台湾の人情食堂

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#37

美味しいものが詰まった台北の延三夜市

文・光瀬憲子

 夜市といっても、台湾の夜市には実にいろいろなスタイルがあるんだな、と実感したのは延三夜市を訪れたときだった。

 士林はいわずと知れた台湾最大規模の夜市で、食べ物から服、雑貨、ゲーム、さらには占いまで、何でも揃う巨大エンターテイメントだ。その一方で、台南の花園夜市や高雄の瑞豊夜市のようにフェンスで囲まれた特定のエリア内に屋台が並ぶものもある。そうした夜市はたいてい若者でごった返している。そして、寧夏夜市や臨江街夜市のようにクルマが入れない通りの両脇に食べ物屋台や雑貨店が並ぶオーソドックスな夜市がある。

 

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延平北路三段のグルメストリート「延三夜市」

 

 延三夜市はそのどれとも違う。だから、「夜市」とだけ聞いて足を運ぶと「?」 となるかもしれない。延平北路三段という通りに位置するので略して「延三」と呼ばれているこの夜市は、台北の西側にある迪化街の北側から三重区に渡る橋のすぐ手前にあるグルメストリートだ。

 延平北路は普通の車道なので、クルマが通るすぐ脇や歩沿いに屋台や食堂がずらりと並んでいる。

 トマトの串刺し飴を舐めたり、大きな鶏の唐揚げを食べ歩きしたり……といった夜市ではなく、しっかり夕飯を食べたり、大人どうしで飲んだりするのにいい、いわば「大人の夜市」なのだ。

 

 

「小」が70元! 安くて美味しい牛肉麺

 まず目につくのが人だかりのできている牛肉麺の屋台。小さくて古い屋台はカウンターが数席だけで、あとは通りにテーブルが置かれている程度。常に客足が絶えないが、早い時間帯に訪れたためか、ラッキーなことに、カウンターで麺をすすっているおじいちゃんの隣に座ることができた。彼は週に一度、ちょっと遠くからわざわざこの屋台の牛肉麺を食べにやってくるらしい。「うまいだろ」と親指を立てて笑う。

 この屋台の魅力は何といっても価格。台北市内の牛肉麺は通常、140元~200元くらいが相場だが、この店は「小」が1杯70元なのだ。豚肉大国台湾にあって、牛肉は高級食材。牛肉麺がたったの70元となれば、通いたくなるのも無理はない。

 さっぱりとしたクセのない紅焼スープにとろけるように柔らかい牛肉が入っている。こってりした牛肉麺と比べると食べやすいので小を1杯食べても食べ歩きに支障がなさそう。また、カウンターに置いてある酢をスープに垂らすとさらに食べやすくなるので、夏はおすすめだ。

 

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「小」でも十分味わい深い牛肉麺70元

 

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常連客の多い牛肉麺屋台でカウンターに陣取る

 

 

伝統スイーツのお店

 牛肉麺の屋台の先には伝統スイーツ専門店「杉味豆花」がある。清潔感のある店構えで、店内にはテーブル席もあり、ゆっくり食べられる。

 メニューは豆花はもちろん、不思議な食感の焼仙草やかき氷類、そしてトッピングも。豆花や仙草デザートは、冬は暖かく、夏は冷たくして食べられるので一年中楽しめる。いつもはシンプルな豆花を選ぶのだが、このときはトッピングを楽しんでみた。大きなタロイモの甘煮、モチモチした食感のサツマイモ団子などを真っ白な豆花の上に浮かべた山盛りの一杯は、至福の時をもたらしてくれる。シロップはショウガが効いていて体にもよさそうだ。

 

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ショウガのきいたシロップと豆花にたっぷりのトッピング40元

 

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徐々にゼリー状に変わるホットスイーツ焼仙草45元

 

 スイーツの幸せを味わうのが女子だけだと思ったら大まちがい。隣のテーブルでは大学生くらいの男子4人が小さなテーブルを囲み、なかよくスイーツをつついている。伝統スイーツ店にはこうした男子のグループや一人でスイーツ楽しむ中年男性の姿も珍しくない。

 台湾ではおしゃれなカフェでワッフルなどを食べることもできるが、こうして老若男女に愛されている様子を目の当たりにすると、伝統スイーツもこの先、消えることはないだろうと思う。

 

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明るくきれいな店構えで入りやすい「杉味豆花」

 

 

なまずとクコの薬膳スープ

 さらに延平北路を歩いてみると、漢方の香り漂う食堂が目につく。混み具合からすると人気店だろう。ここ「良友薬燉排骨」は、その名の通り漢方煮込みの専門店なのだが、それにしては大衆食堂のような店構えで入りやい。

 看板メニューは店名にもなっている骨付き豚肉の薬膳スープ。だが、あえて「枸杞土虱」を頼んでみる。「枸杞」は日本でもわりと親しまれている、赤くて小さなタネのような形をしたクコの実だ。「土虱」はナマズ。その名のとおり、ナマズの大きなぶつ切りが、いかにも薬膳を思わせる黒いスープに入っており、赤いクコの実が散らしてある。

 見た目はかなりの迫力。台湾バジルも入るので、その香りに抵抗がある人はあらかじめ「バジルなし」(不要九層塔/ブヤオジョウチェンター)と注文するといい。

 

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見た目は「!」だが、味はまろやかなナマズの薬膳スープ70元

 

 ナマズの薬膳スープは薬膳、しかもこの大きさで70元という台北中心部ではありえない破格値。薬膳といってもそれほどクセはなく、ナマズもよく煮込んであって美味しい。冬場は行列ができる人気店なのもうなずける。

 台湾の人たちは薬膳スープが大好きだ。この店にもお年寄りはもちろん、小さな子どもを連れた家族や、全身黒ずくめのロックシンガーのような出で立ちをした若い男性もいて、意外な客層に驚かされる。摩訶不思議な食べ物に心惹かれたのか、外国人バックパッカーもひとり、無言で薬膳スープをすすっている。果たして彼はどんな感想を抱いたのだろうか?

 

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「良友」は薬膳スープ以外のメニューも豊富

 

 

もち米入りの腸詰で缶ビールを一杯

 延三夜市が大人の夜市だと感じた理由はさまざまだが、老舗が多く、そこへ足を運ぶ常連客が多いからかもしれない。そして、夜市の南端に最後までポツンと灯りをともしている腸詰屋台「大頭橋大腸煎」も大人の夜市を象徴するようなたたずまいだ。

 メニューは少なく、腸詰めが2種類(香腸と糯米腸)と鶏肉が1種類だけ。いかにも酒のツマミによさそうな素朴な腸詰めが小皿にきれいに並べられて出てくる。近くのスーパーで買ってきた缶ビールとともにつまんでみる。これぞ大人の時間。

 屋台で食べ歩きをするのではなく、屋台の灯りの元で深夜過ぎにスライスされた腸詰めを食べられる屋台は、ありそうでなかなか見つからない。

 

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もち米を詰めた腸詰めは案外上品な味わい50元

 

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夜更けの屋台で腸詰めをひっそりいただくのがオトナ流

 

 仕事を終えたお父さんや歩き疲れた旅人を癒やしてくれる延三夜市、ぜひ訪れてみてほしい。

 

 

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*本連載は月2回(第1週&第3週金曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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著者:光瀬憲子

1972年、神奈川県横浜市生まれ。英中日翻訳家、通訳者、台湾取材コーディネーター。米国ウェスタン・ワシントン大学卒業後、台北の英字新聞社チャイナニュース勤務。台湾人と結婚し、台北で7年、上海で2年暮らす。2004年に離婚、帰国。2007年に台湾を再訪し、以後、通訳や取材コーディネートの仕事で、台湾と日本を往復している。著書に『台湾一周 ! 安旨食堂の旅』『台湾縦断!人情食堂と美景の旅』『美味しい台湾 食べ歩きの達人』『台湾で暮らしてわかった律儀で勤勉な「本当の日本」』『スピリチュアル紀行 台湾』他。朝日新聞社のwebサイト「日本購物攻略」で訪日台湾人向けのコラム「日本酱玩」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/  近況は→https://twitter.com/keyword101

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