旅とメイハネと音楽と

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#36

出張メイハネ・アースオーブン編

文と写真・サラーム海上

 

筑波山中のシェアスペース『ムクムク』

 2017年のスケジュールを見直すと、一年間で中東料理ワークショップ「出張メイハネ」をなんと26回も行っていた。一ヶ月に2回以上、北は八戸から、福島、茨城、東京、鎌倉、岡崎、静岡、名古屋、大阪、神戸、岡山、広島、西は徳島まで出かけ、毎回数十人分の料理を作っていたのだから我ながら驚く。

 そんな2017年の締めくくりは12月9日に筑波山中のシェアスペース『ムクムク』で行った「出張メイハネ・アースオーブン編」だった。振り返れば、この年の最初の出張メイハネも1月8日にムクムクから始まった。2016年大晦日からのインドへの一週間の出張を終え、成田空港から大きなスーツケースを持ったままリムジンバスでつくばセンターに直行し、そのままムクムクを訪れたのだ。

 ムクムクは筑波山中腹にある別荘用民家を僕の古い友人である飯塚勝志さんが奥様と三人の子供たち、友人たちともに床、壁、内装をDIYで補修し、2014年に開いたセミ・プライベートなイベントスペース。これまでに子どもたちのためのワークショップや料理イベントなどを不定期で行ってきた。

 そんな場所での出張メイハネ第一回は僕の得意料理である鶏と野菜のクスクスを中心に6品のメニューを作った。鶏ガラや根野菜のダシとサフランの甘さが効いた薄口のスープはムクムクに集まった幼児たちにも大好評だった。

 

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2017年1月8日にムクムクで行った第一回の出張メイハネ。子ども達がいっぱい!

 

 それから11ヶ月後、二回目の出張メイハネでは飯塚さんから「ムクムクに建てたばかりのアースオーブンを使って中東料理を作って下さい。子どもたちが参加出来るワークショップ形式だとなおうれしいです!」というリクエストが来た。

 近年、注目されるアースオーブンとは粘土や砂、わら、籾殻、パーライト、煉瓦など、自然に還る素材で出来た横型のドーム形竈、薪窯のこと。イタリアではピザを焼くための窯として知られ、中東ではトルコ語、アラビア語ともに「フルン」と呼ばれ、様々な地域に存在する。インド料理で用いる縦型のオーブン「タンドール」とは竈の方向が異なる。近年では日本各地でアースオーブンを作るワークショップまで開かれている。

 窯の中に薪を詰め込み、ガスバーナーで薪に火を付ける。薪がひとしきり燃えて、窯の内部の温度が安定した後に、食材を入れ、一気に焼き上げる。一般家庭の台所にある電気式やガス式のオーブンは最大でも250度ほどだが、アースオーブンは400度以上まで軽々と上げられる。なのでサクサクのピザもカンタンに焼ける。さらに通常のオーブンよりもはるかに蓄熱性が高く、火が消えた後もパン生地を入れて、竈にフタをしておけば、翌朝までにパンが焼きあがるという。

 飯塚夫妻は昨年春から秋までかけて、DIYでムクムクの入口にアースオーブンを完成させていた。

 僕はオーブン料理は大好きだが、さすがにアースオーブンを使ったことはない。いったい何を作ろうか? 飯塚さんにアイディアを聞くと、ムクムクでは子どもたちと一緒にピザ生地を延ばして、ピザを焼くワークショップを何度か行っているという。それならば、トルコ料理の薄焼きのピザ「ラフマージュン」を作ろうか? 通常の電気やガスのオーブンでは一枚焼くのに約9分かかるが、アースオーブンならトルコのフルン同様にほんの2~3分で焼き上がるはずだ。出張メイハネで何度も作っている海老のチーズグラタン「カリデシ・ギュヴェッチ」もアースオーブンならいつもより香ばしく仕上がるだろう。

 というわけで2017年最後の出張メイハネ@筑波山シェアスペース・ムクムクのメニューは下記の6種類に決定した。

 

1.ミニトマト、ルッコラ、胡桃、石榴のサラダ、ザクロ濃縮液のドレッシング、トルコ東部

2.エゾゲリン・チョルバス(花嫁のスープ)トルコ

3.サラダ・メシュイヤ(焼きパプリカのサラダ)チュニジア

4.ラフマージュン(ラムひき肉のせ薄焼きピザ)トルコ

5.カリデシ・ギュヴェッチ(海老とチーズのグラタン)トルコ

6.焼き林檎、バニラアイス添え

 

 1と2を除く、4品をアースオーブンを使って料理するのだ。

 

 12月9日土曜、朝7時に自宅を出発し、中央線とつくばエクスプレスを乗り継ぎ、9時前につくば駅に到着。迎えに来てくれた飯塚さんの車に乗り換え、9時半にはムクムクに到着した。

 前日までは曇天だったそうだが、この日は空は晴れ渡り、眼下に関東平野、その向こうには富士山がうっすら見える。寒すぎず、暑くもない快適な土曜の朝だ。それでは料理を始めよう!

 

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12月9日午前9時半、ムクムクから関東平野を見渡すと遠くに富士山の姿が

 

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ムクムクの外観。玄関の右手の陰にあるのがアースオーブンだ!

 

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ガスバーナーを使って薪に火をつける。アースオーブンの入口と底面は煉瓦で作ってある

 

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アースオーブンとムクムクのオーナー飯塚勝志さん

 

 まずはアースオーブンに薪を詰め、ガスバーナーを「ブオー!」と点けっぱなしにして薪に火を点ける。点火しやすい細めの薪を下側に詰めるのがコツらしい。

 薪に火が周り安定するまで、僕は広い台所で揃えたもらった食材をチェックし、野菜を切り分ける。まず最初はチュニジア料理、焼きパプリカのサラダ、サラダ・メシュイヤから作ろう。まるごとの赤、黄パプリカ、くし切りにした玉ねぎを天パンにのせ、アースオーブンに入れ、パプリカの表面が焦げるまでじっくり焼く。

 

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黄と赤パプリカ、玉ねぎを焼く

 

 パプリカが焼ける間にも色々とやることがある。今日のメイン料理の一つ、ラフマージュンの生地を作らねば。ホームベーカリーに強力粉とふすま、ヨーグルト、ぬるま湯、塩、砂糖、ドライイーストを入れて、ピザ生地コースのスイッチを入れる。今日は25人分の生地を作るので、ホームベーカリーを四回も回す。

 

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千葉から参加してくれたSさんにはラフマージュンの具材を混ぜてもらう。手が冷たい!

 

 ミニトマトとルッコラを洗い、食べやすい大きさに切り分け、胡桃をフライパンで炒る。こちらはミニトマト、ルッコラ、胡桃、石榴のサラダ用。

 さらに、レンズ豆を水洗いし、フードプロセッサーを使って人参、玉ねぎとにんにくをみじん切りにする。こちらはエゾゲリン・チョルバス用だ。みじん切りの野菜をオリーブオイルで炒めた後、レンズ豆と水4リットルを加え、フタをして1時間煮込む。

 アースオーブンの中のパプリカの皮が黒焦げになったら、取り出して、玉ねぎとともにビニール袋に入れ、口を結んで、さらに20分ほど蒸らす。

 

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パプリカの皮が焦げて、実がトロトロになったらビニール袋に入れ、口を結んで、さらに蒸らす

 

 お昼の12時になると、今日の参加者たちが子連れでポツポツと集まり始めた。皆さん、手伝う気満々で来ているので、面倒な作業は彼らにまかせてしまおう(笑)。

 東京から遊びに来た友人には大きなボウルにラムひき肉750g、トマト、ピーマン、玉ねぎ、パセリのみじん切り、トマトペースト、塩、胡椒、プル・ビベール(トルコの赤唐辛子フレーク)、ケキッキ(タイム)を入れ、よく混ぜ合わせてもらう。これはラフマージュンの具材となる。

 パプリカがビニール袋の中で十分に蒸しあがったら、焦げた皮をむき、玉ねぎとともに食べやすい大きさに切りわける。これも大きなボウルに入れ、レモン汁、ハリッサ、オリーブオイルで味付ける。そして、大きな平皿に放射状に並べ、ケッパー、ミニトマト、茹で卵、ツナ缶で飾り付ける。ミニトマト、ルッコラ、胡桃、石榴のサラダも大きな平皿に放射状に並べる。


 

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サラダ・メシュイヤを美しく盛り付ける。チュニジアの香辛料ハリッサを使った辛い味付けで、ゆで卵やケッパー、オリーブ、ミニトマトも散らす

 

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出張メイハネではおなじみのミニトマト、ルッコラ、胡桃、石榴のサラダ、ザクロ濃縮液のドレッシング

 

 台所で煮込んでいたスープはレンズ豆が溶けた所でいったん火を止め、バーミキサーを鍋に入れて、人参や玉ねぎとともにレンズ豆をドロドロに砕く。再び火を付けて、たっぷりのトマトペーストとドライミント、ほんの少しのお米とブルグルを足し、鍋底が焦げないように、時々かき混ぜながら、20分ほど煮込んだら完成だ。

 

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スープはトルコのエゾゲリン・チョルバス。ミントと赤唐辛子粉をたっぷり入れる

 

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お昼過ぎに集まった子どもたちと一緒に料理を食べ始める

 

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サラダ・メシュイヤをまぜまぜした

 

 ここまでに出来上がった三品をいただき、太陽が高いうちにラフマージュンのワークショップを始めよう。

 日向に置いたラフマージュンの生地は発酵して二倍以上の体積に膨れ上がっていた。それを100gずつに切り分け、丸く団子状にこねてから、麺台に打ち粉をふって、麺棒を使って18cmほどの円形に薄く延ばしていく。粘土いじりのようなこの作業は大人以上に子どもが楽しんで行ってくれた。

 生地が出来上がったら、その上にスプーンを使ってラム肉の具材を薄く延ばしていく。通常のピザのように中央に盛り付けるのではなく、縁ギリギリまで薄く延ばすのがコツだ。

 

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午後は野外でラフマージュンの生地を延ばす。親子の作業

 

 具材をのせた生地をピザ用ピール(持ち手の長い金属のへら)にのせて、摂氏350度まで熱したアースオーブンに入れる。するとみるみるうちに肉に火が通り、2分ほどでアツアツのラフマージュンが焼きあがった! さすがに速い!

 

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アースオーブンの室内は340度!

 

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ピザ用ピールを使って、具材をのせたラフマージュンをアースオーブンに入れる

 

 レモンをキュッとしぼり、パセリを散らしてから、クルッと丸めて、端からバクっとかじりつくと、美味い~! ラムの肉汁とトマトや赤唐辛子の組み合わせもいいし、ほのかな薪の香りも食欲をそそる! そして、パリパリの生地は家庭用オーブンや魚焼きグリルで焼いたのとは全然違う! 

 子ども達は生地を延ばす作業だけでなく、出来上がったラフマージュンにもハマッたらしく、一人で何枚も延ばして、三枚も四枚も食べる子どもまでいた。飯塚夫婦もラフマージュンを気に入り、この後のムクムクの通常メニューに加えると言う。新たなアイディアを提供出来たなら呼んでもらった甲斐があるというものだ。

 

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はじめてのラフマージュン作り、一番盛り上がっていた男の子

 

 一通りラフマージュンを焼き終えると、すでに夕方。関東平野に日が沈み、朝には霞んで見えた富士山が変わりゆく空の色にはっきりと浮かび上がってきた。気温も急激に下がっていく。

 この後は腹ごなしも兼ねて、室内で中東料理と音楽講座を行おう。そして、夜になったら、アースオーブンを使って、もう一つのメインディッシュであるトルコ料理カリデシ・ギュヴェッチとモロッコの甘いミックススパイスを使ったちょっとエキゾチックな焼きリンゴを作るだけだ。

 

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夕暮れ、西の空に富士山の姿が浮かび上がってきた

 

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トルコ料理カリデシ・ギュヴェッチ。玉ねぎ、青唐辛子、ピーマン、マッシュルーム、トマトをプル・ビベール、ケキッキとともにしんなりするまで炒めた後、海老を加え、天パンに移し、たっぷりチーズを散らしてから、アースオーブンに突っ込むだけ

 

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チーズが溶けて、軽く焼き色が付いたら完成!

 

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デザートの焼きリンゴ。芯をくり抜き、バター、砂糖を詰め、モロッコのミックススパイス、ラスエルハヌートをふりかけて焼くだけ

 

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バニラアイスとミントの葉を散らして出来上がり

 

 山の中で家族とともに夕陽や朝日、暴風雨に囲まれて、薪ストーブを燃やして、DIY改装しながらの生活。僕にはけっして出来ないけれど、こうして時々出張メイハネで寄らせてもらえたら嬉しいなあ。

 

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翌朝のアースオーブンを前に飯塚勝志さん、順子さんとともに。ちなみに窯の内部の温度は180度もあった。すごい蓄熱性!

 

●『ムクムク』ホームページはこちら→https://muqumuqu.club

 

 

ラフマージュンの作り方 

 さて、今回のレシピはラフマージュンだ。全国のアースオーブンを持っている方に、通常のピザよりはるかに簡単に、短い時間で出来るのでおすすめしたい。

 

■ラフマージュン

【材料(4枚分)】

*生地

強力粉:250g

ふすま(小麦胚芽):30g(省略可)

プレーンヨーグルト:80g

ぬるま湯:100cc

ドライイースト:小さじnn n nm 1

塩:小さじ1

砂糖:小さじ1/2

オリーブオイル:大さじ1

*具

ラムまたはマトン挽肉:150g(なければジンギスカン用スライスをフードプロセッサーにかける。または牛挽肉でも代用可)

トマト:1個:ヘタと種を取り、みじん切り

ピーマン:1個:ヘタと種を取り、みじん切り

玉ネギ:1/4個:皮をむき、みじん切り

パセリ:1枝:みじん切り

トマトペースト:大さじ1

プル・ビベール(韓国の粗挽き赤唐辛子粉で代用可):大さじ1

ケキッキ(なければタイムで代用可):小さじ1

塩:小さじ1

*付け合わせ

赤玉ねぎ:1/4 個(細切りを水にさらす)

イタリアン・パセリ、ルッコラ:適宜(食べやすい大きさに揃える)

レモン:1/2個(8割りのくし切り)

【作り方】

1.ボウルに強力粉、塩、砂糖、プレーンヨーグルトを入れ、軽く混ぜ合わせてから、真ん中にくぼみを作り、ドライイーストを入れ、ぬるま湯とオリーブオイルを少しずつ加え、15分間練る。生地がまとまったら、ラップをして、25度くらいの室温に1時間置き、二倍の大きさまで発酵させる。

2.ラム挽肉、トマト、ピーマン、玉ねぎ、にんにく、パセリ、トマトペースト、プル・ビベール、ケキッキをボウルに入れ、よく混ぜ合わせ、塩で味付けをする。

3.発酵した生地を4等分し、丸いボール状にまとめてから、一つずつ麺棒を使って、直径18~20cmの円になるまで生地をのばす。

4.クッキングシートの上にのばした生地を置き、四等分した②を薄く表面に塗る。

5.250度に熱したオーブンに入れ、9分焼く。アースオーブンなら2~3分焼く。表面と生地の縁が軽く色づいたら出来上がり。

6.付け合わせの赤玉ねぎ、イタリアンパセリ、ルッコラをのせ、レモンをしぼって、ラップサンドのように筒状に巻いていただく。

 

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ラフマージュン完成! パセリやレモンをしぼって!

 

 

*著者の最新情報やイベント情報はこちら→「サラームの家」http://www.chez-salam.com/

 

*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。次回もお楽しみに! 〈title portrait by SHOICHIRO MORI™〉

 

 

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サラーム海上(サラーム うながみ)

1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家。明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』『プラネット・インディア インド・エキゾ音楽紀行』『エキゾ音楽超特急 完全版』『21世紀中東音楽ジャーナル』他。Zine『SouQ』発行。WEBサイト「サラームの家」www.chez-salam.com

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