日本一おいしい!沖縄の肉食グルメ旅

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#37

山羊づくしで満腹!~『やぎとそば 太陽』

文・藤井誠二 写真・深谷慎平

 

山羊の創作料理の店『太陽』 

 

「山羊ラーメン、まじ、うまいっすよー!チーイリチーもあります」

 山羊ラーメンを供する店があると、友人の深谷慎平君から聞いた。彼は我々三バカの『肉の王国 沖縄で愉しむ肉グルメ』のカバー写真などを撮ってくれた那覇在住のカメラマン兼ラジオディレクターなのだが、無類の健啖家である。うるま市石川にある、『太陽』というその店に、彼は付近で仕事があったときや、時間があるときにドライブがてら那覇から食べに行っているという。そういえば深谷君とは読谷村へ早朝から「血汁」の仕込みを取材に行ったこともある。それ以来、彼は「血に飢えた」男となったようだ。

 聞けば、山羊の刺身や山羊汁はもちろんのこと、山羊チーイリチー、山羊カレー、山羊焼きそば、山羊  山羊ピザまであり、山羊づくしなのだ。これは行くしかない。

 さっそく深谷君の案内で『やぎとそば 太陽』に、ぼくと普久原朝充君の三人で食べにいってみることにした。三バカの長兄・仲村清司さんは、二日酔いで体調がすぐれなかったのか、あるいは山羊がもともと苦手──詳しくは『肉の王国 沖縄で愉しむ肉グルメ』を読んでほしい──なのか理由は定かではないが、欠席。われわれが、山羊シリーズ六品を完食して腹がはち切れんぐらいになり、主の仲西洋陽さんにお話をうかがっているころにやっと、「山羊どうだった?」と仲村さんからメールが届き、ずっこけた。

 

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『やぎとそば 太陽』の表看板と、店主の仲西洋陽さん

 

 主の仲西洋陽(ひろや)さんは去年(2016年)まで十八年間も県内で物流関係の会社でサラリーマンをしていたのだが、転勤を余儀なくされる事態になり、会社に残るとなると沖縄を出なければならなくなったのだ。それを機に腹を括り、もともと大好きだった山羊料理に取り組むことを決意したのだそうだ。

「沖縄県内に山羊の創作料理の店はなかったし、それで(業界の)テッペンを狙ってやろうと思ったんです。それから山羊肉に抵抗があった人にも食べてもらおうと思いました」

『太陽』をオープンしたのが今年の二月だから、まだ出来立てほやほやの店なのだ。が、去年の十月から山羊料理の移動販売を始めていて手応えを得ていた。今もイベントなどに出店していて、店の外に停めてある「山羊カー」がけっこう目立つ。

 

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移動販売カーでイベントなどにも出店

 

 ぼくは知らなかったのだが、沖縄に「ガチめしグランプリ」https://info691555.wixsite.com/gachimeshi というのがあり──B級グルメコンテストの沖縄版と考えてもらえばいい──、一回目は去年一月に那覇波の上の「うみそら公園」で開催された。一回目は一〇店舗、二回目は一五店舗が出店。出店規模はそれほど大きいとは言えないが四千人が集まった。そして、なんと初回で「太陽」が「やぎラーメン」で、二回目も「太陽」が「やぎボロネーゼ」でグランプリを獲得したのである。

 えっ?  やぎボロネーゼ? ボロネーゼはいわずと知れた、挽き肉と香味野菜、トマトを煮込んだイタリアの伝統的なソースだ。パスタと和えることが多いから、食ったことがない人はほとんどいないと思えるぐらい、世界的にポピュラーなソースだ。挽き肉にするのは牛と豚の合い挽きで、豚肉のハムや塩漬けを混ぜることもある。山羊肉を使うなんて聞いたことがない。

 運ばれてきた「やぎボロネーゼ」は、見た目はふつうに見かけるボロネーゼのスパゲッティーニ。が、麺は沖縄そばの生麺で、フーチバが料理を囲むように並べられている。このあたりがフツーではないなと思わせる。鼻を近づけるとたしかに山羊臭がする。

 

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やぎボロネーゼ、1080円

 

 まずソースだけ口に運ぶと、うんまい! クセのある山羊肉がほろほろ状態になっていて、それとトマトソースの酸味、香味野菜の甘みが一体になっている。もちもちの太麺との相性は抜群、フーチバの苦みがアクセントになり、じつに奥深い一皿に仕上がっている。このボロネーゼのアイディアは件の「ガチ」だという。

「二回目のガチバトルのときに、山羊汁でもなく、山羊焼きそばもなく、ボロネーゼを考案したんです。山羊肉を煮込むときに大鍋の底に肉が沈殿します。その肉を何かに使えないかとずっと思っていたんですが、肉を取り出し、ていねいに骨を取り去って、トマトソースで和えたら、美味いソースができたんです」

 店内を見回せば、若い子ども連れ夫婦が何組か。子どもたちが山羊のボロネーゼが大好きなようで、口のまわりにソースをつけて、夢中で食べている。

 やぎラーメンはさっぱりしたスープ。もちろん山羊の独特の旨みは残しながら、山羊汁独特の脂ぎっとり感がまるでない。で、こちらもフーチバがのる。

 

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やぎラーメン、1080円

 

 仲西さんに聞けば、肉を煮たときに上澄みになる脂は大半を捨ててしまうという。メニューに山羊汁はもちろんあるが、脂の量を四段階に調整できる。「脂ゼロ」から「脂3」レベルまである。気候や体調によって変えてもらえるわけだ。

 やぎラーメンのスープにはほとんど脂は浮いておらず、透明で澄んでいる。それでも山羊の旨みがきっちりと感じられる。煮込んだ山羊肉、モヤシとノリ、メンマがのっかり、見た目は塩ラーメンのよう。こんなにうまいスープは久々だ。ちなみに脂の多い肉の部位は汁系には使わず、「やぎ炒め」などの炒めもの系料理に使う。ちなみに汁に使う脂は内臓に付く網脂を使うというこだわりようである。だから脂の臭みが立たないのだ。

 

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山羊の旨みがしっかり味わえるやぎラーメン

 

 やぎカレーはごろりとのった山羊肉が存在感がある。ルーにはやはり「鍋底肉」が煮込まれている。こちらもあっと言う間に平らげた。

 

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山羊初心者にもおすすめ。やぎカレー、980円

 

 やぎ焼きそばも、沖縄そばの麺と山羊肉の相性が良く、焼きそばに使うウスターソースなどの味付けはなくとも、じゅうぶんに濃厚な味が愉しめた。  

 

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こちらも旨い! やぎ焼きそば、980円

 

 仲西さんにぼくが本気度を感じるのは、山羊を自社所有の山羊牧場(山羊小屋)で飼育していることだ。本来、乳用種のザーネン種を沖縄では食用肉としているが、それにボア種をかけあわせた山羊を常時三五頭ほど育てている。餌やりは主に父親がやってくれるのだそう。餌がまた豪華で、沖縄の酒造会社のもろみ酢かすや、乾燥草、とうもろこしやハーブなどを与えている。仲西さんは山羊料理は大好きだったが、飼育したことはなかったから、県内の山羊飼育の達人たちにアタマを下げて、一から教えを請うたという。かれこれ山羊の飼育を始めて一年半ぐらい経ちますねえと仲西さんは笑うが、その間の苦労は想像に難くない。

 それから、月に一度、イタリアンのシェフら、さまざまな食のプロらが集まって、山羊料理の試食会を開いている。これも「外さない」山羊料理を供するためのアイディアの源泉となっている。仲西さんがいかに山羊が好きかということがわかろうものだが、我々は仲西さんのハンパない情熱と、山羊のいのちをいただいたことに感謝した。

 

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山羊も飼育しているという仲西さん

 

 もっとも山羊の旨みと臭いが感じられたのがチーイリチーだった。山羊の血で山羊肉と野菜を炒めた逸品。これは我々全員が酒がほしくなったが、ガマン。かわりに白メシをもらい、乗っけてかっこんだ。

 

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山羊のチーイリチー、480円。酒のかわりにごはんとともにいただく

 

 そして、なぜかシメに選んだのがやぎPizza(ピザ)。これは文句なしにうまかった。チーズ二種(山羊のチーズではない)の上に山羊肉とサラミがのり、ふっくらと生地が焼き上がっている。刻んだフーチバも供される前にふりかけられる。仲西さんに聞けば、仕上げに全体に山羊汁をまわしがけてあるという。

 

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絶品! やぎPizza、980円

 

 チーズの醗酵臭と山羊の旨みが渾然一体となり、我々は満腹状態なのにバクバクと食らってしまった。こちらもビールが飲みたくなったが、ガマン。

 家族連れの子どもらが、次々と山羊料理をたいらげ、うんまい!うんまい!と連発するオッサン三人を不思議な生き物を見るような目で見ていたことに、あとで深谷君から教えられるまで、ぼくは気付かなかった。

 

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うんまい!うんまい!


 

『やぎとそば 太陽』

住所:うるま市石川2丁目10-18

 

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うるま市石川にあるお店。駐車場あり

 

 

 

*本連載の#01~#32配信記事を収録した単行本、『肉の王国 沖縄で愉しむ肉グルメ』が全国書店で好評発売中です。ぜひ、お読みください!!

 

『肉の王国 沖縄で愉しむ肉グルメ』

定価:本体1600円+税 発行:双葉社

 

カバーアウトライン

 

 

*本連載は、仲村清司、藤井誠二、普久原朝充の3人が交代で執筆します。記事は月2回(第1週&第3週木曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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仲村清司(なかむら きよし)

1958年、大阪市生まれのウチナーンチュ二世。作家、沖縄大学客員教授。1996年、那覇市に移住。著書に『本音で語る沖縄史』『消えゆく沖縄 移住生活20年の光と影』『本音の沖縄問題』『ほんとうは怖い沖縄』『島猫と歩く那覇スージぐゎー』ほか。共著に『沖縄 オトナの社会見学 R18』(藤井、普久原との共著)のほか、『これが沖縄の生きる道』『沖縄のハ・テ・ナ!?』など多数。現在「沖縄の昭和食」について調査中。

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藤井誠二(ふじい せいじ)

1965年、愛知県生まれ。ノンフィクションライター。現在、沖縄と東京の往復生活を送っている。著書に『人を殺してみたかった』『体罰はなぜなくならないのか』『アフター・ザ・クライム』ほか、共著書多数。『漫画アクション』連載のホルモン食べ歩きコラムは『三ツ星人生ホルモン』『一生に一度は喰いたいホルモン』の2冊に上梓。最新作『沖縄アンダーグラウンド──消えた売春街の戦後史と内実』刊行予定。

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普久原朝充(ふくはら ときみつ)

1979年、沖縄県那覇市生まれ。建築士。アトリエNOA、クロトンなどの県内の設計事務所を転々としつつ、設計・監理などの実務に従事する。街歩き、読書、写真などの趣味の延長で、戦後の沖縄の都市の変遷などを調べている。本書の取材を通じて、沖縄の伝統的な豚食文化に疑問を持ち、あらためて沖縄の食文化を学び直している。

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