと鎮座している。モンタルチーノ同様、この村も中世時代には強国間の派閥争いの犠牲になったのだろうということは、容易に想像できた。
   煉瓦の城壁の門をくぐったところにあるリベルタ広場には、午前中にも関わらず早くもグラスワインを手に談笑する人の姿が。広場の突き当たりにあるサン・フランチェスコ教会を中心に、左右に伸びているダンテ・アリギエーリ通りがこの村のメイン・ストリートらしい。当てもなくぶらぶらと歩き出した通りには、モンタルチーノと同じくエノテカやバールが軒を連ねている。他の観光地であれば、ブティックや土産物屋がずらっと並んでいるはずだが、自然の中にポツンとある小さな中世の村には、昼前からのんびりとワインを楽しむためのスポットしか見当たらない。
   ダンテ通りの突き当たりにインフォメーション・オフィスがあったので、地図と情報を集めに入ってみることにした。インフォメーションの女の子に村の見どころは?と尋ねると、「う〜ん…」と困った顔をされた。しばし逡巡した後、彼女はパッと顔を輝かせて「ワインフェスティバルをやっているから覗いてみれば? 飲み放題よ」と言った。昼前から酔っ払う気分になれなかったのでこのオススメは丁重にお断りし、もらった地図を手に村を散策することにした。歩き始めて10分もしないうちに散策は終わった。仕方ない。飲むしかないか。
 

 

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村の中心リベルタ広場(上)。エノテカやバールが集まったダンテ通り(下)。小さな村だが、中世時代にはローマへの巡礼路であるフランチジェーナ街道の重要拠点として栄えた歴史を持つ。イギリスのカンタベリー司教も990〜994年にカンタベリーからローマへの巡礼した際、この村を通った。
 

 

 

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カトリックの重要な巡礼街道の拠点らしく、中世時代の美しい教会も残っている。「聖キリコとジュリエッタのコッレジャータ」(上)は8世紀に建てられ、その後12〜13世紀に現在の姿に改装された重要な建築物。11世紀半ばに建てられた「サンタ・マリア・アッスンタ教会」(下)も巡礼の歴史を物語る貴重な場所だ。
 

 

 

 

おつまみランチと食後のほろ酔い散歩

 

 

  ランチタイムには少し早かったが、通りや広場のテラス席には既にほろ酔いの老若男女が楽しそうに集っていたので、私もいそいそとエノテカに入った。ブルネッロ・ディ・モンタルチーノをグラスで頼み、ワインのつまみにトスカーナのサラミ&チーズの盛り合わせをオーダー。周りを見回すと、どの席にも同じような皿が並んでいる。モンタルチーノもそうだったように、このエリアの食事時の主役はワインで、ランチもディナーもそのワインに合わせた料理を選ぶのが正解のようだ。運ばれて来たフルーティな赤ワインをちびちび飲みながら、手切りの分厚いプロシュットやスパイスの効いたサラミを口に運ぶ。口の中に広がる多彩な味のハーモニーをゆっくり楽しみながら、時計を見るのも忘れて至福のひと時を満喫する。腰を上げるのが億劫になって来たが、ずっと座っているといくらでも飲んでしまいそうな危険を感じたので、エノテカを後にして歩き出した。
   中世時代に建てられた教会を不謹慎にもほろ酔い状態で見学した後、16世紀に作られたという美しいイタリア式庭園「ホルティ・レオニーニ」を散策する。小高い丘の地形を利用した自然公園の中央には、この土地を寄贈したコジモ・ディ・メディチの彫像が立っている。ルネサンス期のイタリア式庭園の傑作と言われるだけあり、自然と幾何学的な模様の調和が見事な庭園である。頬を撫でるそよ風の心地よさに思わず目を瞑り、木陰のベンチで一休み。このまま眠ってしまいたい、という誘惑と戦いながら、ワインとともに生きる暮らしも悪くないな、と思い始めていた。
 

 

 

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グラスワインとサラミの盛り合わせ。15€以下で贅沢なランチが楽しめる(上)。酔い覚ましの散歩にも最適な「Horti Leonini」はルネサンスのイタリア式庭園の傑作(下)
 

 


 

 

 

 

★ MAP ★

 

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<アクセス>

オルチャ渓谷一帯には鉄道はない。レンタカーで移動するのが一番だが、ピエンツァ、モンテプルチャーノ、モンタルチーノなどの村へ行きたい場合はFSのキウージ(Chiusi−Chianciano Terme駅)まで鉄道で行き、そこからバスかタクシーで移動することになる。バスは本数が限られるので事前に時刻表をよく確認する必要がある。フィレンツェ、シエナから出ているOPツアーが各種あるので、それらを利用するのもいい。
車で行く場合、ローマから高速A1 / E35でキウージで降り、キアンチャーノ〜モンタルチーノ方面へ。所用約3時間。シエナからはSR2利用、ブォンコンヴェント〜モンタルチーノへ約50分。オルチャ渓谷の典型的な田舎風景が楽しめるのは、トッレニエーリ(Torrenieri)〜サン・ジョヴァンニ・ダッソ(San Giovanni d’Asso)〜サン・クイリコ・ドルチャ(San Quirico d’Orcia)の周辺。
 

<参考サイト>

・ヴァル・ドルチャ観光サイト(英語)

http://www.terresiena.it/en/val-d-orcia

 

・トスカーナ州内バスのサイト

http://www.tiemmespa.it/

 

・モンタルチーノ観光サイト(英語)

http://www.terresiena.it/en/val-d-orcia/271-i-comuni/206-montalcino

 

・サン・クイリコ・ドルチャ観光サイト(英語)

http://www.comunesanquirico.it/en/tourism-area/

 

 

 

*この連載は毎月第2・第4木曜日(月2回)の連載となります。次回6月28日(木)掲載予定です。お楽しみに! 

 

 

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田島麻美 (たじま・あさみ)

千葉県生まれ。大学卒業後、出版社、広告代理店勤務を経て旅をメインとするフリーランスのライター&編集者として独立。2000年9月、単身渡伊。言葉もわからず知り合いもいないローマでのサバイバル生活が始まる。半年だけのつもりで暮らし始めたローマにそのまま居座ること17年、イタリアの生活・食文化、歴史と人に魅せられ今日に至る。国立ローマ・トレ大学マスターコース宗教社会学のディプロマ取得。旅、暮らし、料理をメインテーマに執筆活動を続ける一方、撮影コーディネイター、通訳・翻訳者としても活躍中。著書に『南イタリアに行こう』『ミラノから行く北イタリアの街』『ローマから行くトスカーナと周辺の街』『イタリア中毒』『イタリア人はピッツァ一切れでも盛り上がれる』他。

 

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