日本一おいしい!沖縄の肉食グルメ旅

日本一おいしい!沖縄の肉食グルメ旅

#38

コザ・ゲート通りのソーセージ店~『TESIO』

文・藤井誠二 写真・深谷慎平

 

絶品の肉の加工品を求めてコザへ 

 沖縄県沖縄市は今でも、アメリカ占領時代の地名であるコザ──アメリカが基地建設を強行したときに生まれた人工的な街──と呼ばれていて、学校名前や地名などにも残っている。

 嘉手納基地第二ゲートからまっすぐに伸びる道路は「ゲート通り」。もともと米兵向けのバーやライブハウスやクラブ、インド人が経営するテーラーなどが立ち並ぶ幅の広い道路は、沖縄に集中する在日米軍基地を象徴する光景でもあるのだが、同時にコザの名所として有名だ。私もこの通りでたまに飲んだし、もともと嘉手納基地の中で通訳として働いていたインド人のテーラーでスーツを仕立てたこともある。

 が、この道路も、いや、コザのいくつかの繁華街や商店街も閑古鳥が鳴いており、閑散としている。その中で引きも切らずに客がソーセージやハムを買いにやって来るのが『TESIO(ソーセージ テシオ)』である。地元だけでなく、那覇からも、まさに手塩をかけた絶品の肉の加工品を求めてリピーターがやってくる。今年6月のオープンで、内装はまだ済んでいないのにもかかわらず、またたくまに人気店に駆け上がった。

 

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コザのゲート通りに今年6月にオープンした『TESIO』

 

 私が最初に訪問したとき、34歳の若きオーナーの嶺井大地さんは、店内にある作業スペースでもくもくと、伊江島のラム酒「サンタマリア」を混ぜ込んだ肉を腸に装填している最中だった。肉は県産の豚。辛味はトウガラシでつけるという。

 

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店長の嶺井さん

 

 後日、店で焼いて食べさせていただいたが、ほのかにラムの香りがするスモークソーセージだ。未知の旨みが口いっぱいに広がった。そのときに一緒に焼いてもらったのが、ハーブ&グリルというソーセージ。マジョラムというハーブを粗挽きの豚肉が上品な旨みを醸しだしている。これも味わったことのない逸品だ。

 

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伊江ラムのチョリソー(右)とハーブ&グリル(左)を店で焼いてもらい、いただいた

 

「沖縄は肉の加工品の店が極端に少ないんです。県外に行くとドイツソーセージとか、肉の加工品の専門店は昔からあるのですが、沖縄ではなじみがなかった。ぼくはもともと『モフモナ』という沖縄のカフェの走りのような店で働いていて、将来はお店をしたいという思いがあったんですが、どんな料理を出すかを決めあぐねていて、友人などを頼って27歳のときに京都に行ったんです。そこに『リンデンバーム』というシャルキトリーの老舗があって、ショーケースにお肉の加工品がずらりと並ぶのを初めて見たんです。それがすごく新鮮でした」

 嶺井さんは『リンデンバーム』のオーナーに自分の思いをストレートに伝えた。沖縄から来て、こういう肉の加工品を見てショックを受けました。技術を沖縄に持って帰って店をやりたいのです。それは沖縄にとって意義があると思うのです──すると、「給料は払えないけど、いいよ」と受け入れてもらえた。

 

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嶺井さんに店をはじめたきっかけ、修業時代の話を伺った

 

「シャルキトリーという言葉も知らなかったし、加工品はウインナーとチョリソぐらいしか知らなかった。直感的に勉強したいと思ったんです。ソーセージやハムは異国情緒に溢れていて、多種多様で、色とりどりでこれは楽しいと思った。それらに出会った瞬間、これだなと自分の中ですっきりと決まった。沖縄は豚肉をよく食べるし、それは沖縄の食文化の誇りだけど、加工することがなかった。世界的に肉が食べられるところというのは、肉の食べ方や調理方、加工方法の新しい情報が入ってきにくいから、沖縄でもイケると思った。

 ぼくのような若造がいきなりたずねて行って技術を教えてもらえるなんて、すばらしいご縁をいただいたと思っています。沖縄での貯金を取り崩しながらシェアハウスみたいなところにもぐりこんで、一年ぐらい勉強をさせてもらいました。そうしたら、主人がかつて世話になった職人さんが静岡にいるからそこで働いたらどうかと勧めててくれたんです」

 その店は知る人ぞ知る富士市のはずれにある『グロースヴァルトSANO』。嶺井さんはその足ですぐに静岡におもむき、その店の三人目の弟子として働きだした。巨漢の兄弟が営むその店は、ドイツで開かれたハムやソーセージの味を競う世界大会で日本人で初めて優勝した経歴の持ち主だった。そこで四年間、修業を重ねた。

「ぼくはほんとうにラッキーだった。それに尽きます。カフェ出身の人間が田舎から出て行って、一流の人たちから技術を学んで、沖縄に戻ってきてこういう店が出せた。そして、お客さんにたくさん来てもらえる。幸せだなと思います」

 

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 ショーケースにはさまざまなソーセージやハムが並ぶ。ヴァイスヴルスト(ノンスモークの脂の多い部位を多く練り込んだふわっとした食感のソーセージ)、あらびきフランク(オールポークのプリっとした食感のスモークソーセージ)、イチジクとナッツのレバーパテ、パウンドグリラー(ミートローフ)、ローストチキン・シトラス(シーソルトで味付けして焼き、レモンの香りを移したオイルでマリネしたもの)、県産和牛のコーンド・ビーフ(本部牛100パーセントの贅沢なコンビーフ)、焼豚(豚の肩ロース肉を完熟パイナップルと共に醤油ベースのタレにつけ込んだもの)、熟成鴨の燻製、熟成鴨のコンフィ、モッツァレラヴルスト(ドイツ産のモッツァレラチーズを練り込んだもの)……。

 

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ショーケースにはさまざまなソーセージやハムが並ぶ。人気のホワイトソーセージ、ヴァイスブルスト

 

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あらびきフランク

 

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イチジクとナッツのレバーパテ

 

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パウンドグリラー

 

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熟成鴨の燻製

 

 ゼリーよせは二種。アイスバイン(豚の前脚のすね肉の骨皮つきの部位)からを骨から外して、肉を香草といっしょにゼリーよせにしたもの。アイスバインと香草のゼリーよせ、と名付けている。もう一種類は、マンゴーをドライにしたものと、鴨の燻製をさいころ状にし、グリーンペッパーといっしょにゼリーよせにしたもの。鴨の燻製とマンゴーのゼリーよせ、という商品名だ。見た目がとにかく宝石のように美しい。

 

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ゼリーよせ二種

 

「ヴァイスヴルストは人気があります。豚の前足の部位、お肉屋さんが腕とか肩と呼ぶ部位があるですが、味わいが強いところです。筋肉とかが入り組んでいるのですが、その構造をぼくたちは理解して切り分け、そこの赤い身の部分と、白い脂の部分をヴァイスヴルスト用に配合して生地をつくるんです。レモンの風味を入れています。ふわっとした食感。皮を剥いて中を食べます。

 色が白いのはスモークをかけないからで、ドイツのミュンヘンの名物です。ヴァイスヴルストの由来は、白い腸詰めという意味で、脂も若干多めに混ぜ混むのです。ボイルしても脂が落ちるのであっさり、焼くとパリッとなって脂が凝縮されたかんじになるので、どちらもいい。好き好きで食べていただければ。

 そうそう、モッツァレラヴルストは、モッツァレラチーズがはいったソーセージで、加熱してとろけます。ドイツのステペンというモッツァレラチーズなんてす。ハーブアンドグリルはマジョラムという甘い香りのするハーブを加えています。本部牛のコーンドビーフ。赤肉にとうもろこしみたいな岩塩をすり込むのをコーンドと言います。塩漬けにしてほぐして固めているのですが、一般的には脂で固めているのですが、これは炊いた肉の汁をゼリーにして固めています」

 

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 嶺井さんの説明を聞いていると、彼の情熱がほとばしっているのがわかる。店名が示す通り、嶺井さんは肉を切り分ける繊細な作業と、高い技術で手塩にかけてソーセージやハムをつくっている。

 現在は35種類のレシピがあり、順繰りに出している。ソーセージ(腸詰め)が8種。他はベーコンやハム、ゼリーよせ、コンフィ等。豚がメインだが味を立体的にするために牛を混ぜ混むこともある。さきに紹介したように鴨肉も数種類ある。これからは山羊肉にも挑戦していきたいという。

 ブーダンノワール(血のソーセージ)も、再び豚血が入手できるうようになればやっていきたいと、嶺井さん。(注:今年4月に豚血は保健所の指導で出荷停止になったが、現在は八重山の食肉センターから少しずつ入るようになってきている)

 店の上には嶺井さんの叔父が『JET』というライブハウスを経営している。ビルの持ち主も叔父御本人だそうだが、コザは米兵向けのハードロックを売りにしてきた街でもある。叔父さんは、同じ名前のJETというオールドアメリカンハードロックのバンドでベーシストをつとめている、古堅喬さんだ。

 オーナーなのだから、JETはハコバン(ライブハウスの専属バンド)になるわけだが、コザのロック業界の重鎮の一人である。一階はもともとタトゥーショップで、そこが出ていったあとが空いていた。

「そこにぼくがすべり込んだ。まだ一年もたたないです。予算的に、冷蔵庫やスモークする機械などを設置して、加工場をつくっただけで、営業しながら、内装は少しずつやっています」

 

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店のスタッフとともに

 

 沖縄はうまいパン屋も多い。『TESIO』で買ったソーセージをパンにはさみ、カリーケチャップをぶっかけ、かぶりついた。病みつきになるうまさ。もう、文句なし。

 

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店内で盛り上がる沖肉トリオ

 

●『TESIO ソーセージ テシオ』

住所:沖縄市中央1-10-3 1F

http://tesio.okinawa/

 

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*本連載の#01~#32配信記事を収録した単行本、『肉の王国 沖縄で愉しむ肉グルメ』が全国書店で好評発売中です。ぜひ、お読みください!!

 

『肉の王国 沖縄で愉しむ肉グルメ』

定価:本体1600円+税 発行:双葉社

 

カバーアウトライン

 

 

*本連載は、仲村清司、藤井誠二、普久原朝充の3人が交代で執筆します。記事は月2回(第1週&第3週木曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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仲村清司(なかむら きよし)

1958年、大阪市生まれのウチナーンチュ二世。作家、沖縄大学客員教授。1996年、那覇市に移住。著書に『本音で語る沖縄史』『消えゆく沖縄 移住生活20年の光と影』『本音の沖縄問題』『ほんとうは怖い沖縄』『島猫と歩く那覇スージぐゎー』ほか。共著に『沖縄 オトナの社会見学 R18』(藤井、普久原との共著)のほか、『これが沖縄の生きる道』『沖縄のハ・テ・ナ!?』など多数。現在「沖縄の昭和食」について調査中。

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藤井誠二(ふじい せいじ)

1965年、愛知県生まれ。ノンフィクションライター。現在、沖縄と東京の往復生活を送っている。著書に『人を殺してみたかった』『体罰はなぜなくならないのか』『アフター・ザ・クライム』ほか、共著書多数。『漫画アクション』連載のホルモン食べ歩きコラムは『三ツ星人生ホルモン』『一生に一度は喰いたいホルモン』の2冊に上梓。最新作『沖縄アンダーグラウンド──消えた売春街の戦後史と内実』刊行予定。

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普久原朝充(ふくはら ときみつ)

1979年、沖縄県那覇市生まれ。建築士。アトリエNOA、クロトンなどの県内の設計事務所を転々としつつ、設計・監理などの実務に従事する。街歩き、読書、写真などの趣味の延長で、戦後の沖縄の都市の変遷などを調べている。本書の取材を通じて、沖縄の伝統的な豚食文化に疑問を持ち、あらためて沖縄の食文化を学び直している。

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