旅とメイハネと音楽と

旅とメイハネと音楽と

#37

「Cappadox」2017音楽レポート

文と写真・サラーム海上

 

カッパドキアの野外音楽フェス

 2017年5月中旬にトルコの世界遺産カッパドキアの野外で開催された総合フェス「Cappadox」。その中のグルメイベント「オープンファイアクッキング」のレポートに続き、今回は肝心の音楽面のレポートを行おう。


 オープンファイアクッキング終了後、僕はいったんギョレメの宿に戻り、万全な雨と寒さ対策を行った後、夜中前にメイン会場である「ペリル・オザンラル・ヴァデスィ(妖精の煙突谷)」国立公園に向かった。僕は日本最大の音楽フェス「フジロック・フェスティバル」を頻繁に訪れているので、野外フェスの雨と寒さ対策は慣れたものだ。背中や腰にホッカイロを張り、防水ポンチョを着て、足元はハードなトレッキングシューズ、さらに懐にはウイスキーを忍ばせておけば、凍えるほどの真冬以外はたいてい耐えられる。
 ペリル・オザンラル・ヴァデスィはカッパドキアらしいキノコ岩がニョキニョキと生えているように見える谷間。そこにトラス建材でステージが建てられ、岩壁にはプロジェクターからカラフルなサイケデリックな模様が投影される。そこにいるだけで、何かの魔法にかかってしまいそうな幻想的な舞台だ。

 

IMG_7733

ウチヒサルの裏通りにはCappadoxの各会場への標識が立てられていた

 

IMG_7453

メイン会場のペリル・オザンラル・ヴァデスィ(妖精の煙突谷)国立公園
 

 そんな場所に初日のトリとして登場したのはイスタンブルのインディーズ・バンド「Buyuk Ev Ablukada(ビュユック・エヴ・アブルカダ)」。実は僕は彼らのCDを一枚持っていて、レディオヘッドに影響を受けたありがちなインディーズ・バンドという印象だったので、全く期待していなかった。しかし、ライヴが始まった瞬間、僕が聞いていたCDとは全く異なる刺激的なエレクトロ・ビートが谷間に響き渡り、それからは最後まで耳と目が離せなくなってしまった。
 初期ダフト・パンクのような打ち込みのアシッド・ベースと硬質なゲイ・ディスコ・ビートが鳴り響く中、黒ジーンズに坊主頭の女子、フェイクファーのコートを着たスキンヘッドの男子というLGBT系の二人のボーカリストがステージでくねくねと動き、それぞれ勝手にセクシーに喘ぎ、叫ぶ。どの曲もイントロが長く、ジワジワ、グイグイと渋く盛り上げていき、オーディエンスの期待が高まったところで、フッとキャッチーな歌が始まる。しかも、どの曲もしっかりしたフックがあって、一瞬たりと聞き逃せない! こりゃ最高のエレクトロLGBTディスコ・パンクじゃないか!! ダフト・パンクと電気グルーヴとシザー・シスターズとニュー・オーダーを足して、トルコのメロディーを加えたような……初日からすごいバンドを発見しちゃった!

 

IMG_7244

Buyuk Ev AblukadaはインディーロックからエレクトロLGBTディスコ・パンクへと大変身を遂げていた!
 

 二日目は早朝五時半からウチヒサル郊外のレッドヴァレーにてサンライズコンサート。前年(本連載#04参照)は明け方の熱気球ツアーを優先したため、この日が初めて観るサンライズ・コンサートだ。天気予報では雨と予報されていたため、この朝は100台の熱気球は飛ばなかった。雲が非常に速く流れていたので、上空の風は強かったのだろうが、明け方の空は晴れていた。そこに登場したのはニューエイジ吟遊詩人デュオ「Kuan(クアン)」。地中海の町アンタルヤ出身のデミルジャン・デミル率いる不定形バンドで、バンド名は「禅問答の問」を意味する。

 東の空から太陽が見え始めた瞬間、デミルジャンは打弦楽器サントゥールをバチで叩き、その場に来ていた200名ほどの観客に短いマントラを唱えさせてから演奏を始めた。曲ごとにトルコの葦笛ネイや三味線にあたるサズを持ち替え、倍音たっぷりの浪曲のような歌声で歌っていく。トルコの民謡テュルキュを元にしながらも、シンセやパーカッションを取り入れた現代的なアプローチだ。

 

IMG_7300

二日目の朝5時過ぎ、ウチヒサル郊外のレッド・ヴァレー

 

IMG_7316

アンタルヤ出身のニューエイジ吟遊詩人デュオKuan

 

IMG_7376

風がなければ背景には100台の熱気球が飛んでいたはず

 

IMG_7369

サンライズコンサートに集まった人々。遠くにウチヒサル城塞が

 
 二日目の午後、それまで晴れていた空があっという間に暗灰色に変わり、突然の雷鳴とともに、直径2cmほどの雹がバラバラと降り始めた。雹は15分ほどで大粒の雨に変わり、町のメイン通りには雨水があふれ、濁流となって流れていく。トルコまで来て、フジロック状態とはこれ如何に……。
 雨は夜になっても止むことなく続き、二日目の夜、メイン会場のペリル・オザンラル・ヴァデスィは吐く息が白くなるまで冷え込んだ。

 

IMG_7398

二日目の午後、突然の雷雨と雹

 

IMG_7449

急激に冷え込んだ夕暮れのギョレメ
 

 この晩のメインアクトは日本でも人気の高い、カナダのエレクトロ・ソウル・ユニット「RHYE(ライ)」。僕は彼らの1stアルバム『WOMAN』をこの数年ずっと愛聴していたので、初めて観るライヴを楽しみにしていた。

『WOMAN』はベッドルームで生まれた10年代型エレクトロ・ソウル・サウンドと男性歌手マイケル・ミロシュの、まるでシャーデーのような中性的な裏声ヴォーカルが特徴だった。しかし、キーボード、ドラムス、ベース、ヴァイオリン、チェロ/トロンボーンという変則的な編成のバンドが『WOMAN』の精緻なエレクトロ・ソウル・サウンドをエモーショナルなアコースティック・サウンドに作り変えていた。これはイイ意味で期待を裏切ってくれた!『WOMAN』のリリース以降、3年以上も同じバンドメンバーで世界中をツアーして回ったことで、マイケルの空想上のユニットだったライはいつしかバンドとして血肉化されていたのだ。「Open」や「The Fall」などの過去のヒット曲は生演奏により曲の尺が伸ばされ、新曲「Please」を間に挟んでも何も違和感がなく聞こえた。
 夜が更けるにつれ、雨はザーザー降りになり、吐く息はますます白くなっていた。しかし、彼らのあまりに素晴らしい演奏に聞き惚れ、ステージ前からは最後まで人が減ることはなかった。ステージ上のマイケルも感極まり、「こんなにひどい雨なのに、誰も帰ろうとしないなんて、君たちは本当に素晴らしい!」とオーディエンスを絶賛していた。午前2時前にホテルに戻り、朝の4時半まで仮眠する。

 

IMG_7531

ザーザー降りの雨の中、カナダのRhyeのエモーショナルな演奏を誰もが聞き入った
 

 三日目の早朝、サンライズコンサートは前年に僕が観そこねてしまい、今回こそ観ると誓っていたスーフィー・エレクトロニカのメルジャン・デデ。前日からの雨は一晩開けてもずっと降り続いていて、レッドヴァレーまでの道を泥だらけになりながら歩くことになった。しかし、普段は乾燥してすすけて見えたカッパドキアが一面に生え育った緑の芝生と土壌の赤によって色鮮やかに見える。

 

IMG_7641

降り続いた雨のおかげで、普段乾燥しているカッパドキアに鮮やかな緑が
 

 メルジャン・デデのサンライズコンサートは晴天だった前日とは異なり、雨除けのテントの中での演奏となった。メルジャンは新たに結成したバンド「イスタンブル・カルテット」を率いていた。まだ十代、二十代のロマ系の四人の若手精鋭を集めたバンドで、編成は葦笛ネイ、ヴァイオリン状の擦弦楽器ケマンチェ、クラリネット、花杯型太鼓ダルブッカ。クラリネットはトルコのNo.1奏者ヒュスヌ・シェンレンディリチの息子、ネイのブラク・マルチョクとケマンチェのジャフェル・ナズルバシュはそれぞれにメルジャンのプロデュースでソロ・アルバムを発表している。

 若者ならではの演奏は頭上に重くのしかかる雨を一瞬忘れさせてくれるほど切れっ切れだ! 若い精鋭たちはメルジャンの代表曲、そしてトルコの伝統曲を新しい感覚で描き出していく。しかし、降りしきる雨と睡眠不足に体力を奪われていた僕は、いつものようにカメラを持って動き回ることすら出来なかった。フードの下でホッカイロを手で握りしめながら、彼らの音を楽しむのが精一杯だった。

IMG_7647

三日目のサンライズコンサートはテントの中で、メルジャン・デデ&イスタンブル・カルテット

 

IMG_7644

スーフィーエレクトロニカの音楽家、メルジャン・デデ

 

IMG_7646

ザーザー降りの雨で、若い精鋭たちの演奏がますます心に沁みた
 

 一年ぶりに再会したメルジャンをコンサート終了後に彼が滞在している高級ホテル「Argos in Cappadocia」で取材した。
「今年が三回目のカッパドックス出演だよ。実は今年、カッパドキアでは全然雨が降らず、10日ほど前には地元で雨乞いの儀式が行われたんだよ。そして、その雨乞いの儀式の最中に、何ヶ月ぶりかの雨が本当に降り出したんだ。嘘じゃないよ。その様子はテレビニュースにもなって放送されたくらいだよ。
 現代社会に生きていると、雨は災いのように思えるかもしれないけれど、本当はそうじゃない。カッパドキアでは雨は恵みなんだよ。カッパドキアがこんなに美しい緑で覆われるのは一年のうちほんのわずかな間だけさ。
 僕は昨夜、ステージの上からオーディエンスの写真を撮ったんだ。赤、青、黄色、緑、様々な色のレインウェアを着たオーディエンスがまるで虹みたいに見えたから。スーフィーの言葉に『雨がなければ虹はない』というのがあるけれど、この雨が続いたことによって、カッパドックスに虹がかかったんだよ」

 

IMG_7670

メルジャン・デデ曰く「雨がなければ虹はない」

 

旅する音楽7

レバノンのヤスミン・ハムダン「いつもならフェスで雨が降るのはストレスになるけれど、カッパドックスは別。ここは特別な魔法の土地。この山や丘があれば他になにも要らない」

 

 2017年のカッパドックスは三日三晩、雨に降られ通しだった。そして全ての音楽プログラムが終了した四日目の朝になって、前夜までの悪天が嘘のように晴れ上がった。2018年は雨の残る5月を避け、夏が始まり、雨の降らない6月中旬に開催されることとなった。今回こそは100台の熱気球と夜明けの太陽を背景にメルジャン・デデの演奏を聴きたいぞ!

 

IMG_7755

古代クリスチャンの馬小屋を改装したホールで行われたアメリカ人ピアニスト、ピーター・ブロデリックのソロ演奏

 

IMG_7948

午前3時クロージングパーティーのDJアシッド・パウリ、ますます人が増えてきた

 

IMG_7961

一夜明けると昨日までの大雨が嘘のような晴天に!

 

 

カイセリ名物の肉料理を作ろう

 さて今回のレシピはカッパドキアから一番近い大都市で、肉料理の町カイセリ名物のキャーウタ・パストゥルマ。
 パストゥルマとは、中央アジアの騎馬民族オグズ族が考案し、後にアルメニア人によって改良された牛の干し肉。フェヌグリークとパプリカ、クミン、にんにくを使った「チェメン」と呼ばれるスパイスペーストを表面に塗りたくり、乾燥させたもので、生ハムのように薄切りにしたものはメイハネの定番メニューとしてトルコ全土で親しまれている。
 そのパストゥルマの薄切りを、塩漬け葡萄の葉や、トマト、玉ねぎ、青唐辛子、パプリカなどの薄切りなどとともにオーブンシートにのせ、イタリアンパセリ、バターを散らしてから包み込み、オーブンで紙に焦げ色が付くまで焼く。
 僕もカッパドキア滞在中に地元の高級レストランで初めて口にした。パストゥルマから出る肉とスパイスペーストの出汁、レモンの皮の旨味が、トマトや玉ねぎ、青唐辛子に染み込み、更にバターが加わり、スライスしただけでも十分に美味しいパストゥルマがますます美味しく食べられる。
 イスタンブルに戻り、近くのデリカテッセンでパストゥルマを買い込み、友人宅のキッチンで再現したら、現地で食べた通りの美味さが簡単に再現出来た。

 

IMG_4914

イスタンブルの惣菜屋店頭に吊られている赤茶色の物体がパストゥルマ


 日本ではパストゥルマが手に入らないが、ご自身で干し肉を作られている方は、ぜひそれらを使って再現していただきたい。風味は異なるが、パストラミビーフを使っても美味しいはずだ。

 

■キャーウタ・パストゥルマ
【材料:作りやすい分量】
パストゥルマの薄切り:8切れ
塩漬け葡萄の葉(なければ省略可):2枚
完熟トマト:1/2個(ざく切り)
玉ねぎ:1/4個(縦薄切り)
青唐辛子:2本(種とへたを取り、1mmのスライス)
黄、赤、または緑パプリカ:1/2個(種とへたを取り、荒みじん切り)
有機レモン:1/2(皮ごと2mmの薄切り)
バター:20g(小さく切り分ける)
黒胡椒:少々
*準備するもの オーブンシート:50cm☓35cmほど

【作り方】
1.塩漬け葡萄の葉は流水に3分漬け、塩気を抜いてから、ペーパータオルで水気を切る。
2.トマト、玉ねぎ、青唐辛子、パプリカ、レモンを所定のサイズに切り分ける。
3.オーブンシートを広げ、長辺を1/3に区切り、その中央に1の塩漬け葡萄の葉を並べ、パストゥルマの薄切りを敷き、2のトマト、玉ねぎ、青唐辛子、パプリカ、レモンを散らし、更にバター、黒胡椒を散らしてから、オーブンシートの長辺を中央に閉じ、短辺を折り曲げて封をする。ホチキスを使っても良い。
4.オーブンを220度に予熱し、温まったら3を入れ、約20分、オーブンシートに軽く焦げ色が付くまで焼く。
5.ホチキスを外して、平皿にのせて完成。熱いうちにいただく。

 

IMG_6679

キャーウタ・パストゥルマの完成!

 

 

*著者の最新情報やイベント情報はこちら→「サラームの家」http://www.chez-salam.com/

 

*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。次回もお楽しみに! 〈title portrait by SHOICHIRO MORI™〉

 

 

orient00_writer01

サラーム海上(サラーム うながみ)

1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家。明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』『プラネット・インディア インド・エキゾ音楽紀行』『エキゾ音楽超特急 完全版』『21世紀中東音楽ジャーナル』他。Zine『SouQ』発行。WEBサイト「サラームの家」www.chez-salam.com

紀行エッセイガイド好評発売中!!

orient00_book01

イスタンブルで朝食を
オリエントグルメ旅

orient00_book02

おいしい中東
オリエントグルメ旅

   

旅とメイハネと音楽と
バックナンバー

その他のCULTURE

ページトップへ戻る

ページトップへ戻る