韓国の旅と酒場とグルメ横丁

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#37

ソウルと釜山 地元っ子がすすめる旨い店

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 美味しい店、雰囲気のある店を見つけるのが日々の仕事だが、そのときにものを言うのが地元の人の声だ。市場ならそこで店を構えている人や仕入れに通う人、地方ならタクシーの運転手さんなどが頼りになる。

 この十年ほどで韓国にも食べ歩き文化が根付き、テレビでは各局でモッパンと呼ばれるグルメ番組が放送され、ネットで日々の外食を披露する人が目白押し。誰に聞いてもお気に入りの飲食店のひとつやふたつは挙がるようになった。

 今回は地元民に愛されているとっておきの店を、ソウルと釜山で1軒ずつ紹介しよう。

 

 

【ソウル】辛いが旨い! 真っ赤に燃えた冷麺 

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「キッテボン冷麺」のムル冷麺5番(普通の辛さ)6000ウォン

 

 頭に霞がかかっているようですっきりしない。仕事や勉強で机にべったりはりついていて気持ちがくさくさしている。韓国人はそんなときに辛いものが食べたくなる。

 もちろん気候も影響する。寒いときは体をあたためるために辛いものを食べるが、暑いときにも食べる。辛いものを食べて汗をかき、気化熱による冷却効果で涼しさを感じるためだ。

 ソウルの「昌信」駅や「東廟アッ」駅の近くの冷麺専門店「キッテボン」は、暑い日のランチタイムには空席待ちの列ができるほどの人気店。筆者は母親が朝鮮戦争のときに北側から避難してきた人なので、北由来の冷麺にはこだわりがある。特にスープはひと口ふくんだ瞬間は水かと思うほど淡白で澄んだものが好みなので、著作やwebコラムでもそんな冷麺を取り上げることが多い。しかし、この店の冷麺は一見してそれらとは違う。スープが真っ赤なのだ。

 座敷を見ると、子供からお年寄りまで、幅広い年齢層の客が真っ赤な冷麺をすすっている。私たち韓国人はやっぱり辛いものが好きなんだなあと、あらためて思う。辛いものを食べるというと、どこか若い人の遊び、イベント的なノリの日本とは大きくちがう。

 冷麺はムル冷麺(スープあり)とピビム冷麺(スープなし)の2種類。どちらも1~6段階まで辛さを選ぶことができる。1番がもっとも辛い。2番が基本の味で、6番は幼児でも食べられる淡白な冷麺だ。私は2番をよく食べる。メニューには「普通の辛さ」と書いてあるが、これは日本の人なら激辛と言うだろう。韓国料理を常食している人なら許容範囲だが、そうでない人は3~5番くらいにしておいたほうがよい。

 

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トッピングはタマゴ、キュウリ、ダイコン、ネギとシンプル

 

 麺は辛味をまといやすい細麺。スープはダシを云々するタイプではなく、唐辛子とまっすぐ向き合う味だ。あちこちの席から「メプタ(辛い)」「シウォネ」という声が聞こえる。シウォネは「すっきりする」「さわやか」という意味。そう、韓国人にとって辛さは爽快感なのだ。韓国独自の味覚情緒をぜひ体験してもらいたい。

 

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メニューは上からこう読む。()内は日本の人ならこう感じるだろうという筆者の想像。1番「すごく辛い」(食べられないかも)、2番「辛い」(めちゃくちゃ辛い)、3番「ちょっと辛い」(辛い)、4番「辛くない」(まあまあ辛い)、5番「ほとんど辛くない」(ちょっとだけ辛い)、6番「幼児向け」(辛くない)

 

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ソウル中心部から地下鉄1号線に乗り、東大門駅のひとつ先にある「東廟(トンミョ)アッ」駅から徒歩7分。6号線「昌信(チャンシン)」駅からは徒歩5分。鍾路区崇仁1洞56-25 10:30~21:30 名節以外は無休

 

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食後の散歩は、東廟アッ駅3番出口の前から広がる蚤の市で

 

 

【釜山】ワカメスープにカレイが入ってグレードアップ! 

 韓国で「今朝、ミヨックッ(ワカメスープ)食べた?」と言えば、それは誕生日を迎えた人へのあいさつ代わり。格別仲がよいとはいえない夫婦でも、妻は夫の誕生日の朝にワカメスープを煮たりする。最近は女性が強くなったので、もちろん逆の場合もある。

 なぜ誕生日にワカメスープなのか理由はよくわからない。もしかしたら、産んでくれた母親ヘの感謝の気持ちを表しているのかもしれない。というのも、韓国では産後の女性の多くがお乳の出をよくするためにミネラルの豊富なワカメスープを数週間飲み続けるからだ。

 ワカメスープを食べるのは誕生日や産後とは限らない。家庭で辛いものや脂っこいものが続いたとき、母親がアクセントとしてワカメスープを煮たりする。大衆食堂でもペッパン(日替わり定食)の汁ものがたまにワカメスープだったりする。日本の人はワカメスープというとインスタントのあっさりしたものを思い浮かべるようだが、韓国ではふやかしたワカメと牛肉(または牡蠣など)をニンニクやごま油で炒め、水を加えて煮るので旨味がちがう。

 とはいっても、ワカメスープはありふれた韓国料理にはちがいない。だから、南浦洞(ナムポドン)の繁華街で出会った地元ОLに「美味しいワカメスープの店があるんですよ」と言われたときはまったく食指が動かなかった。

「五福(オボッ)ミヨックッ」という名のその店では、カレイの切り身を加えて煮たものが一番人気だという。ワカメとカレイ。港町釜山のことだから、そんな組み合わせもあるだろうな、くらいにしか思わなかった。ところが……。

 

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「五福ミヨックッ」のカジャミ・ミヨックッ10000ウォン

 

 まず、立派な店構えに驚いた。ワカメスープの専門店というから、おばあちゃんが1人で切り盛りしているような庶民的な食堂を想像していたのだ。

 カレイの大きな切り身がのったスープをひと口飲んでさらに驚いた。食べなれたワカメスープに白身魚の風味が加わり、とても上品な旨味を出している。カンジャンケジャン(カニの醤油漬け)を食べるときのように無口になり、ひたすらスプーンを口に運ぶ。店の人の話によれば、釜山では以前からワカメスープにカレイなどの魚介を加えて煮ることはあったという。この店のカジャミ(カレイ)ミヨックッはそれを発展させたものなのだ。

 このときのつきだしは、港町らしい海藻やイカの塩辛、昆布、キムチなど計7皿。店もきれいだし、テーブル席もゆったりしている。これでご飯もついて10000ウォンは悪くない。

 

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港町・釜山らしい海藻のつきだし

 

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ゆったりとしたテーブル席。奥には接待にも使えそうな座敷も。ワカメスープはカジャミ(カレイ)以外に、チョゲ(アサリ)、ソコギ(牛肉)、チョンボッ(アワビ)などがある

 

 ソウルと比べると気どりのなさが魅力の釜山。筆者は年季の入った店や庶民的な店を積極的に取り上げていて、こぎれいな店、高級な店は敬遠しがちなのだが、この店は当りだ。釜山でリピートする店がまたひとつ増えた。

 

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1号線南浦(ナムポ)駅7番出口から徒歩5分。拙著『釜山の人情食堂』p8の地図に出ているソルロンタン専門店「ソウルカクトゥギ」の向かい。中区南浦洞2街25─10 08:00~22:00 無休

 

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食後の散歩はチャガルチ市場で。写真は新東亜市場から

 

 

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紀行作家。1967年、韓国江原道の山奥生まれ、ソウル育ち。世宗大学院・観光経営学修士課程修了後、日本に留学。現在はソウルの下町在住。韓国テウォン大学・講師。著書に『うまい、安い、あったかい 韓国の人情食堂』『港町、ほろ酔い散歩 釜山の人情食堂』『馬を食べる日本人 犬を食べる韓国人』『韓国酒場紀行』『マッコルリの旅』『韓国の美味しい町』『韓国の「昭和」を歩く』『韓国・下町人情紀行』『本当はどうなの? 今の韓国』、編著に『北朝鮮の楽しい歩き方』など。NHKBSプレミアム『世界入りにくい居酒屋』釜山編コーディネート担当。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/

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