ステファン・ダントンの茶国漫遊記

ステファン・ダントンの茶国漫遊記

#36

台湾におちゃらかのフレーバー茶を 4

ステファン・ダントン

 

 

 

 

 
 
 台北で何日か過ごす中で、家族や茶業のあり方について考えさせられる場面がいくつかあった。
 

 

 

 

 

家族とどう過ごすか

 

 

 8月の台北はなにしろ暑い。日中歩き回るのはけっこうしんどいけど、日が落ちると過ごしやすくなる。私は今回の滞在中、夕方いったんホテルに戻ってシャワーを浴びてから夜のまちを随分散歩した。
 

 

 

 

台北の夜を散歩する

夜の台北を散歩するステファン。

 

 

 

 

 

  住宅地に近い天母の商店街を歩いていると、私と同じように、思い思いにそぞろ歩く人と行き交う。犬を散歩させる人。ベンチでスマホに見入る人。屋台で夜食を買う人。コンビニの前ではしゃぐ若者。一人で、カップルで、グループで過ごす様子は日本とあまり変わらない。その中で私の目を引いたのは、おばあさんの手をひく若者や、三世代(多分かなりの複数世帯)の親戚同士に見えるグループ。一緒に住んでいるのかどうかはともかくとして、家族単位(親子単位だけでなく)で一緒に散歩している様子をしばしば目にした。
 週末のレストランへ行っても、仕事がらみのディナーや友人同士の会食よりも、大きな円卓を囲む家族が目立ったように思う。
 「五世同堂」といって、中国人は伝統的に複数世代の家族が生活を共にすることこそ幸せだ、という価値観を持っているというが、それが現代の台湾でも実践されているように思った。
 聞けば、今では昔のように「五世同堂」とはいかなくて、それぞれ別に住んでいる家族も多いけれど、週末には集まって食事をするし、親戚とも頻繁に集まるのが普通だという。そんな中で、自然と家族、血族とのつながりを大事にする伝統が続いているようだ。
 

 


 休日を家族三世代で過ごす

台中の休日の街にて、三世代で過ごしている家族。
 

 

 

 

  自分の家族を大事にすることが、他人を尊重する基盤になっているんだな、と思わされるシーンもあった。
 台北の市内交通MRTに乗ったときのこと。込み合う車内に乗り込んできた高齢の女性に気づいた若者グループ。けして近くにいたわけではないのに、一人が立ち上がりながら女性に向かって、「ここ座る?」というように手で合図した。女性は「大丈夫よ。すぐ降りるから」というように手と表情で答えている。なんてことない風景なのだけれど、両者ともに微笑しながらのそのやりとりは終始自然で好もしかった。一緒にその様子を見ていた私の同行者は「心遣いが自然なのは普段からお年寄りとちゃんと向き合っているからなんじゃない。日本だったら気づかないふりだよ。自分のことしか考えない、考えられない日本とは違うね」と感心していた。
 日本でも「お年寄りや身体の弱い方には席を譲りましょう」というルールがある。「守らなければならない」ルールを設定し、それを遵守しないと「後ろ指」を指されるから守る。そんな思考のループに陥っているような気がする。
 

 

 

 

 

MRTの車内風景

台北の市内交通MRTの車内の様子。
 

 

 

 
 日本だって、日本人だって、そもそもは家族や親戚づきあいを大事にしたし、子どもやお年寄りを大事にしてきた。でも今は何か違う気がする。
 今、日本の親戚同士が集まるのは結婚式か葬式くらいじゃないかな。葬式で親戚が集まると「もう少し一緒にご飯でも食べればよかった。これからは定期的に集まろう」なんていうんだけど、ほぼ実現しない。
 なんでそうなるのか。自分の生活が大事だから。たまの休みはゆっくりしたいから。親戚づきあいなんて面倒だから。個人とか個性とか、そんなことばかり大事にして自分だけをかわいがる風潮が社会を壊しつつあるんじゃないか。なんて、フランス人の私が台湾で考えることになるとは……。
  

 

 

 

 

台湾のお茶屋さん

 

 

 台湾で改めて気づいたことがもう一つある。「対話による関係構築」だ。
 今回行った台北のお茶屋さんを例に考えてみた。
 台湾の昔ながらのお茶屋さんは敷居が高い。まず店に入りづらい。外からのぞいてたまたま奥のカウンターの中にいる店主と目が合えば、「どうぞ」というようにその対面の席をすすめられる。
 「どんなお茶をお求めですか?」
 店内には茶葉の入った缶が並んでいるが、銘柄にも不案内だし、ランクもわからないし、値段も表示されていない。
 「おいしい高山茶を紹介してください」
答える私を眺めながら「この外人はお土産を買いにきたのか。どれくらい中国茶について知っているのか。どれくらいの予算を考えているのか」と考えている様子。考えながら、試飲用のお茶を淹れてくれる。
 その手元を見ながら、「私がソムリエであること、日本で日本茶の商売をしていること、台湾の茶葉についても一定の知識があること」を会話の中に散りばめていくと、「相応の茶葉」を出してくれる。
 客の求める茶葉を、対話の中から引き出すスタイル。面倒といえば面倒だし、客を値踏みしているというマイナスの印象もなくはないが、本当にその客が求めるものを提供するために培われた伝統的な方法だ。
 時間はかかるが、対話によってつくられた私とそのお茶屋さんの関係は強く長く続いていく可能性がある。なにしろ「私に合う商品」を納得のうえで提供してくれるのだから。
 

 

 

 

ちょっと入りづらい台北のお茶屋さん

台北のお茶屋さん。ちょっと入りにくい雰囲気だった。
 

 

 

 

   個を大事にする伝統的なスタイルのお茶屋さんがある一方、台湾の茶業界の柔軟性もすばらしい。
 日本でもポピュラーになってきた泡沫茶なんて、烏龍茶や紅茶にタピオカやクリームをトッピングしたビックリするようなアレンジだけど、若者中心に広く受け入れられているし、海外でも人気だ。
 台湾茶を普及させるために、タイで茶葉生産をし、台湾の烏龍茶加工をほどこしてアメリカなど海外に輸出している。
 内向きには伝統的なスタイルを守る一方で、外向きには時代や場所に合わせたアレンジを躊躇しない台湾の茶業界。
 日本の茶業界はどうだろう。日本茶の普及のために、生産量拡大のためにどんな戦略をとれるだろう。
 

 

 

 

 

*この連載は毎月第1・第3月曜日(月2回)の更新連載となります。次回の更新は11月5日となります。お楽しみに! 

 

 

写真/ステファン・ダントン    編集協力/田村広子、スタジオポルト

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ステファン・ダントン

1964年フランス・リヨン生まれ。リセ・テクニック・ホテリア・グルノーブル卒業。ソムリエ。1992年来日。日本茶に魅せられ、全国各地の茶産地を巡る。2005年日本茶専門店「おちゃらか」開業。目・鼻・口で愉しめるフレーバー茶を提案し、日本茶を世界のソフトドリンクにすべく奮闘中。2014年日本橋コレド室町店オープン。2015年シンガポールに「ocharaka international」設立。著書に『フレーバー茶で暮らしを変える』(文化出版局)。「おちゃらか」http://www.ocharaka.co.jp/

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